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業務の報告と神域の再申請

「……というわけで、グリュック島に新たな拠点を開発してきたんですが……」


「なるほど、屋敷戻られるのが深夜になった理由はそういうことでしたか……」


「えっと、はい。あの……」


 グリュック島から戻ってきた翌朝、俺は世界神たちと一緒に迎賓館で朝食を取りながら、昨日の報告と帰宅が遅くなった経緯を説明していた。そう、昨晩俺たちが屋敷に戻ってきたのは結局午前一時になろうかという頃だった。


 俺たちは昨日グリュック島へ向かい、島の開発(というか、港湾施設の開発と、対魔王勇者派遣機構の拠点となる高層ビル、及び俺たちが生活する拠点となる、まるで王宮のような住居の創造、そして各種魔導具の設置)を行ったのだが、突如始まった俺の部屋の両隣の部屋を巡る争奪戦により、帰宅時間が随分と遅くなってしまったのだ。よくよく考えれば、いつの間に決まったんだ、俺の部屋……?


 とはいえ、流石に深夜になったのはそれだけが理由ではなく、俺の両隣の部屋をニーナとカミラが使うことに決まったことで、急遽皆の部屋割りも決めることになったのだ。その結果、改めて皆の部屋の設備やレイアウトについても、あれやこれやと細かな調整を相談された結果、全ての部屋の調整が終わったときには既に時計の針は夜中の零時を回ろうかという時間となっていた。そして、現在俺は何故帰宅が遅くなったのか、その経緯について説明しているというわけだ。


「ふむ、ハルト様のお話は良く分かりました。ですが、いくらハルト様とはいえ、流石に十歳の子供が午前様というのは母として看過することはできません! それに一言連絡を入れて下さっても良かったのではありませんか!?」


「あ、確かに……!?」


 そういえば、俺と世界神たちとの間では神話通信で連絡を取り合うことができるのをすっかり失念していた。どうも、神界にいる世界神との連絡手段としてのイメージが強くて、この世界に降臨している世界神への連絡手段としての認識はなかった。そんなわけで、世界神たちへは帰宅が遅くなる旨連絡は特に入れていなかったのだ。久々に自分でも理解できるほど単純なミスである。


「ご連絡ができず、申し訳ありませんでした……」


「はい、以後気をつけてくださいね。さて、そういうわけですから罰として今日は私に付き合っていただきます!」


「えっ、昨日も報告致しましたが、今日はグリューエン鉱山の坑道の修復をと考えていたのですが……?」


「そんなことは明日でも良いではないですか! それとも、ハルト様は母子のコミュニケーションよりもお仕事を優先すると仰るのですか……?」


「いえ、そんなつもりはないですが、その、仕事も大切といいますか……」


「そもそも、母である私が久しぶりにこの地に降臨したというのに、ハルト様が相手をして下さらないというのは酷くありませんか!?」


 世界神が涙目で訴えてくる。正直、女性の涙目には弱い……。


 ふむ……。まぁ、グリューエン鉱山の修復はエアハルトから頼まれている『なるはや』の案件ではあるが、まだ少しなら時間はある。それに、現場をまだ確認してはいないが、土魔法での修復なら二、三日もあれば何とかなるだろう。


 それに、世界神の言う通り、これは俺のミスに対する罰と考えれば納得もできる。何より、久々の休みと考えれば、むしろご褒美と言っても良い。そう考えると断る理由等一つもなかった。


「えっと、その、分かりました。今日は一日休日として、世界神様との御時間を作ることに致します……」


「はい! ありがとうございます、ハルト様!」


 こうして、今日の予定がポッカリと空いたので、ゆっくりと朝食を取ろうと少し冷めたお茶に口をつける。ちょうどその時、部屋に入ってきた輪廻神が開口一番に爆弾を投下した。


「朝比奈君、スルーズ。グリュック島を新たな神域とする申請が通ったぞ」


「ブフォッ!」


 俺は口に含んだばかりのお茶を盛大に噴き出した。


「きゃっ!? ハルト様、大丈夫ですか!?」


「ゴホッゴホッゲホ……。失礼しました。それにしても、本当にたった数日で申請が通るとは……。というか、本当にグリュック島自体が神域に認められたんですか!?」


「うむ。条件はあるが、世界神の申請書の通り認められることとなった」


 創造神の孫娘に対する身内贔屓は何となく予想していたものの、こうも申請が早く通るとはやはり驚きだ。


 しかも、グリュック島自体が神域として認められたということは、今現在のこの屋敷と比べられないほど広大な範囲が神域となったということになる。それは島の中であれば自由に神々が降臨し、神力を使用することができるということになる。これって、世界への影響が結構大きいような気がするんだけど……。


「輪廻神様、ご連絡ありがとうございました。ところで、お祖父様からの条件とは一体何だったのですか?」


 そんなことを考えていたが、世界神から輪廻神への問い掛けのほうが気になってしまい、いつの間にか意識がそちらに向いた。


「うむ。要は、それだけ広い範囲を神域とするのであれば、神域はグリュック島一か所のみに限定する、ということだ。つまり、こちらの屋敷は神域ではなくなる」


「それだけではありません。今後、この世界に新たな神域を設定することもできなくなります。それで良いのなら創造神様も認めるとのことでした。スルーズ、どうします?」


 輪廻神の後ろから現れた機会神が、輪廻神の言葉に続けて世界神に問い掛ける。なるほど、広い範囲だが一か所だけとするのか、狭い範囲だが複数個所を神域とするのか。


 勝手の良さだけで考えると狭くても複数個所に神域を設定できたほうが良いのではないだろうか? 別に世界神たちも神域の外に出てはならないというわけでもないんだし……。


「むぅ。すんなりと申請が通ったと思えば、お祖父様ったらそのような条件を出してこられたのですね……。うーん、神域は広いほうが神界との行き来も便利ですし、神域内なら神力も問題なく使えますのでハルト様のお役に立つことができると思ったのですが……」


 なんと、世界神は俺の役に立とうと思ってグリュック島を神域として申請してくれていたのか……。なるほど。確かに、神力という大きな力を使うには、神域は広いほうが良いのかもしれない。


「でも、もしもハルト様が今後幾つもの拠点を持たれるのであれば、狭くても複数の神域を用意できたほうが良いような……?」


 そうなんだよね、最初はアルターヴァルト王国だけだった屋敷も、気が付けばヴェスティア獣王国にもできてしまったし、更にはグリュック島にも創った。今後、更に増える可能性がゼロとは言い切れない。


「うぅ、最初は広い神域を用意できればと思って申請書を提出したのですが、機会神のお話を聞いてしまうと、正直に言って悩みます……。ハルト様はどちらが良いと思われますか……?」


「個人的な意見になりますが、広い神域が一か所あるよりも、狭くても複数の神域があったほうが良いのではないかと。先ほど世界神様が仰っていた通り、今後も拠点となる場所が増える可能性もありますので……」


「やはり、そう思われますか……。分かりました。決めました! 今回の申請書はお祖父様に言って取り下げ、改めて対魔王勇者派遣機構の拠点とハルト様たちの居住区のみを神域として再申請致します!」


「そうですね、それが良いかと思います」


「では、早速行って参ります! ハルト様、輪廻神様、機会神、暫く失礼致します!」


「へっ!?」


「む!?」


「え!?」


 そう言って、世界神は音もなく神界へと戻っていった。残された俺と輪廻神、機会神の三人(一人と二柱)は、世界神の突然の行動に呆気に取られて暫くその場で固まっていたのだった……。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

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