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騎士団長候補について

 ヴェスティア獣王国から戻ってきた翌日、早朝からゴットフリートにより王城に来るよう呼び出しがあった。しかも、当日の午後からの謁見ということもあって、なんだかんだと準備をするのに時間が掛かってしまった。そして、今。


「ハルト・フォン・アサヒナ、ただいま参上致しました!」


 俺はゴットフリートからの召喚により王城へとやってきたのだ。今日の話の内容が使用人と騎士についてであるということから、アポロニアとニーナの二人が一緒に来ている。


 今回通された部屋は謁見の間ではなく、以前ハインツたちと顔合わせを行った会議室だった。正面にはゴットフリートが座り、その隣にウォーレンが立つ。ゴットフリートの両隣にはリーンハルトとパトリックが座っている。リーンハルトとパトリックの二人が同席してくれるのであれば、アルトヒューゲルの屋敷の使用人についても話がしやすい。


 そんなことを考えていると、ゴットフリートから声がかかった。


「うむ。アサヒナ伯爵よ、急な呼び出しですまなかったな。話はリーンハルトとパトリックから聞いておる。それにしても、巨大な屋敷を建てたものよな?」


「……申し訳ありません、陛下。言い訳のしようもございません」


「なに。別に其方を責めておるわけではない。ただ、屋敷に勤める使用人についても考えを巡らせておくべきではあったがの」


「はっ、仰せの通りでございます」


「とはいえ。すぐに我が国から使用人についても、騎士についても、用意できるものではないからの。此度はヴェスティア獣王国に頼るしかないだろうな」


「アサヒナ殿が直接雇用されるのでしたら、その限りではないですが……」


 ゴットフリートに続いてウォーレンが続けてそんなことを言った。これはちょうどいいと思い、俺は現在王家から出向してきている使用人たちの給金について、自分で支払うつもりであることを伝えた。


「……そういうわけで、使用人たちの給金については私自身が支払いたいと思うのですが」


「ふむ。そういえば、ハルトは錬金術師として既に巨万の富を得ておると聞くし、これ以上は王家のサポートは要らぬのかもしれぬな……」


 少し残念そうな声で語ったのはリーンハルトだ。ぶっちゃけ、巨万の富と言えるほどの稼ぎを得たわけでは無いが、それに近い利益を得ているので否定できない事実だ。


「分かった。使用人たちの給金については其方が支払うように調整しよう。詳しくは、後ほどウォーレンから話を聞くがよい」


「はい。ありがとうございます!」


「うむ。それで、其方の使用人と騎士についてなのだが、リーンハルトとパトリックの話ではラルフとヴィルマをそれぞれ執事と騎士団長にすると聞いたが?」


「そのことについてラルフとヴィルマの意向を確認したのですが、ラルフは引き続き執事として働いてくれることになりました。ですが、ヴィルマについては騎士団長としてではなく、使用人として引き続き働きたいとの希望を聞いております。私としては本人の希望にできるだけ沿いたいと考えているのですが」


「ふむ、なるほど。ヴィルマは使用人を続けたいと申しておるのか」


「はい。本人曰く、使用人として働くことが性に合っているとのことです」


 ふむ。とゴットフリートが顎を撫でながら思案顔で「それでは、騎士団長についてはどうするべきか」と呟いた。それを聞いて、俺はあくまで一つの提案であるとしながら、グスタフを騎士団長に据えるのはどうかという話をゴットフリートに伝えた。


「グスタフというと、ヴェスティア獣王国の元第三王子であったか。しかし、あの一件があってからまだ日も浅い。果たして、エアハルト陛下やハインリヒ様から許可が出るのか?」


「それは……。確かに、仰る通り懸念ではあります。ですが、我が屋敷には彼以上に騎士団長を務められそうな人物がおりませんので」


「うむ……。グスタフ殿は祖国を追放処分となったとはいえ、ヴェスティア獣王国出身だ。騎士団を構成する騎士たちのほとんどがヴェスティア獣王国から派遣されることを考えると、騎士団長は我が国から出したいところなのだが……」


「しかし、私としては顔も名も知らない者を騎士団長に据えるというのも控えたいところなのですが……」


「うむ。其方の言いたいことはよく分かる。とはいえ、ハインツとヨハンでは流石に経験不足であろうな……」


 ゴットフリートの言葉に頷く。ゴットフリートの言う通り、ハインツとヨハンは部隊を指揮した経験が少ない。というか、ヨハンは部隊を指揮をした経験自体がないんじゃないかな? まぁ、そうなると俺の顔見知りで騎士団長を務められそうな人物はいなくなるわけだが。


 俺だけでなく、皆が考え込んでいるところをアポロニアがすっと手を上げて声を上げた。


「ゴットフリート陛下、よろしいでしょうか?」


「うむ。」


「我が兄グスタフとアロイスの両名は祖国であるヴェスティア獣王国より入国を禁じられております」


「うむ。そのことは存じておる」


「はい。ですが、アサヒナ伯爵家がその管理を任されておりますグリュック島は明確にヴェスティア獣王国の領土とはみなされておりません。それ故、アサヒナ伯爵家に管理を任されたと思われます」


「その通りだ。我が国も、両国が領土として主張しないということでアサヒナ伯爵家に、対魔王勇者派遣機構に管理を任せたのだ」


「はい。ということは、現状グリュック島は少なくともヴェスティア獣王国の領土ではないと考えられます」


「うむ。同時に我が国の領土でもないがな」


「……ということは、アサヒナ伯爵家が新たに築いたグリュック島の騎士団長が我が兄グスタフであったとして、なんの問題がありましょうか?」


「むぅ。それは……」


「我が兄グスタフであれば、ヴェスティア獣王国出身の騎士たちとの指揮命令もスムーズに行なえます。それに、我が兄を慕っている騎士たちは多くおりましたので」


「ふむ。アポロニア殿からの話はよく分かった。このことについて、アサヒナ伯爵はどう思う?」


 急にゴットフリートが俺に話を振ってきたので思わず戸惑ってしまったが、俺の答えは決まっている。


「基本的にはアポロニア様の仰る通りかと。ただ、グスタフ様は先の一件で一度その信頼を失っておられます。それがどれだけ影響があるのか分かりません。ですから……」


「ふむ、代役を立てておいたほうが良いと?」


「はい。個人的には騎士団長はグスタフ様が適任かと思っておりますが、騎士たちから信頼を得られなかったときのことを考え、代役を立てて置くべきかと思います」


 とはいえ、俺が顔も名前も知っているという条件をつけると代役も立てられないと思うけどね。


 そんなことを思っていると、ゴットフリートが「うむ」と頷いて、「やはり其方しか居らぬな」などと口にした。


「うむ。やはり、条件に当てはまるのは其方しかおらぬ。イザークよ、其方がアサヒナ伯爵家の騎士団長を務めよ!」


「はっ!」


「「「えっ!?」」」


 俺の驚いた声がリーンハルトとパトリックの声と重なった。同時にイザークの声も。イザークというと、ラルフやヴィルマと同じく近衛騎士。しかも、父親は近衛騎士団長というエリート中のエリート騎士だ。そんなイザークがうちみたいな新興伯爵家の騎士団長なんて、本当にいいのか?


「陛下! 恐れながら、イザークさんほどの人材をうちの騎士団長に推されるなど、流石にお戯れが過ぎます!」


「だが、顔も名前も知らぬ者を騎士団長に据えたくないといったのは其方ではないか。とはいえ、意外とこれは良い人選であるとも思えるのだが、ハルトは代役がイザークでは不満と申すか?」


「い、いえ、そのようなつもりではありません! ですが、たかだか伯爵家の騎士団長に、近衛騎士の、それもエリートであるイザークさんをあてるというのは少々冗談が過ぎるかと……」


「くくく。まぁ、そう慌てるでない。イザークはあくまで、グスタフ殿の代役として名を上げたまでのこと。もちろん、グスタフ殿が騎士団長に相応しいと判断できたなら、騎士団長の座はグスタフ殿で問題ないぞ?」


「つまり、あくまで本命はグスタフ殿で、イザークはその代役であると。そういうことですか?」


 リーンハルトがゴットフリートにそう尋ねる。


「うむ。その通りだ。あくまで、アサヒナ伯爵家の騎士団長の第一候補はグスタフ殿。それが叶わなかったときの代役としてイザークの名前を上げたまでのことだ」


「なるほど。そういうことでしたら、異論ございません」


 ゴットフリートの言葉に俺は頭を下げた。


 とはいえ、流石にイザークをうちの騎士団長に迎えるのには無理があるだろう。イザークほどのエリートを新興伯爵家の騎士団長なんかに据えることになったら、ゴットフリートが許しても他の貴族たちから何を言われるか想像もできない。


 とりあえず、ゴットフリートの考えが本決まりでなくてよかった。というか、もし本決まりだったのならどうすれば良いかアポロニアだけでなく、皆と相談しなければならなかったからな。


 そんなわけで、ひとまずイザークを騎士団長にという話は持ち越しとなった。あとはグスタフが騎士候補となる皆から認められれば問題ないだろう。


 だが、どうすればグスタフを騎士団長として認めてもらえるのだろうか……? 喧々諤々と意見が交わされる中、ゴットフリートが「単純シンプルにグスタフ殿がその武力を示せば良いのではないか?」と言うと、一気に方向性が決まった。アポロニアとニーナも異論はないようだ。


 さらに詳細を詰めるため、小一時間ほど議論を重ねた結果、一つの方向性が固まった。それを進めるには俺も幾つか準備を進めないといけないのだが、それほど難しいことをするわけでもないので問題ないだろう。


 方向性が固まったことにほっと一息をついた俺は、アポロニアとニーナとともに王城を後にしたのだった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。


あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願い致します。

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