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三つの特典

 その場で立ち上がり、背筋を伸ばして、俺は扉から入ってきた二人をぎこちない笑顔で迎えた。ダメだ、久々に緊張するな……。


 そんな俺のことなど気にせず、機会神が二人を誘導する。中年の男性が下座の奥の席に、真ん中の席の前に小柄な少女が、そして出口に近い席の前に機会神が立った。


 俺の目の前に立つ小柄な少女は美少女だった。いや、ただの美少女などではなく、超の付く美少女と言って良い。それだけでなく、少女の胸元には、それは似つかわしくない非常に大きな二つの果実が実っていた。……なるほど、神がかっているなと思う。


 そんな超の付く美少女は、緩やかなウェーブの掛かったピンク色の髪に、透き通るような白い肌、青く輝くような瞳が特徴的で……。嘘です。どうしても胸元から零れ落ちそうなほどの非常に大きな二つの果実に目が行ってしまう時点で、そちらのほうが最も特徴的だと思います。


 その奥に立っている中年の男性もなかなかのイケメンのオジさんだ。いや、イケメンのオジさんという表現よりも、美中年といったほうが正しい表現かもしれない。はぁ、きっと神様の世界にはイケメンとか美少女しかいないのだろう。


 頭髪は黒髪をぴっちりと七三に分けており、眼鏡の奥から覗く眼光の鋭さから、非常に真面目で勤勉なサラリーマンといった雰囲気を醸し出している。まぁ、サラリーマンのように見えるのは濃いグレーのスーツ姿だったからだが。まさに、公務員というか真面目な銀行員といった風貌だ。俺の勝手なイメージだけど。


 それはともかく。


 目の前に立った三人の席次で何となく察するものがあった。超の付く美少女よりも美中年のほうが席次的には奥に立っている。その時点で彼が彼女の上司としてみて間違いないだろう。なるほど。そうすると、目の前にいる超の付く美少女が……?


 そんなことを考えていると、キリッとした表情の美中年とは違い、顔を赤らめて身体をくねらす超の付く美少女が目に入った。


 あぁ、これはいかんでしょ。早く思考を切り替えないと!


 そうは思いつつも、どうしても視線が目の前の超の付く美少女の胸の谷間に、いや、その谷間を形成するたわわに実っているであろう大きな二つ果実に目が向いてしまう。男に生まれたからには多少は仕方のないことだよなと思いつつ、失礼にならないように視線をそらそうとする。


 だが、逆に顔を真っ赤にした超の付く美少女と目があってしまった。そのせいか、超の付く美少女は思わずといったように耳まで真っ赤にして俯いてしまった。何というか本当に可愛いなぁ、ずっと見ていたいような気分になるなぁ。


「……朝比奈さん、朝比奈さん!」


「は、はい!」


 機会神が声を掛けてくれたおかげで、自分を取り戻せたようだ。


「……皆、聞こえてますから、注意してくださいね……?」


「……っ!?」


 そうか。俺の視線だけでなく、心の声までもここではダダ漏れで神様たちには伝わっちまうんだっけ?


 なるほど、それで目の前の超が付く美少女が恥ずかしそうにしているというわけか……。それは申し訳ない。


 だが、目の前にそのように視線を集めそうなものがあるとどうしても視線がそっちに行ってしまう。それに、二人の名前もまだ知らないのだから、何と呼べば良いのかも分からないし、超の付く美少女とか、美中年としか呼びようがない。


「コホン」


 そんなことを考えると、美中年が咳払いをしてこちらに向かって話しかけてきた。


「どうぞ、席におかけください」


「あ、はい。失礼致します……」


 美中年に促されて椅子を引いていると、向こうも思い思いに席に着いた。


「こちらをどうぞ」


 そう言いながら、機会神が超が付く美少女と美中年に何やら分厚い書類の束を手渡しつつ席に着いた。さっきまで何も持ってなかったはずなのに、いつの間に資料を用意したんだ?


 不思議に思いながら席に着くと、改めて超の付く美少女と美中年の姿が目に入る。二人とも機会神と同様に首からは身分証のようなものを下げていた。もしかして、これが神様の証だったりするのだろうか?


「それでは、そろそろ朝比奈さんへの説明を始めたいのですが、最初にこちらの二人を紹介しますね。私の隣に座る少女が朝比奈さんが転生される世界を管理する神、つまり、世界神です。さらにその奥にいる男性は、輪廻神。今回の朝比奈さんの転生を担当する神になります。お二人とも、こちらが今回転生を希望された朝比奈晴人さんです」


「よ、よろしくおねがいします!」


「どうぞ、よろしく」


 超の付く美少女、ではなく世界神と、美中年、ではなく輪廻神が頭を下げるので、こちらも頭を下げつつ挨拶する。


「あ、はい。朝比奈晴人と申します。この度はよろしくお願いいたします」


 それにしても、こんな少女が神様で、しかも世界を管理する世界神とは……。何となく察してはいたが、改めて聞くと驚きを隠せない。


 しかし、そうか。


 この超の付く美少女、ではなく世界神の管理する世界に転生するのか。そう考えると、超の付く美少女が管理する世界に転生ということでちょっと嬉しい気持ちが湧いてきた反面、こんなに若い少女が管理している世界に転生することに若干の不安を覚えた。


 そんな超の付く美少女とは逆に、美中年ではなく輪廻神のほうはといえば、どことなく真面目そうな雰囲気が漂うし、その見た目のせいかベテランのような貫禄でさえ感じる。そんな輪廻神が俺の輪廻を担当してくれるそうなので、その点については何というか安心感がある。


 しかし、それにしても……。


 何というか、面接のような、お見合いのような。何とも言えない空気を感じるような。いや、面接はともかく、お見合いなんてしたこともないんだけどさ……。


「では、お互いの紹介も終わったことですし、早速説明を始めましょうか。今回朝比奈さんは異世界への転生を希望されましたので、これから転生先の世界の説明と、転生するにあたっての条件について説明させて頂きます。その内容にご納得頂けるようでしたら、世界神によって用意された新たな肉体で、輪廻神により異世界への転生を行います。ですが、もしご納得頂けなかった場合は、誠に申し訳ないのですが、今回はご縁が無かったということで……」


「は、はい?」


 今さらっと機会神が言い放ったが、一体何を言ったのか理解するのに少し時間が掛かった。


 おいおい、ご縁が無かった場合というのはあれだろ、輪廻に向かっちゃうってことじゃないか!? それはできれば避けたい!


 そんな俺の焦りを察してくれたのか、機会神が補足してくれた。


「あ、もしご納得頂けなかった場合は、また別の転生先をご用意いたします。ただし、少々お時間を頂きますが……」


「少々時間を、というとことですが、一体どれぐらいなんでしょうか?」


「そうですねぇ、少なくとも生前の朝比奈さんの感覚で数年から数十年単位で次の機会を待って頂く必要があります」


「それは……。随分と気長に待たないといけないんですね……?」


「ええ。ですので、私としては今回ご提案する世界への転生をお勧め致しますよ?」


 ニコリと爽やかな笑顔でそう返す機会神。


 むぅ。何となく、機会神は目の前に座る世界神の管理する世界へ転生させたいのだろうと察する。今回の提案を断れば最低数年単位で転生を待たされるらしいし、今回の提案ですんなりと決まれば良いなと思う気持ちは俺も同じだ。


「なるほど。まぁ、一度お話を伺ってから検討させて頂きたいな、とは思いますが」


 そう。とりあえず話を聞かないことには判断ができない。話を聞いた上で納得がいかなければ、機会神が言う通り、今回の転生を断って次の機会を待てば良いのだ。


 とはいえ、何年も死んだままというのもそれはそれで不安ではあるけれど。何にせよ、まずは話を聞かせてもらってからだな、うん。


 そう考えた俺は、再び目の前に座る世界神とその隣の輪廻神に視線を向けた。輪廻神は何事もない様子で瞑目していたが、世界神は少し悲しそうでいて寂しそうな表情をこちらに向けていた。


 先ほどまでの機会神とのやり取りを聞いていたからだろうか? 僅かに張り詰めたような重い空気が会議室の中に漂っている気がしないでもない。


 そんな空気を無視するかのように機会神が勝手に話を進め始めた。


「では、まずは転生先の世界についてご説明から始めましょう。……世界神、それではお願いしますね?」


「ひゃ!? ひゃいっ! えっと、私が見守る世界は『マギシュエルデ』といって、澄んだ水と豊かな緑があふれる大地が自慢の世界、です。ただ、朝比奈さんが生前生活されていた世界よりも文明的には遅れていると感じられるかもしれません。具体的にお話ししますと、朝比奈さんの知識でいうところの中世ヨーロッパぐらいだと考えてもらえれば。ですが、マギシュエルデは剣技と魔法、そして魔導具が発展してきた世界ですから、それなりに快適な生活ができると思いますよ。それから、マギシュエルデには人間族・獣人族・魔人族・妖精族という四つの種族が暮らしてまして、人間族が最も数が多く、豊かな文明を築いています。獣人族は身体能力が高く、魔人族は魔法に長けています。そして、妖精族は魔導具を作ることが得意です。それぞれの種族が独自の文化を持っていてとっても面白い世界ですよ! 多少は危険な魔物とかも存在しますが、そのあたりはマギシュエルデの冒険者たちもおりますし、朝比奈さんなら問題なく対処できると思います!」


 おおおっ!


 剣技と魔法に魔導具とな!? それに様々な人種が存在すると!?


 なんというか、まるでテンプレのようなファンタジーの世界じゃないか!


 オラ、ちょっとワクワクしてきたゾ!


「剣と魔法の世界ですかぁ! いいですねぇ、何だか楽しそうじゃないですか!」


「本当ですか!? ううぅ、ありがとうございまずぅ……。ゔぇえええんっ!」


「お、おう……」


 何か知らんが、めちゃくちゃ世界神の琴線に触れる言葉を送ってしまったらしい……。


 俺が答えた瞬間から世界神は瞳を潤ませていたが、今や既に号泣に近い。あーあー、もう。涙だけでは済まず、鼻水まで垂れ流して……。


 おっと流石はイケメンな機会神。隣からそっとハンカチを差し出すナイスなアシストをやってくれた! そんな様子を眺めていることしかできない俺は、機会神のスマートな対応を尊敬したというか、突然泣き出した世界神にドン引きしたというか。


 引きつりそうになる顔に無理やり笑みを浮かべながら、世界神に何が起こったのか機会神に問うてみた。


「えっと、大変喜ばれてるようですが、何かありましたか?」


「はい。これまで何人も朝比奈さんと同様に転生先の説明をしてきたのですが、皆さん文明的に遅れていることや、危険が伴う環境ということで彼女の管理する世界への転生を敬遠される方が多くてですね……。正直、世界神の説明を聞いてここまで好意的に受け取ってくださったのは朝比奈さんが初めてなんですよ」


「その通り! 世界神による転生先の説明に同席して百一人目になるが、朝比奈君のような反応をしてくれたのは初めてだ!」


 な、なるほど。


 機会神と輪廻神の説明で状況は把握した。


 しかし、そんなに世界神の管理する世界が不評とは思わなかったなぁ。漫画とかアニメとかゲームみたいな世界なんだから、もっと興味を持つ人がいてもいいと思うんだけど。


「それが、これまで転生する機会を得た方は漫画やアニメ、ゲームに詳しい人がおられなかったんですよ」


「転生する機会を得られた者たちは生前に特に善行を積み重ねてきた者たちばかりだったが、その分野には疎かったようだ」


 そうか、善行を積んだ人の中にオタク趣味の人はいなかったか……。


 ともかく、機会神と輪廻神の説明によって、これまでの転生希望者から世界神がフラれ続けた歴史が明らかになった。それにしても、なんとまぁ、昔のテレビドラマのタイトルとか有名なアニメ映画みたいな回数だなぁとか思っていると、いつの間にか世界神が復活していた。


「それででずねぇ(ズズズッ)。もし(チーンッ)、『マギシュエルデ』に転生して頂けるのであれば、朝比奈さんには私から三つの特典をご用意致します!」


 あぁイケメンのハンカチがいつの間にかグシュグシュだ……。


 しかし、特典とな!?


 転生できるだけでもありがたいのに、これって転生もののラノベでよくある、所謂チート能力をゲットできるっていうアレですかぁっ!? これはちょっとテンション上がってきたぁっ!


 そんな俺の心の中の叫びが聞こえたからか、世界神も頬を紅潮させており、そのテンションが高まっている様子が伺える。ワクワク期待して待っていると世界神から三つの特典について説明が始まった。


「特典そのいち! 朝比奈さんは人間族に分類されますので転生しても通常は人間族として転生することになるのですが、今回は特別に人間族・獣人族・魔人族・妖精族の四種族の中から転生したい種族を選択できちゃいますっ!」


「おおっ! それって文字通り、人間の俺が獣人族とか魔人族とか妖精族になれるってことでいいですか?」


「その通りです! 例えば、獣人族のワーウルフやリザードマン、魔人族のオーガやヴァンパイア、妖精族のエルフやドワーフにも転生できますよっ! 種族だけでなく、希望がありましたら具体的な種族名を指定して下さっても対応致します。但し、基本的にはマギシュエルデに存在する種族に限らせて頂きますが。流石に、私が知らない種族まではご用意することができませんので。ですから、私のできる範囲で朝比奈さんが希望される容姿や能力を叶えてみせましょう!」


 おお、これはなかなか面白い特典だな。


 改めて詳しく聞いてみたが、ざっくりとした説明は先ほど世界神が話してくれた通りだった。


 人間族は数的有利があるが、個々の能力的には平均的でバランス重視なタイプらしい。獣人族は魔力についてはほとんど期待できないが、その代わりに身体能力に特化した種族だ。魔人族は名前の通り魔法や魔力を使った戦闘職に適性がある種族で、同じく魔力を豊富に持つ妖精族のほうは魔人族同様に魔法や魔力に長けてはいるが、どちらかというと生産職が向いているようだ。


 そんなざっくりとした種族ごとの特性の他に、特定の種族によってはその種族だけが持つ固有の能力も備わっているらしい。うーむ、どんな種族に転生するか、今から悩むなぁ。


 あ、性別は今のままでお願いします。


「そして、特典その! 朝比奈さんが転生された際に、朝比奈さんが何時今の記憶を思い出すのか、その時期を選べます! つまり、生まれたばかりの赤ん坊から始めるか、それとも今と同じ三十七歳から始めるか自由なのです!」


 これはパッと聞いた限りだといまいちメリットを感じないかもしれないが、転生した瞬間から行動できるか、そうでないかという意味ではそこそこ重要な要素ではないかと思う。


 とはいえ、どちらが良いかと言われれば前者。だが、転生したその時から自分の意志で行動できたほうがいいだろう。とはいえ、ある程度は転生先の世界に慣れる期間がほしいところだ。


 そうなると、赤ん坊の状態で転生するってのは無いな。かといって、生前の年齢で転生するってのも少しもったいない気がするな。成人手前くらいの年齢がちょうど良さそうか?


 まぁ、その辺を気にしない人にはあまり魅力的な特典には思えないかもしれないな。


「最後に、特典そのさん! なんとっ! 世界神である私といつでもお話しできる能力をプレゼントしちゃいますーっ! これはとっておきなんですからぁ! 世界中の人々から羨望の眼差しで見られること間違い無しですよぉ!?」


 はぁ?


「……それ、なんの役に立つんですか?」


 世界神わたしと話ができる権利をやろう!


 なんて、言われてもなぁ……。


 もう少し詳しい話を聞いてみないと判断できないな。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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