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今後の方針とお礼について(その3)

 まぁ、皆がそれで納得しているなら、あえて俺がそのことに水を差すこともあるまい。そう思い、この話題は終えることにした。そして別の話題に移ろうとしたとき、隣に座るユッテが俺に視線を向けながらおもむろに口を開いた。


「なるほど。私たちはハルトに恩を返したいけれど、ハルトは私たちが無償でハルトにお礼をすることに抵抗があるということね……。はぁ、それじゃお礼にならないじゃないの。それに、ハルトはもう少し自分がどれだけのことをやってのけたのか、その価値を知っておいて欲しいところだけど。まぁ、今回それについては何も言うつもりはないわ」


 ため息混じりにそう言ってユッテが一度言葉を区切ると、今度は俺の方に向き合って再び口を開いた。


「それよりも、ハルト。首都に着いたら私たちにヴェスティア獣王国までの護衛依頼を出すつもりなのよね? そして、私たちが無償でその依頼を受けることにハルトは抵抗がある。つまり、その依頼を達成したら私たちに報酬を支払うつもりなのよね?」


「はい。皆さんさえ良ければ、そのつもりですが……」


 ユッテの言う通り、俺はユッタたちAランク冒険者パーティー『精霊の守り人』にヴェスティア獣王国までの護衛を依頼しようと考えていた。当然長旅になることが予想されるので、Aランクの冒険者パーティーを長期間拘束することを考えると相当な成功報酬が必要になるだろうと考えている。また、成功報酬の他、支度金として報酬の前払いも必要になるかもしれない。白金板十枚は言い過ぎだろうが、相応の金額は必要だろう。


「やっぱりね……。ハルトからの護衛依頼だけど、もちろん私たちは受けるつもりよ。ただ、その報酬は『私たちからハルトへの依頼を受けてもらう』ということにしてもらえないかしら?」


「ユッテさんたちからの依頼ですか?」


 唐突なユッテからの提案に驚いた。俺からユッテたちへの護衛依頼の報酬が、ユッテたちから俺への依頼になる。うん、何だか意味が良く分からない。


 だが、俺からの『俺と一緒にヴェスティア獣王国まで護衛してもらう』という、長期間にわたってAランクの冒険者パーティーを独占してしまうような依頼と同程度には時間の掛かる依頼か、もしくは達成が困難な依頼なのだろうと推測する。


 でも、正直に言って冒険者としてはほとんど活動なんかしていない、Fランク冒険者の俺なんかに依頼だなんて、一体何をさせようというのか予想もつかないな。あまり無茶な依頼だったら断りたいところだけど……。


「……ハルトは錬金術師なのよね?」


「え、えぇ。そうですが……?」


「しかも、特級回復薬や特級解毒薬を作れるほどの腕前なのよね?」


「えっと、自分で言うのもなんですが、一応それなりの腕前ではあるつもりです。前にもお話しした通り、皆さんの怪我を治療したときに使った回復薬や解毒薬は私が作ったものですから……。あの、それが何か?」


 ユッテが周りの皆に何かを確認するように視線を投げ掛ける。一体何なんだろう。先ほどまでの比較的穏やかだった空気が少しだけ真剣味を帯びたものに変わる。すると、一つ頷いてユッタが口を開いた。


「うむ。ここから先は私から説明しよう。実は私たちはとある人物から指名依頼を受けていてね、ここのダンジョンには稀少な薬を探しに来ていたのだ。まぁ、結局見つけられなかったわけだが」


「この辺りの里村にはすべて足を運んでみたんじゃが見つからなんだ。そこで薬自体は諦めてその材料を探そうということになったんじゃが……」


 ユッタの言葉にゲルトが続けた。ここまで言われれば何となく分かってきたよ。つまり、俺にユッタたちの受けた指名依頼を手伝って欲しいのだろう。まぁ、それくらいなら別に構わないが、それにしても稀少な薬って何だろう。まさかアレじゃないよな?


「それで、このダンジョンに薬の材料を探しに来られたんですか?」


「いや、材料自体は何とか見つけたんじゃがなぁ……」


 顎髭をしごきながらゲルトが言葉を濁す。ふむ、材料が手に入ったのなら、あとは作るだけのように思える……。


 詳しい話をユッタたちから聞いたのだが、ここノルデンシュピース連邦国は幾つもの種族による小国や里村が集まってできた国らしい。その中でもユッタやユッテのようなエルフやゲルトのようなドワーフといった妖精族が人口の六割を占めるそうだ。それだけ、エルフやドワーフがいるのなら、錬金術の得意なエルフやドワーフもわんさかいるものだと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。


「うむ。ゲルトの言う通り、薬の材料は色々な伝手を頼って何とか手に入れることができた。だが、肝心の錬金術師が見つからなかったのだ。それもこれもノルデンシュピース王国が過去に行ったの政策のせいさ」


「王国? 連邦国ではなくて?」


 ユッタの話によると、ここノルデンシュピース連邦国は元々はノルデンシュピース王国と言い、その首都シュピッツブルクは、以前は優れた錬金術の特技を持った多くの錬金術師が集まった、まさに錬金術師たちのメッカのような土地だったそうだ。それもあって、錬金術師だけでなく商人たちも多く店を構える商業都市であったが、近隣の大国からは遠く離れた土地であったこともあり、それほど栄えているとは言えない状態だった。


 だが、この地に一つのダンジョンが見つかったことで状況は一変する。ダンジョンの探索を行った冒険者が大変稀少性の高いアイテムを持ち帰ったことで、一獲千金を狙ってダンジョンに眠るお宝を見つけようと冒険者たちが集まり始めたのだ。


 そうして、次々にダンジョン産のアイテムが見つかると、それらのアイテムが錬金術師たちが生み出した多くのアイテムや魔導具よりも優れた性能を持っていることが分かったのだ(恐らくアーティファクトの類だろう)。


 また、ダンジョンのより深い階層から発見されるアイテムほど稀少なものが多いことが判明すると、多くの冒険者たちは下層を目指すようになった。だが、このダンジョンは魔物の強さが他のダンジョンに比べて強く、また罠の類も多く仕掛けられていたこともあってか、実力のある冒険者たちであっても容易に攻略できるものではなかった。当然、探索に行って帰らなかった冒険者たちも多くいた。こうして、いつしかこのダンジョンを難度Sランクダンジョン『天幻の廻廊』と呼ぶようになったらしい。


 そうした状況もあってか、ノルデンシュピース王国では徐々に生産系の特技を持った者たちよりも、ダンジョンの探索に適した戦闘系の特技や戦闘補助系の特技を持つ者が重宝され始める。


 そして、ダンジョン探索が活発になると、次第に錬金術師たちに制作を依頼するアイテムのほとんどが回復薬や解毒薬といった、ダンジョンを探索する冒険者たちに向けたアイテムになっていったのは仕方のなかったことかもしれない。


 だが、回復薬や解毒薬は需要があるものの、錬金術師のメッカと呼ばれるほどに多くの錬金術師が店を構えていた首都シュピッツブルクでは、次第に仕事にあぶれる錬金術師が出始めたのだ。その理由は、幾ら回復薬や解毒薬の需要が高まったと言っても、それ以上に回復薬を供給すれば価格の下落に繋がりかねない。当時の首都には、冒険者よりも錬金術師のほうがまだ多く、回復薬や解毒薬の需要よりも供給量のほうが上回っていた。


 首都がそのような状況になると、熟練度の低い錬金術師はもちろん、魔導具制作を主な生業としてきた錬金術師たちへの依頼は次第になくなっていった。そうして、錬金術師が一人、また一人と首都シュピッツブルクから離れていくことになった。

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