表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

308/542

冒険者ギルド到着と受付嬢の受難

 ユッタたちとともにノルデンシュピース連邦国の首都シュピッツブルクにやって来た俺は、ひとまず彼女らのダンジョン探索の成果報告を行うために冒険者ギルドへとやって来た。


 流石に、アルターヴァルト王国やヴェスティア獣王国の王都のそれと比べると規模は小さいが、それでも十分に立派な建物だった。中に入ると、既に、ダンジョン探索へ向かう馬車の第一便の隊列が出たあとということもあってか、ギルド内の冒険者の数は少ない。


 というのは、俺たちが乗ってきた馬車がダンジョン探索へ向かった馬車の第一便、その折返し便だったわけで、俺たちが馬車に乗り込む際にダンジョンへと向かう多くの冒険者たちとすれ違っていたのだ。そして、第二便で移動する冒険者たちはダンジョンへと向かう馬車の発着場となっている広場に待機しているのだろう。


 そういえば、城門から入ってすぐのところに冒険者たちが集まっていた気がするが、そこがダンジョンへ向かう乗合馬車の乗車場だったのかもしれない。なるほど、基本的にはダンジョンと首都を行き来するだけの乗合馬車ではあるが、稀に俺のような国外からきた者が乗って戻ってくる可能性もある。だから、降車場は門の外にあるのだろうか……?


 そんなくだらないことを考えているうちに、カウンターで受付を行っているエルフに向かってユッタたちが声を掛けた。


「ロジーナ、今戻ったよ」


「お疲れ様です、ユッタさん。皆さんAランク冒険者パーティーとはいえ、難度Sランクのダンジョン『天幻の廻廊』に探索に向かわれたので心配していたのですが、無事に戻られたのでホッとしました! それにしても、随分とお早いお戻りですね?」


 ロジーナという若い受付嬢は晴れやかに破顔しながらユッタたちに話し掛けてきたが、最後には不思議そうな顔で迎えてくれることになった。


「あぁ、ダンジョンで色々あってな……」


 ユッタは深いため息をついて、再びロジーナに顔を向けると言葉を続けた。


「今回は正直、生きて戻って来られたこと自体が奇跡と言っても良い……。ハルトと出会えなければ、私たちは三十階層の階層主にやられて、皆死んでいたよ」


「またまたぁ〜。ユッタさんたちAランクの冒険者パーティー『精霊の守り人』が三十階層なんかで全滅するわけないじゃないですかぁ!」


 ロジーナの言葉に俄に眉間に皺を寄せるユッタと、ユッタの言葉に同意するように目を伏せるカールたちの様子を見てロジーナは戸惑うように声を上げる。


「えっ? えぇ!? まさか、本当に、三十階層で苦戦されたんですか!? Aランクの冒険者パーティー『精霊の守り人』の皆さんが!?」


 ロジーナの言葉に、今は人数は少ないとはいえギルドにいた冒険者たちの視線がロジーナとユッタたちに注がれる……。うん、確かにダンジョン探索の結果は冒険者たちにとって重要な情報だけど、それをギルドの受付嬢が大声で拡散するのはどうなんだろうか?


 ユッタたち『精霊の守り人』の評判に影響が出るかもしれないし、何より、パーティーメンバーのステータスや能力にも関係する話題に繋がってくる。パーティーメンバー、つまり冒険者のステータスや能力は彼らが冒険者稼業を続けるうえで最も重要な情報だ。それを知っているのは本人以外には精々パーティーを組むメンバー(但し、本人がパーティーメンバーに全てを打ち明けているとは限らないが)、そして冒険者ギルドとそのスタッフくらいのものだろう。


 既に、何人もの冒険者たちが三十階層に到達、そして更に下層へと攻略を進めている状況で、普段ならAランクの冒険者パーティー『精霊の守り人』が苦戦するようなことはない。それはつまり、彼女らの能力をもってしても対応できない何かが起こったことを意味する。そのような話は、このようなオープンスペースでするようなことではない。彼女らのステータスや能力にも関係してくるからだ。


 もう少し、周りに対して配慮してほしいところだけど。冒険者ギルドの受付嬢ってこんな感じだっけ?


 冒険者ギルドなんて来たことは片手で数えるほどしかないので良く分からないが、少なくとも王都アルトヒューゲルの冒険者ギルドにいた受付嬢エルザは、そういった話をカウンターですることはなかった。


 まぁ、ただ単にそのような話をするほどのトラブルに遭わなかっただけかもしれないが。それでも、エルザならそんな話をカウンターで行うことはないように思う。まぁ、そういう印象を受けただけだけど。


 少しここの冒険者ギルドというか、受付嬢のロジーナに対して不信感を抱き始めた頃、カウンターの奥から現れた強面のオッサンがロジーナの頭に拳骨を振り下ろした。


「ぎゃんっ!?」


「馬鹿野郎っ! そういったことは二階の会議室で確認しろっていつも言ってるだろうがっ!」


 えぇ……。いつも言われているのかよ、ないわぁ。ロジーナに対する俺の評価は確実に下がった。


「いったぁ!? ちょっと、ギルドマスター、痛いですっ! 暴力反対っ!」


「ったく、ちっと黙ってろ……! すまん、ロジーナの奴が少しばかり無駄口を叩いちまったせいで、情報を周りの奴らに撒き散らしてしまった。本当に申し訳ない……。許せとは言わないが、これからもうちのギルドを贔屓にして欲しい。この通りだっ……!」


 そう言って突如として現れた冒険者ギルドのギルドマスターだというオッサンが片手でロジーナの頭を押さえつけながら、自らも頭を深々を下げた。ふむ。冒険者ギルドとしても、流石にAランクの冒険者パーティーである『精霊の守り人』から不興を買うようなことは避けたいようだ。まぁ、ダンジョン運営に頼っているような街が些細なミスで高ランク冒険者に見放されるようなことがあっては一大事と考えるのは無理はないか。


 ともかく、ロジーナの不用意な発言は全てAランク冒険者パーティー『精霊の守り人』のことだし、俺が口を挟むようなことではない。ただ、高ランクの冒険者に対してギルドマスターが媚びへつらうというのは、それはそれで問題だと思うが、ひとまずここは様子を見よう。


「そこまでにしてやれ、フランツ。ロジーナもまだ慣れてはいないんだろう」


「ユッタさん!」


 ふむ、フランツというのはここのギルドマスターであるオッサンの名前らしい。だが、そんなことはどうでもいい。それよりも、ロジーナを擁護するユッタの言葉に歓喜の声を上げたのはロジーナ本人だった。ユッタの言葉からはロジーナがまだ経験が浅いことは推測できたが、味方を得たロジーナが得意そうな表情でギルドマスターのフランツを見返すので、ちょっとイラッとした。


 うん、どうやらロジーナは残念な受付嬢のようだ。そんな様子の彼女だったが、今度はユッテからの言葉で再び形勢が逆転することになった。


「そうね。ユッタの言う通り、ロジーナも受付嬢としてはまだまだなんだし、フランツにしっかりしごいてもらいなさいな」


「え、えぇっ!?」


「あぁ、任せてくれ! ところで、さっき聞いた話について詳しく教えて欲しい。Aランクの冒険者パーティーである、お前たち『精霊の守り人』が難度Sランクのダンジョンとはいえ、『天幻の廻廊』を三十階層で撤退したというのは本当なのか。一体何があったのか、詳しい話を聞きたい。今、時間はあるか?」


 フランツの言葉にユッタが静かに頷く。すると、カウンターから出てきたフランツが二階の執務室で話そうと言うので、俺たちは二階にある普段フランツが執務を行っているという、ギルドマスターの部屋へと通されたのだった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=535839502&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ