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第二王子登場、そして自己紹介

 リーンハルトから御用錬金術師を拝命されたその時、部屋の扉がノックされると同時に扉が開いた。


 第一王子の居る部屋の扉を部屋の主の了承も得ず、勝手に開けることができる人物などそうは居ない。


 つまり、リーンハルトと同等かそれに近い立場の人間なのだろう。更にパタパタとした軽い足音は大人のものではなく、少年のそれだ。そして、『兄上』という言葉から推測されるその人物は……。


 恐らく、この子がリーンハルトの弟、パトリックなんだろう。


 そして、リーンハルトの言葉がその推理を間違っていないことを告げる。


「パトリック、今は来客中だ。それに部屋に入ってくるにしても無作法であろう。もう少し礼儀作法を身に着けなければ、姉上も悲しむぞ」


「うぅ、申し訳ありません……。兄上が新しい魔動人形を手に入れられたと聞いて、嬉しくて。つい、我慢できなくて来てしまいました!」


「ふむ、全く困った弟だ」


 そう言いながらもリーンハルトの顔は穏やかで、くつくつと笑いながら、パトリックの頭をなでていた。


 ようやく落ち着いた部屋の中に新たに部屋の扉を叩く音が聞こえる。


 その音は先ほどのパトリックのものよりも重く響き渡り、扉を開いたメイドと共に一人の男が入ってきた。部屋の中を一瞥すると、目的の人物を見つけて口を開いた。


「パトリック様、やはりこちらに居られましたか。リーンハルト様、お騒がせして誠に申し訳ございません」


 男はそう言って部屋に入ると同時にリーンハルトの前に出て膝を付いた。


 この男もその身なりと立ち振る舞いからして当然ながら貴族であり、その中でも高位の者と思わせる気品を感じた。恐らくこいつがユリアンの足を引っ張ってるという噂の侯爵の嫡男なのだろう。


「よい、ランベルト。其方が謝ることではない。パトリックに用ならば、ここに居るぞ」


「ささ、パトリック様。そろそろ休憩の時間も終わりです。お部屋に戻りませんと……」


「ランベルト、兄上の魔動人形を見てからでは駄目か? 私が無理を言ったせいで、兄上から魔動人形をお譲り頂いたことは分かっている。私はそのことかねてから兄上に申し訳なく思っていたのだ。その兄上に新しく魔動人形が献上されたのだぞ? 私も嬉しいし、私も兄上の魔動人形をこの目で見てみたいのだ」


 パトリックの話を聞くと、彼の発言が周りに影響を与えていることを彼自身も十分理解しているようだ。


 リーンハルトもそういうところを理解してか、パトリックに対して気安く話し合える仲のようだった。


「仕方がありませんね。リーンハルト様からお許しを頂けたら、ですが。少しの間だけですからね」


「ありがとう、ランベルト! 兄上、ぜひ魔動人形を見せてください!」


「うむ。ゲルヒルデ、こちらに」


「はーい」


 テーブルの上でつまらなそうにしていたゲルヒルデだったが、リーンハルトから呼ばれると、瞬時に目の前まで飛び出てきた。


「魔動人形が……喋った……!?」


「なんと……!? まるで生きているかのように動きましたが、今のはリーンハルト様が操られたのですか?」


 パトリックとランベルトの二人は驚いた様子でゲルヒルデを見つめていた。


「ふふ、驚いたろう? この者が私の魔動人形、ゲルヒルデだ。二人とも仲良くしてやってくれ」


「はじめまして、私はゲルヒルデよ。よろしくね!」


「私はリーンハルト兄上の弟のパトリックです。よろしくね、ゲルヒルデ!」


 パトリックは既にゲルヒルデに慣れたのか、素直に挨拶を返した。というよりも、目を爛々と輝かせて食い入るようにゲルヒルデを見つめている。


 そんなパトリックとは対照的に、ランベルトは未だに信じられないものを見たような顔で固まっていたが、はたとユリアンに視線を移した。


「こ、この魔動人形はユリアン殿が用意されたのか?」


「えぇ、その通りです。素晴らしい錬金術師と知己を得ましたのでね。この度、魔動人形の献上に同席して頂いたのですが、リーンハルト様も大変お気に入りになられまして。ついにはリーンハルト様が御用錬金術師にまで取り立てられたのです。リーンハルト様にご紹介した私としても大変嬉しい限りですよ」


「なんと、リーンハルト様が御用錬金術師を決められただと!? ユリアン、それは本当なのか? まだ成人もされていないリーンハルト様が御用錬金術師を決めるなど時期尚早ではないか! 何故お止めしなかったのだ、ユリアン!」


 先ほどまで俺を御用錬金術師に決めるのは時期尚早ではないか、などとリーンハルトに進言していたユリアンの見事な掌返しに少々呆れたが、ランベルトに対して自慢したいのだろう。


 だが、ランベルトも先ほどのユリアン同様にリーンハルトを心配しているようだった。


 ランベルトについて、最初に聞いたイメージではユリアンの足を引っ張るだけの嫌な貴族かと思ったが、ユリアンとのやり取りを見ていても、そんなに悪い奴には見えない。


 パトリックへの接し方も純粋に教育係として職務を全うしているだけのようだし、単純にユリアンに張り合っているだけなんだろう。


 それに巻き込まれる周りはいい迷惑なんだけどね……。


 ランベルトの質問に応えたのはリーンハルトだった。


「ふむ、それについては私から話そう。ランベルトよ、まだ成人していない私よりも更に若く、錬金術を使い、更に光魔法まで使える者が居たとして……。そんな者と出会ったら、お主はどうする?」


「そ、そのような者がいるとは思えません……。ですが、仮にそのような者が居たとするならば、それは王家が召し抱えるに相応しい者かと存じますが……」


「そうであろう! そして、今日私は出会ったのだ。其方の言う王家が召し上げるに相応しい者、ハルトにな!」


 ランベルトとユリアンのやり取りを見ていたリーンハルトが二人の会話を拾ったかと思うと、俺のほうに向いてウィンクしてきた。


 多分、俺に自己紹介しろと言うことだろうが、男からのウィンクなんてトキメキなんてものは何もない。


 だが、無視するわけにもいかないので仕方なく名乗り出ることにした。


「お初にお目にかかります。この度、ユリアン様より名工アレクシス・ブルマイスター殿にご依頼された魔動人形を仕上げました、ハルト・アサヒナと申します。この度、リーンハルト様より御用錬金術師の大任を仰せつかりました。パトリック殿下、ランベルト様、よろしくお願い致します」


 膝を付いてから、そう言って二人に頭を下げた。


 その様子を見ていたリーンハルトがくつくつと笑っている。これは俺を笑ったのではなく。俺を見て固まっているパトリックとランベルトの二人を見てのことだろう。


 二人ともゲルヒルデを見たときと同じかそれ以上に驚いているようだった。


「リーンハルト様、このような子供が本当に錬金術師なのですか? パトリック様と同じような年頃ではないですか……。正直に申しまして、俄には信じがたいものがあります」


「ま、そうであろうな。ハルトよ、其方の錬金術を二人に見せてやってはくれぬか?」


 ヘルミーナが言うにはあまり人前で錬金術を見せることを良しとしない錬金術師が多いと聞いたが、他ならぬリーンハルトの頼みなら仕方ない。


 懐から出すように、アイテムボックスからハイレン草を取り出して二人に見せる。


「はい、リーンハルト様のご用命とあらば。これより、この薬草から回復薬を錬金して見せましょう。錬金『初級回復薬』!」


 もう初級回復薬なら簡単に錬金できる。


 早速でき上がった初級回復薬の小瓶をランベルトに差し出した。


「どうぞ、お確かめください」


 差し出された回復薬を訝しげに受け取った小瓶を暫く見つめ、ため息を洩らしながら口を開いた。


「これが本当に回復薬なのか、私には判断できませんが少なくとも薬草からこのような小瓶を創り出すなど、聞いたこともありません。リーンハルト様、疑うような言動をしてしまい、誠に申し訳ございません」


 そう言葉を絞り出した後、ランベルトはリーンハルトの前に跪いて頭を垂れた。


 だが、それも束の間。立ち上がり様に俺のほうに向いて再び口を開く。


「ハルト殿、貴方が特別な錬金術師であることは分かりました。しかし、御用錬金術師としてリーンハルト様のご期待に応えられるのか、私にはまだ判断できません。ですので、貴方が本当に御用錬金術師として相応しいのか、暫く様子を見させて頂きます」


 ランベルトはそう言いながら俺を見た後すぐに視線をユリアンに移した。


 俺が何か失態でもしたら、それを口実にユリアンを責めるつもりなのか、それとも純粋にリーンハルトを案じているのか……?


 ユリアンも視線に気づいてか表情が硬くなり、それを察してか周りの空気も少しずつ重くなった気がした。


 だが、それを打ち破るような声が部屋の中に響き渡った。


「わ、私もハルト殿を御用錬金術師にしたいです! 兄上、よろしいでしょうか!?」

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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