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ユッタたちからの提案

 リーンハルトとパトリックによるエアハルトとの謁見を終えた。これでヴェスティア獣王国でやるべきことはすべて終えたということになる。


 この後は、一度アルターヴァルト王国の屋敷へ戻ってラルフやヴィルマたち使用人の皆と今後の予定について話し合わなければならない。そう、本格的にグリュック島への移住が進むことになるのだ。


 その前に済ませておかないといけないことがある。


 屋敷に戻って来た俺はユッタたちと面会することにした。そう、ここまで送り届けてもらった彼女らへの依頼の完了を告げる必要があるのだ。少し遅くなってしまったが、御礼もするべきだろう。俺にできるだけのことは彼女らにしてあげたいと思ったのだ。


 そして、ユッタたちと面会することになった。


「お手間を取らせてしまい、申し訳ありません」


「なに。ハルトからの呼び出しとあれば、すぐに馳せ参じるさ」


 そう言って、少し誂うような目でユッタが返してくれた。皆とは気を遣わずに話ができるので、俺としても助かる。


「それで、一体どんな用件なんだ? 私たちを呼んだということは何か用があるんだろう?」


 そう言って俺に話を進めるように促すユッタ。


「その通りなんですけどね。まぁ、立ち話も何なので、皆さんとりあえず座ってください」


 そう言って、皆にソファに掛けるように促す。


 皆がソファに腰掛けると、使用人たちがお茶の入ったカップとソーサー、それにお菓子の乗った皿をそれぞれの前に並べる。それを皆に勧めながら、改めてユッタたちに頭を下げた。


「この度は、私の旅の護衛役を務めていただき、本当にありがとうございました。おかげさまで無事にヴェスティア獣王国まで帰ってくることができました。あのときお会いできなければ、私はこうして帰ってくることができなかったかもしれません」


「お礼を言うのは私たちのほうさ。ハルトに命を救ってもらった。それだけでなく、ハルトのおかげで依頼も達成できた」


「階層主との戦闘中だったユッタさんたちと出会ったのは本当に偶然ですし、ユッタさんたちを助けたのだって、たまたま私が助けられる術を持っていたからですよ。それに、依頼の達成については、ヴェスティア獣王国まで護衛して頂くという私からの依頼のその成功報酬じゃないですか」


 自分で言って思い出したが、ユッタたちがミリヤムから受けた『降神の秘薬』を手に入れるという依頼を手伝ったのは、俺が冒険者ギルドでユッタたちに指名依頼を出した『ヴェスティア獣王国までの護衛依頼』の成功報酬だった。


 あとでユッタたちに依頼達成のサインをしないといけないな。


「それはそうだが……。結局、私たちからハルトにお礼らしいお礼をできていないのだが……」


「そんなこと、気にする必要はないですよ」


「だが……!」


 ユッタが何かを言おうとする前に、ユッテがそれを制止した。


「それなら、私たちの身体でお礼をするしかないわね」


「「「「えっ!?」」」」


 ユッテの突然の言葉に思わずゲルトとカール、それにレオナが声を上げた。もちろん、俺もだ。ただ、この流れ、前にも見たことがあるような……。デジャブか!?


「ハルトは領地持ちの貴族。でも、従者の人数も少ないし、騎士団もない。そして、それらはこれから募集する。そうよね?」


 確かにそのようなことをアメリアたちとの顔合わせの席で話した気がする。


「はい、その通りです。ただ、その件については少し進展がありまして。グリュック島に建てた屋敷の使用人についてはそのほとんどをヴェスティア獣王国の第五王子であるクラウス王子から派遣して頂くことになりそうです。また、私の護衛役である騎士たちも使用人と同様にクラウス王子から派遣して頂くことになりそうです」


 そう伝えると、ユッテは少し考える素振りを見せる。


「……とはいえ、ハルトとしては見知った顔のほうがいいのでしょう?」


「もちろん、その通りですが……」


 そう聞かれると、「確かにそうだ」としか言いようがない。いくら王家からの紹介とはいえ、人となりも知らない者に命を託すというのは気が引ける。だいたい、実力も知らないわけだし。使用人はともかく、護衛役である騎士については顔見知りのほうがありがたい。


 できれば、うちのアルターヴァルト王国の屋敷の護衛役であるハインツやヨハンあたりが騎士になってくれればよいのだが。あぁ、それとグスタフとアロイスも。グスタフは元第三王子だが剣術も得意だし、礼儀作法も心得ている。それに、アロイスはグスタフ専属の近衛騎士だし、騎士としての心構えなどを教えるにはうってつけだ。


「……それなら、私たちをハルトの騎士としての雇ってくれないかしら?」


「えっ!?」


「私たちならハルトとも顔見知りだし、私たちのこともこれまでの旅の中でハルトもよく分かってくれていると思うのだけど?」


「そ、それはそうですけど……。しかし、本当によろしいのですか? 一介の伯爵家の騎士なんかよりもAランクの冒険者パーティーを続けたほうが実入りもいいはずですよ。というか、ユッテさん。皆さんへの意志確認はいいのですか?」


「皆への意志確認は既に済ませているし問題ないわ。確かにハルトの言う通り、冒険者を続けたほうが稼げるかもしれない。でも、前回みたいに、割の合わない依頼がないわけでもない。それに、どこかの街の冒険者ギルドの専属になるつもりもないしね?」


 ユッテの言う通り、冒険者は危険が隣り合わせの職業だ。その分実入りもいいのだが、とはいえ、依頼によっては割に合わないものがあるのも事実だ。実際に彼女らはダンジョンで命を落としかけている。


 そして、腕のいい冒険者ほど冒険者ギルドが手放さない。そういえば、ノルデンシュピース連邦国の首都シュピッツブルクにある冒険者ギルドのギルドマスター、フランツもユッタたちを引き留めようと必死だった。


 あ、ユッテの提案を受け入れると、フランツにも一言断りを入れなければならないんじゃないか? そう思ったが、それは俺からというより、彼女らから連絡してもらうのが筋だろうけど。


「それに、皆の意志はすでに確認済みよ! ねぇ、皆?」


 ユッテの言葉にユッタとレオナ、カールとゲルトの四人が大きく頷いた。皆、真剣な表情で俺の様子を窺っている。


 そういえば、パーティーのときに騎士団の雇用条件をノーラに聞かれたときに、妙にユッタたちが食い付いてきたのを思い出した。あの時から考えていたのだろうか? 思わずため息が出た。


「はぁ。皆さんの意志は固いようですね……」


「もちろんよ! それに、冒険者を続けるより、ハルトと一緒にいたほうが面白そうだしね?」


 ……面白そうかどうかで決めるのか。……まぁ、いいか。俺も、顔も名前も知らない人より、知ってる人が騎士になってくれたほうが助かるし。


「分かりました。それでは、ユッタさん、ユッテさん、レオナさん、ゲルトさん、カールさん。皆さんをアサヒナ伯爵家の騎士候補として認めます」


「騎士候補だと? 候補とはどういうことだ?」


 騎士候補という言葉に反応したのはユッタだった。まぁ、確かにどういうことなのか気になるよな。俺はユッタからの質問に答えることにした。


「今の時点ではあくまで候補です。先ほどもお話しした通り、うちの使用人と騎士についてはクラウス王子から派遣されることになっております。ですが、それではヴェスティア獣王国出身者ばかりになり、アルターヴァルト王国としては良い顔ができません。ですので、使用人と執事のトップだけはアルターヴァルト王国から派遣しようということになったのです……」


 面倒なことですけど。そう言って一つため息をつく。


「ですが、エアハルト陛下とリーンハルト王子にも相談したところ、結局は私の意志が大事なのだと教えて頂きました。つまり、私の意志で決めるべきことだと。ですので、使用人と騎士のトップについても、アルターヴァルト王国から上げて頂いた人物についてはあくまで候補という形とし、私から本人の意志を確認した後、改めて任命することにしたのです……」


「そういうことなら、私たちの意志は先ほど聞いてもらった通りだ」


「そうですね。そういう意味では、同じ候補と言っても、ユッタさんたちは内々定したと言ってもいいでしょう。あとは、ヴェスティア獣王国とアルターヴァルト王国の人員の比率次第ですね」


「それで、最終的には何人ほど集めるつもりなんだ?」


「そうですね。使用人と騎士それぞれ五十人ほどになります」


「そうか。ならば、その中でも一番の騎士に成れるよう努めて見せるさ。ハルトの一番の騎士になれるようにな。なぁ、皆?」


「そうね」


「うん!」


「そうじゃな」


「もちろんだ!」


 ユッタの言葉にユッテ、レオナ、ゲルト、カールの四人が答える。


「皆さんにそこまで仰って頂けるのなら、断る理由はありません。こちらこそ、よろしくお願い致します!」


 こうして、ユッタたちAランクの冒険者パーティー『精霊の守り人』の五人がアサヒナ伯爵家の騎士候補となったのだった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

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