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魔導船スキズブラズニルの回収

 こうして、俺は無事にグリューエン鉱山へと辿り着き、魔導船スキズブラズニルの回収という今回の旅の最大の目的を果たしたのだった。


 魔導船スキズブラズニルの中でニルとひとしきり話し終えたあと、俺は船から降りてアメリアたちのもとへと向かった。無事にニルと再会できたことを伝えると、皆も喜んでくれた。


「今回の旅もこれで終わりだな……!」


 そんなことを口にすると寂しい気分になるのは何故だろうか。ようやく皆のもとへと帰ってきたというのに、ようやく魔導船スキズブラズニルを回収できたというのに、何故かユッタたちとの冒険の日々に懐かしさのようなものを感じてしまったのだ。


「でも、ここからが新たな始まりでもある、か……!」


 そうなのだ。魔導船スキズブラズニルを回収したからといって、全てが片付いたわけではない。むしろ、ここからが本番。始まりとも言えるのだ。


 先ほどもニルと話していた通り、やるべきことがたくさんある。まずは、ヴェスティア獣王国の王都ブリッツェンホルンへと戻り、エアハルトたちに魔導船スキズブラズニルの回収を無事終えた旨、伝えなければならない。


 それが終われば、アルターヴァルト王国の王都アルトヒューゲルに戻って、同じくゴットフリートにも魔導船スキズブラズニルの回収を終えたことを伝えなければならないのだ。


 それに、どちらも、ただ「回収を終えました」という一言で済むとは思えない。ニルに聞かれたように、エアハルトとゴットフリートの二人からも、これからの予定について聞かれるに決まっている。


 それ故に、二人にはミリヤムたちがグリュック島に移住してくるだろうことは伝えておかねばならないだろう。そうなると、二人から確実に聞かれるのが、グリュック島の状況がどうなっているのかということだ。リーンハルトとパトリックみたいに、グリュック島に上陸したいという意見が出るに決まっている。


 だが、急にそんなことを言われても、何もないグリュック島を見せるだけになってしまうので、彼らにお披露目する時期は慎重に考えなければならない。できれば、ミリヤムたちの移住が完了し、オイゲンたちによる稲作が始まった頃がベストだと思う。そうでもなければ、中途半端な状況を見せることになってしまうからな。


 そう考えると、エアハルトやゴットフリートにグリュック島の状況を報告するのは今から二、三か月は後になる気がする。まずもって、俺がグリュック島にミリヤムたちを迎え入れる準備を整える必要があるからだ。移住者三百人超の居住地と田畑を用意しなければならない。


 それにしても、彼らが住む家を何軒も新しく作らなくてはならないというのは面倒、もとい、大変だ。どうせなら、今彼らが住んでいる家をアイテムボックスに入れて運ぶことができればいいのだが……。ふむ。それができれば手間が掛からなくていいかもしれないな。


 そんなことを考えていると、いつの間にかアポロニアとフリックの話し合いが終わっていた。


 何を話していたのか聞いてみると、グリューエン鉱山の現状について確認をしていたそうだ。アポロニアがフリックから聞いた話では、現在は鉱山の再稼働に向けて鉱夫たちの募集を行っているとのことだった。


「採掘現場は特に問題ありませんでしたか?」


「えぇ。ハルト様が転移させられた後、地上に戻りフリックたちと再び最深部の採掘現場まで戻り、内部を皆で手分けして確認致しましたが、特に不審な点は見当たりませんでした」


 なるほど。ということは、あの魔法陣は一度だけしか発動しないものだったということか。それとも、俺にしか反応しないものだったのか。うーん、俺ももう一度最深部の採掘現場まで行ってみて確認してみたいが、それでもし、再び魔法陣が発動して転移することになったら面倒だな。今回は止めておこう。


「それで、鉱山の再稼働に向けて鉱夫は集まっているのですか?」


「いいえ、募集は掛けているそうなのですが、なかなか思うように集まらないようでして……」


 まぁ、そうだろうな。一度職を離れたということは、その後新たに職に就いている可能性が高い。元々働いていた鉱夫たちが全員戻ってくるということはないだろう。そんな状況もあって、グリューエン鉱山は未だ再稼働の目途が立っていないとのことだった。


 とはいえ、坑道を無人にすれば、再び悪さをする者が出てくるかもしれないし、魔物が住み着く可能性もある。そのような事態を防ぐため、フリックたち警備隊はグリューエン鉱山の警備から離れられないのだとか。


「ということは、皆さんも暫らくはここから離れられないのですか?」


「いえ、我らももうすぐ王都へと戻れる予定です」


 ふむ。


 ここに着いたときにフリックに聞いた話だと、アレクサンダーの命令により、俺がグリューエン鉱山に戻ってくるまではこの地を守るように言われていたそうだ。俺がこの地へやって来たと言うことは、彼らの任務が完了したということなのだろう。しかし、そうなると、この地を警備する者がいなくなってしまわないか?


「そちらは問題ありません! 我らの代わりを務める者たちが王都よりやって来る手筈となっておりますので!」


 昨晩早馬にて届けられた書状がこちらになります。と、見せてくれた内容を見ると、俺が今日明日にでも魔導船スキズブラズニルを回収するためグリューエン鉱山へと到着するだろうということと、これまでの警備を労う言葉とともに、交代人員を向かわせるつもりなので、到着次第引き継ぎを行うように、などと書いてあった。


 王都ブリッツェンホルンからグリューエン鉱山まで陸路で向かうとなると、馬を飛ばしたとしても半日近くは掛かるだろう。そう考えると、少なくとも俺の帰還を祝うパーティーが開催される頃には、早馬を出したことになる。つまり、エアハルトとの謁見の直後にはこの書状を出すことにしたのだろう。


 そういえば、謁見の場でエアハルトから今後の予定を聞かれたときに、なるべく早く魔導船スキズブラズニルの回収を行いたいって話していたことを思い出した。それにしても、俺の「なるべく早く」が謁見の翌日だと良く分かったな。いや、俺の行動が分かりやす過ぎるだけかもしれない。


「それで、魔導船スキズブラズニルは特に問題ありませんでしたか?」


 アポロニアからそう聞かれたので、おれはサムズアップを返した。


「えぇ。ニルのおかげで綺麗なままでしたよ」


 そう伝えると、アポロニアの後ろに控えていたアメリアから声を掛けられた。


「それなら、そろそろ王都へ戻らないか?」


 ふむ。確かに、ここでやるべきことはもうないな。アメリアの言う通り、王都へ戻る頃合いだ。そう思っていたら、カミラたちからも声が上がった。


「もうお昼も回ってるし、お腹も空いたところ」


 カミラの言う通り、既に正午を過ぎている。言われてみれば、心なしかお腹も空いてきた気がする。


「そうね。そろそろ戻りましょう。魔導船スキズブラズニルを回収して、王都ブリッツェンホルンへ戻る。それでようやく私たちはエアハルト陛下から受けた依頼を完了したことになるのよ」


 ヘルミーナの言う通りかもしれない。既にエアハルトからは報酬を受け取ってはいるものの、やはりここへ来た時に乗ってきた魔導船で王都へ戻ることで俺たちが受けた依頼が完了したと言えるのではないだろうか。


「魔導船の確認が終わったのでしたら、そろそろ戻りましょう。早く兄上たちにも報告を済ませたいですから」


 アポロニアの言う通り、エアハルトには早く報告をしておきたい。その後、ゴットフリートにも報告しなければならないわけだしな。その後も予定が詰まっている。


「久々の魔導船での移動ですね~。ちょっと楽しみです~! それに、ノーラちゃんも初めての乗り物ですし、慣れてもらわないといけないですからね」


「(コクコク)初めての乗り物なので少し不安はありますが、問題ありません!」


 ニーナの言う通り、久々の魔導船での移動だ。ノーラは初めてだったな。よし、ノーラに魔導船スキズブラズニルが如何に素晴らしいか、体験してもらおう!


 皆がそろそろ王都に戻ろうというので、お暇することにした。


「それでは、皆さんも準備ができているようですし、早速魔導船スキズブラズニルに乗って王都まで帰りますか! フリックさん、大変お世話になりました!」


「いえ、自分たちは自分たちの職務を全うしただけですから!」


 こうして俺たちは魔導船スキズブラズニルに乗り込み、グリューエン鉱山を後にしたのだった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

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