アレクシスの秘密
衝撃の事実を知って言葉を失った。
数分後、何とか再起動した俺は、三人から指摘された『スキルの使用は十五歳から』という矛盾点をどう誤魔化すか悩んだが、大したアイデアも出ず……。とりあえず、目的を達成し、用が済んだこの森から王都へ戻ることを提案することにした。
三人とも少し呆れた様子ではあったが、確かにこんな森の中で話し合うことでもない、と理解してくれたようだ。既に今は馬車に乗り込み、王都への帰路についている。
俺の素性を伝えていないせいで、色々といらない心配を掛けることになりそうだ。とはいえ、俺の素性っていっても、何と伝えればいいのかも分からない。正直に、『世界神様の眷族としてエルフに転生しました』なんていえるわけもない。
とはいえ、いつまでも黙っているわけにもいかないだろうし、上手い説明を考えないとな。
王都の門を潜り、冒険者ギルドに戻ってきた俺たちは早速依頼完了の報告をすべく、受付にいるエルザのもとに向かった。
「エルザさん、ただいま!」
「お帰りなさい。その様子だと依頼は成功したのかしら?」
「当たり前よ! 依頼を出したブルマイスター錬金術店自ら保証するわ!」
「そういえば、依頼主も同行してたわね。それじゃ、一応依頼成功の確認の為、精霊石四個とギルドタグを提出してね」
そうだよ。そういえば、依頼内容は精霊石四個だった。精霊核のことが気になり過ぎて忘れてたけど、あのとき予備の精霊石を集めてなければ、今回の依頼失敗してたな……。
アイテムボックスから取り出した精霊石をヘルミーナに渡してカウンターに乗せてもらう。別に俺の手が届かないからというわけではなく、エルザにアイテムボックスから取り出すところを見られないようにするためだ。
「確かに依頼成功のようね。精霊石とギルドタグをお返しするわね。それと、こちらが報酬よ。確かめてね。」
ギルドタグを受け取り、報酬内容を皆に確認してもらった。確かに金貨十枚だ。
「エルザさん、今回も討伐した魔物があるんだけど、サーベルリザードって討伐の依頼とか出てないかな?」
「確か、サーベルリザードの背びれと尻尾の納品依頼と、肉の納品依頼があったと思うわ」
「おぉ、やった! 実はサーベルリザードを五匹仕留めたんだ。ほとんど無傷だから品質も最高さ!」
「それはすごいわね。依頼書はこちらで用意するから、もう一度ギルドタグを出してね。それから、サーベルリザードは買取のカウンターに提出してね」
「了解!」
アメリアが買取カウンターでサーベルリザードを提出すると、担当者が素材の状態の良さを褒めてくれた。今回の討伐は俺も参加したからか、褒められたことを嬉しく思う。
「サーベルリザードの背ビレが金貨五枚、尻尾が金貨二枚と大銀貨五枚、肉と皮が金貨五枚、合計金貨十二枚と大銀貨五枚になったよ! 一日の儲けとしては申し分ないな!」
アメリアがホクホク顔でこっちに戻ってきた。
今日だけで依頼を三つも成功させたのだ。それぐらい報酬があっても不思議ではなく、冒険者が一獲千金を狙える職業だというのも分かる気がする。
アメリアの提案で今回のサーベルリザードの納品報酬は四人で分けることになり、ヘルミーナもその提案を受け入れてくれた。流石に精霊石の納品依頼の報酬はブルマイスター錬金術店からの依頼だったからアメリアとカミラと俺で受け取ったが。
「これで依頼については終わったわよね! ハルト、早速店に戻って魔動人形を完成させるわよ!」
「ちょっと待った! 私たちも、その魔動人形とやらを見に行ってもいいかな? 一緒に精霊石を探したんだし、ハルトが作った精霊核がどう使われるのか気になってね」
「私もハルトの仕事が気になってた! 乗りかかった船だし、最後まで見届けたい」
アメリアとカミラの意見にヘルミーナも魔動人形の完成する様子を他の人に自慢したいのか、快く承諾したので、四人揃ってブルマイスター錬金術店へと移動した。
「ヘルミーナさん、早速魔動人形を準備して頂いていいですか?」
「もちろんよ! すぐに用意するから待ってて!」
カウンターの奥にヘルミーナが入って行ったので、その間に俺も精霊核をアイテムボックスから取り出して準備に取り掛かる。
暫くすると、昨日と同様にヘルミーナが魔動人形が収められた木箱を抱えてカウンターまで戻ってきた。
「持ってきたわよ! さぁ、早く精霊核を魔動人形に!」
「まぁ、慌てないでください」
ヘルミーナが取り出した魔動人形の胸部を開き、早速とばかりに精霊核が埋め込まれると思われる五百円玉ぐらいの凹みに精霊核を填め込んだ。
魔動人形の胸部を閉じて見守る。
しかし、魔動人形はうんともすんとも言わず、微動だにしない。
「何も起こらないな」
「もしかして失敗した?」
「そんなはずないわ! きっとなにか問題があったのよ。ハルト! 何か分かる?」
うーむ。
魔動人形に精霊核は組み込んだし、魔動人形自体には問題は無さそうだった。
となると、気になることが一つ。精霊核を鑑定したときに確認した情報だ。
『下位精霊の依代となる精霊力の結晶体。現在この精霊核には精霊は宿っていない』
確か、詳細にはそう記されていた。
だが、精霊核に精霊が宿ったからといって魔動人形が動作する保証はない。つまり精霊についての情報が不足しているのだ。
「恐らくですが、この精霊核だけでは完成しないのかもしれません。ヘルミーナさん、生前アレクシスさんは精霊核について何か仰ってませんでしたか? 例えば精霊自体についてや、精霊核に精霊を宿す方法とか……」
「うーん、聞いたことないわねぇ……。でも、お祖父様は日記を付けていたから、魔動人形を作り始めた頃の日記を見れば何か分かるかも知れないわ」
「なるほど! それで、アレクシスさんの日記はどちらに?」
「待ってて! お祖父様の書斎にあったはずよ!」
暫くしてヘルミーナがアレクシス氏の日記だという五十冊ほどの分厚い書物を持ってきてくれた。
正直こんなに物量が多いとは思っていなかったけれど、それでも何か手がかりが掴める可能性を考えると期待が膨らむというものだ。
ヘルミーナがアレクシス氏の書斎から持ってきた日記を皆で目を通すことになったのだが、効率が悪いので俺は鑑定眼で全ての日記を鑑定したのだが、驚くべき真実を知ってしまった。
一応、それっぽいことが書かれていた書物を手に取りながら、ヘルミーナを含む三人に概要を掻い摘んで説明することにした。
「ふむ、大体のことが分かりました。ですが、真偽については確認が必要ですね」
「一体何だっていうのよ?」
「結局何が分かったんだ?」
「何があったのか教えて、ハルト」
「その前にヘルミーナさんに幾つか確認したいことがあります。ヘルミーナさん、アレクシスさんは奥さんと仲が随分と良かったようですね?」
「えぇ、お祖父様はお祖母様のことを本当に大切にされてたわ。それに、いつも一緒にいるくらい仲が良かったの。だから、お祖母様が亡くなられたときはすごく気を落とされて、本当に心配したものよ」
「なるほど。その頃、ヘルミーナさんはどちらに?」
「父と母と一緒に田舎で暮らしていたわ。でも私には退屈だったし、何より成人の儀で錬金術の適性があるって言われたから、お祖父様のもとで錬金術師として修行することにしたのよ。それが二年前くらいかしら?」
「なるほど、そうだったんですね。ところで、アレクシスさんの奥さんが亡くなられたのはこの日記によると今から四年ほど前。ヘルミーナさんがアレクシスさんと一緒に暮らし始める前のようですね」
「そうね。もう四年も経つのかと思うと、月日の過ぎる早さを感じさせられるわ」
「そして、アレクシスさんが魔動人形を作り始めたのも、ちょうどその頃のようです」
「そういえば、お祖父様からそんな話を聞いたことがあるわ。でも、私と暮らし始めた頃にせっかく創った魔動人形を手放したみたいなのよね」
「えぇ、こちらの日記にもそのことが書かれておりました。どうやら、アレクシスさんは奥さんを失った寂しさから、魔動人形を創られたようです」
「そうだったの!?」
「はい。しかも、この魔動人形はただ魔力で動くだけの人形ではありません。どうやら、精霊核に精霊を宿すことで、精霊が自分の意思で動けるようにしたものだったようで、どちらかというと精霊人形というべきものだったようです……」
「「「精霊人形!?」」」
「これは日記には書かれていないので私の勝手な想像でしかありませんが、アレクシスさんは人形に宿った精霊と意思の疎通を図ることで、奥さんを失った寂しさを紛らわせておられたのかもしれませんね」
「そして、私がお祖父様と一緒に暮らすことになったから魔動人形を手放した、ということかしら?」
「そこまでは分かりませんが、恐らくは……」
なるほどね、と寂しそうにヘルミーナは呟いた。
アレクシスさんが魔動人形を手放した理由については本当のところは良く分からない。そのまま手元に置いておいても良かったのではないかと思わないでもない。だが、ヘルミーナと一緒に暮らすことが決まったときに葛藤はあったのではないだろうか。その結果、魔動人形を手放したというのなら、その選択を他人の俺がどうこう言うつもりはない。どちらにせよ、真相は闇の中だ。
「……ともかく、これで魔動人形の創り方は分かりましたね」
「そうね! でも、もうお祖父様も居られないし、手元にない魔動人形のことをいつまでも気にしていても仕方ないわ! それより、今の私たちには精霊核にどうやって精霊を宿すのかを調べるほうが重要よ!」
気丈にもヘルミーナはそう応えた。
いろいろと思うところはある様子だったが、何とか気持ちを切り替えられたようだ。
さて、精霊核に精霊を宿す方法だが、アレクシス氏の日記には特に書かれていなかった。
だが、アレクシス氏は精霊核に精霊を宿すことに成功させていたらしい。ということは、何らかの方法があるはずだ。
どうすれば精霊を精霊核に宿せるのか。早速皆と相談することにした。
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