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二人の王子との昼食会

 俺はグリューエン鉱山の復旧作業へ向かったあの日に一体何が起こったのかを、リーンハルトとパトリック、そしてユリアンとランベルトの四人に説明した。一度帝都でハーゲン相手に説明をしたこともあってか、何だかハーゲンに説明したときよりも順序立てて説明できた気がする。


 それに、四人はヴェスティア獣王国の一件で魔王についても理解している。そのため、ハーゲンとは違ってすべてを詳細に話すことができた。


「ふむ。魔王とやらは、そのように危険な魔法陣を坑道内部に仕掛けていたのか。坑道の破壊はグスタフ殿の謀反よりも随分と前に起こっていたと聞いている。まるで、グスタフ殿の謀反は失敗に終わり、其方によって坑道が復旧されることを見越していたかのようではないか……。パトリック、其方はハルトから齎されたこれらの情報を聞いてどう思う?」


「魔王は転移魔法などという、どの国でも成し得ていない高度な魔法技術を使ったことになります。これはまるで我らに対して、脅威となる魔法技術を有していると自ら言っているも同然。……いえ、違いますね。転移魔法だったかどうかは、転移したハルト殿自身が無事に帰ってこなければ我々は知る由もなかったことです。もし、兄上の言う通りであれば、ハルト殿が転移した後、無事に王都まで帰ってくることも想定内だったと、そういうことになるのでは!?」


「つまり、我らは魔王の手のひらの上で踊らされているということか……」


「恐らくは……。しかも、ハルト殿のお話では、ハルト殿が転移させられたのは難度Sランクのダンジョンの最下層だったとのこと。そのようなところから帰還したとなれば、ハルト殿が尋常ではない実力の持ち主であると言うことが分かります」


「普通ならば、そのような場所から無事に帰還するなど出来ぬことだろう。だが、魔王には分かっていたのだろうな。ハルトならばその実力で難度Sランクのダンジョンからも戻ってくると。どうやら、魔王はハルトの実力を周知のものとしたいらしい」


 リーンハルトの言葉に「そのようですね」とパトリックが返す。ふむ、確かに二人の言うことは分からなくはないが、どうして魔王が俺の実力を周知のものとしたいのか、その意図がわからない。


 大体、俺の実力と言われても正直俺自身がその実力をよく分かっていないのだ。


 確かに、難度Sランクのダンジョン『天幻の廻廊』の最下層から帰還したということは誇れるものかもしれないが、多くの人にとってはその凄さが伝わらないのではないだろうか? まぁ、『難度Sランクのダンジョンを制覇した』と言えば、周りの皆も称賛の声を上げてくれるのかもしれないが、別にダンジョンを制覇したわけでもないしなぁ。


 そんなことを考えていると、リーンハルトがおもむろに俺の手を取った。


「ともかく。よくぞ無事に帰ってきてくれた!」


 パトリックもリーンハルトと同じように俺の手を取る。


「その通りです。本当に無事でよかったです!」


 二人の言葉に思わずほろりと来るものがある。


「あ、ありがとうございます……!」


 うむ、と小さく頷くリーンハルト。はい、と微笑むパトリック。そんな二人を微笑ましそうに見守るユリアンとランベルトからも無事の帰還を労う言葉をもらった。改めてそう言われると、なんだか照れくさいな。


「それで、ハルトの後ろに控えている二人が、其方を王都まで守ってきた護衛か?」


「兄上、一人はハルト殿のお話にあったエルフの里の巫女ではないでしょうか?」


 俺の説明がひと段落したこともあってか、リーンハルトとパトリックの二人は俺の後ろに控えていたユッテとノーラの存在にようやく気が付いたらしい。


「リーンハルト様、パトリック様。ご紹介させて頂きます。こちらが私が王都まで戻ってくるまで護衛を依頼したAランクの冒険者パーティー『精霊の守り人』のユッテです。そして、こちらが彼女らの里で私と同じく巫女として神から神託を授かっていたノーラです」


「お初にお目に掛かります。ただいまアサヒナ伯爵様よりご紹介に預かりましたユッテと申します。この通り、Aランクの冒険者パーティー『精霊の守り人』の一人でございます」


 そう言ってユッテが胸元に輝いていたギルドタグをリーンハルトたちに見せた。


「そして、こちらは私たちの里で巫女をしておりました、ノーラと申します。ノーラは特殊な性質の声を持っておりまして、私たちの里でも特定の者にしか聞き取ることができません。そのため、アサヒナ伯爵様にご用意頂いたこちらの魔導具を用いての筆談にて対応させて頂きます」


 ユッテがそう言いながらノーラに目配せをする。すると、ノーラがつらつらと魔力メモパッドに書き連ねてリーンハルトたちに見せて頭を下げた。


「ノーラと申します。アサヒナ伯爵様からのご紹介にもありました通り、私は里で神からの神託を授かる巫女という役職に就いておりました。今はアサヒナ伯爵のもとで一緒に旅をさせて頂きながら見聞を広めているところでございます」


「ふむ。それにしても、Aランクの冒険者パーティーに護衛を依頼できるとは、ハルトは幸運だったな」


 リーンハルトがそう言うと、ユッテはゆっくりと首を振った。


「いえ、幸運だったのは私たちのほうでございます。あのとき、アサヒナ伯爵様と出会えなければ、今頃はダンジョンに巣食う魔物の腹の中にいたことでございましょう」


 そう言って、ユッテが俺と出会ったときのことをユッテたちの目線で話してくれた。その話をリーンハルトたちが興味深そうに聞いている。


 ユッテにとって、俺が現れたときのことは、それはまるでピンチに駆け付けたヒーローのようなものだったらしく、俺の活躍をそれはそれは熱く語ってくれた。正直、そういうのは俺のいないところで話してほしいものだ。目の前でそのようなことを言われると何とも面映ゆい……。


 ユッテがひとしきり俺の活躍を語り終えると、リーンハルトとパトリックが「流石は我らのハルトだな!」などと言いながら、大きく頷いた。全く、いったい何が流石なのかと突っ込みたくなる。


 はぁ、とため息を吐いていると、パトリックがノーラに声を掛けた。


「……それで、ノーラと言いましたか。其方はハルト殿と同じく、神託を授かることができる巫女だったそうですね」


 パトリックの言葉にノーラが頷いて、魔力メモパッドにつらつらと筆を走らせる。


「はい。今ではその任を解かれておりますが……」


「それは、すべての神託がハルトに授けられるようになったことが原因か?」


 リーンハルトの言葉に、再びノーラが筆を走らせる。


「……はい。ですが、アサヒナ様のおかげで自由の身となった今の私があるのです。神がアサヒナ様にすべての神託を授けると仰られなければ、私は今でも里の巫女としてその生涯を縛られていたことでしょう」


「ふむ、なるほどな。其方はハルトがすべての神託を授かることによって、その責務から解き放たれることになった、ということか?」


「その通りでございます」


 うむ、なるほどな。と、リーンハルトが頷く。それに続いて、ですが。と、パトリックがノーラから俺に視線を移して話し始めた。


「ハルト殿。神殿に仕える神官たちからも、ハルト殿が神子として神託を授かることができるということ、そして神の真なる意志、真なる言葉はすべてハルト殿を通して伝えられることになったと報告を受けていたのです。幸い、ノーラ殿のようにその役目を終えることになったような神官はおりませんが、これは我が国だけのことではありません」


「うむ。我がアルターヴァルト王国には、その神託を一身に授かることになったハルトがおる故、何も心配はしておらぬ。だが、他国にとっては一大事だ。混乱している国も多いことだろう。例え、世界に齎される災厄については、これまで通り神託を授かれると神託で聞かされていたとしてもな」


 まぁ、そうなるよなぁ……。パトリックとリーンハルトの話を聞いた感想だ。


 パトリックの言う通り、ノーラのように、世界神の愚痴のような細かな神託まで授かっていた神官がどれだけいたかは分からないが、当人にしてみれば、突然の神託によってそれが授かれなくなったことになる。


 そして、リーンハルトの言う通り、仮にそのような神官がいた国があったとしたら大きな混乱が起こった可能性が高い。恐らく、落ち着いて神託の内容を受け入れられたのは、俺のことをよく知っているアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国の両国だけではないだろうか。あ、あとはオラーケルの里にいるミリヤムくらいかな。


「つまり、ハルトという存在の重要性が、先の神託によってすべての国に知らされたのだ。其方を取り込もうという国が出てきても不思議ではない!」


「その通りです。ハルト殿にはもう少し自覚というものを持って頂かなければなりません。事と次第によっては、国家間の争いの種になるのですよ?」


 え、そこまでか? と思ったが、どうやら、そこまで深刻な事態らしい。


 もう少し詳しく二人から話を聞いて、ようやく理解できた。つまるところ、かつてのオラーケルの里の巫女と同じ状況らしい。神託を詳しく知ることができる者が狙われる。それが、あろうことか、世界神の神託によって引き起こされることになったというわけだ。まったくもって意味がわからない。


「それ故、ハルトには強力な護衛が重要となる。そう。ユッテ、其方らAランクの冒険者パーティー『精霊の守り人』のことだ。ハルトの護衛、よろしく頼むぞ!」


「はは、しかと承りました!」


 リーンハルトの言葉に頭を下げるユッテ。うん、キリッとした表情のユッテから出た言葉が何とも頼もしく感じられる。


「護衛だけではありません。神からの神託を一身に授かる者として、守られる者の心構えも必要になります。ノーラ殿、どうかハルト殿のことをよろしく頼みます」


「はい、お任せください!」


 パトリックからの言葉にノーラがつらつらと魔力メモパッドに書いて返事をした。ノーラも真剣な表情で答えてくれたので、その点については嬉しく思うのだが、俺より年下のノーラによろしく頼みます、というパトリックの言葉は何というか素直に受け入れられなかった。いや、だって、ねぇ?


 そんな話をしている間に、昼食会の時間となった。


 昼食会の間も会話は尽きない。そんな中、港町ツヴァイトハーフェンからヴェスティア獣王国へと向かうための『足』、つまり移動手段について話が及び、リーンハルトとパトリックの二人から、アルターヴァルト王国の軍船『ウンディーネ号』に乗ることを提案されたのだった。


「え、本当によろしいのですか?」


「うむ。このままツヴァイトハーフェンで腐らせておくよりも、ハルトのために使ったほうが有用であろうよ」


「その通りです。現状敵対している国があるわけでもないですし、軍船を必要とする機会もありませんからね」


 二人の言葉で、ツヴァイトハーフェンからヴェスティア獣王国までの移動手段については、アルターヴァルト王国の軍船『ウンディーネ号』を使わせてもらうことになった。


 もっとも、ウンディーネ号に乗せてもらうにはゴットフリートとウォーレンの二人にも話を通さなければならない。


 すぐにウンディーネ号の使用を求める書状をリーンハルトがパトリックと二人の連名で書き記すと、メイドを通じてゴットフリートとウォーレンの二人に届けられることになった。早ければ、俺たちが王城から帰る頃には許可が下りるだろうとのことだった。早すぎないか……?


「リーンハルト様、パトリック様。この度は誠にありがとうございます。私の個人的な目的のために王国の大事な軍船であるウンディーネ号を使用させて頂けるとは思ってもおりませんでした」


 俺が貴族だとしても、ヴェスティア獣王国に移動するなどという個人的な目的のために王国の軍船であるウンディーネ号を国から貸し出してもらえるなど普通はあり得ないことだ。


 このお礼は高くつきそうだなぁ、などと考えていると、二人からやっぱり厄介な相談を受けることになった。


「うむ! その代わり、我らも当然ハルトについて行くがな!」


「はい! 久々のハルト殿との旅路、楽しみにしていますよ!」


「え、えっと、どういうことですか!?」


 リーンハルトとパトリックが言うには、ウンディーネ号を使うにあたっての交換条件なのだという。さらに、王国から対魔王勇者派遣機構に管理を任されたグリュック島の最新の状況も確認したいらしく、ヴェスティア獣王国へ向かう途中でグリュック島にも寄りたいらしい。


 だが、正直に言って、今のグリュック島にはリーンハルトたちに見せられるようなものはほとんどない。あるとすれば、対魔王勇者派遣機構の本拠地となる高層ビルと、まるで王宮のようなうちの屋敷ぐらいだが……。それも見せるとなるとしたら、色々と説明が面倒だ。


 いや、いつかは説明しないといけないだろうが、どうせ説明するならリーンハルトとパトリックだけでなく、ゴットフリートやウォーレン、エアハルトやハインリヒにも同時に説明したほうが手間が少なくていい。


 そんなわけで、グリュック島については、船の上から遠目に確認する程度に控えてもらうことにした。二人とも納得してはいないようだったが、近いうちに招待すると伝えると、ようやく納得してくれた。


 こうして、リーンハルトとパトリックへの諸々の説明が終わった。


 ヴェスティア獣王国へ向かう際の移動手段についてはこれからどうするか決めなければいけない重要な案件だったので、リーンハルトとパトリックの提案はありがたかった。とはいえ、そのお礼というわけではないが、皆をグリュック島に招待するというタスクも増えてしまったが……。まぁ、いつかはやらなければならないタスクが明確になっただけだ。そう自分に言い聞かせる。


 そんな話をしているうちに俺たちは昼食会を終えた。王城での昼食は、わざわざリーンハルトとパトリックが昼食会を開いてくれただけのことはあって、非常に豪華で美味なものだった。うん、たまにはこういう料理もいいよね。


 そして、リーンハルトとパトリックの二人が言っていた通り、俺たちが王城をあとにする頃には、ゴットフリートとウォーレンの二人から、ウンディーネ号の使用許可が下りたのだった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

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