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世界神への確認

 世界神へ神話通信を行う。だが、いつもと違ってなかなか出てくれない。


 もしかして、忙しい時に掛けてしまったのかな?


 これまで俺から世界神に神話通信をしたのは片手で数えるくらいしか数はないが、その際にはいつもワンコールも鳴らないぐらい素早く出てくれていた。なのに、今回は、3コールを超えてもまだ出てくれない。

 

 ふむ、一度掛け直すべきか。


 そう思ったとき、世界神に呼び掛けるメロディが鳴り止む。どうやら繋がったらしい。


『も、もしもし……?』


『お疲れさまです、世界神様。今お時間よろしいでしょうか?』


『え、えぇ、大丈夫です……!』


 いつもより世界神の言葉にたどたどしさがあることに少しばかり心配したが、どうやら問題はなさそうだ。それよりも、今は神託について確認するほうが先決だろう。


『すみません、一点確認させて頂きたいことがありまして……。先ほど、私が訪れたこちらの里の里長からお話を伺っていたのですが、巫女と呼ばれる神殿の神託官のような役割を担う方が、最近になって神託を授かれなくなったというのです。これまでは、些細なことから重要なことまで神託を授かってきたというのですが……。世界神様、何か心当たりはございませんでしょうか?』


『っ……!?』


 そんなわけで、ざっくりと上司である世界神に聞いてみたのだが……。何やら、言葉に詰まっているような、そんな雰囲気が神話通信から伝わってくるような……?


 それはともかく。巫女として神託を授かれるノーラの力は、後天的に得た能力ではなくその『血筋』にあるらしく、先天的なものだ。そんな力が何かのはずみで突然なくなるものだろうか?


 いや、もしかするとこの世界にはそういった類の病気や現象があるのかもしれないが……。俺よりも長く生きているはずのミリヤムが『降神の秘薬』というアイテムに縋ろうとした時点で、これまでになかった現象なのだろうことは想像に難くない。


 となれば、この世界『マギシュエルデ』のことを誰よりも知っているであろう、マギシュエルデの管理者である世界神に直接問い合わせたほうが話が早いと考えるのが普通だろう。


『えっと……。それで、何かご存知のことはありませんでしょうか?』


 再び世界神に問い掛ける。


 うん、もちろん世界神が何か知っているだろうとあたりを付けて聞いている。


 いや、だって、さっき俺が聞いたときの反応とか、そもそもノーラの能力が先天的なものだとか、そういったことを考えれば、突然神託を授かる能力を失うなんて考えられないよ。もちろん、何かそうなるフラグが立つような、そんな出来事があれば別だけど、ミリヤムに聞いたところ別段そんな出来事はなかったようだしさ。


 そんなわけで、世界神からの返答を待っていたのだが、暫くしてようやく腹の底から絞り出したような掠れた声で応えてくれた。


『……う、あ、ん゛ん゛っ……。コホン。え、えぇっと、そ、それはですねぇ…………』


 世界神が咳払いして俺の言葉に応える。もしかして、俺に言い辛い理由とかがあるんだろうか……? とはいえ、しっかり説明してもらわないと、ミリヤムを含むこの場にいる皆に説明することが難しい。


『はい。それは?』


『うぅ……』


『それは、スルーズが神託を朝比奈さんだけに授けたからですよ』


『『機会神(様)!?』』


 突然、その場にいないはずの人(神)からの言葉が聞こえたことに、俺だけでなく世界神も驚きの声を上げた。


『ははは。朝比奈さん、お久しぶりです。朝比奈さんから神界に連絡を取るなんて珍しいですね。スルーズが神話通信を受けたあとの反応が不自然だったので、本来ならばマナー違反ではありますが、今回は特別に朝比奈さんとスルーズの神話通信に参加させて頂きました。世界神、ちゃんと説明しないと貴女の考えていることは朝比奈さんに伝わりませんよ……?』


『えっ!? む、むぅっ……!?』


『はぁ……』


 機会神が世界神を嗜めるようにそう言うと、世界神は何やら図星を付かれたように驚くと、唸るように息を吐きだした。その様子を察した俺も同時に深くため息を吐いたわけだが、もちろん世界神とは別の意味である。


 神話通信では文字通り声色によってでしか二人(二柱)の感情を読み取ることができないが、少なくとも世界神は機会神の言葉に対して俺以上にショックが大きかったようで、そのことが伝わってくる。


 暫くして、機会神の言葉に観念したかのように、世界神が重い口どりで語り始めた。


『えっと、ですね……』


 その言葉を聞けば聞くほど、ため息が出てくるのは仕方がないことだろう。どうやら、ミリヤムが話していた通り、ノーラが一月に何度も愚痴や雑談のようなくだらない神託を授かっていたというのは本当らしい。


 その理由が、神界で一人溢した愚痴に神力が宿っていたせいで、世界神に連なるような者、そうノーラのような始祖と呼ばれる世界神が創造した者たちの子孫に、それらの世界神による愚痴や雑談が漏れ伝わったというのだ。


『だって、輪廻神様が仰るまで気が付かなかったんですもの……』


 仕方がありませんよね? といった感じで世界神がこちらに同意を求めてくる。


 いやいや。全く、俺に対して神力の扱いが未熟だとか言っていたくせに、当の本人も未熟なんじゃないか? 本当に、どの口が言っているんだか……。上司に対して思わず悪態をつきそうになるが、我慢する。


 更に世界神の言葉が続く。


 輪廻神から愚痴を吐かないようにと注意されたわけだが、どうやらその後は不用意に神託を授けないようにと世界神も努力していたらしい。ふむ、ちゃんと元上司の言葉を受け入れたのは良いことだな。


 そうして、暫らく世界神自身も神託を授けることはなかったそうだが、久々に神託を授けたというのが、『セラフィを世界神の認める勇者とする』という内容だったらしい。


 その後は、特に神託を授けることはなかったという……。


 そういえば、ヴェスティア獣王国で『神の奇跡』を起こしたときも、神託を授けることはなく、ハインリヒやエアハルトには俺から『神の奇跡』の内容について伝えていたのを思い出す。


 思い返せば、確かに世界神からマギシュエルデに向けて行った神託というのは、セラフィが勇者となったことを伝えた際以来、行われていなかったようだ。


『あの、世界神様。その後、神託を授けてはおられないんですよね……?』


『もちろんです。その点はハルト様もご存知でしょう?』


 ええ、もちろん。俺の知らないところで神託を授けていなければ、間違いはないだろう。そして、世界神は俺の知らないところで神託を授けてはいないはずだ。


 ということは……。


 ノーラが神託を授かることがなくなったのは、単純に、『輪廻神から神力の宿った愚痴や雑談を控えるように言われたこと』と、セラフィを世界神の認める勇者とする神託以降、『新たな神託を授けなかった』だけということになる。


 それだけを聞くと、俺的には『なるほど』と納得はできるのだが、恐らくそれだけではミリヤムたちは納得してくれないだろう。


 前者の『輪廻神から神力の宿った愚痴や雑談を控えるように言われたこと』については、何となくは説明できるかもしれないが、後者については……。


 何故、ここまで神託を授けていないのか、その理由を伝えないと納得してもらえないのではないか?


 そう考えた俺は、念のため上司である世界神に確認することにした。


『あの、世界神様。因みに、なのですが……。セラフィが勇者であると神託を授けて頂いてから、マギシュエルデに新たな神託を授けていないとのことですが、その理由を教えて頂けますでしょうか……?』


『えええっ!?』


 そう世界神に伝えると驚くような反応が返ってきた。何というか、今更そのようなことを聞くのかといったような反応だ……。だが、俺にはそのような反応をされるような心当たりが全くないのだが……?


『えっと……。何故それほどまでに驚かれるんですか? これまでも、何かあれば世界マギシュエルデに対して神託や奇跡を授けてきたんですよね?』


『もちろんです! もちろんですが……!』


 世界神が言い淀む……。だが、その声色からは、どうも俺が質問した内容について、未だに驚きを隠せていない様子だった。そんな風に驚かれると、質問したこちらに何か落ち度や不備があったかと不安になる。


『あの……。何か、私がお伺いした内容に変なところがありましたか……?』


『え、いえ。ですが……』


 未だに、世界神ははっきりしない様子だが、このままでは埒が明かない。


『はっきり仰って頂けたほうが私も気が楽ですから』


 そう伝えると、ようやく世界神が重い口を開いた。


『えっとですね。ハルト様は私の眷族ですよね?』


 ふむ。改めて世界神から問われたが、俺は間違いなく世界神の眷族、というか部下だろう。


『もちろんです』


 当然のように頷いて応える。


『ハルト様とは『神話通信』で私とお話しできますよね……?』


 もちろんだ。今、正に世界神と神話通信を行っている。


『そうですね』


 二つ目の質問も、当然のように再び首肯する。


『そして、ハルト様は二つの大国の貴族で、双方の大国に私との会話の内容を伝えられる立場ですよね……?』


『まぁ、確かにそうですね』


 俺はアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国という二つの大国の伯爵という貴族位に就くこととなった。そして幸いにも、両国の王家とも比較的近い立ち位置にいる。アルターヴァルト王国では神子という立場でもあったしね。


 そして、今の俺は両国に跨る組織である『対魔王勇者派遣機構』という、この世界に齎されるであろう災厄への対応を受け持つ組織の長でもある。


 この世界に齎されるであろう災厄、つまり『魔王による試練神の試練』について、世界神と連絡を取り合いながら対策するわけだが、当然その経過についてはアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国の双方に情報を共有しながら対応することになる。


 それはつまり、世界神との会話の内容を両国に伝えることを意味しているわけで、当然のように首肯して答えた。


『……ふむ。では、改めてハルト様に問いますが……』


『はい』


『ハルト様以外にわざわざ神託を授ける必要ってあるのでしょうか?』


『は、はい?』


 世界神の質問の意味がすぐには理解できず、思わず上ずった声で聞き返すように応えることになってしまった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

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