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精霊召喚と契約の行方

「アレクシスさんの日記には何も書いてないんですよね。皆さん、精霊について何かご存知ないですか?」


「精霊を呼び出す方法よね? でも確かに何か方法があるのかも知れないわ」


「呼び出すだけなら方法はある」


「カミラさん、本当ですか!?」


「光魔法に『精霊召喚』という魔法がある。精霊召喚は精霊を呼び出す魔法。呼び出した精霊と契約を交わすと、一時的にその加護が得られるというもの。高位の光魔法を使える魔法使いなら、精霊召喚で精霊を呼び出すことができるかもしれない」


 カミラはそう言いながら俺のほうに視線を向ける。その目には俺なら光魔法も使えるのでは、という何か期待のようなものを感じるのだが、それはさて置き。


 そうか、精霊召喚という手があったか。


 そういえば、この前図書館で光魔法の本棚を鑑定して回ったときに精霊召喚が解説された魔法書を見掛けた覚えがある。


 確か、精霊への呼びかけはそれほど難しいものでなく、精霊と契約できるかどうかが成功と失敗の分かれ目なのだとか。


 召喚した精霊との契約において、大切なのは召喚者が精霊に対して依頼する内容と、それに対して精霊が要求する対価とのバランスだ。召喚者が受け入れられる対価であれば問題ないが、受け入れられない対価となると精霊との交渉が必要になる。そして、大抵の場合、精霊召喚で失敗するのはこの交渉が上手くいかないケースらしい。まぁ、精霊に対して依頼する内容に問題があるケースもあるわけだが。


 精霊に一時的な加護を求めるくらいだと対価として求められるハードルは低い。ほとんどの場合、何らかの供物で成功できるらしい。


 精霊核を依代に魔動人形として顕現してもらうなんて、精霊からどんな条件が出されることやら……。


「では、精霊召喚を試してみましょうか」


「アンタ、本当にできるの?」


「どうでしょうね。まぁ、試すだけならタダですし」


「ハルトならきっとできる!」


「まぁ、一度試しにやってみたらどうだ?」


「では、早速。光魔法『精霊召喚』!」


 光の渦が目の前に現れ、魔力とも神力ともつかない、何か大きな力が満ち満ちていき、ついには光の渦が弾け、その跡には、小さな、しかし力強く真っ白に輝く、小指ほどの光の塊が姿を現した。


 これが精霊か……?


『ワタシを呼び出したのはアナタ?』


「うぉっ!?」


「ハルト、どうした?」


「いえ、何か頭に声が響いて……。もしかして精霊の声?」


『何よ、大きな声出して。ビックリするじゃない!』


『あ、すみません……。ところで、貴方は精霊さんでしょうか?』


 俺も心の中で精霊らしき光の塊に対して話しかけてみた。


『そうよ、ワタシは光の精霊といわれているわ』


 上手く伝わったようだ。


「なるほど、光の精霊さんでしたか。私はハルト・アサヒナと言います。私のことはハルトと呼んでください」


 アメリアたちからしてみれば、光の精霊はただ明滅しているだけにしか見えないらしい。どうやら召喚者である俺とだけ意思の疎通ができるようだった。


『それで、一体何の用でワタシは呼び出されたのかしら?』


『はい、そのことで相談がありまして。実は私たちはここにある魔動人形を創ったのですが、私たちではこれを動かすことができなくて困っているのです。そこで、精霊さんにこの魔動人形のコアである精霊核に宿って頂くことができれば、もしかすると動かせるのではないかと思いまして』


『イヤよ、そんなの。自由を愛するワタシたち精霊にとって、時間を拘束されるなんて苦痛でしかないわ。そんなお願いなんてお断りよ!』


 条件を提示される以前に断られることになるとは……。


 しかし、交渉事は粘り強さが重要だ。お互いの折り合える着地点を見つけなければ!


『確かに、こちらからのお願いは精霊さんの自由を制限することもあるでしょう。それでは、条件を付けるのはいかがでしょうか?』


『条件?』


『はい。こちらとしても、精霊さんを常に拘束することは本位ではありません。ですから、例えば条件として、依頼主から必要に応じて一日に一度だけ魔動人形を動かしてほしい日時と時間を予約する機会を与えて下さい。そうすれば、お互いに都合のいい時間に決められると思います。もちろん、お時間を頂く際には、拘束時間に応じてその対価をお支払いします。ただし、対価についてはその都度交渉とさせてください』


『ふーん、条件ね。それって、例えば二日後の朝の鐘が鳴ってから昼の鐘がなるまでとか、予め拘束時間を決められるということね。つまり、ワタシの都合の悪い日時は避けられるってことかしら?』


『はい、その通りです(朝の鐘とか昼の鐘とかよく分からないが、きっと時間のことだろう)』


『あと、依頼主との交渉の場でワタシが決めた対価を差し出せない場合は、何もしなくていいのよね?』


『もちろんです。ただ、それですと、精霊さんが要求される対価が高い場合に、こちらから何もお願いできないことになってしまいます。そこで、拘束時間とその対価の目安を定めておければと考えているのですが、いかがでしょうか?』


 拘束時間毎に掛かる対価を明確にすることができれば、精霊と依頼主との間で認識の齟齬が起こりにくくなり、トラブルに繋がるリスクを予め抑えられると考えたのだ。


『なるほどね。拘束される時間が予め分かっていればワタシも予定を立てやすいし、依頼されたときに働きに見合った対価を支払ってもらえるなら、ワタシとしては不満はないわ。因みに、依頼された拘束時間が二日以上にわたる場合はどうなるのかしら?』


『もちろん、拘束時間分の対価をお支払いする形で対応させて頂ければと思います。ただ、二日にわたる、つまり日を跨いだ依頼をする場合、当然夜間対応が発生するものと思われます。ですので、それを踏まえた対価を要求頂ければと思います。また、長時間の依頼の際には休憩時間も設定したほうがよいでしょう。その辺りも含めて都度交渉させて頂ければと思います』


 そう伝えると光の精霊は光り輝きながらこちらからの提案を検討しているようだった。


『そうね……。あなたの、ハルトの提案を受け入れてもいいわ』


 よっしゃっ!


 とりあえず、光の精霊との交渉は半分まで進んだかな。次は、具体的な対価について確認を取らないと。


『ありがとうございます! それで、対価について決めたいのですが、何かご要望はありますか?』


『あなたの、ハルトの精霊力がいいわ!』


「な、何だって!?」 


「何? ハルト、何かあったの!?」


 俺が驚いて声を上げたせいか、ヘルミーナが声をかけてきた。詳しく説明したいところだが、俺にも良く分からない単語が出てきたので上手く説明できる自信がない。


 ひとまず三人には何でもないと返事してから、再び光の精霊との交渉に戻る。


『あの、一体どういうことでしょうか?』


『だって、あなたの精霊力、とっても素敵なんだもの。芳醇で、濃厚で、それでいて爽やかな香りがたまらないわ。嗚呼、こんな精霊力を持つ存在にはこれまで出会ったことがない……。あなた、一体何者なのかしら?』


 うーん、なんだか俺の存在に疑問を持たれる事態に……。


 いや、それはともかく、精霊力って一体なんだ?


『そうねぇ。精霊力っていうのは、簡単に説明すると『精霊を使役する為の対価』かしら? 私たちがこちらの世界に顕現する為に必要な力なのよ。それを召喚者から対価として頂くわけよ。まぁ、これほど膨大な精霊力を持つ人族は数が少ないから、依頼の際には代替として供物を用意してもらうことが多いのだけれど』


『なるほど……。その精霊力とやらを私も持っているということでしょうか?』


『そう、そうなの! あなたの精霊力はこれまでに見たこともないほど濃密で、そして膨大なものだわ』


 自分が精霊力なるものを持っているということを光の精霊に言われて初めて知った。そういえば、『召喚者から対価として頂く』って言ってたな。てっきり、『精霊召喚』って光魔法だから魔力が必要なんだと思っていたけれど、もしかすると魔力だけじゃなくて精霊力も必要なのかな。


 そう思って光の精霊に聞いたところ、やはり精霊力を対価として要求というか勝手に吸い取っているらしい。人族ならば大抵が多かれ少なかれ精霊力を持っているのだという。だが、ほとんどの場合は『精霊召喚』の際に枯渇する程度しか持ち合わせていないんだとか。あぁ、だから代替として供物が必要になるのか。


『因みに、私の精霊力をご所望とのことですが、いったいどれくらいをご所望ですか。私も精霊力を精霊さんに与えたことなどないので勝手が分からないので、教えて頂けると助かります』


『そうねぇ。ハルトだったら、ハルトの精霊力の一万分の一位で一日中付き合ってあげてもいいわよ?』


 ほう、俺の精霊力がどれほどの量があるのか分からないが、一日中付き合ってくれるということは年間でもたったの四パーセント弱の消費量で済むのか。


 ただ、今創っている魔動人形は俺のものではないから、毎回俺が精霊力を与えるわけにもいかない。


『まぁ、それはともかく。先ほど精霊力の代替として供物を用意してもらうことが多い、というお話でしたが、どのような供物であれば対価になりそうでしょうか?』


『精霊力以外ねぇ。ワタシは甘いものが大好きなの。だから、精霊力を宿した甘いものを供物として捧げてくれれば嬉しいわね!』


 甘くて精霊力を宿したものか。なるほど、全然わからん。


『甘くて精霊力を宿したものというのは具体的にはどのようなものでしょうか?』


『そうねぇ。例えば、ヘルホーネットの蜜かしら。他の精霊たちの間でも人気があるのよねぇ』


『なるほど、分かりました。ヘルホーネットの蜜ですね、提供できるか確認します』


『まぁ、わたしとしては、アナタの精霊力で全然構わないのだけれど。詳細が纏まったらまた呼んでちょうだい』


『えぇ、またご連絡させて頂きますので。絶対に出てきてくださいね』


『もちろんよ。約束は守るから、なるべく早めにお願いね!』


 そう言って光の精霊は帰っていった。


 あとは、こちらの対応次第だ。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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[気になる点] 精霊召喚して精霊以外出るはけないだろ?
[気になる点] 主人公が喋るたびに馬鹿なんだなと思う
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