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第一王子登場、突然の求婚?

 俺とヘルミーナ、アメリア、カミラの四人はユリアンからの迎えの馬車に揺られて、貴族街の中心にそびえ立つ王城に向かうことになった。


 それというのも三日前にローデリヒからの連絡で、第一王子リーンハルトとの謁見の日程が今日と決まったからだ。


 ヘルミーナの店の前で待つこと暫し。迎えの馬車をローデリヒ自ら手綱を取って迎えに来てくれた。


「おはようございます、アサヒナ様。それに皆様も。本日はよろしくお願い致します」


「こちらこそ、よろしくお願い致します、ローデリヒさん。ちなみにユリアン様とはそちらのお屋敷で合流ですか?」


「いえ、ユリアン様は既に王城へ向かわれておられます。ですので、これから直接王城までお送りさせて頂く予定です」


「なるほど、承知致しました」


 そんなやり取りを軽く済まして皆で馬車に乗り込み、今に至るというわけだ。


 ちなみに、セラフィは俺のアイテムボックスの中に入っている。


 ユリアンと面識のないセラフィは連れて行けないのだが、一人残すのも躊躇われ、仕方なくアイテムボックスに入ってもらった。彼女は気にしなくていいと言ってくれたのだが、やはり申し訳ない気持ちになる。


 ただ、当の本人は俺の近くにいられるということで、思いのほか嬉しいようだったけど。


 馬車に暫く揺られていると、貴族街に続く門が見えてきた。


「もうすぐ貴族街ですね。門から王城までは暫く掛かるんですか?」


 御者台にいるローデリヒに話し掛けると、こちらに振り返って答えてくれた。


「そうですね、三十分程度でしょうか。ただ、王城に入る手続きに少々時間が掛かるかも知れません」


「手続きですか」


「えぇ。どなたの招待で、誰が入城するのか。身分を調べるのは当たり前ですが、相手に到着を知らせるために遣いを出したりと、何かと手間が掛かるものなのですよ」


「はぁ、大変なんですねぇ」


「まぁ、相手が王族ともなりますと、その辺りは大変厳しくなるのも当然ですので、仕方がないものと考えられたほうがよろしいですよ」


「確かにそのようですね」


 王族と会うには、誰かと会うだけでもセキュリティの面もあってか、時間と手間を掛ける必要があるようだ。


 気軽に人とも会えないなんて王族なんてなるもんじゃないな。なれるわけないけど……。


 門を潜り貴族街へと進むと、やはり人通りは少ないが、その分馬車の進むスピードが早くなり、あっという間に王城が目の前に迫ってきた。


 ちなみに、今日の門番はハインツではなかった。


「皆様、そろそろ王城に到着致します」


 御者台からローデリヒが顔を覗かせて伝えてくれた。


 そろそろ馬車下りる準備を促すつもりでヘルミーナのほうを見たが、どうも顔色が優れない。アメリアとカミラの二人も同じ様子で緊張しているようだ。


「皆さん、どうかされましたか? 顔色が優れないようですが……」


「そんなの、当たり前に決まってるじゃない!」


「王城なんて初めて。粗相をしないか心配……」


「私だってそうさ。しかも、相手がお貴族様どころか王族、しかも第一王子。次の王様候補なんだ……。何か失敗をしてしまわないか心配だよ」


「皆さん緊張されてるんですね。そういう時は手のひらに『人』という字を三回書いて、それを飲み込むと落ち着くらしいです。これは私の故郷の言い伝えですが、騙されたと思ってお試しください。意外と効果があったりしますから。ほら、こんな感じで……」


 一応、実演して見せたが、そういえばこちらの文字ではなく漢字『人』と書いてしまった。それでも、三人は見様見真似で思い思いに手のひらに人という字を書いたようで、手のひらに口づけして飲み込んだ。


「何だか少し気持ちが落ち着いたかな?」


「言われてみれば、確かに……」


「何よ、こんなの子供騙しじゃない。でも……何もしないよりはいいかも?」


 まぁ、効果は人それぞれだろう。俺もそんなに効果があるとは思わないが、何かに縋りたくなる気持ちもよく分かる。


 そんなことをしている間に馬車は王城前の門まで到着した。


 馬車を出ると、その場で王城の門番に冒険者ギルドのギルドタグを渡して確認してもらう。すると、ユリアンから伝えられていたのか、リーンハルトへの正式な来客であることを確認してもらえた。


 それと同時にリーンハルトとユリアンにこちらの到着を知らせるためか、兵士が遣いとして王城に向かうのがこちらからも確認できた。


 そうして、俺たち四人は王城の中に通されることになったのだが、そこにローデリヒの姿はない。ローデリヒは馬車で俺たちが戻るのを待っているとのことだった。


 暫く待たされたが、王国の騎士団員であることを表す立派な鎧を身に纏った青年が現れると、俺たちを見つけてにこやかに話し掛けてきた。


「貴方がアサヒナ殿ですね、大変お待たせ致しました。リーンハルト殿下とシュプリンガー伯爵がお待ちです。ご案内致しますので、私の後に付いてきて頂けますか?」

 

「はい、よろしくお願い致します」


 城門を潜り抜けると、色とりどりの花々が咲き誇る立派な庭園が現れ、それを左右に分ける形で白い石畳が真っ直ぐ城内にまで伸びていた。


 王城の中に入るとユリアンの屋敷にも通じる大理石のような石造りの床と豪華なシャンデリアが目に入るが、素人目で見ても分かるほどユリアンの屋敷以上に豪華な装飾が施されていた。


 騎士の青年に連れられて城内を歩くと、青年と同じ鎧を纏った騎士たちや身分の高そうな貴族と思わしき者たちとすれ違う。


 王城は王家の住まいであるだけでなく、王国の政治の中枢でもあるそうなので、その関係者なのかも知れない。また、彼らを支えるメイドたちも見かけたが、皆忙しそうに職務を全うしているようだった。


 暫くすると、目の前に立派な扉が現れ、その前で騎士の青年が立ち止まって、徐ろにノックした。


「アサヒナ様御一行が参られました」


 すると内側から扉が開き、メイドが部屋の中に通してくれた。騎士の青年も一緒に部屋の中へと入るようだ。


 部屋の中にユリアンとゴットハルトの姿を見つける。その隣に中学生くらいの少年が居た。恐らく彼がリーンハルトなのだろう。第一印象としては、プラチナブロンドのさらさらとした髪と濃いサファイアブルーの瞳が特徴的な、超の付く美少年だ。


 早速、リーンハルトとユリアンの前まで進むと跪いて到着の報告をする。


「この度はお時間を頂きありがとうございます。只今到着致しました」


「アサヒナ殿、よくぞ来てくださいました! 殿下、こちらが今回魔動人形を用意した錬金術師のハルト・アサヒナ殿です」


「錬金術師のハルト・アサヒナと申します。本日はよろしくお願い致します」


「リーンハルト・フォン・アルターヴァルトだ。知っているだろうが、アルターヴァルト王国の第一王子である。其方は私よりも年下だが歴とした錬金術師であるとユリアンから聞いている。だが、それは本当まことか? まだ成人の儀式も執り行っていないというのにそれだけの能力があるとは、俄に信じられぬ」


「それでは殿下に信じて頂けるように、これより簡単な錬金術をお見せ致しましょう。錬金『初級回復薬』!」


 アイテムボックスからハイレン草を取り出して初級回復薬を錬金する。もちろん、小瓶に入った状態だ。初級回復薬を創ると、それをリーンハルトに献上した。


「なんと! 錬金術とは、このように簡単に回復薬を作れるものなのか!」


「いえ、殿下。これはアサヒナ殿だからこそ、簡単に作れたように見えるのです。それに、このような小瓶に入ったものなど、ただの薬草から創り出すことなど、王都のどの錬金術師にもできるものではありません」


 俺の錬金術を初めて見たはずのユリアンだったが、それでも俺の実力を見抜いたのは流石だ。


「なるほど、確かに実力のある錬金術師のようだ。それについては納得しよう」


 ユリアンの助言もあって、何とか納得して貰えたようだ。だが、次の言葉で俺は思わず焦ってしまった。


「ところで、其方はいつまでフードを被っておるのだ。其方にも事情はあるのかも知れないが、私の前では素顔を見せよ」


 しまった! 王族の前でフード被りっ放しというのは確かに不敬と捉えられても仕方がない……。こんな初歩的なことを忘れるなんて、俺も緊張してたのかな?


「はっ、これは大変失礼致しました……」


 リーンハルトの言葉を受けて、すぐにフードを外し、認識阻害を解いたのだが、その直後からリーンハルトの反応がどうもおかしい。


「ほぅ……」


 なんだ一体……?


 リーンハルトは顔を赤らめてフリーズしているようだったが、すぐに再起動したのか、俺たちが跪いている目の前まで出てきて、そっと俺の手を取りあげた。


「ハルト、其方を私の妃に迎えたい! なに、不自由にはさせないし、必ず幸せにしてみせる!」


「へ!?」


 突然のことに頭が追い付いていなかったが、どうやらリーンハルトから告白、いや求婚の言葉を受けたようだ。


 もしかして、俺を女だと思ったのか? アメリアやカミラ、それにヘルミーナもそんな勘違いはしなかったと思うが……。


 えっと、こういう場合はどうすればいいんだろう!?


 確かに今の俺の顔は中性的かも知れないし、一見女のようにも見えるかもしれないが、俺は立派な男だぞ……。でも、そんなこと俺から言っていいのか? 相手はなんと言ってもこの国の王子様だし……。


 いや、待てよ? まさかとは思うが、この国では同性婚が認められているのか?


 様々な思考が頭の中を掻き乱していたが、それを止める声が聞こえてきた。そう、最初に口を開いたのはユリアンだった。


「恐れながら、リーンハルト殿下。アサヒナ殿は殿方のようですが……」


 ユリアンも最初に俺を見たときは驚いているようだったが、ちゃんと俺を男だと認識してくれているようで良かった。


「そ、そんな馬鹿な……!? ハルト、ま、誠に男なのか……?」


「は、はい。ユリアン様が仰る通り、私は男です。その、リーンハルト様のご期待に添えず申し訳ございませんが……」


「そ、そんな……」


 くらりとよろめくリーンハルトに対して、追い打ちを掛けるようにアメリアとカミラも俺が男であることを説明してくれた。いや、説明してくれるのはいいんだが……。


「あんなに立派なモノを持つハルトが女性なわけない、です。ハルトは、間違いなく男性、です!」


「カミラの言う通りです! ハルトは見た目は可愛いですけど、ハルトの持っているものは、それはもう立派で凄いモノですから」


「わ、私はその、ハルトのソレをまだ見てはいないですが、私もハルトは男性だと思います」


 フォローとしては少々、いや、大変疑問に思う内容で、非常に複雑な気持ちになったが、それでも俺を思って説明してくれたのだと考えれば……いや、普通に恥ずかしいに決まってるでしょ!


「そ、そんなっ……。で、では、ハルトは、本当に男なのか……」


 リーンハルトは絶望に打ちひしがれたかのように、肩を落としてよろめきながら近くの椅子に腰を下ろした。


 後で皆に聞いた話だと、アルターヴァルト王国では互いが合意すれば同性同士でも結婚自体はできるそうだが、王族の場合は子孫を残す義務があるとのことで、認められないとのことだった。


 因みに、この世界でも同性婚は珍しいようだった。


 危ねぇっ! 相手が王族で助かったぁっ! 申し訳ないけど、俺はそういう趣味ないからな!


 落ち着いたところで、そろそろ本題の魔動人形のお話に入りましょうか!

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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