名付けとトラブル連続発生!?
手元に残った淡い緑色の玉を鑑定する。
『名前:精霊玉
詳細:中位精霊の依代となる精霊力の結晶体。
現在この精霊玉には精霊は宿っていない。
効果:精霊力回復(中)、魔力回復(小)、神力回復(小)
備考:錬金素材(精霊玉×5:精霊晶※錬金術Lv10)』
無事に精霊玉が錬金できたようだ。
それにしても、まだ上位の依代があるというのか……。俺は備考欄を見て思わずため息をついた。
「皆さん、こちらが中位精霊の依代となる『精霊玉』です。これなら中位精霊となった光の妖精さんの依代として使えるはずです!」
そう伝えて、リーンハルトとユリアンに向かって精霊玉を差し出したのだが、どうも二人は精霊玉よりも俺の錬金術のほうが気になっているようだった。
「そ、それにしても、アサヒナ殿の錬金術は本当に凄いものですね、あのように無から有を創り出されるとは!」
「あぁ、私もハルトの錬金術には驚かされたぞ! 一体どうやってそのような能力を身につけたのか、王国の錬金術師たちに教えて欲しいものだ」
「あの、リーンハルト様、ユリアン様。それに、他の皆様も聞いてください。ヘルミーナさんが仰るには、私の錬金術は他の方のものとは少々性質が異なるそうなのです。できましたら、他言無用にお願いできないでしょうか……」
「私からもお願い申し上げます。ハルトの錬金術は特別なもので、このように何も無いところから何かを生み出すことなど普通の錬金術ではできません……。このことが周りに広まりますと、不要な騒動が起こる可能性がございます。何卒、このことはご内密に、お願い申し上げます」
俺に続いてヘルミーナもリーンハルトやユリアンたちに協力を願い出てくれた。
ヘルミーナは特に錬金術師としての視点から、俺の錬金術(厳密に言うと創造だが)が周りに知れ渡ることで、俺がトラブルに遭うことを危惧しているようだった。
「あぁ、確かにそうだな。其方らの言うことは良く分かった。ハルトの錬金術については他言無用だ。ユリアン、皆も良いな?」
「勿論です」
リーンハルトの言葉にユリアンが応えると、ゴットハルトやメイドは静かに頷いたが、騎士の青年は表情が硬い。
「あぁ、イザークは難しいか……。ハルト、すまないがイザークについては許して欲しい。イザークは近衛騎士団の騎士でな、今日も父上の命で私のところにきているのだ。第一王子である私の護衛だけでなく、今日起こった出来事を父上に報告する役目も担っておるのだ」
「アサヒナ殿、誠に申し訳ない」
リーンハルトにイザークと呼ばれた騎士の青年は近衛騎士、つまり国王陛下直属の騎士ということだった。
近衛騎士といえば、王国に仕える兵士としてもエリートであり、貴族の次男以下や庶子といった者がその役目に付くことが多いそうだ。
そう考えると、このイザークも貴族の出という可能性が高いのだが、それにしては偉ぶった様子は微塵もなく、子供の俺にまで頭を下げてくれた。
「頭を上げてください、イザークさん。本来、こちらはお願いできる立場ではございませんので。皆様、本当にありがとうございます」
リーンハルトやユリアンをはじめ、皆ができる限り協力してくれるという意思を伝えてくれたことに本当に感謝しかない。
そんな気持ちに浸っていると、光の精霊が退屈した様子で話し掛けてきた。
「ねぇ、ハルト。そろそろこの中に入ってみてもいいかしら?」
これ以上光の精霊を待たせても申し訳ないので、精霊玉に宿ることができるのか試してもらう。
「まぁ、そうですね。それでは試して頂いても良いですか?」
「はいはーい!」
改めて精霊玉を差し出すと、光の精霊がふわりと手の上に降り立って精霊玉に触れた。
やったか……!?
すると、光の精霊がすぅっと吸い込まれるように精霊玉の中に入って行く。
どうやら成功したようで、精霊玉を明滅させながら陽気に話し掛けてきた。
「今度は問題なく入れたわ。意外とこの中って心地良いのね!」
「それは良かったです。それでは魔動人形への組み込みも進めてしまいますね」
テーブルの上に置いてある魔動人形の胸部を開き、五百円玉サイズの凹みに光の精霊が宿った精霊玉を填め込んでみた。
精霊核から精霊玉に変わったことで何か問題が出ないかと心配したが、具合は良さそうだったので胸部をそっと閉じる。
「これで完了です。光の精霊さん、魔動人形の具合はどうですか?」
テーブルの上に寝ていた魔動人形がゆっくりと起き上がり、大きく背伸びをして、こちらに顔を向けた。
「そうね、特に問題ないかしら?」
光の精霊が宿った魔動人形は起き上がり、腕を上げ下げしたり屈伸したりして、新たな身体の調子を確かめていた。
精霊が宿っているとはいえ、本当に生きているみたいだな。
これで魔動人形の引き渡しは完了なのだが、ちょっと気になっていたことがある。
この魔動人形、いや『光の精霊』を呼ぶ時の名前だ。
いつまでも『光の精霊』というのも呼びづらいし、これからリーンハルトたちとは長い付き合いになるのだ。光の精霊にも名前があったほうが良いだろう。
そういえば、この魔動人形にはアレクシス氏が名前をつけてたんだよなぁ。それなら、同じ名前の方が色々都合が良いか。
「これから暫くリーンハルト様と同じ時間を過ごして頂くのですし、折角ですから光の精霊さんに名前を与えたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ワタシに? ハルト、それ本当にいいのかしら?」
「えぇ、勿論です! それに、名前があったほうがお話ししやすいでしょう? そうですよね、リーンハルト様?」
俺の問い掛けにリーンハルトも深く頷いた。
「確かに、毎回『光の精霊殿』と呼ぶのはこれからの付き合いのことを考えると些か他人行儀な気もする。ハルトの言う通り、名前があったほうが良いだろう」
「ありがとうございます。それでは、既にこの魔動人形には素晴らしい名前がつけられておりますので、それと同じく『ゲルヒルデ』というのはいかがでしょうか?」
「なかなかステキな名前じゃない! 今、この瞬間から、ワタシは光の精霊『ゲルヒルデ』よ。ハルト、よろしくね!」
『ピシッ』
光の精霊、ゲルヒルデがそう宣言した瞬間、ゲルヒルデの身体から嫌な音が聴こえて力無くゲルヒルデが崩れるように倒れる。
「ゲルヒルデ!」
リーンハルトが心配そうな顔でゲルヒルデの身体を手でなんとか支え、その身体をテーブルの上に寝かしつけた。
「ハルト! 一体どういうことなのだ!? ゲルヒルデが急に倒れて……。ゲルヒルデの身に何か問題でも起こったのか?」
慌てた様子で俺を問い詰めるリーンハルトだが、俺も何が起こったのか分からない。
確認の為ゲルヒルデの胸部を開くと、中に収まっていた精霊玉には大きな皹が入り、砕ける寸前というところだったが、ほどなくして精霊玉は砕けて光の塵となってしまった。
「ハルトッ! 一体何が起こったのだ!?」
「申し訳ありません……。まだ原因は分かりませんが……」
「ハルト……! やっぱりこうなっちゃったわね。何となくそんな気がしてたんだけど」
リーンハルトに今回起こった意味不明の事態について釈明をしているときに、ふいに耳元から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ゲルヒルデさん、無事だったんですね!」
「当たり前じゃない。ちょっと驚いたけど、それだけよ」
声のするほうに向くと、ゲルヒルデが俺の肩をベンチの代わりといわんばかりに腰掛けていたのだが、先ほどまでとは随分とゲルヒルデの様子が違っていた。
身長が三倍近くにまで大きくなり、更に容姿も五、六歳だった姿から中学生くらいにまで成長していたのだ。そんなゲルヒルデに驚きつつも話しかけてみた。
「そんな気がしていたってことですが、ゲルヒルデさんは何が起こったか分かっているんですか?」
「もちろんよ。精霊にもね、名前が付けられることはたまにあるのよ。そのほとんどは、ただの呼び名としてなんだけどね。でも、稀に精霊力を持つ者から名前を付けられると、霊格が上がることがあるのよ。今回、ハルトのような強力な精霊力の持ち主から名前を付けられたから、ワタシの霊格が上がったってわけなの。だから、本当にいいのかってハルトに聞いたのに……」
なるほど、精霊力を持っている人から名前を付けられると、霊格が上がることがある。
理解はできたけど、納得はできない。
というか、そういうことは名前を付ける前に教えて欲しかったんだけど……。
まぁ、それはともかく。壊れてしまった精霊玉を何とかしないといけない。というか、多分精霊玉の上位版である『精霊晶』を創るしか無いんだろうけど。
念の為、ゲルヒルデを鑑定する。
『名前:ゲルヒルデ
種族:上位精霊(光) 年齢:不明 職業:神の眷族の契約者
所属:朝比奈晴人
称号:朝比奈晴人に召喚されし者、朝比奈晴人に名付けられし者
能力:S(筋力:A、敏捷:S、知力:S、胆力:A、幸運:S)
体力:2,040/2,040
魔力:9,820/9,820
特技:光魔法:Lv9
状態:健康
備考:朝比奈晴人が初めて召喚した精霊。
朝比奈晴人により精霊力と名前を与えられ、霊格が上がった。
元々は下位精霊だったが、現在は上位精霊。
契約期間は一年(残り365日)
身長:50.4cm、体重:測定不能』
あぁ、本当に上位精霊に霊格が上がったみたいだ。能力もSランクに上がってるし……。そうなると、やっぱり精霊晶を創るしかないな。あれ? もしかして俺、またどこかでフラグを立ててしまったのか?
俺は肩を落として、仕方なく精霊晶を創る準備を始めることにした。
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