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緊急事態と出自の説明

 世界神からの突然の神話通信によって齎された突然の来訪(出張)の報せに驚いた俺は、それを受け入れるまでに暫しの時間を要したが、復帰してからは迅速に動くことになった。


 俺はすぐに部屋着の上からガウンを羽織ると執務室に足を運び、早速ラルフを呼び出した。


「旦那様。このような時間にお呼びとは、何かございましたか?」


 既に時計の針は午前一時を回ろうとしている。ラルフが『このような時間』などと言うのも無理はない。


「はい、緊急事態が起こりました……。すぐに、アメリアさんたちと使用人全員を執務室まで呼んでください。この際、皆の着替えは不要です。最低限の身支度で良いので、すぐに呼んでください」


「承知致しました」


 アメリアたち従臣と使用人全員を至急呼び出すように指示を出すと、使用人たちは夜警の任に就いているアロイスとヨハンの二人以外はすぐに集まった。その後、アメリアたちも順次集まり、最後に眠い目を擦りながらカミラが入室して全員が揃った。因みにセラフィは俺が執務室に入った際にアイテムボックスから出てきている。


 皆の様子を確認すると、ラルフに緊急事態と伝えていたからか、主人である俺からの急な召集に対してどのような事態なのかと心配そうな表情と、一部従臣たちは眠そうな表情をしていた。


 皆が執務室に揃ったことを確認すると、ラルフが口を開く。


「主様、全員揃いました」


「ありがとう」


 ラルフの言葉に答えると、アメリアがおもむろに口を開いた。


「こんな時間に招集なんて、一体何があったんだ?」


「はい。緊急事態が発生しました……」


 俺は皆の表情を確認した後、意を決して皆に伝えた。緊急事態の原因を……。


「明日の朝、母上が屋敷にこられます……」


「「「「ハルト(主様)のお母様(母上)がっ!?」」」」


 真っ先に反応したのはアメリアとカミラ、ヘルミーナにセラフィの四人だった。彼女たちは俺の母親がこの世界の神、スルーズ神であることを知っている。だからこそ、彼女たちは再びこの屋敷に母親がやってくるという事態に驚いて声を上げたのだった。


 使用人たちもアルマやヴィルマのように素直に驚きの声を上げた者や、リーザやリーゼのようにあまり表情に出さない割には、『今度こそご主人様の母上様に取り入ってご主人様の専属の使用人に取り立てて頂きましょう』などと何やら不穏なことを話し合う者、そして一人状況が分かっていないグスタフと、何故か喜色満面に喜びを表したハインツなど、反応はそれぞれ異なった。というか、ハインツは一体何に喜んでいるのだろうか。


「何と!? 『明日』でございますか!?」


 一人、異なる反応を示したのは執事のラルフだ。それもそのはず、明日は夕方から俺の伯爵位陞爵を祝うパーティーを迎賓館で行う予定なのだ。そこに、俺の母親の来訪というイベントが被るというのは、使用人たちの作業が増えるということを意味していたのだ。


「はい、明日です。皆さんが明日のパーティーの準備で大変忙しい状況なのは重々承知しているのですが、母上の来訪は確定事項です。申し訳ありませんが、ご協力のほどよろしくお願い致します」


「承知致しました。因みに、ベンノ殿たちにも協力を依頼してもよろしいでしょうか?」


 ラルフから、以前ゴットフリートたちを迎賓館で歓待した時と同様に魔導具店の店員であるベンノたちにもヘルプを頼みたいという人員の相談があったので許可することにした。というか、歓待する対象がパーティーへの招待客だけでなくなったのだから、当然の処置とも言える。


「えぇ、問題ありません。魔導具店のほうも少し早めに切り上げてもらって構いませんので、明日のパーティーと母上の歓待に協力するように伝えてください」


「ありがとうございます。承知致しました。ところで……」


 そういうことで許可を出したのだが、何故かラルフからは感謝の言葉と同時に一つの質問が返ってきた。


「……ところで、旦那様の御母上様もパーティーにはご参加されるのでしょうか……?」


「ふむ……」


 ラルフからの質問に、俺は先ほどまで行っていた世界神との神話通信を振り返る。そういえば、拠点を移すという話をしていた際にはこちら(マギシュエルデ)に来るというような素振りはなかったような気がするなぁ。俺がグリュック島の開発については早く取り掛かろうと考えてるって話したら、急にこっちに来るなんて言い出し始めたんだよな。そう、明日パーティーがあるから、それが終わり次第取り掛かるって言ったら……。


 うん? パーティー……!?


『パーティーですか! あ、えっと……』


 ふむ。何となく分かってきた気がする……。恐らく、世界神はパーティーに参加するつもりなのだろう。それも、俺の母親として。


 一体何が目的なのか分からないが、不要なトラブルは避けたいものだ。だが、眷族である俺には世界神の参加を止めることはできない気がした。つまり、トラブルの予感がビンビンするのだ。


「一応、パーティーへは母上も参加するものとして考えておいて下さい……。はぁ……」


「承知致しました」


 突如降って湧いた緊急事態の内容について、皆への一通り説明を終えたので、この場は解散したのだが自室へ戻ろうとアメリアたちと階段を上っている途中にアポロニアから一つ質問されたのだった。


「ところで、何故ハルト様の母上が訪ねて来られることが緊急事態なのですか?」


 ふむ。そういえば、アポロニアとニーナには結局俺の正体と母親について説明ができていなかったことを思い出した。そう、前回説明しようとしていたのだが、何故かなし崩し的に深夜の女子会へと突入したのだった。


「えっと、そうですね……。改めてそのことについて説明しなければならないですね。アポロニアさんとニーナさん、私の部屋にきて頂いても良いでしょうか?」


「はい、ハルト様」


「分かりましたぁ」


「「「「もちろん、私たちも参加する!」」」」


 こうして、俺の部屋にアポロニアとニーナ、それにアメリアとカミラ、ヘルミーナとセラフィという従臣たちが全員集まったのだった。ベッドの中央に俺が座ると、皆もベッドの上に座る。流石にキングサイズのベッドといえど、七人も集まると狭く感じる。


「コホン。既に、アメリアさんたちはご存知のことではありますが、アポロニアさんとニーナさんには事情の説明ができておりませんでしたので、改めて、何故私の母上が屋敷に訪問してくることが緊急事態なのか説明したいと思います」


「「よろしくお願い致します(ぅ)」」


 アポロニアとニーナは俺の言葉に返事をすると、他の四人も小さく頷いた。その様子は、今回の主役メインはアポロニアとニーナの二人であることを表していた。


「さて、以前もお伝えしたかと思いますが、私は『転生者』です。この世界マギシュエルデとは別の世界で不運にも事故により命を落とし、幸運にもこの世界の神であるスルーズ神によって、この世界に転生することができました」


「……俄かには信じ難いお話ではありますが、以前見せて頂いた映像(?)というもので、この世界とは全く別の世界が存在するということは何となく理解致しました。そして、ハルト様の生前の御姿についてもアメリア様たちからも教えて頂きました……」


 俺の言葉に、アポロニアが未だ確信は持てない様子ではあったが、俺が転生者であるという点については理解を示す言葉を返してくれた。


「ありがとうございます。アポロニアさんが仰る通り、俄かには信じられないことかと思います。ですが、これは真実なのです……。そして、私はこの世界に転生するにあたり、この世界の神であるスルーズ神様に新たな肉体をご用意頂くことになりました。それが今の私です」


 そう話すと、アポロニアが何かに気付いたのか、驚くように目を見開いた。


「そ、それはつまり……。ハルト様のは、母上様というのは……!?」


「……はい。アポロニアさんのご想像の通り、私の母上はこの世界の神、スルーズ神様なのです……」


「えぇっ!?」


 思わず言葉が飛び出たのはニーナだった。俺とアポロニアとの会話で驚きながらもある程度は察した様子だったが、事実を伝えるとやはりびっくりしたのだろう。声を出した自分に驚いたのか、咄嗟に両手を口に当てるとそれ以上声を出さないように努めていたようだが、彼女の目は見開いたままだった。よほど驚いたのだろう。


 アポロニアも驚いた様子を見せていたが、流石に自分で答えに辿り着いたこともあってか、ニーナほど慌てふためいてはいなかった。


「……なるほど。ようやく、全てが分かりました……。ハルト様が神子であるということも、セラフィ殿が神の認める勇者であることも……。全ては神の、スルーズ神様のご意志によるものだったのですね……!」


 そう話すと、アポロニアはベッドの上で俺に対して跪いて頭を下げた。アポロニアの様子を見てか、正気を取り戻したニーナも慌てて跪いて頭を下げる。


「あ、あの、頭を上げて下さい」


「いいえ、ハルト様。スルーズ神様の使徒であるハルト様に対して、最大限の敬意を払うのは当然です!」


「えぇっ!? ちょ、そんな、やめてください! ちょっと、アメリアさんたちも何を笑ってるんですか!?  ニーナさんまでアポロニアさんのような真似をしないで!?」


 アポロニアとニーナに俺の出自を説明したのだが、何故か世界神の使徒として崇められてしまったのだった。その様子を笑って見ていたアメリアたちにも協力してもらい、小一時間後、ようやくアポロニアとニーナの二人を説得することに成功し、何とかこれまで通り普通に接してもらえることになった。


 皆が俺の部屋から自室へ戻るころには、既に時計の針が午前三時を指そうとしていた。明日は朝から世界神が屋敷にやってくるというのに対応できるのだろうか。そんな心配を胸に、気が付けば意識を夢の彼方へと飛ばしていたのだった。

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