テオへの相談(後編)
俺が転移台について皆に質疑応答の時間を取った結果、まず始めにアメリアとカミラ、それにヘルミーナの三人からは随分と質問を受けたわけだが、それについてはヴェスティア獣王国で魔剣ティルヴィングを破壊し、事態を収拾できたことが第三の試練をクリアしたと評価された結果、新たに得た俺の能力であることを三人には伝えることにした。
もちろん、テオやベンノには聞かれないように闇魔法『音声遮断』を使って三人だけに伝わるように工夫してからではあるが。
先日、世界神から突然そのようなことを聞かされたので皆に伝えるタイミングがなかったことと、実際にどのような効果の能力なのかを調べてから皆には伝えるつもりだったと話すことで、何とか皆から理解を得ることができたのだった。
また、ベンノとテオからの提案については、確かに転移台を用いた輸送業というのは新たなビジネスにはなり得るが、それを担えるほどに転移台を用意するつもりが暫くないことを伝え、現状と同様に王族から輸送について依頼があれば対応する方向で話が纏まった。
正直、俺にとって、転移台を用意すること自体は何の問題もなかったが、この世界に突然そのようなものを、特に王族といった者たちに広めた際に、どのような影響が出るのか想像もできなかった。まぁ、何らかの、それも大き目の影響が出るだろうことだけは、容易に想像することはできたのだが。
どちらにせよ、世界神からは色々と釘を刺されている状況なので、あまり俺の能力を使って目立つようなことは避けたいという思いがあったというのが正直なところだ。そんな俺の事情を汲み取ってくれたわけではないと思うが、ベンノとテオも納得してくれたのだった。
「アサヒナ伯爵様がそう仰るならば、私はそれに従うまでです」
「まぁ、私もベンノ様と同じ意見です。それに、旦那様の意向には両国の王族も文句は言えないでしょうから」
「はい?」
ベンノとテオの二人がそのように答えると、アメリアたちも同意するようにウンウンと頷いた。俺だけは二人の答えに納得できずに首を傾げる。
ベンノの言葉はそれが良いかどうかは別として、理解はできる。
だが、テオの言葉には理解というか、同意ができなかった。何故ならば、俺は両国でも高位の貴族ではあるものの、特に政治には参加してはいない。まぁ、一応対魔王勇者派遣機構の代表という立場ではあるものの、それがゴットフリートとエアハルトという両国の国王に文句を言わせないほどの力を有しているとは思えなかった。
「テオさん、流石にそれは言い過ぎではないですか?」
「いいえ、そのようなことはありません。既に旦那様はアルターヴァルト王国のリーンハルト王子とパトリック王子、それにフリーダ王女の御用錬金術師でありますし、ヴェスティア獣王国では王家の専属錬金術師に任命されております。ですから、こと魔導具に関して言えば王族の方々に対しても十分に意見を言える立場でありますし、そして王族の方々も旦那様の意見であれば受け入れてくれるでしょう」
「確かに、意見を言える立場にはあるかもしれませんが、何故その意見を受け入れてくれると言い切れるんですか?」
「それは、王族の方々が旦那様を気に入っておられるからです」
「えっ!?」
そんな理由で? と思ったのだが、確かにそういうことはあるかもしれない。
前世の世界でも、気に入った部下からの報告であれば素直に聞き入れてくれるのだが、そうでない部下からの報告に対しては重箱の隅を楊枝でほじくるように詳細を確認するタイプの上司がいたことを思い出す。まぁ、その上司の場合はどちらかというと、気に入ったとか気に入ってないというよりも、信頼している相手かどうかだと思うが。そう考えると、もしかすると俺も王族から信頼され始めてきたのかもしれない。
それを確認するすべなどないが、どちらにせよ、この世界においては世界神たち神々を除けば、ゴットフリートやエアハルトという王家王族という上司の覚えがめでたいことに越したことはない。
とりあえず、テオの話についてはこれ以上突っ込むのは止めにして、最後の相談に話を進めることにした。
「まぁ、この話はここまでとして……。テオさんにもう一つ相談があるんですが……」
「ふむ、伺いましょう」
「ありがとうございます。先ほどお話しした通り、アサヒナ魔導具店はこの敷地内にある隣の別邸をヴェスティア獣王国での拠点とすることにしましたが、こちらの拠点では直接商品を販売するつもりはありません。まぁ、王族の方々や貴族たちからの相談は受け付けますが……」
「なるほど。旦那様に魔導具を依頼される方々との商談の場として別邸を使用されるということですか」
「そうするつもりです。それで、今アルターヴァルト王国で販売している商品については、ヴェスティア獣王国での販売をザマー魔導具店を代理店とし、それら商品の販売を委託することになりました」
「それで、ベンノ様がこちらに来られたというわけですな」
テオがベンノのほうに視線を送ると、俺に話の続きを促すように視線を戻した。
「その通りです。それで、相談の内容なんですが、今のザマー魔導具店は店主であるヤン・ザマーさんが一人で切り盛りしているような小規模店で、正直うちの商品を扱うには店の規模が小さいので、アサヒナ魔導具店から出資する形で資金を提供し、新たに王都の一等地に大店を構えようと考えています」
「ふむ。王都の一等地に大店を、ですか。そういえば、最近ハインリヒ様によって取り潰しとなった貴族が所有していた物件が幾つか売りに出ておりましたな。流石に多少値が張るかもしれませんが」
あぁ、そういえば以前もそんな話を聞いたな。確か、グスタフの謀反に加担した貴族たちがハインリヒによって取り潰しになったとか。なるほど、その貴族たちが所有していた物件が売りに出ているというのなら、ちょうど良かったと言える。
「なるほど、それは良いことを聞きました。では、早速良さそうな物件がないか探してみます」
「私もご協力致しましょう」
「ありがとう、では後ほどベンノさんと一緒に物件のリストアップを進めて頂けると助かります。それと……」
「ふむ。新たな店舗で働く従業員について、ですな」
「流石はテオさん、良く分かりましたね! その通り、ザマー魔導具店の新たな店舗で働いてくれる従業員を募集する必要があるのですが、アサヒナ魔導具店はヴェスティア獣王国に伝手がなくて困っていたのです。できれば、従業員についても相談に乗ってもらえると助かるのですが……」
「お任せください、旦那様。先ほどお話しした通り、取り潰しになった貴族たちの屋敷で働いていた者の中に、未だ次の職が決まっていない者がおりましたので、その者たちに声を掛けてみましょう」
なるほど。そういえば、この屋敷の使用人たちもテオの話したような境遇だった者が大勢働いている。だが、うちの屋敷だけでは雇い切れなかった元貴族家の使用人たちが今でも職にあぶれている状況なのだそうだ。
「ありがとうございます、テオさん。よろしくお願いします」
「いえいえ、お礼を言わせて頂きたいのは私のほうです。旦那様のお陰で新たな職に就ける者が増えたのですから。クラウス様もきっとお喜びになられることでしょう」
うん? 何故ここで第五王子であるクラウスの名前が出てくるんだ? 不思議に思って理由を聞いてみると……。
「はい、この度の取り潰しによって職を失った者に対して、新たな職を得られるまでの間、クラウス様が個人で雇われることになったのです。クラウス様もグスタフ様の一件には責任を感じておられるようでしたので……」
なるほど、クラウスがそんなことをしているとは知らなかった。それにしても、職を失った使用人全員を雇えたとしても、流石に使用人の職があぶれそうだが……。
「はい、旦那様の仰る通り、流石にクラウス様の身の回りだけでは使用人が多過ぎるということで、エアハルト陛下やハインリヒ様、それにアレクサンダー様にも使用人を貸し出しておられるそうですが、それでも使用人が余る状況とのことでしたので……」
「やっぱり……。ま、まぁ、クラウス様が直接雇用されて、王城で働いている人たちならば身元も問題ないでしょうし、仕事も安心して任せられそうですね」
突然テオの口からクラウスの名前が出てきたことには驚いたが、テオに相談した結果、ザマー魔導具店の新たな店舗と従業員については何とか目処が立ちそうだ。
さて、ようやく相談したかったことが全て片付いたと思い、アルターヴァルト王国の屋敷に戻ろうとすると、テオが不意に声を掛けてきた。
「旦那様、明日はいよいよ旦那様の陞爵を祝うパーティーの当日です。お早めにこちらの屋敷へ来て頂けますようお願い致します」
「えっ、明日!?」
「はい、明日でございます」
気が付けば、ラルフとアルマを連れてこちらの屋敷にやって来てから三日が経とうとしていたのだ。明日はいよいよヴェスティア獣王国での陞爵を祝うパーティーだ。あの衣装で皆の前に出ることになるのかと思うと、今から少し恥ずかしい気分になる。
既に日も随分と傾いていたので、別邸の確認やその他諸々の所用はパーティーが終わってから対応することに決めると、明日の午前には再び屋敷に戻ってくることをテオに約束し、一度アルターヴァルト王国の屋敷へと戻ることにしたのだった。
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