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次の依頼(タスク)に向けて

 さて、新たな神域となったグリュック島の拠点と屋敷の確認を終えた世界神たちは神界へと戻っていった。


 俺の昇進についても世界神たちに色々と聞いたわけだが、結局のところ今しばらくは特に何も変わることはないようだ。機会神が眷族として受け入れるだけの人材がいつ現れるかなど神でも分からないというのだから仕方がない。


 それに、転生者に不人気と言われる『剣と魔法の世界』の管理、しかも同じ転生者である俺の部下になりたいなんていう人物が出てくることなんてあるんだろうか。


 というか、機会神の眷族となる転生者を俺の部下に、という話だったが、よくよく考えると神界からのサポートということはまだ転生していない転生候補者ということだよな。ぶっちゃけ、早く転生したい人は断るだろうし、転生候補者になってまでわざわざ俺の部下になりたいなんていう奇特な候補者が出てくるとは思えない。


 つまり、俺に部下ができる可能性は極めて低いということだ。特に今のところ部下が必要というわけでもないので気にすることはないが、もしも部下が必要な状況だったりすると色々と焦らずにはいられないだろう。


 ふむ、そう考えると、世界神にとって俺という存在は本当に待望の眷族候補者だったんだろうなと今になって分かる。


「そういえば、初めて会った時も泣いて喜ばれたもんな……」


 世界神との初めての顔合わせ(というよりも、中途採用の面接のような感じだったのだが)をした時のことを思い出す。まだそれほど時も経っていないはずなのに、懐かしさを感じるのは何故だろうか……?


 それはそれとして、世界神たちは神界へと戻ったが、俺たちはザシャの用意してくれた昼食を食べ終えてからそれほど時間は経っておらず、今はまだ午後一時半を過ぎたばかりだ。


「さて、そろそろエアハルト陛下からご相談頂いた依頼に取り掛からないとな。これで暫くは予定もないはずだから、そろそろグリューエン鉱山に向かおうと思うのですが、皆さん、よろしいでしょうか?」


「私は賛成だ! 早く終わらせたほうが良いんだよな?」


「勿論です。何せ、エアハルト兄上からはあの歓送パーティーから一月ひとつきという期限が設けられているのですから、早く終わらせるに越したことはありません!」


 アメリアが俺の意見に賛成すると同時に質問してきたのだが、それにはアポロニアが答えてくれた。確かに、あれから既に随分と経っている。そろそろ依頼を達成しないと色々拙いことになるかもしれない。何せ、一国の国王からの直接依頼だからな。


 俺のことはともかくとしても、冒険者としてBランクパーティーというそれなりの立場にあるアメリアとカミラに迷惑は掛けられない。それに、依頼人であるエアハルトの妹で、王女であるアポロニアに恥をかかせるようなわけにはいかない。


 二人の話にただ頷いていただけだったのだが、そこにヘルミーナとカミラの二人も賛同してきた。


「そうね、私もアポロニアの意見に賛成だわ。何と言っても王族からの面倒な依頼なのよ? 早く終わらせてしまったほうが私も精神的に安心できるわ……」


 ふむ。過去に魔導人形で伯爵位であるユリアンからのプレッシャーに押し潰されそうになった経験からか、ヘルミーナがそう話すと何だか言葉に重みを感じるな……。そんなことを考えていると、今度はカミラが口を開く。


「ん、それだけじゃない。ヴェスティア獣王国の国王陛下からの依頼。それを成功させることができれば、それは私たちへの、ううん、ハルトへの信頼に繋がる!」


「あぁ! 確かにそうだな!」


「「「うんうん!」」」


 カミラの言葉にアメリアがいの一番に賛同すると、アポロニアとヘルミーナ、それにニーナも頷いた。


「うん? どういうこと?」


 カミラが言うには、エアハルト(というか国王陛下)から直接依頼を頂けるということは、冒険者としての格を示すものとしては最高位のものなのだとか。


 冒険者には、その格を表すものとして冒険者ランクというものがあるが、難度が高いとされる依頼を確実に成功させることでランクが上がるものの、どちらかというと、冒険者としての強さを表す意味合いが強い。その理由は単純で、難度の高い依頼の多くがドラゴンなどといった恐ろしく強い魔物の討伐依頼が多いからだ。


 そして、冒険者ランクが高いほど、貴族や王族から直接依頼を受ける機会も多い。それ故に、国王から冒険者への依頼もその多くがAランクやSランクという高ランクの冒険者に対して行われることがほとんどであるため、冒険者ランクが高ランクであることと国王から直接依頼を受けるというのはほぼ同義と言える、らしい。


 それを聞いてアメリアとカミラのはしゃぐというか、何となく落ち着かない様子である理由がようやく分かってきた。Bランクの冒険者パーティーである彼女らにとってこのようなことは大変名誉なことなのだろう。


 因みに、国王よりも上の存在からの依頼となると、この世界の神(つまり世界神)からの依頼になるわけだが、そのような依頼など眷族である俺や勇者であるセラフィ以外に受ける者はいない。


 そもそも、世界神からの依頼を授かったなどと周りに話しても、そんなことを証拠もなしに信じるものはいない。だからか、そういった者たちの言葉のほとんどは与太話として扱われているのだとか。まぁ、神殿の関係者の言葉なら信じてもらえるかもしれないけど……。えっと、少し話が逸れたな。


 つまり、一国の国王という立場にある者からの直接依頼を頂けるというのは冒険者として評価されるべきことなのだが、それだけに難度が高い依頼であることが多く、当然ながら、依頼失敗というケースも珍しくないのだそうだ。


 まぁ、国王から直々に依頼されるような依頼なんて、難度も相当なものであろうことくらいは容易に想像がつく。そうでなければ、表沙汰にできないような裏方の依頼だろう。


 そして、更にカミラから聞いた話によると、『王族や高位の貴族から継続的に依頼される冒険者である』ということは、高ランクの冒険者として最も評価されるポイントなのだそうだ。まぁ、それはそうだろう。継続して依頼されるということは、それまでの依頼を成功させているということであり、王族や高位の貴族からの信頼を得られているということに繋がるわけで……。


 つまり、カミラが何を言いたいのかというと、国王陛下エアハルトからの初めての直接依頼『グリューエン鉱山の坑道を修復する』については、何としても成功させるべきだと、そう言いたいようだ。確かに、冒険者として大きな意味を持つようだし、それは分かるのだが……。


 ここまで言って気付いた者もいるかと思うが、俺自身はエアハルトから冒険者として依頼を受けてはいない。俺個人としてではなく、対魔王勇者派遣機構としてエアハルトから請け負ったのだ。


 なので、俺個人としては、エアハルトからの依頼に対して、アメリアやカミラのような冒険者ほど張り切ってはいなかったのだが……。


「いやいや、ハルトも冒険者だろ?」


「ん、ハルトも私たちと同じ冒険者!」


 アメリアとカミラの言葉で思い出したが、そういえばアルターヴァルト王国へ来た時に身分証明書の代わりとして冒険者登録していたのだ。全く冒険者らしい活動をしていなかったのですっかり忘れていた。


 二人の話を聞くと、どうやら、今回の依頼を成功させるということは、対魔王勇者派遣機構としてだけでなく、俺という一冒険者の評価にも繋がることになるらしい。だからか、二人とも随分と気合いが入っているように見える。


 まぁ、冒険者としてのことは置いておいても、どちらにせよ、対魔王勇者派遣機構としても初めての活動となるわけだし、俺としても結果についても求めていきたいと思っていた。ならば、アメリアとカミラの言う通り、エアハルトに認められるくらい飛び切りの成果を上げて見せるべきか。


「そうですよぉ。それに、何と言ってもぉ、ご主人さまは土魔法の使い手なのですから〜。私たち獣人族だけではいつまで掛かるか分からないお仕事でもぉ、早く終わらせることができますし、絶対にエアハルト様からも評価して頂けますよ〜?」


 ニーナの言う通り、今回の依頼は魔法が使えれば簡単に終わる作業だ。だが、通常は人手と時間が掛かるものだ。それが例え獣人族であったとしても、何十人という人手で何か月、いや何年という期間を掛けて対応に当たるものなのだ。つまり、金銭的にも人員的にも時間的にも、とにかくコストが半端なく掛かる。


 そのことを考えれば、多少高額であっても力のある土魔法使いを一人雇うほうが遥かに効率が良い。それほど、魔法を使える者、魔力を持つ者というのは彼ら獣人族にとってはチート的な存在に見えるのだ。


 だからこそ、これまでも魔力を使える人間族による隣国、アルターヴァルト王国と協力関係を維持してきたといっても過言ではない。


 だが、この度晴れて自国の、それも貴族に魔法を使える者が誕生したのだ。国王であるエアハルトとしては、それを活用しない手はないだろう。それは、つまり……。


「つまり、エアハルト陛下からはこれからもたくさん依頼を出される可能性が高いってことだよなぁ。はぁ……」


 これからのことを思うと、思わずため息が漏れ出てしまったのだが、そんな俺のことなど気にしていないといった感じで、これまでアイテムボックスの中に控えていたセラフィが外へと飛び出してきた。


「うむ。皆の言う通り、主様のためになるというのであれば、早急にエアハルト陛下の依頼を達成するべきだろう。主様、早速ではありますが、グリューエン鉱山へ向かわれてはどうでしょう?」


「……うん、そうだな! よし、では早速グリューエン鉱山へ向かうことにしよう!」


「ちょっと待ちなさい!」


 皆に声を掛けて部屋から出ようとしたのだが、何故かヘルミーナにそれを止められてしまった。一体何ごとかとヘルミーナに確認すると、思ってもいないことを聞かれたのだ。


「ハルト、グリューエン鉱山が何処にあるのか場所は分かっているのよね?」


「えぇ、もちろんです。以前、エアハルト様から正式な依頼書を頂いた際に、地図と施設内へ入るための許可証も頂きましたから!」


 以前エアハルトから依頼された際に受け取った依頼書と地図、それにグリューエン鉱山へ入るための許可証をアイテムボックスから取り出すと、それらをヘルミーナに手渡した。


「ちょっと見せて。……なるほど、確かに許可証に問題はなさそうね。そういえば、グリューエン鉱山ってヴェスティア獣王国王家の管理下にあるのよね? それなら、エアハルト陛下に一言断りを入れてから向かったほうが良いんじゃないかしら? ねぇ、アポロニアはどう思う?」


「そうですね、一度エアハルト兄上にご報告してから向かったほうが無難でしょう。ヘルミーナさんの仰る通り、グリューエン鉱山は王家の管理下にありますし、事前に向かう旨を伝えておいたほうが、何かトラブルがあった際にも対応しやすいでしょうし……」


 なるほど。ヘルミーナとアポロニアの言う通り、エアハルトに一言伝えてからグリューエン鉱山へ向かったほうが無難かな。というか、アポロニアに何だかフラグを立てられたような気がしないでもないが……。そんな、『トラブル』なんて毎回起こることなんてあり得ない。ない、よね?


「……分かりました。では、まずはヴェスティア獣王国の王都ブリッツェンホルンへ向かい、エアハルト様へ謁見することにしましょう。ラルフさん、テオさんにエアハルト様宛てで先触れを出すように連絡をお願いします」


「承知致しました」


 こうして、俺たちはエアハルトからの依頼を達成するべく、ヴェスティア獣王国へと向かうことになった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

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