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霊格上昇とトラブル発生?

「くっ!」


 突然、精霊から発せられた視界を奪われるほどの眩い光に、思わず顔を背ける。


 周りの皆も思わぬ事態に驚き戸惑う様子だったが、ユリアンはリーンハルトを守るように抱き締め、素早く反応した騎士の青年とゴットハルトが二人の前に立ち、腰の剣に手を伸ばして状況を窺っていた。


 精霊が光り輝いた瞬間に俺も驚いて精霊力の供給を止めたのだが、それでも精霊の輝きは収まる気配がない。


 一体何が起こってるんだ?


 恐らく皆も同じことを考えているだろう。


 たが、精霊力を与えていた当人である俺にも、何がなんだかさっぱり分からない。


「ア、アサヒナ殿っ! これは一体何事ですか!?」


「申し訳ございませんが、私にも全く分かりません……。ただ精霊力を分け与えていただけなのですが、突然精霊が光り輝き始めまして……」


「精霊が……?」


 ユリアンから説明を求められたが、今の俺には状況が分からず答えることができない。


 どうするべきかと考えていると、光の中から声が聞こえてきた。


「やっぱり思った通り。ハルトの精霊力は最高にステキだわ!」


 突然のことに驚いたが、聞き覚えのある声に少し安堵する。


 あの精霊の声だ。しかも、これまでのように頭の中に直接話しかけてくるものではなく、しっかりと耳から聞こえてきたので余計に驚いたのだ。


「何者だ!」


 ゴットハルトが剣を抜いて構えながら前に出ようとするの右手で制して、こちらからも声を掛ける。


「その声は、光の精霊さんですね。直接お声を聞くのが初めてだったので、驚きましたよ」


「光の、精霊だと……!?」


 ゴットハルトはよほど驚いたのか、それ以上は口から言葉を出せず、ただただ、剣先を光の精霊に向けることしかできないようだった。


 リーンハルトとユリアンは光の中から聞こえてくる精霊の声に驚いたようだが、ことの成り行きを見守っている。


「そうよ! ほら見て、ハルトのおかげでこんなに大きくなれたのよ!」


 こちらの状況など気にも留めず、光の精霊は暢気に応えながら光の中から姿を見せたのだが、俺の知っている光の精霊の姿ではない。


 精霊力を分け与える前はただの小さな光の塊だったのに、今は二十センチ程度まで大きくなり、五、六歳くらいの光り輝く髪が特徴的な美しい少女の姿をしていたのだ。


「あの、光の精霊さんですよね……? 何だか以前より大きくなったというよりは、進化したようにも見えるのですが。それに普通に会話できていますし、一体何が起こったんですか?」


「それはねぇ、多分アナタの精霊力を貰えたことで、ワタシの霊格が上がったから、かしら?」


「霊格!?」


「そうなの。ワタシだって驚いているのよ? ただ、それ以上に嬉しい気持ちと、ハルトへの感謝の気持ちで一杯だけどね!」


 精霊の言うことを信じると、どうやら俺が精霊力を分け与えたことで、ただの精霊の格、『霊格』が上昇したということらしい。意味が分からない。


 そういえば、図書館の書物の中には精霊に関する記述を見かけた覚えがある。霊格というのは、精霊の格という意味らしく、長い時を経て精霊の力が最大にまで蓄積されたときに、より上位の精霊へと姿を変えるとかなんとか。


 俺の精霊力でそんなことが起こるなんて思いもしなかった。


 そんなことを思い出していたのだが、ユリアンの興奮した声に思考が途切れてしまった。


「おぉ、何ということでしょう! 精霊が霊格を上げる、その瞬間に立ち会えるなど何という奇跡でしょうか! アサヒナ殿のお陰で大変貴重な瞬間に立ち会えることができました!」


 謎の発光現象が光の精霊によるものだったことが分かったからか、ゴットハルトも騎士の青年も剣を収めて警戒を解いており、ユリアンは俺の前にまで出てきて両手で俺の手を取った。


 まぁ、喜ばれる分には良いのだけれど、何だか複雑な気分だ……。


「それで、その光の精霊殿はこちらの願いを受けてくれるのか?」


「えぇ、勿論よ。それはハルトとの契約だもの。あなたも供物を用意してくれるんでしょ?」


「あぁ、勿論。其方の希望するヘルホーネットの蜜を用意しよう」


 気づくと、既にリーンハルトと光の精霊との間で交渉がまとまっているようで、後は精霊核に、光の精霊に宿ってもらうだけになっていた。なので、俺は光の精霊に精霊核を差し出した。


「それでは、こちらの精霊核に宿って頂けますか?」


「えぇ、良いわよ!」


 差し出した精霊核に向かって光の精霊がふわりと降り立ち、精霊核に触れる。


『パキッ!』


「へ?」


「あら?」


 光の精霊が精霊核に触れたその瞬間、精霊核が音を立てて崩れてしまい、その欠片も細かな塵となって、宙を舞うように霧散していった。


「アサヒナ殿、一体何が起こったんです?」


「えぇ……っとですね……。恐らくですが、こちらで用意した精霊核では光の精霊を受け容れられなかったのではないかと思います。先ほど光の精霊の霊格が上がったので、それが原因ではないかと……」


「きっとそうだわ! だって、ハルトのおかげで今のワタシは中位精霊、いえ上位精霊と同じくらいまで、霊格が上がったはずだもの!」


 何気なく、原因が俺にあるような口ぶりで光の精霊は言うのだが、ちょっと待って欲しい。


 俺だって狙ってこんな面倒なことをやるわけがない。


 これは単純な事故だ。恐らく、光の精霊の霊格が上がったことが原因のはず!


 そう考えて、俺は裏付けを取るために光の精霊を鑑定した。


『名前:未設定

 種族:中位精霊(光) 年齢:不明 職業:神の眷族の契約者

 所属:未設定

 称号:朝比奈晴人に召喚されし者

 能力:A(筋力:B、敏捷:A、知力:A、胆力:A、幸運:A)

 体力:1,800/1,800

 魔力:6,240/6,240

 特技:光魔法:Lv9

 状態:健康

 備考:朝比奈晴人が初めて召喚した精霊。

    朝比奈晴人により精霊力を与えられ、霊格が上がった。

    元々は下位精霊だったが、現在は中位精霊。

    契約期間は一年(残り365日)

    身長:16.8cm、体重:測定不能』


 種族にバッチリ『中位』の文字が書かれている。そして、備考欄にも……。つまり、そういうことだ。


 俺が精霊に精霊力を分け与えた結果、精霊の霊格が上昇して下位精霊から中位精霊になったことで、精霊核には収まりきれなくなり、結果として精霊核が砕け散ったようだ。


 そうなると打てる手は……。もうアレを試すしかないか。


「調べてみましたが、光の精霊が言う通り、やはり霊格が上昇した結果、下位精霊から中位精霊となったことが原因のようですね」


「なんと、それでは……。魔動人形はどうなるのですか! まさか、完成できないということですか!?」


 ユリアンがやや強い口調で聞いてくる。


 彼のほうに振り向くと、表情に焦りの色が現れていた。また、後ろに控えていたヘルミーナの顔色も頗る悪い。


 恐らく精霊核が砕け散ったことで、もう魔動人形を完成させられないのではないかと不安になっているのかも知れない。


「まぁ、皆さん落ち着いて下さい。まだ方法はありますから」


「ハルト、それ本当なの? 精霊核がダメだったのに、他の方法なんて……」


「安心してください、ヘルミーナさん。きっと大丈夫ですから」


 不安に押し潰されそうな表情のヘルミーナに、心配させないようできるだけ明るく振る舞った。


 彼女の瞳には薄っすらと涙が溜まっていたが、それが溢れださないように必死に堪えているようだった。


 アメリアとカミラも心配そうに俺の方に視線を向けるが、俺は心配無用とばかりにサムズアップして微笑みを返した。


「確かに精霊核では光の精霊を受け入れられませんでした……。ならばどうするか? そう、より上位の精霊が宿ることのできる依代を用意すれば良いのです!」


「上位の精霊が宿ることのできる依代を、ですか……? しかし、どうやって?」


「簡単なことです。創れば良いんですよ、こんな風にね。創造『精霊核×10個』からの、錬金『精霊玉』!」


 一度でも鑑定したものであれば、創造で創り出す自信はあった。


 ただ、目的のものを錬金するには残りの精霊石の数が足りなかったので、リーンハルトやユリアンたちの前ではあったが、やむを得ず創造を使って精霊核を十個用意する。


 そう、目的のものとは『精霊玉』だ。


 以前、精霊核を鑑定した際に備考欄に記載のあったアレだ。あのときは精霊玉など錬金するとは思っていなかったのだが……。


 無意識にフラグを立ててしまったのかな……?


 精霊玉であれば、恐らく中位精霊となった光の精霊であっても問題なく依代として機能するはずだ。


 創造と錬金により両手から生み出された光の渦が小さな柱となって部屋の天井にまで届く。


 流石に今回はセラフィを創り出したときのように光が部屋全体を包むようなことにならずに済んだ。ほどなくして光の柱は消えると、手元に淡い緑色の玉が残っていた。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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