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光の精霊、再び

 リーンハルトの誤解も無事に解けた(?)ので、俺とヘルミーナはユリアンに促されてソファーに腰を下ろした。後ろには、アメリアとカミラが控えてくれている。ローテーブルを挟んで、目の前にはリーンハルトとユリアン、その後ろにゴットハルトが控える。


 ようやく落ち着いて話し合う準備が整ったので、早速、俺は今回の面会で魔動人形を引き渡す段取りについて説明することにした。


「こちらが本日お持ちした魔動人形になります。ユリアン様、ご依頼頂いたものに問題がないか、念の為ご確認下さい」


 アメリアのアイテムバッグに入れて持ってきていた魔動人形の入った箱をヘルミーナがテーブルの上に置き、中を開けて見せた。中に納まっていた魔動人形を恐る恐るユリアンが手に取り、不備がないか確認する。


「以前リーンハルト様がお持ちだった魔動人形に似ていますね」


「そうかもしれません。どちらも同じアレクシス氏が制作されたから、というだけでなく、以前リーンハルト様がお持ちだった魔動人形とこちらの魔動人形とは姉妹のようなものですから、見た目が似ていても不思議ではありません」


「ほう、姉妹ですか。それでは陛下から賜った魔動人形が姉で、今回の魔動人形が妹ということになるのでしょうか?」


「そうなると思います。私はまだアレクシス氏が国王陛下に献上されたという魔動人形を見ていないので確実なことは言えませんが……。ちなみに、こちらの魔動人形の名は『戦乙女ゲルヒルデ』と言います。そして恐らく、アレクシス氏が献上された魔動人形は『戦乙女ブリュンヒルデ』という名前でしょう」


「なるほど、戦乙女の姉妹ということですか。私の確認は終わりました。特に問題ないようですね」


 ユリアンは魔動人形をテーブルに戻し、リーンハルトに向かって頷いた。


「この魔動人形は動かないようだが、魔力で動かす魔動人形ならば私は要らないぞ」


 リーンハルトの言葉にユリアンが少し驚いた様子を見せた。ユリアンは魔動人形といえば、魔力で動かすものだと思っていたのだろう。大丈夫なのか、というようにユリアンがこちらに視線を向けてくる。


「こちらを使って動かそうと思います」


 俺は懐から取り出したかに見えるように、アイテムボックスから精霊核を取り出してテーブルの上に置いた。


「アサヒナ殿、それは一体何ですか?」


 ユリアンが質問してきたのでそれに答える。


「こちらは精霊核と言いまして、精霊石から錬金術により創り出したものです。この精霊核を依代として精霊に宿ってもらい、魔動人形を動かしてもらえるよう精霊と契約を交わすのです」


「なるほど、この精霊核に宿った精霊に魔動人形を動かしてもらうと。初めて聞く方法ですが、理屈は分かりました。しかし、その肝心の精霊はどうされるのですか? 精霊を呼び出すとなると、光魔法の使い手を手配する必要がありますが……」


「それに、精霊を召喚できたとして、だ。精霊との契約が成功するかどうかは五分と聞いたことがある。ハルトは精霊と契約ができるのか?」


 ユリアンとリーンハルトから次々に質問されるが、全て事前に確認済みのことだ。

 こういう交渉事は事前の確認と想定される質問へのシミュレーションが大事なので、俺は王城に来る前から準備していたのだ。リーンハルトの求婚は流石に想定外だったが……。


 俺はニッコリと笑顔で二人に答える。


「はい、光魔法『精霊召喚』については私が使えますので問題ございません。また、精霊とは事前に交渉を行っており、契約により精霊が希望する供物も確認済みとなります」


「なんと! それでは、アサヒナ殿は錬金術が使えるだけでなく、光魔法も使えるというのですか?」


「はい、そうなりますね。しかし、錬金術と光魔法の両方を使える者など、それほど珍しくはないのでは?」


「確かにそういった者もいるでしょうが、アサヒナ殿と同じ年齢では、まずいないでしょう。だからこそ、私も驚いたのですが……」


 成人の儀式を受けてない年齢なのに錬金術も光魔法も使えるとなると、それは確かに珍しいかも知れない。


「ところで、ハルトよ。精霊が希望する供物を事前に聞き出しておると聞いたが、それは一体何なのだ?」


「精霊によりますと、『ヘルホーネットの蜜』を供物として用意できれば、こちらの依頼を聞いてくれるとのことでした。精霊力という力が宿ったものを所望されているようですね」


「ふむ、ヘルホーネットの蜜か……。それならば、問題はないだろう。獣人族の国からの献上品として、定期的に手に入るものだ」


 ヘルミーナの情報通り、王家への献上品として定期的に獣王国から王国に入ってくるらしい。そして、それを必要とするのが王家の、しかも第一王子なら入手することも容易なようだ。懸念点がひとつ払しょくされてほっと胸を撫で下ろす思いだ。


 また、精霊と事前に確認した契約内容についてもリーンハルトとユリアンに共有した。常に精霊を使役する訳ではなく、事前予約が必要な点と拘束時間によってどれだけの供物が必要かは要交渉という点だ。この二点については問題なく受け入れられた。


 特に、一日に一度だけ魔動人形を動かしてほしい日時と時間を予約する機会を精霊に設けてもらえるという点をリーンハルトが気に入ってくれた。


「それでは、早速精霊を呼び出したいと思いますが、リーンハルト様、ユリアン様、よろしいでしょうか?」


 リーンハルトとユリアンの二人に確認したが、二人揃って頷いた。


 後ろに控えていたゴットハルトや、アメリア、カミラにヘルミーナの三人だけでなく、部屋の中にいる騎士の青年やメイドたちも神妙な顔で俺を見つめていた。


「それでは始めます。光魔法『精霊召喚』!」


 『精霊召喚』を使うと前回同様に光の渦が目の前に現れる。


 それから暫くして精霊力が満ちた瞬間、光の渦が弾けて光の精霊が再びその姿を現した。


『ハルト、元気にしてた?』


『えぇ、もちろん。精霊さんも元気そうで良かったです。ところで今日は、前回こちらの持ち帰りになっていた条件面についてまとまりそうなので、改めて精霊さんを召喚したんです』


『あら、そうなの。ワタシはアナタの精霊力がもらえればそれで良いのだけれどね』


『まぁ、それも含めてお話できればと思います。少々お待ちください』


「リーンハルト様、ユリアン様、ただいま光の精霊を呼び出しました。すぐにヘルホーネットの蜜をご用意頂くのは難しいかと思いますが、いつ頃であればご用意頂けますか?」


「献上された品は王国の管理下に置かれる為、通常は王族といえども自由にできるわけではない。だが、食料品のようなあまり日持ちのしない物についてはその限りでもないのだ。予め手配しておけば、次に南の大陸からの商隊が到着したときには確保できるだろう」


 献上品の中でも食料品は倉庫にいつまでも置いておけないから、比較的手に入れやすいということか。


 しかし、次の南の大陸からの商隊がいつくるのか分からないのであれば、今回は俺の精霊力で契約したほうが安全かも知れない。


「それではリーンハルト様。申し訳ございませんが、ご手配をお願い致します。今回は特別に私のほうで代わりの報酬を精霊に与えて対応致しますが、よろしいでしょうか?」


「アサヒナ殿、代わりの報酬とはなんでしょうか? ヘルホーネットの蜜以外にも代わりになる供物があるのでしたら、ぜひ教えて頂きたいのですが」


 ユリアンの言うことも分かる。


 入手が難しいヘルホーネットの蜜よりも代わりになる供物があるなら、知りたいのは当然だ。ただ、これは誰でも用意できるものではない可能性がある。


「ユリアン様、確かに代わりになる供物はあります。いえ、どちらかというとそちらが本命で、『ヘルホーネットの蜜』が代わりの供物になるのですが……。ただ、こちらはリーンハルト様やユリアン様にご用意できるかどうか分からなかったもので、お伝えしなかったのですが……」


「ほう、王族の、第一王子の私にも用意できないものか。それは一体何なのだ?」


 リーンハルトまで聞いてきたので、素直に伝えることにする。


「はい、『私の精霊力が欲しい』と。こちらの精霊はそのように申しておりまして。どうも、精霊との契約は本来供物ではなく、依頼主となる召喚者の精霊力という力を用いるようなのです」


「アサヒナ殿の精霊力……。まさか、古の精霊使いが大精霊を使役する際に使ったという、あの精霊力ですか!? 確か、古の精霊使いはアサヒナ殿と同じく妖精族のエルフだったという話です。そうなると、人間族の我々には用意できない、ということですか……?」


 ユリアンの言う『古の精霊使い』の話が本当なら、その精霊使いは恐らく自分の精霊力を使って精霊を使役していたのかも知れない。


「ユリアン様の仰る古の精霊使いのことはよく分かりませんが、恐らく、その精霊使いが使ったものと同じものだと思います。リーンハルト様やユリアン様が精霊力を持っておられれば、供物として『ヘルホーネットの蜜』を用意しなくても精霊と契約することは可能だと思います」


「ふむ、やはり精霊力だったか。私には用意することは難しいな。ところで、ハルトよ。精霊に自分の精霊力を分け与えてもハルトは問題ないのか?」


 リーンハルトの「やはり」という言葉が気になったが、リーンハルトからの質問を遮ってまで確認するわけにはいかない。


「そうですね、ほんの少量ですし問題ないかと」


「ハルトがそう言うのなら良いのだが」


 リーンハルトに心配されたが、まぁ大丈夫だろう。


 それに、ヘルホーネットの蜜が手に入るまでの間だけ依代に宿ってもらう程度なら五%もあれば十分なはずだ。早速光の精霊との交渉を進めることにした。


『ヘルホーネットの蜜をご用意することはできそうなのですが、少し時間が掛かるようですので、今回は特別に、私の精霊力を供物として差し上げます』


『本当!? それならワタシは何の文句もないわ!』


『それでは、私の精霊力の五%分を差し上げます。その代わり、一年間こちらの魔動人形の所有者であるリーンハルト様と前回お話しした条件で契約をしていただけますか』


「そうね、その程度のお願いならアナタの精霊力でお釣りがたくさん戻ってきちゃうくらいよ! 全く問題ないわ!」


『では、契約成立ということで。精霊力をお受け取りください』


 俺は精霊力を身体から外に押し出し指先から精霊力を注ぐ、例えるならば水鉄砲のようなイメージだ。すると、指先から淡い緑色の光の粒が、ゆっくりと弧を描くように精霊へと降り注ぐ。


『キャッ!? 何これ!? 凄いわ!』


 精霊は降り注ぐ光の粒を踊るように宙を舞いながら一身に浴びていたのだが、次第に精霊の様子が変わる。


 あれ? 何だか大きくなってきたような……?


 そんなことを思った瞬間、精霊の身体から視界を真っ白にするほどの眩い光が放たれた。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

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