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いざ、貴族街へ

 光の精霊が帰ったあと、俺は今回精霊が精霊核に宿らなかった経緯を説明した。


「なるほどね。しかし、ヘルホーネットの蜜ねぇ。精霊様もなかなか無茶を言うもんだな」


「ヘルホーネットはこの辺りにはいない。獣人族が多く暮らす南の大陸に生息する、らしい」


「えぇっ? そうなんですか!?」


 ヘルホーネットが強くて入手し辛いケースについては想定していたが、そもそもこの大陸に生息していないとは思わなかった。これでは定期的に入手することが難しそうだ……。


「アンタ、本当にどっか抜けてるわよね。でも、たまにヘルホーネットの蜜は王都にも入ってくるみたいよ」


「本当ですか!?」


「えぇ。ただし、王家への献上品としてだけどね」


「うぅ……」


「でもさ、ヘルホーネットの蜜が駄目なら、ハルトの精霊力を精霊にあげれば良いじゃない」


「でも、それだと私が依頼主になってしまうじゃないですか」


「ハルトが光の精霊に『この人の依頼を聞いて欲しい』って依頼をすれば良いじゃない」


「嫌ですよ、そんな面倒なこと。もしその人と光の精霊との間でトラブルが発生したら、私が仲介に入らないといけなくなるじゃないですか」


 他人と精霊とのトラブルの仲介なんて面倒なことに巻き込まれるのは勘弁してほしい。


 むしろ、ヘルホーネットの蜜の入手に骨を折ったほうがマシだ。王家への献上品として王都にも入ってくるのなら商人に入手できないか相談してみるのはどうだろうか。それに、南の大陸に生息しているというのなら、冒険者に依頼してもいいかもしれない。


 あとは、依頼主に精霊力を対価として求められるかだけど……。


 あれ、そもそも依頼主っていったい誰なんだ?


「そういえば、魔動人形を発注された身なりの良い貴族様はどのような方なんですか?」


「あの方はユリアン・フォン・シュプリンガー伯爵様よ。最近、先代のマクシミリアン様が病で亡くなられて当主を継がれたと聞いているわ」


「あぁ、その名前なら聞いたことがあるな。身分に関係なく接してくれる珍しい貴族らしい。優しくて見た目も格好いいし、平民の間でも人気だそうだ」


 なるほど、あの青年は伯爵様だったわけか。道理で身なりが良いわけだ。


 それに、アメリアの話によると評判も良いらしい。


「ところで、魔動人形はマクシミリアン様ではなくユリアン様が注文されたんですよね?」


「えぇ、その通りよ。急いで用意して欲しいからって大金を積んでお祖父様に注文したらしいわ。

 あまりの気迫につい受けてしまったって、お祖父様がこぼしてたから覚えてるのよ」


「大金ってどれ位?」


「白金貨五枚みたい」


「「「白金貨五枚!?」」」


 白金貨ってあれだろ、金貨よりも高価な金板よりも、さらに上の……。えぇっと、金貨がおよそ十万円だったから、それよりも二桁上で……。ご、五千万円相当!?


「あのねぇ、確かに相場よりは高いけど、魔導具の製作には材料費や手間暇を考えるとそれなりにお金が掛かるものなのよ。特にこの魔動人形は材料費が高くなるから仕方ないのよね」


 確かに精密機械のように組み上げられた魔動人形には俺も正直驚いた。それぞれのパーツも素材が良いし、高価になることも頷ける。


 それになんといっても精霊核だろう。


 あれに精霊を宿すには、それなりに名の通った光魔法の使い手に依頼する必要があったはずだ。しかも精霊との交渉で供物となる物も必要になる。それらの費用を考えると、高額になるのは理解できる。


「因みに魔動人形の相場っていくら位なの?」


「うーん、大体金板五枚から高くても白金貨一枚の間かしら」


 そんな相場の五倍以上の費用を払うとは、ユリアンという伯爵様には何か特別な理由があるのかもしれない。


 うん、待てよ? 依頼主は伯爵様になるということで、その伯爵様にヘルホーネットの蜜か、精霊力を対価として用意してもらう必要があるのか。ヘルホーネットの蜜は俺が用意するよりも簡単に入手できるかもしれないが、精霊力はどうだろうか。


 いや、それよりもだ。今創っている魔動人形は精霊人形といったほうが正しい。先ほどヘルミーナが言ったような相場で入手できる魔力で動くものではない。それって、本当に伯爵様の希望にあう商品なんだろうか?


 もし、伯爵様が望む商品でない場合、そもそも白金貨五枚を返金しなければならない可能性もある。うーむ、と思わず頭を抱えてしまう。


「ちょっと、ハルトどうしたのよ?」


「いえ……。もし、ユリアン様にご納得頂ける魔動人形をご用意できなかった場合、代金として頂いた白金貨五枚をお返ししなければならないのではと思いまして……」


「えぇっ!?」


 ヘルミーナの顔色がどんどん悪くなる。俺だって同じ思いだ。


 正直、白金貨五枚なんて金額は俺たちには支払うことができない。


「ヘルミーナさん、一度ユリアン様にお会いすることはできないでしょうか? アレクシスさんがもう居られない以上、ご納得頂ける魔動人形をご用意するには改めて詳細を伺っておいたほうが良いと思うので」


「確かにそうね……。シュプリンガー家に連絡を取ってみるわ」


 ヘルミーナからシュプリンガー家に連絡を入れてもらうと、翌日にはシュプリンガー家の従者からの便りで、二日後にユリアン様の時間が取れるとの返答を得ることができたのだった。


 果たして、伯爵家の当主に連絡してから翌日にはアポを取れるものだろうか。しかも、二日後という早いタイミング。前世の感覚からしても普通はないだろう。


 いや、連絡手段の話ではない。確かに、生前の世界ではメールやチャットで即日で返事をもらうことも可能だろうが、この世界ではまず身分がものをいう。平民であるヘルミーナからの陳情に対して、翌日には返事を届けるなど考えられない。


 しかも、二日後という早いタイミングでの面会。アメリアとカミラも驚いていたが、手紙を出したヘルミーナが一番驚いていた。王都に住む貴族、しかも伯爵であればそれなりに忙しいはずだ。にもかかわらず、二日後という日時を指定してきたというのは……。相当、切羽詰まっているということか。


 そして二日後の当日、俺たちはヘルミーナの案内でシュプリンガー家へと向かうことになった。


 貴族街にある伯爵家となると、あの平民街と貴族街を隔てている壁を潜って内側に入ることになるわけで、ちょっとドキドキする。


 大通り沿いにある貴族街へと続く門には、見知った顔の門番が俺たちの前に現れた。


「おう! アメリアにカミラと、この前の坊主じゃないか! 今日はどうしたんだ?」


「それはこっちのセリフだよ? ハインツさん。今日は王都の門じゃなくてこっちなんだね!」


「あぁ、当番制だからなぁ。しかし、お前さんらが貴族街に行くとは珍しいな。まさかとは思うが、何かやらかしたのか……?」


「そんなことある訳ない! 私たちはシュプリンガー伯爵様と面会予定」


「そういうことさ! だから、通して貰えるかな? ヘルミーナ、許可証を見せてあげて」


「もちろんよ!」


 アメリアとカミラがハインツさんと世間話をしながら、シュプリンガー家の使用人から届けられた許可証をヘルミーナがハインツに手渡して確認を取る。


「あぁ、許可証確認したから返すよ。お前さんら、くれぐれもお貴族様と揉めごとを起こすなよ?」


「保証はできないが、気をつけるよ」


 ハインツからのありがたい(?)忠告を受け流しながら、門を潜り抜けて貴族街の奥を目指す。


 伯爵家ともなれば王城の近くに屋敷を構えているようだ。


 普段見る機会がない貴族街の様子を暫く窺っていたが、人通りが少なく閑静な住宅街といったところか。ただし、敷地同士の間隔が広く、屋敷自体も役所や総合病院ほどの大きさで、見たこともないような街並みだ。


 前世の高級住宅街でもここまでではなかったよな……。


 前世の感覚では計れないものを感じながら更に奥へと歩くと、案内してくれていたヘルミーナが足を止めた。


「ここがシュプリンガー伯爵家のお屋敷よ。今から門番に話してくるからここで待ってて!」


 ヘルミーナがシュプリンガー家の門に向かうのを見送りながら、同時にシュプリンガー家の屋敷を眺めていた。


 でっかい屋敷だなぁ、広い敷地だなぁ。凄いけど、でも維持費がめっちゃ掛かりそうだなぁ……。


 やはり、俺は前世の小市民的感覚が異世界に来ても抜けないようだ。


 暫く待つとヘルミーナと一緒にシュプリンガー家の門番がこちらに向かってやってきた。


「おう、ヘルミーナ。改めて確認させてもらうが、今日ユリアン様とお会いするのは、お前とこの三人で良いんだな? しかし、こんな小さい子供まで一緒とはなぁ……」


「えぇ、そうよ。ハルトは小さいけどこれでも頼りになるのよ!」


「まぁ、ここでもう少し待っていてくれ。そのうち屋敷のほうから誰か寄越してくれるはずだ」


 暫くすると、門までやってきたメイドに案内されて屋敷の中の応接室と思われる広い部屋に通された。


「こちらで暫くお待ちください」


 そう言ってメイドが立ち去る。


 それと入れ替わるようにお茶をいれる新たなメイドが入ってきた。流れるような連携プレイに思わず感心する。


 これが貴族のお屋敷で働くメイドさんの仕事か……。


 この部屋に通されるまでに見てきた、大理石を思わせるような磨き上げられた石造りの床と豪華なシャンデリア、壁の装飾や柱の彫刻の数々。だが、それでいて嫌味のない調和の取れた内装に感心していた。


 そして、そこで働く人の仕事ぶりの良さを見れば、今自分が貴族の屋敷にいるのだという実感がようやくわいてきた。それと同時に武者震いなのか、身体が少し震える。


 これから伯爵様と交渉だと思うと少し緊張してきたかも。


 そんなことを考えていると、静かな応接室に扉をノックする音が響く。


 メイドさんが扉を開くと、そこには、この屋敷の主であるユリアン・フォン・シュプリンガー伯爵が立っていた。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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