帰宅、使用人たちへの確認
「これで、全部ですね!」
「流石はハルトだ。其方のおかげで随分と買い物が捗った、いや其方のおかげで良い視察ができた!」
「まぁ、ハルト殿のことを見越して購入したわけですが……。それはともかく、ありがとうございました!」
俺たちはアルターヴァルト王国の港町ツヴァイトハーフェンに一度立ち寄り、マツカゼたち馬を回収した後、王都アルトヒューゲルにある俺の屋敷まで戻って来たのだった。
そして、早速アイテムバッグに預かっていたリーンハルトたちの荷物を取り出し、またリーンハルトたちの乗ってきた馬車を取り出し、そして、リーンハルトたちの馬車を引く馬たちを魔導船から降ろしたりと、忙しくしていた。
「では、また王城で会おう!」
「そうですね。また王城で!」
「分かりました。近いうちに王城に伺いますので」
リーンハルトとパトリックの二人と分かれるということはここまで護衛してくれたイザークとカロリーナたちとも別れるということだ。
「今回の旅は特に問題という問題も起きなかったですし、騎士団としても良かったのではないですか?」
そんなことを聞いてみると。
「確かに、特にトラブルもなくこうして王都まで帰ってこれましたので、幸いではありましたが……。はぁ。残っていた騎士団のメンバーにお土産を買ってきて本当に良かったです」
「アサヒナ伯爵には申し訳ありませんでしたが、やはり必要なだけのお土産を持って帰ってこれたことで今後の軋轢を回避できるのだと思うと、ホッとした気持ちで一杯になりますよ」
そんなことを言いながら、お土産で一杯になった馬車を引きながら騎士団たちはリーンハルトとパトリックと一緒に王城へと帰っていった。ふむ、お土産の有無で組織の軋轢が発生する騎士団というのもどうかとは思うが、ともかく、今回彼らの荷物を運んだことにちゃんと意味があったようだし、まぁいいかと思う。
リーンハルトたちに続いてユリアンとランベルトの二人とも別れることになった。
「アサヒナ殿、ここまで荷を運んで頂きありがとうございました」
「うむ。貴殿のおかげで殿下にとっても良い休暇になったようだ」
「いえいえ。今回の旅が少しでも皆さんのお役に立ったのであれば良かったです」
そう伝えると、二人とも荷物を満載した馬車とともに従者であるゴッドハルトとティアナを連れて帰っていった。
皆が帰ってしまうと途端に屋敷の玄関が閑散とする。そのことに少し寂しさを覚えながら、アメリアたちの荷物とユッタたちの馬車をアイテムバッグから取り出して、荷ほどきの手伝いに出てきたアルマ、ヴィルマ、リーザとリーゼといった使用人たちに後のことを任せて、俺は一足先に屋敷の中に入るとソファに腰を沈めた。
「はぁ。これでひとまずタスクの一つを消化したことになるか。とはいえ、次は皆への意志確認だしなぁ。一番気が重いタスクを消化しなければならないわけで、腰が重くなるのも仕方がないよな……」
はぁ、ともう一つため息をつきながら目を閉じた。
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「……さ……。ま……! ……だ……。な……。……さま! 旦那様!」
ラルフらしき声とともに肩を揺らされて朦朧としていた意識が次第にはっきりとしてくる。はっとして、声を掛けてきた主を探すと、やはりラルフだった。ふと窓の外を見ると、既に暗くなっている。どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「……おはようございます、ラルフさん」
「既に皆様が迎賓館にお集まりです。旦那さまも御支度してください」
「迎賓館? あぁ、夕食ですね。はい、分かりました。あ、そうだ。夕食が終わったら使用人全員を私の執務室に集めてください。大事なお話をしたいと思います」
「大事なお話ですか……? 分かりました。私のほうから皆に伝えておきます」
そう言ってラルフが部屋から出て行く。そう、ヴェスティア獣王国から帰ってきたばかりだが、積みあがっているタスクを少しでも消化する為には今日のうちに皆に伝えておいたほうがいいだろう。
因みに何を伝えるかというと、俺の屋敷をグリュック島に移すということだ。そして、皆が付いてきてくれるかどうか、その意志を確認するのだ。
迎賓館に向かうと、既にアメリアたちとユッタたちが席に着いていた。最後に俺が席に着くと、早速夕食が並び始める。今宵はザシャの得意料理でもある野菜とオーク肉のシチューだった。久々ということもあって、おかわりを二度もしてしまった。おかげでお腹がいっぱいだ。だが、このあとは皆への意志確認をする必要がある。
早速夕食を食べ終えた俺は執務室へと向かった。暫くすると、使用人たちが少しずつ集まってくる。最後にラルフが執務室に入り、扉を閉めた。これで使用人全員が集まったことになる。
「こほん。皆さん、集まって頂けましたでしょうか?」
「旦那様、全員そろっております」
ラルフの声を聞いて皆の顔を見回す。ラルフ、アルマ、ヴィルマ、リーザ、リーゼ、ザシャ、ハインツ、ヨハン、グスタフ、アロイスの皆が集まっている。うん、全員集まったようだな。
「では、今日は重大なお話をしていきたいと思います。まず、私を代表として対魔王勇者派遣機構が預かっておりますグリュック島についてですが、既に対魔王勇者派遣機構の本部施設ができております。私が対魔王勇者派遣機構の代表として活動するとなると、グリュック島を中心に活動することになるでしょう。ここまでは皆さんよろしいですね?」
俺が問い掛けると皆が小さく頷いたので話を先に進める。
「活動拠点を移すということは、生活の場も移したほうが何かと便利です。そういうわけですので、新たな屋敷についても既にグリュック島にできています」
そう話すとラルフが小さく手を上げて「旦那様よろしいでしょうか?」と聞いてきたので、うむと頷く。
「対魔王勇者派遣機構の本部施設についてもそうなのですが、一体いつの間にそのような新しい屋敷をグリュック島に創られたのです?」
あれ、そういえばいつだったっけ? 確か、世界神と輪廻神、機会神がうちの屋敷にやってきたときだったと思う。
「……母上たちがうちの屋敷に来られた頃ですかね?」
「そ、そんなにも前からでしたか……。失礼致しました。続きをお願い致します」
まぁ、そう言われても仕方がないよな……。
「はい。それでですね、その屋敷には使用人が五十人ほど必要なのですが、皆さんの中から新しい屋敷に移りたいという人がおられるか確認したくてお集まり頂きました」
「旦那様。それはご命令ではないのですか?」
ラルフが皆を代表するように聞いてきた。
「はい。これは命令でも強制でもありません。あくまで皆さんの意志を尊重したいと考えています」
「とはいえ、旦那様のお考えもあるのでしょう?」
そう言ったのはアルマだった。その言葉に俺は頷く。
「はい。皆さんの意志を尊重するという気持ちに嘘偽りはありませんが、私の希望も確かにあります」
「それは聞かせて頂けないのでしょうか?」
「「「「「…………」」」」」
俺の言葉を聞いてラルフが聞いてくる。うーん。俺の希望を言ってしまうと、皆の意見がそれに引き摺られそうで、あまり言いたくはないのだが……。だが、俺が思う以上に皆は俺の希望を聞きたいらしく、黙って成り行きを見守っている。うーん……。これは話したほうがことが早く済むのかな?
「……では、私の希望をお話しましょう。ですが、これはあくまで私の希望であって、命令でも強制でもありませんから。そのことだけは覚えておいてくださいね」
そう話すと皆が頷いた。うむ。皆の意志も固いようだ。
「これは私の個人的な考えですが、皆さんには新しい屋敷の使用人になってほしいと考えています。私の身の周りの世話をして下さる人は顔見知りのほうが、何というか落ち着くと言いますか……。とはいえ、これはあくまで私個人の意見ですから。皆さん気にしないでください!」
皆にそう言うとどうやら分かってもらえたようで、ラルフたちで相談をし始めたことにホッと一息をつく。あぁ、そういえばと俺の知っている情報を皆に共有する。
「そうそう、リーザさんとリーゼさんの妹さん、レーナさんとレーネさんのお二人も稲作の指導ということでグリュック島に来て頂く予定です。グリュック島では、稲作を推進するつもりですので!」
そう話すと、リーザとリーゼの二人が俺に視線を向けた。
「あ、えっと……。レーナさんとレーネさんの他、リーザさんたちのお祖父様であるオイゲンさんも来られるということになっています……」
「二人だけでなく?」
「お祖父様も……?」
「え、えぇ。オイゲンさんはそう仰ってました。まぁ、私が提案したんですが。なんでも、ジーモンさんに次の里長を任せるとかなんとか……」
俺からの提案と聞いて一体どういうことなのか詳しく聞きたいと二人が言ってきたので、事の経緯を詳しく話すことにした。
「……はぁ。まったくお祖父様はこれだから」
「旦那様も簡単に提案しないでください……」
「す、すみません」
二人には謝っておいたが、二人ともそれほど怒ってはいないようだった。どちらかというと、久々に家族に会えることを楽しみにしているようで少しほっとした。
その後、二人だけで何やら話し合っていたが、「仕方がないわ。ジーモンには悪いけど、犠牲になってもらいましょう」などという、なんとも恐ろしい言葉が聞こえたような気がしたが、きっと気のせいだろう。うん、そういうことにしておこう……。
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