皆で自己紹介
こうして、無事ヴェスティア獣王国の王都ブリッツェンホルンに到着した俺たちは、無事にアメリアたちと合流することができた。ただ、彼女らに連絡するのが遅くなったということもあって彼女らから罰を受けることになった。アメリアとは一緒にお風呂に入ること、カミラとは一緒のベッドで寝ること、そしてセラフィからは俺のアイテムボックスの中で寝ることという、俺にとっては罰と言っていいのかわからないような罰ではあるが……。
因みに、ヘルミーナとアポロニア、それにニーナの三人からの罰は保留となった。彼女らから一体どのような罰が下るのか、今から考えても恐ろしいものがある……。
それはともかくとして、今宵は俺たちが泊まる予定の『新緑のとまり木』にアメリアたちも一緒に泊まることになったのだ。であれば、予定していたよりも少し早いが、アメリアたちにユッタたちを紹介しようということで、場を整えることにした。
とりあえず、俺たちの宿泊の手続きも一通り終えると自室で寛げる程度の時間が経った頃合いを見て、俺の部屋にアメリアたちとユッタたちを呼び出すことにした。程なくして、アメリアたちとユッタたちが俺の部屋に集まった。
「コホン。皆さん、お集まり頂きありがとうございます。アメリアさんたちには、この度は強制転移という魔王による悪辣な罠に掛かってしまい、大変ご迷惑とご心配をお掛け致しました。この通り、無事にヴェスティア獣王国まで戻ってこれたのは、旅の途中で出会うことができたユッタさんたちAランクの冒険者パーティー『精霊の守り人』の皆さんのおかげなのです。そこで、アメリアさんたちにはぜひともユッタさんたちをご紹介したいと考えて、お時間を頂いた次第です……!」
そう伝えると、アメリアたちはユッタたちに視線を移した。恐らく、Aランクの冒険者パーティーがどのような人物なのか、見定めようとしているのだろう。
俺がユッタに視線を送ると、ユッタが小さく項いた。
「ただいま、アサヒナ伯爵、いや敬愛を込めて、あえてハルトと呼ばせてもらうが、ハルトから紹介にあったAランク冒険者パーティー『精霊の守り人』のリーダーを務めているユッタという。この度ノルデンシュピース連邦国にある難度Sランクのダンジョン『天幻の廻廊』でハルトに助けてもらった縁で、ここヴェスティア獣王国までの護衛依頼を受けることになった。よろしく頼む」
「同じく『精霊の守り人』のユッテよ。一応、サブリーダーのようなことをしているわ」
「俺はカールという。よろしくな!」
「私はレオナよ! よろしくね!」
「儂はゲルトという。よろしく頼む!」
「私はノーラ・オラーケル・クラインといいます。アサヒナ様と同じ妖精族のエルフです。この度見聞を広めるため、アサヒナ様の旅に同行させて頂いております!」
ノーラは魔力メモパッドに勢いよく書き連ねてアメリアたちに見せて回った。
「ノーラさんは『精霊の守り人』のメンバーではなく、旅の途中で立ち寄ったオラーケルの里という小さな里で私と同じく神の声を聞くことができる巫女として活躍されていたのですが、訳あって一緒に旅をすることになったのです。訳はまたあとでご説明します……」
そう伝えると、アメリアがふむと小さく頷いた。
「それでは、我々も自己紹介をしないとな。私はアサヒナ伯爵家で従者を務めているアメリア・アルニムという。アルターヴァルト王国ではBランクの冒険者パーティー『蒼紅の魔剣』の一人としてのほうが有名かもしれないけど。ともかく、こちらこそよろしく頼むよ」
「私はアメリアと同じくアサヒナ伯爵家の従者で、カミラ・ゼークトという。アメリアとは一緒にBランクの冒険者パーティー『蒼紅の魔剣』をやっている。その、よろしくお願いする……!」
「私もアサヒナ伯爵家の従者で、アサヒナ魔導具店の店長を務めているヘルミーナ・ブルマイスターと言うわ! 魔導具店のことならハルトよりも詳しいつもりだから、気になることがあれば何でも聞いてね!」
「私はセラフィという。主様の従者にして、主様の娘である。以後よろしく頼む!」
「「「「「「ハルト(さん)の娘!?」」」」」」
セラフィの自己紹介に驚いたように声を上げたのはユッタたちだった。そして、それをいつものことのように受け流しているアメリアたち。それをフォローするのは俺と決まっている。まぁ、セラフィが俺の娘だというのは俺が言い出したことだし仕方がないのだが。
「あの、えっとですね。セラフィが言いたかったのは、私の娘のような存在ということなのです。大体、十歳の子供にこんなに立派な子供がいるわけないでしょう?」
「「「「「「確かに……」」」」」」
「そういうことですのであまり気になさらず。さて、次はアポロニアさんの番ですよね! よろしくお願いします!」
ちょっとわざとらしく話題をそらしてみたが、ユッタたちもそれに気がついたようで、それ以上深くは突っ込んでは来なかった。
「それでは次は私ですね。私の名前はアポロニア・ブリッツェン・ヴェスティアと申します。名前から察して頂いたかと思いますが、ここヴェスティア獣王国の第三王女で、今はハルト様のもとで従者を務めております」
「「「「「「ヴェスティア獣王国の第三王女!?」」」」」」
おっと、セラフィのときと同じくらい驚きの声が上がったな。流石にこれはアメリアたちだけでなく俺でもそういう声が上がるくらい想像できた。
「はい。元々はハルト様がヴェスティア獣王国を救われたことに対する報酬の一つとして、先王である父上が私と従者であるニーナの二人をハルト様のもとに遣わされたのですが、今はこの通り、ハルト様の従者としての務めを第一に考えております」
「そうなんですよ。アポロニアさんは第三王女という高貴な身分でありながら、伯爵である私なんかの従者として務めて頂いているのです! まったく、先王であるハインリヒ様は一体何を考えてこんなことを仰られたのでしょうか。全く意味が分かりませんよね……!?」
俺がそう言うと、ユッタたちだけでなくアメリアたちも微妙な顔をした。当の本人であるアポロニアも、だ。何かいけないことでも言ったのかと思い返したが、そんなことはなかったはずで、俺は首を傾げるしかなかった。
「それでは〜、次は私の番ですね〜! 私は〜、旦那様の従者でぇ、アポロニアちゃんの従者でもあるぅ、ニーナ・アーレルスマイアーと言いま〜す! 一応、ハルト様の従者ではあるのですけど〜、基本的にはアポロニアちゃんの従者を務めておりま〜す。よろしくお願いしま〜す!」
ユッタたちは一瞬複雑そうな顔をしたが、アポロニアとニーナの自己紹介を聞けば、それも納得したのか、ニーナの自己紹介に突っ込んでくることはなかった。
「そんな訳で、アメリアさんたち六人がアサヒナ伯爵家の従者になります! 皆さん、仲良くして頂けると幸いです……!」
そう言って、にこやかにユッタたちに話し掛けたのだが、彼女らの表情は硬かった。まぁ、この国の第三王女が俺の従者を務めてるなんて聞けば、そんな風になるのも仕方がないか。
「あ、あの! アサヒナ様の従者でセラフィというと、神託にあったあの勇者セラフィ様ですか……?」
ノーラが震える手でゆっくりと、だがしっかりとした手付きで魔力メモパッドに書き込んでこちらに見せた。あれ、そういえば、その辺については詳しく伝えていなかったっけ……?
「その通りです。こちらが私の娘で神託で勇者と伝えられたセラフィになります」
「わぁ、感激です! まさか、本物の勇者様にお会いできるとは思いもしませんでした!」
ノーラが嬉しそうに、というか、憧れの眼差しのようなものをセラフィに向けている。それを知ってか知らずか、それとも照れ隠しなのか、気にしない様子でセラフィはノーラに接していた。まぁ、セラフィも恥ずかしがり屋なんだろう。
「ともかく、アメリアさんたち六人が我がアサヒナ伯爵家の正式な従者となります」
そう伝えると、アメリアたちは誇らしげではあったが、ユッタたちは何とも言えない表情をした。何か気になることでもあったのだろうか。
「お、おい、まさか従者が六人しかいないのか?」
ユッタが恐る恐るといった形で声に出した。まぁ、確かにアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国の両国で伯爵家となっているアサヒナ伯爵家としては、従者は少ないほうだと思われる。とはいえ、あんまり貴族として活動しているわけでもないからなぁ。これ以上従者を増やしたところで俺が責任を持てる範囲を超えてしまう可能性もある。なので、従者はこれ以上増やすつもりはないことを伝えた。
「それでは、ハルト様の治める領地の安全はどのように守られるおつもりなのですか?」
今のはノーラの言葉だ。領地の安全、つまりグリュック島の安全についてという話なのだろう。ふむ。確かにグリュック島の安全を守るためだけの戦力は有していない。手の空いている者で対応できればと考えていたが、よくよく考えてみたら、アメリアたちは俺の従者というか、対魔王勇者派遣機構のスタッフとして考えている。つまり、グリュック島自体の護衛に割く人員がいない状態だったのだ。これからミリヤムたちが入植してくることを考えると、グリュック島自体の護衛というか警備隊も必要になるだろう。
「それは、今後改めて募集を掛けるつもりです」
「つまり、アサヒナ伯爵家の護衛騎士団を募集されるということですか?」
騎士団になるのかな。まぁ、一応領主っぽい役割である俺が直接雇用するのだから護衛騎士団になるか。ノーラの質問にうむと答えると、俄かにユッタたちが騒ぎ出した。
「そ、それで雇用条件はどう考えているのだ!?」
「雇用条件ですか?」
そうだなぁ。住むところ、つまり寮はこちらで整えるつもりはある。もちろん、賃料は格安にするつもりだ。昼夜問わず働いてもらう必要があるだろうから、少なくとも二交代制から三交代制を組むことも考えなければならないな。俺たちの住む宮殿だけでなく、対魔王勇者派遣機構の本部施設のほか、港湾施設の警備にも当たってもらわなければならなくなる。
そうなると、結構な人員が必要になるだろうな。具体的な賃金については王宮の騎士団を参考にさせてもらえれば良いだろう。アポロニアに聞いてみたところ、一般的な騎士の給料は月に金貨三枚から十枚とのことだった。思ったよりも高給だったが、安過ぎず高過ぎることもない。中途採用になるだろうから、前職の給料を考慮して賃金については決めることになるだろうな。
そのことをユッタに伝えると静まり返った。別に意気消沈したという訳ではない。どちらかというと、真剣に何かを考えているようだった。
「まぁ、うちの護衛騎士団については気長に募集を掛けるつもりです。とはいっても、ミリヤムさんたちがグリュック島に移住してこられるまでには決めたいなとは思いますが。それよりも、今日はいろいろありましたし、この後はゆっくり休んでください。それでは、解散!」
俺が解散の言葉を口にすると、ユッタたちがぞろぞろと部屋から出て行った。今ここに残っているのは、アメリアとカミラ、それにセラフィの三人だけだ。
「ハルト~!」
「分かってるよね……?」
「主様、ご覚悟を!」
「お、お手柔らかにお願いします……」
こうしてアメリアとカミラ、そしてセラフィからの罰を受けるべく、俺は大人しく彼女らの為すがままとなったのだった。
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