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魔導カード『神の試練』の説明

 ベンノとの打ち合わせを終えた俺は、彼と一緒に店長室から出た。


 ベンノは一階の売り場へと向かって行った。それを見送りながら、俺は一人裏口から再び外へと出ると倉庫へと向かった。中へ入ると早速在庫の状況を確認する。ベンノからも話は聞いていたが、確かに上級回復薬と上級解毒薬の在庫が以前に比べて減っているようだった。


「それじゃ、早速創ってしまいますか!」


 俺は創造で在庫が不足していた上級回復薬と上級解毒薬を創り出して倉庫の棚に置いた。そして、注文が入っているという特級回復薬と特級解毒薬についてもそれぞれ百個ほど創り出すと、それらをアイテムボックスの中に入れた。


 そうして、最後にカードパックの第二弾と、第二弾アップデート用の魔導具を創造することにした。


 カードパックの第二弾は以前ヘルミーナとベンノに伝えた構想の通り、種族のイメージ通りではなく、人間族だけど魔法攻撃特化タイプとか、獣人族だけど支援攻撃タイプなど、ちょっと組み合わせを変えたくなるようなカードを用意してみた。それだけではなく、各種族のレアなカードを幾つか追加するなど、第二弾カードパックを買いたくなる要素を追加しておいた。


 そして、カードパック第二弾の登場に合わせて、遊技台や遊技マットをアップデートしなければならない。


 そのため、遊技台と遊技マットをアップデートする魔導具も用意することにした。とはいえ、ただ第二弾のカードパックに対応するだけでは味気がない。そう思って、これまで実装していなかったレイドボスという新機能を入れることにした。いわゆる、複数のプレイヤーが協力して討伐を目指すイベントボスだ。


 と言っても、運営側でイベントを開催するというのは少々面倒なので、定期的に通常のボスキャラよりも何倍も強いボスキャラがランダムで現れて、その討伐依頼がクエストという形で発生するというような仕組みにしておいた。登場するレイドボスが強いほど、そして勝利貢献度が高いほど、勝利した際に手に入る報酬が高価値レアなものになる仕組みだ。


 また、レイドボスによっては高い効果を発揮するキャラクターと、そうでないキャラクターを用意することで、普段使われることが少ないカードが日の目を見るようにしておいた。これで、カードのレアリティだけが攻略の全てではないと伝わればいいなと思う。


 ついでに、月毎に更新されるレイドボス戦の勝利貢献度ランキングを遊技台や遊技マット上で確認できるようにもしておいた。こうすることで、多くのプレイヤーが当面の間は勝利貢献度ランキングで盛り上がってくれるだろうと、そう思ったのだが……。どうにも納得できていない自分がいた。


 それもそのはずで、このランキングは全ての遊技台と遊技マットが連動しているわけではなかったからだ。やっぱり、全てのプレイヤーと、とまでは言わないけれど、できるだけ多くのプレイヤーと繋がってはいたいよな。そうでないと、本当にローカルなランキングになってしまう……。


 そこまで考えると、俺はため息を吐いた。


 例えば、ネットワークを構築して、俺が創り出したすべての遊技台と遊技マットを繋げてみるということも、できなくはない。だが、そんなことをしたら、魔導船スキズブラズニルを創ったときのように世界神から怒られるに決まっている。


 だけど、流石に遊技台や遊技マットそれぞれ単体でのランキングだとつまらない。


 そうだ! 例えば、半径五十メートルくらいの範囲内にある遊技台や遊技マットのランキングを共有して表示させるのはどうだろうか? これぐらいなら、世界神も目溢ししてくれるかもしれない。


 そう思って、俺はローカルなネットワークもどきを第二弾アップデート用魔導具に組み込むことにした。これがあれば、遊技マットを持ち寄って皆でレイドボスを倒すこともできるだろうし、遊技台を何台も設置しているハーゲンの店などでは店全体でのランキングの表示が可能になるだろう。うん、これは便利だしアリだな。


 あぁ、そうだ。うちの店でも月に一度、勝利貢献度ランキングの上位者にゲーム内の報酬とは別に、何か特別な報酬を与えてもいいかも知れないな。どんな報酬が喜ばれるかは分からないが。例えばトロフィーとかカップとか、何か形に残るものがいいのではないだろうか。うん、悪くないと思う。


 ともかく、これだけの機能を用意すればカードパックだけでなく、遊技台の使用料や遊技マットの売上もきっと向上するはずだ。何故なら、勝利貢献度のランキング上位に入ろうと思ったら、遊技することが絶対条件になるのだからな。


 そんなことを考えながら、第二弾カードパックをハーゲンへ納品する分も含めて、一千万個用意した。流石にこれだけの数があれば、早々に在庫が不足するような事態にはならないだろう。


 そして、第二弾アップデート魔導具も百万個ほど用意することにした。これまでの遊技台と遊技マットの販売台数からして、これだけあれば十分過ぎると考えたのだ。


 因みに、これは使い捨ての魔導具になっている。


 これ一個に対して一台の遊技台または遊技マットにしか使用アップデートできないのだ。それもあって、販売価格は大銀貨一枚(一万円)と、この世界の魔導具としてはリーズナブルな価格設定にすることにした。もちろん、第二弾カードパックの価格は第一弾と変わらず銀貨一枚(千円)と据え置きだ。


 こうして一通りの在庫を補充し終えた俺は、そのことをベンノに報告するために再び魔導具店へと向かった。すぐにベンノの姿を見つけた俺は早速在庫の補充を終えた旨を伝える。


「ベンノさん、上級回復薬と上級解毒薬の在庫の補充が完了しました。それから、こちらは注文のあった特級回復薬と特級解毒薬になります」


 木箱に入れた特級回復薬と特級解毒薬をアイテムボックスから取り出してベンノに手渡す。するとベンノは早速カウンターの中に置いて中身の確認を行った。そして、中身の確認を終えると、ベンノはティニに商品入荷の知らせを注文してきた客に届けるよう指示を出した。


「早速のご対応、ありがとうございました。これで注文のあった商品については全て対応することができます」


「こちらこそ、遅くなってすみませんでした」


「それで、第二弾のカードパックというのはできたのですか?」


「えぇ、問題なく。早速、うちの遊技台で確認してみましょうか」


 そう言ってアイテムボックスから第二弾のカードパック十個と第二弾アップデート用魔導具三つをカウンターの上に出した。


「ほう、これが第二弾のカードパックですか。包みの絵柄が違うのですね」


「えぇ、一目で第一弾と第二弾が区別できるようになっています」


 第一弾のカードパックは人間族の男性、獣人族の男性、妖精族の女性、魔人族の女性のパーティーが魔物に立ち向かうような絵柄だったのだが、第二弾では人間族の女性、獣人族の女性、妖精族の男性、魔人族の男性が戦いに勝利し、宝箱を開けるような絵柄にしてみたのだ。


 そんな説明をしていると、うちに三台しかない遊技台が置いてある一角が俄に騒がしくなった。気になってそちらに顔を向けると、ユッテとノーラの二人が遊技台に遊びに来た客に絡んでいる姿が見えた。


「それは一体何なの!? えっ、銀貨一枚で買える魔導具ですって? それは本当なの!? この遊技台という魔導具も大銅貨一枚で使えるのね!?」


「しかも、これはただ遊ぶためだけの魔導具だそうです! 魔導具をただの遊びに使うなんて信じられません! え、私たちですか? はい、私たちは確かに妖精族のエルフですけど……」


 オオオッ!


 何故か、ユッテとノーラの周りに客が押し寄せた。状況を鑑みるに、俺以外に妖精族のエルフを見た一部の客が騒いだらしい。


 俺はすぐにユッテとノーラの元へ行って、周りの客に「これ以上騒ぐようでしたら、出禁にしますからね!?」と、そう伝えたところ、ようやく騒ぎが収まった。


「はぁ。もう、二人は一体何をしているんですか……」


「あら、私たちは何もしていないわよ? ねぇ、ノーラ?」


「はい、私たちはただ、アサヒナ様の創られた魔導具を見ていただけです!」


 ユッテの言葉に合わせるように、必死に魔力メモパッドにつらつらと理由を書いたノーラに疑いの目を向けながら、ノーラの頭を撫でる。


「ノーラさん、別にユッテさんに合わせなくてもいいんですよ?」


「何よ。それじゃあ、まるで私が嘘を吐いたみたいじゃないの!」


 そんなことを言うユッテをじとりと見て、俺はため息を吐いた。


「はぁ。何もしていないなら、こんなに騒ぎになるわけがないじゃないですか……」


 それで、一体何があったんですか……? そう尋ねると、ユッテが黙ってカードパックを指さした。


「ハルト、これは一体何なの?」


「私もそれが知りたいです!」


 ユッテがそう話すと、ノーラも魔力メモパッドにつらつらと書いた。


「これは魔導カード『神の試練』と言いまして、私が創り出した魔導具の一つです。人間族、獣人族、妖精族、魔人族の四種族が手を取り合って、困難に立ち向かうという遊具ですよ」


「本当に遊具としての魔導具なのね……。銀貨一枚と聞いたけれど……?」


「えぇ、このカードパックという包みには五枚のカードが入っています。何が出てくるかは、包みを開けた人の運次第になります」


 そう言いながら、俺は第二弾のカードパックを一つユッテに手渡し、それを開けるように促した。そして、俺に言われるがまま、ユッテがカードパックを開ける。


 すると、虹色に輝くカードが一枚、そして金色に輝くカードが一枚、銀色に縁取られたカードが一枚、そして銅色の模様がついたカードが二枚出てきた。


「ユッテさんは運がいいですね。この虹色のカードは滅多に出てこないんですよ? それに、この金色に輝くカードも貴重なんですから!」


「そうなの? よく分からないけれど……」


 そう言って虹色に輝くカードを摘み上げた。人間族の女性が魔法を放とうとしている挿し絵が描かれたキャラクターカードだった。


「そのカードをこちらの遊技台に置いてもらうのですが、ちょっと待って下さいね」


 俺は空いている遊技台に、第二弾アップデート用魔導具を翳した。すると、遊技台が淡く輝いて、アップデートが始まった。暫くして輝きが収まると、俺はユッテが持つ虹色に輝くカードを遊技台の上に置くように伝えた。


「……これでいいのかしら? あら、これは……!?」


 ユッテがカードを遊技台の上に置くと、カードに描かれた人間族の女性が実体化して遊技台の上に現れた。


 続けてユッテに、金色に輝くカードと銅色の模様がついたカードのニ枚も遊技台の上に置くように伝える。金色に輝くカードには猫耳の獣人族の女性が描かれており、銅色の模様がついたカードには金槌を背負ったドワーフの男性が描かれていた。


 そうして、人間族の女性と、猫耳の獣人族の女性、そしてドワーフの男性という三人のパーティーが遊技台の上に実体化した。


「これが魔導カード『神の試練』です。こちらの『進行』と書かれたところに触れてみてください」


 そう伝えると、ユッテが恐る恐る遊技台に触れた。


 すると、パーティーの反対側に魔物の群れが現れた。頭に二本の角を生やした大型の狼の魔物だ。


「今現れたのが魔物です。このように現れた魔物をパーティーメンバーで倒すのですが……。ユッテさん、先ほど出た銀色に輝くカードがこのパーティーメンバーを指示する命令カードです。早速それをこちらに置いてみてください」


「これね」


 ユッテが『全体魔法』と書かれた銀色に輝くカードを遊技台に置く。すると、人間族の女性が雷魔法を狼たちに放った。狼たちはダメージを受けると、遊技台から姿を消した。


「こうして、自分たちが用意したパーティーを命令カードで指示することで、次々に現れる魔物たちを倒していく、というのが魔導カード『神の試練』の基本的な遊びですね」


「これはなかなか面白いわね!」


「私も遊んでみたいです!」


「それでは、お二人には特別に最新のカードパックを十個ずつ差し上げましょう!」


 そう言って二人に第二弾のカードパックを十個ずつ手渡した。二人とも早速カードパックを開封すると、すぐに虹色に輝くカードが出てきた。


「えっと、お二人とも運が良すぎでは……?」


 ユッテはともかく、以前ノーラを鑑定した際のステータスは、確か幸運がCだったはずだ。それなのに虹色に輝くカードを引き当てるとは、なんて幸運なんだろうか。まさか、急に幸運ステータスが上昇するなんてことはないと思うし、恐らくはリアルラックなんだろうな……。ちょっと羨ましい。


 二人はそれぞれカードパックを開封し、遊技台で思い思いに遊び始める。


 その様子を見守りながら、時折二人からの質問に答えているうちに、いつの間にかリーンハルトとパトリックとの約束の時間が近づいてきたのだった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

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