突然の転移と置き手紙
「一体何が起こったんだ!?」
俺の周囲を囲むように立ち上っていた青い炎のような魔力は、いつの間にか収まっており、先ほどまで感じていた魔力の奔流とも言うべきものは全く感じられない。
「アメリア! カミラ! ヘルミーナ! アポロニア! ニーナ! セラフィ! 皆どこにいるんだ!?」
皆の名前を叫んでみても、誰からも返事は返ってこず、俺の声だけがむなしく響き渡るだけだった。
それどころか、今、俺の目の前には、先ほどまで歓喜に湧いていたアメリアたちの姿もなく、ただ静寂に包まれた空間が広がっていた。
その空間は、一見すると先ほどまで皆と一緒にいた採掘場のようにも見えるが、それを否定するように、周囲の壁には何らかの魔導具によるものか篝火が灯っており、目の前には大きな石造りの扉がそびえ立っていたのだ。その扉には何やらレリーフが掘られているが、何の模様かはさっぱり分からない。だが、どことなく魔法陣に似ている気がするのだが……。
ともかく、未だに状況を理解できていなかったが、このままでは埒が明かない。少しでも情報を得ようと周囲を見渡すと、どうやらここは石造りではあるが、広い部屋であることが分かった。ただ、窓のようなものは一切なく、目の前の扉がなければ完全な密室と言えた。もちろん、その扉が開くことが前提なのだが。
再び、視線を扉から周囲に移すと、扉とは真逆の奥に位置する薄暗い場所に何かがあるのを見つけた。すかさず、光魔法で光源を生み出し、部屋の奥を照らしてみると……。
「宝箱!?」
そう、所謂RPGなどでアイテムを入手することがある、木製の箱が置いてあったのだ。何となく危険そうな雰囲気は感じなかったので、そのまま手を掛けて箱の蓋を持ち上げると……。そこには、一枚の紙切れが四つ折りにされて入っていた。それを拾い上げて中を見てみると、そこには丸文字と言えば良いのだろうか。恐らくこれを書いたのは女性だろうと、当たりをつけながら内容を読むことにした。
本来ならば、そのような得体のしれない紙切れなど価値も放置しても良かったのだが、そうしなかったのには理由があった。それは、紙切れに書かれていた文字。それが、日本語だったからだ。日本語をこの世界で使う者など俺以外にはいないはずで、そうでないならば世界神絡みではないかと想像したのだ。
『オジさんへ
オジさんへのプレゼント何だけど、これも試練になるんだって。
正直に言うと、私はオジさんにこれ以上迷惑を掛けたくないから、
本当は気乗りはしないんだけど、これもお仕事なの。
どちらかというと、私の勝手な八つ当たりなんだけど……。
あ、あんまりこういうことは伝えちゃダメなんだった!
本当にごめんなさい!
私のことは気にしないで、オジさんも頑張って下さいね。
P.S. ここは、とあるダンジョンの最下層だから、
地上まで戻るのに少し時間がかかるかもしれないけど、
オジさんならすぐに戻れると思うから、頑張ってね!』
むぅ……。俺のことを『オジさん』呼ばわりする記述が多くて苛立ちを覚える内容だが、間違いなく神界に関係する者によるメッセージだ。そもそも、俺のことを『オジさん』などと呼ぶ者は、俺が転生者であるという正体を知る者に限られる。
そして、この世界において、そのことを知る仲間の皆が俺のことを『オジさん』呼ばわりするようなことはないし、そもそも俺のことを『オジさん』などと呼び掛けてきた相手も、先ほど俺が妙な魔力に囲まれるまでは存在しなかったのだ。大体、俺の現在の容姿は見目麗しい美少年なのだから……。
そのことを踏まえて、改めて宝箱に入っていた紙切れ、いや手紙の内容を確認すると、これは確実に神界側から俺に宛てられたメッセージだと思われる。それも、俺の上司である世界神に関係する者ではなく、むしろ俺たちに試練という名の災厄を齎す側の、試練神に関係する者からのものだろう。
「つまり、このメッセージは『魔王』からのものである可能性が高いわけだが、それにしても『オジさん』って言い過ぎじゃないか?」
そこは『お兄さん』と書くべきだろうと突っ込みを入れなら、手紙の内容を何度か読み返すと俺が今置かれている状況が何となく見えてきた。
「むぅ。何が『迷惑掛けたくない』だ。迷惑掛けまくりじゃないか……。それにしても、ここがダンジョンだって? しかも最下層?」
再び周りを見渡すと、ダンジョンと言われれば確かにそのようにも思えてきた。
「最下層というと、もしかして階層主がいる部屋の前……? いや、ここがその部屋の中なのか……?」
いや、そんなことはどうでもいい。それよりも、どうやら俺は魔王の置き土産とかいう巫山戯た罠によって、先ほどまでアメリアたちと一緒にいた坑道内の魔鉱石の採掘場から、一人何処かのダンジョンの最下層へと転移させられてしまったらしい。
はぁ。せっかく対魔王勇者派遣機構としてこれから活動できると思っていた矢先に、こんなことになるなんて……。
「とりあえず、さっさとここから地上へ戻ってアメリアたちに合流しないと……。って、痛っ!?」
一歩踏み出したところで、突然右足の裏に痛みを感じた。小石を踏みつけたせいだ。いや、普通は靴を履いていればそれくらいで痛みなんて感じることはない。
だが、今の俺は、右足だけブーツを履いていなかったのだ。突如として俺の周囲を囲うようにでき上がった魔法陣の上から逃れようとしたところ、何故か俺の足は地面に吸い付いたかのように固定されていた。正確には、固定されていたのがブーツの底と地面だったので、これ幸いとブーツを脱いで窮地を脱しようとしたのだが、残念ながら右足のブーツを脱いだところで俺を囲んでいた魔法陣が発動してしまい、その結果、俺はこうして右足だけ裸足という状況となったのだ。
このままでは外に出るにも歩いて行けそうになかったので、さっさと右足分のブーツを創造して履きなおすと、この石造りの部屋から唯一外へ出られるだろう扉の前まで移動し、改めてその大きな扉の様子を確認する。
「めちゃくちゃ重そうな扉だけど、俺みたいな子供の力で果たして開けられるんだろうか……?」
試しに扉に体重を掛けながら両手で押してみると、やはりうんともすんとも動かない。
「はぁ……。やっぱり俺の力じゃ無理だな。土魔法を使って穴でも開けるしかないか?」
どうやってここから出るか考えながら、先ほどまでずっと坑道を掘り進めてきたように土魔法で穴を開けようと魔力を手に集め始めた瞬間、突然扉に施されたレリーフが青く輝く。それを見て俺は思わずその場から飛び退いた。その青い光は、先ほど俺をこの部屋へと転移させた魔法陣らしきものと同じ性質に見えたので、魔王による罠がまだあったのかと警戒したのだ。
だが、レリーフ全体が青く輝くと、ゴゴゴと唸るように扉が開き始めたのだ。それをみて、どうやら危険ではなさそうだと安堵する。扉は観音開きに開くものと勝手に思っていたのだが、どうも両開きの引き戸だったらしい。なるほど、それなら体重を掛けて押しても開かないよなと思ったりしたが、どちらにしても魔力を流すことで開く仕組みだったようなので関係なかったわけだが……。
「さて、それじゃさっさと地上に出ようかなっと!?」
開き切った扉の外へと出ると、そこは何とも不気味な雰囲気の洞窟だった。扉の前は少し開けた空間となっており、扉のある壁面には部屋の中にあった魔導具らしき篝火がゆらゆらと輝いている。だが、洞窟の奥の方までは明かりが届かないようで、薄暗く様子が分からない。ただし、間違いなく何かが潜んでいるような、そんな気配というか雰囲気を感じる。
「ふぅ。これは気を引き締めて行かないとな……」
再び光魔法で光源を幾つか生み出すと、頭上から周囲を照らす。
少なくとも俺の半径十メートル程度は見通せる程度には明るくできた。これなら突然魔物が目の前に現れて慌てふためくということもないだろう。更に、俺でも振り回せる程度の短剣を創造して右手に持つと、これでようやく出発準備が整った。
こうして俺は地上へと脱出するため、ダンジョン攻略へと挑むことになったのだった。
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