表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/537

ハルトの実験

 暫くして戻ってきたヘルミーナが魔動人形の入った木箱をカウンターの上に置いたので、魔動人形を取り出した。ヘルミーナが固唾を飲んで見守る中、早速鑑定を始める。


『名前:魔動人形『戦乙女ゲルヒルデ』

 詳細:アレクシス・ブルマイスターによって創られた魔動人形の一つ。

    精霊を精霊核(別途用意)に宿らせることで、精霊の意思により自由に行動することができるようになる。

    ただし、依頼主の命令に従うかどうかは精霊との契約によるため注意が必要。

 効果:なし

 状態:完成品(損傷率:0%)

 備考:構成素材(竜骨:82%、真鍮:14%、山鱒の油:4%)』


 なるほど……。というか、めっちゃ詳細に書いてあるじゃねーか!


 はぁ、最初から魔動人形を鑑定しておけば、手間を省けたのに。まぁ、今更言っても愚痴にしかならない。


 名前は、ゲルヒルデっていうのか。そういえば、ゲルヒルデって九人いる戦乙女の次女だっけ?


「一つお伺いしたいのですが、アレクシスさんは魔動人形を幾つ作られたんですか?」


「王様に献上した魔動人形とこれの二体だけね。お祖父様もそんなに数は作れなかったみたい」


「そうでしたか。この子は二番目に作られたからゲルヒルデなのかな? とりあえず、確認したところ問題は無さそうですね」


「そう、良かった。ところで『ゲルヒルデ』って?」


「えぇ、この魔動人形の名前ですよ。『戦乙女ゲルヒルデ』これがこの魔動人形の名前です」


「へぇ、素敵な名前ね! それにしてもお祖父様ったら、魔動人形に名前なんてつけていたのね」


 それにしても戦乙女か。


 となると、パトリック王子が持っている魔動人形は『戦乙女ブリュンヒルデ』なのかな? もしそうだとすると、アレクシスさんは後七体も魔動人形を作ろうとしていたということになるのか?


 ところで、構成素材の『竜骨』が気になっていたのでヘルミーナに聞いたところ、竜種の魔獣、つまりドラゴンの骨を加工したものらしい。


 丈夫で耐久性に優れているだけでなく、軽くて加工しやすい為、魔導具の素材として重宝されているそうだ。ただし、ドラゴンの討伐なんて依頼を達成できる冒険者などそう居るものではなく、流通量が少ないことから大変高価な素材なんだそうだ。


「……ということは、竜骨は中々手に入らないのでしょうか?」


「そうね、材料を集めるだけで時間もお金もとんでもなく掛かるわ。だから冒険者を頼って依頼を出すわけ」


「なるほど、魔動人形が高価になるわけですね……」


 高いお金を出してでも欲しがる人がいる。それで需要と供給のバランスが成り立っているのなら、もう暫くは魔動人形のブームは続くのかもしれない。


 さて、これから行う実験は大きく二つある。


 一つ目は、以前神界で出会ったおっさんから、俺の『錬金術』が『創造』に近いと聞いた件の確認だ。


 ヘルミーナからも回復薬を錬金したときに瓶詰めだったことに驚かれた。言われてみれば、確かにハイレン草から瓶ができるわけがない。つまり、俺が勝手に想像イメージして『創造』した可能性がある。


 ということは、だ。


 素材が揃っていない状況であっても、イメージしたものを創り出せる可能性があるのでは? そう考えての実験なのだ。


 二つ目は、あまり特別なものではない。


 魔動人形を魔力だけで制御できるのかという実験だ。ただ、それをするにも新たな魔動人形が必要なのだが。


「それでは、そろそろ実験を試してみようかなと」


「そういえば、そんなことを言ってたわね。別にいいけど、一体何をするつもりなのよ?」


「まぁまぁ、まずは試してみますので。創造『魔動人形』」


 俺は目を瞑り、前世の知識を元に魔動人形をイメージしてみる。


 元々フィギュアやドールの造詣が深いわけではなかったが、たまたま仕事でドール制作メーカーの通販サイトの開発を請け負った際に、メーカーの部長からドールについて手ほどきを受けたのだ。


 あのとき見せてもらった見本の人形ドールは良くできてたよなぁ


 メーカーの部長一押しは堕天使をモチーフにしたような銀髪の可愛いドールだったが、この話は長くなるのでここで止めておこう。今は魔動人形の構造をしっかりイメージしなければ。


 球体関節のボディパーツにガラスを使った美しい瞳、関節をできるだけ目立たなくする工夫など、覚えている限りの知識でイメージを構築する。


 基礎となる素材も竜骨のようにできる限り軽くて丈夫なものが良いのだが、正直こういう分野は詳しくない為具体的なイメージがし辛い。


 何となく思い浮かんだのが炭素繊維強化プラスチックだった。上司との付き合いでゴルフの打ちっぱなしに行ったときに自慢されたアイアンのカーボンシャフトのことを思い浮かべようとしたのだが、あの時のことは、上司自慢のアイアンよりも、上司の紹介で出会ったインストラクターのお姉さんのほうを先に思い浮かべてしまう。


 所謂レッスンプロとのことで丁寧に教えてもらえたのだが、それよりも、スタイルも良く笑顔が可愛い年下の女性に物事を教わるというのが当時の俺には新鮮で強烈に印象に残っていたのだ。結局、ゴルフクラブを握ったのはそれっきりで、仕事が忙しくなってからはご無沙汰だったが。


 もう少し時間作ってレッスン受けておけばよかったかなぁ……。


 そんなことを思い浮かべていると、急激に身体全体の力が抜けていくような感覚に襲われた。


「うわぁっ!?」


 思わず目を開けると、目の前には大きな光の柱が立ち上り、その眩い光が視界を奪うように輝いていた。


 あまりの眩しさに思わず掌で光を遮るが、関係ないとばかりに光の柱は輝き続けて部屋の中を真っ白に染め上げる。


 暫くしてようやく発光が収まると、少しずつ視界が回復してきたようだ。


「皆さん、大丈夫ですか?」


 アメリアとカミラ、ヘルミーナの三人が無事かどうか確かめる。


「一体何が起こったんだ!?」


「まだ目がシパシパする……」


「アンタねぇ、こんなことになるなら前もって教えなさいよ!」


 そんなこと言われても、初めてだったから分かんないよ……!


 そんなことを思いつつ、ヘルミーナに答える。


「すみません。何分、初めての実験だったもので。それにしても凄い光でしたけど、一体何が……。って、えええっ!?」


 次第に回復する視界の端に人影を見つけたのだが、それはアメリアでも、カミラでも、ヘルミーナでもなかったのだ。


 先ほどまで光の柱が立っていたところには、何と、背には三対の漆黒の翼を持ち、銀髪で色白の美しい魔動人形が、目を瞑り膝を抱えた状態で中空に浮かんでいたのだ。


 しかも、魔動人形のような小さなサイズではなく、カミラより少し大きいぐらいの背丈はありそうな、それはすでに少女、いや女性といったほうが良いほどだった。


「何!?」


「誰!?」


「ハルト、アンタ一体何をやったの!?」


「い、いえ何も!?」


 三人から問い詰められるも、俺だってわけがわからないので答えようがない。皆も驚いているが、当の本人である俺のほうがパニックになっているところなのだから……。


 い、一体何が起きた!? てか、どうしてこんなことに……!?


 『創造』で魔動人形を創り出したときのことを改めて思い出す。


 えっと、戦乙女ということで天使のようなイメージをしていたが、その時ドールメーカーの部長一押しの堕天使ドールを思い浮かべてしまった。だが、ここまではいい。


 次に、素材についても軽くて強度の高いものをと考えていたはずなのに、何故かインストラクターのお姉さんのことを考えてしまった。……なるほど、これが答えか。


 恐らく、いや確実に、俺から漏れ出たイメージによって創り出された魔動人形だと思うのだが、念の為鑑定してみよう。


『名前:未設定

 種族:魔動人形(女性) 年齢:0歳 職業:神の眷族の従者

 所属:朝比奈晴人

 称号:朝比奈晴人の従者、朝比奈晴人の初めて創った魔導具

 能力:S(筋力:S、敏捷:S、知力:S、胆力:S、幸運:S)

 体力:未定

 魔力:未定

 特技:自動回復(毎時10%回復)、礼儀作法

 備考:朝比奈晴人が初めて創り上げた魔動人形。

    製作者である、朝比奈晴人が名を授けることで起動する。

    自己の意思を持ち、自由に行動することができる。

    製作者である、朝比奈晴人の指示にのみ従う。

    能力は、朝比奈晴人の神格により変化する。

    完成品(損傷率:0%)、構成素材(不明)

    身長:162cm、体重:52kg(B:86、W:56、H:87)』


 うーん、やっぱり……。鑑定結果を見る限り、間違いなく俺が創り出した魔動人形だ。


 こんなの、皆になんて説明したらいいんだ……。


 俺は頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=535839502&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ