魔王の置き土産(二つ目)
突然襲い掛かってきたゴーレムを無事倒すことができたことで、アメリアたちもホッと一息つきたいのだろうか。皆が口々に歓声を上げ始めた。
「やったな!」
「やった!」
「やりましたね!」
「やりましたぁ!」
「あの、えっと、その、お疲れさまです……?」
アメリア、カミラ、アポロニア、そしてニーナの四人がお互いにハイタッチしたりハグしたりしながら、皆で歓喜の声を上げている。
突然現れた魔王によるゴーレムなる魔物、というよりも、この世界に災厄を齎すとされる魔王による置き土産(魔剣ティルヴィングの残留思念らしき者が話すには、だが)、それを無事に討伐することができたということは、確かに喜ばしいことだ。
だが、同じように皆で対応したグスタフ戦と比べても皆の喜びようが半端なく、何故ここまで四人が喜んでいるのか俺には理由が分からず、そのノリにいまいち付いていけていなかった。そんな困惑している俺に追い打ちを掛けるように、こちらに戻ってきたセラフィが四人に声を掛ける。
「皆さんの連携の賜物です!」
戻ってきたセラフィがそう声を掛けると、アメリアたちがセラフィを取り囲んで飛び跳ねながら再び喜びを分かち合う。その歓喜の輪に、俺の隣に控えていたヘルミーナまでもが加わった。
「本当にどうなることかと思ったけれど……。私の出番がなくて良かったわ」
「あぁ、本当にな! ヘルミーナの出番があったということは、それは誰かが怪我をしたってことだからな!」
「でも、ヘルミーナのサポートがあるから、私たちも安心して戦える!」
ヘルミーナがアイテムバッグから取り出した上級回復薬にアメリアや皆の視線が集まる。その上級回復薬を見ながら、アメリアとカミラがそう話すと安心感と達成感がないまぜになった感情が五人から溢れ出てきたのを感じ取った。
既に、ヘルミーナは皆と一緒に歓喜の輪に加わっており、俺はただ一人、その様子を見守ることしかできなかった。うん。つまり、今の俺は置いてきぼりというわけだ。
「え、えっと、これは一体どういう状況ですか……?」
そう話すと、ようやくアメリアたちが俺のほうへと視線を移した。
「あぁ、ごめんごめん! 別にハルトを除け者にするつもりはなかったんだ!」
「そう! 私たちは、私たちでハルトを守る力が必要だと思ってた!」
「ですから、私たちだけでもハルト様を害する脅威を取り除けるよう、ハルト様の従臣として、そして対魔王勇者派遣機構の仲間として、連携を取ろうと訓練してきたのです!」
「その通りです~! 対魔王勇者派遣機構として活動するためにはぁ、私たちが頑張らないといけませんから~!」
「そうよ、ハルト。魔王による災厄に対してハルトが直接関わることはできないでしょ? だからと言って、勇者であるセラフィだけに任せるっていうのもね。だって、私たちは仲間なんだから! ハルトが戦わなくても良いように、私たちだけで災厄に対応できるように連携して戦う練習をしてきたの。これがその集大成よっ!」
「主様、ご安心ください。私たちが力を合わせて主様を御守りし、そして魔王による災厄をも防いでみせます!」
アメリアとカミラ、それにアポロニアとニーナの言葉を聞いただけでは話していることの意味がよく分からなかったのだが、その後ヘルミーナとセラフィからの話を聞いて、ようやくその意図が分かった。
皆が話す通り、俺は直接的に災厄に対して立ち向かうことができない。下手に直接手を出すと再び戒告処分を下されるかもしれない。そのため、先ほどのゴーレムに対しても、俺個人としては何の手出しもできなかったのだ。
だが、それをアメリア、カミラ、ヘルミーナ、アポロニア、ニーナ、そしてセラフィが、皆が俺に代わって解決に当たってくれたのだ。しかも、俺が直接手を出さなくても災厄に立ち向かえるようにと、密かに皆で鍛練を積み重ねていたらしい。そして、その成果を先ほどのゴーレムに対して発揮できたことを喜んでいたのだそうだ。なるほど、それでそんなに喜んでいたのか……。
元々、それぞれ冒険者として活動していたのだから、これまでも簡単な連携くらいは取れていたのだが、それでも今回初めて対魔王勇者派遣機構という『チーム』として実戦で成果を得たのは大きなことだと思う。
何より、俺の指示ではなく、皆が自発的に行動して成果を得たということが素晴らしい。何だか、研修で指導していた後輩が任された仕事でしっかりと成果を出したときと同じような、何とも嬉しい気持ちになってくる。それに、俺の事情を汲み取り行動してくれたという彼女たちの厚意が嬉しかった。
そんな、ちょっとほっこりとした気分に浸っていたのだが、彼女たちの成果を見たことで、ようやく対魔王勇者派遣機構として本格的に活動が始められるのだと思うと、何とも感慨深いものがある。
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俺はこの世界マギシュエルデに転生した際に、やがてこの世界に訪れるという試練を人々が乗り越えられるよう、世界神のサポート役という大任を仰せつかった。ちょっと大袈裟に言ってみたが、実際には世界神を昇神試験に合格させるための対策なので、この世界の人々には口が裂けても言えないが……。
ともかく、この世界に転生した俺は、世界神から一つの任務を授かった。それはこの世界に住まう四種族の人族の仲間を集めること。そして、この世界に住まう四種族の人族たちが協力し合える状況を作り出すことだ。
その任務をクリアするために、俺は魔導カード『神の試練』を創って売り出すことにした。四種族をモチーフにしたキャラクターたちが協力し合って冒険するというカードゲームだ。これがゲームの類が少ないこの世界で受けたというのと、庶民でも手にすることができる価格の魔導具という物珍しさもあって、アルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国では随分と売れている。この様子なら、きっと四種族の関係は今まで以上に強いものになるだろう。そもそも、別に種族間で敵対関係にあるわけでもないのだから。
それに、俺はこの世界で運良く大切な仲間たちに出会うことができた。最初に仲間になってくれたのはアメリアとカミラだった。転生してきたばかりでこの世界のことについて右も左も分からなかった俺を、王都まで連れて行ってくれたし、宿にも泊めてくれた。二人に出会わなければ、俺は路頭に迷っていたかもしれない。そして、そんな俺のことを今も見守ってくれている。二人には本当に感謝してもしきれない。
次に仲間になってくれたのはヘルミーナだ。魔導人形を納品できなくなっていた彼女を助けたことで、リーンハルトやパトリック、ユリアンたちと出会うきっかけとなった。また、錬金術師として俺に弟子入りしたのだが、ヘルミーナのほうが錬金術師としての経験も長いし、どちらかというと頼りになる職場の先輩のような存在だ。これからも適宜アドバイスをお願いしたいと思っている。
そして、アポロニアとニーナの二人。ヴェスティア獣王国へ向かう途中にドラゴンと出会ったのだが、それが獣化開放したニーナであり、彼女が掴んでいたのが怪我を負ったアポロニアだった。グスタフの謀反に巻き込まれた俺たちはなし崩し的にハインリヒやエアハルトに協力することになり、その褒美の一環として何故か二人をうちで預かることになった。思いの外早く皆と馴染んでくれたのは、ヴェスティア獣王国からずっと一緒に行動していたからだろうか。
今ではアサヒナ伯爵家の従臣として、そして仲間として二人とも良く働いてくれている。もちろん、アメリアとカミラ、それにヘルミーナの三人も一緒だ。
最後に、セラフィだ。彼女は俺が魔導人形を真似て創造した人工生命体ともいうべき存在だったが、世界神の計らいで何と今代の神が認めし勇者となった。それによって俺が試練に対して直接手を出せないという状況を、俺が勇者であるセラフィに指示する形で間接的に対応できるようになった。それは良かったのだが、おかげで魔王なる試練神による試練がより難関のものになったのだから複雑な気分だ。
その一方で、この世界の人々を導き、試練を乗り越えられるようにサポートするには都合の良い組織、未だ二国間の取り組みではあるものの、対魔王勇者派遣機構を創設することができたのは僥倖だった。だが、セラフィに頼り切りになるというのも避けたいことだった。それに、強力な戦力ではあるとはいえ、俺の一人娘を危険な目に合わせるというのは、できる限り避けたいと思っていた。
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それが、今回魔王の置き土産だというゴーレムをアメリアたちと協力して、連携して討伐を果たしたのだ。
また、アメリアたちは俺の考えや思いを知っていてセラフィ、そして皆との連携を考えたわけではない。彼女たちは自らそれが必要と感じて、自然とそういった行動に至ったのだと言う。
自分たちも対魔王勇者派遣機構というチームの一員として力になりたいという思いがそうさせたのだろう。それが、俺のセラフィだけに頼るわけにはいかないという思いをも汲み取ってくれる形となったのだから本当にありがたい。もしかすると彼女たちも同じ思いがあったのかもしれない。
彼女たちの互いに喜び合う様子を見ていると、そういった感情や思いが何となく伝わってくるようだった。
「皆さん……! 本当にありがとう……。うん!?」
皆の様々な思いを感じ取った俺は、思わず感極まって瞼が熱くなるのを感じながら、何とか皆に声を掛けようとしたのだが、突如として空間内部の空気が変わるのを感じ取った。
『(あー、えっと……。その、オジさんにはもう一つプレゼントがあります! 受け取ってくださいっ!)』
「はぁ!?」
急に頭の中に響いた声の主から、突然オジさん呼ばわりをされて『そこはお兄さんだろ!?』と反論したくなったのだが、そもそも聞こえてきた声の主に心当たりが全くない。
「一体何だったんだ、さっきの声は!?」
「ハルト、足元っ!」
「うわっ!?」
カミラの叫ぶような声に皆の視線が俺の足元へと移る。それに釣られるように俺も自分の足元に視線を落とすと、そこには先ほどゴーレムが現れたときと同じ青い炎のように吹き出す魔力が再び現れたのだった。
青い炎のような魔力は俺を囲うように円を描くと、複雑な魔法陣を地面に描き始めたのだが、ものの数秒で完成が見えてきた。先ほどのゴーレムが現れた時ほどのサイズではなく、俺一人を囲う程度の小さな魔法陣だからだろう。
「主様っ!」
「「「ハルトっ!」」」
「ハルト様っ!」
「旦那様っ!」
流石に、またゴーレムのような魔物が現れてはたまらないので、すぐにその場から飛び退こうと思ったのだが……。
「あ、あれ!? 足がっ、上がらない!?」
何故か、ブーツが地面に吸いついたように固定されてしまっていたのだ。ブーツの中では足を動かせることに気が付いた俺は、すかさず履いていたブーツを脱ごうと右足を上げた瞬間。
「ちょっ、何だこれ!? みんな……」
魔法陣が完成し、青い炎のような魔力が天井に達するほどに立ち上る。
その直後、俺の視界から皆の姿が消えてしまったのだった……。
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