衣装合わせと転移台
「……きて……。……さい。……さま……」
「うぅん、あと五分だけ……」
窓から差し込む光を瞼の裏で感じながらも、ベッドに掛かる布団の奥に頭まで身を潜り込ませて、自然と眠りを貪るように身体が反応する。
昨夜はアポロニアとニーナの二人に俺の出自について説明していたのだが、いつの間にか『俺の良いところを語る会』という女子会が始まってしまい、それに付き合わされる形で俺も参加することになったのだった。
悪いことに、リーザとリーゼが持ってきた飲み物の中に、何故かエールやワインといった酒類も混じっていたせいで、アメリアやカミラにヘルミーナといった、うちのお姉さま方も随分とごきげんな様相で饒舌に語っていたのだが、終盤にもなれば、ふらふらとしながら、そう、まるで物を言わぬ屍のような、もといグロッキーな状態になっていた。因みに、アポロニアとニーナもアメリアたちのペースに巻き込まれたせいで、皆と仲良くテーブルに突っ伏していた。
そんな彼女らを、未成年ということで一人酒を飲めなかった俺と、アルマとヴィルマ、それにザシャとリーザとリーゼで各々の部屋に運び、ベッドに寝かせたあと、ようやく女子会は解散と相成ったのだ。結局大事な話もできずじまいである。
因みに、セラフィは皆に酒が入ったあたりから何時の間にか俺のアイテムボックスの中に入っていたりする。うちの娘はどうやら危機察知能力が高いらしい。
「いい加減に起きてください、主様! もうすぐお昼になってしまいますよ!?」
「うぅん……。って、お昼だってぇ!?」
セラフィの声に目が覚める。この世界にきてからこれまではそれなりに規則正しい生活を送ってきたのだが、どうやら昨晩は流石に疲れていたらしく、随分と遅くまで眠ってしまっていたようだ。
「おはようございます、主様。ようやくお目覚めですね」
「あぁ。おそよう、セラフィ」
「既にザシャ殿が昼食の準備を進めております。それに明後日はヴェスティア獣王国での陞爵パーティーもありますし、準備をも進めませんと……」
「あぁ、確かにそうだね……」
陞爵パーティー自体の準備は全てテオが手配してくれているので心配なかったのだが、俺の衣装合わせが必要ということで、ヴェスティア獣王国に向かうことになっていた。
ヴェスティア獣王国の貴族として、向こうの伝統的な民族衣装でパーティーに参加することになったのだ。それはつまり、エアハルトの装備のように、両肩の露出したような、どちらかというと肌の露出の高い衣装になるらしい。
そのことをテオから聞いて、『まぁ、ヴェスティア獣王国の気候とか伝統を考えれば、そういう衣装になるのも仕方がないか』などと考えていたのだが。翌日その衣装合わせのため、ヴェスティア獣王国へ向かうつもりであることを皆に伝えると、妙にアポロニアとニーナのテンションが高くなった。
『ハルト様が我が国の伝統的な衣装で参加されるのですか!? そんな、それは本当でしょうか!? え? 衣装合わせでヴェスティア獣王国の屋敷へ向かわれる? なるほど、私もご一緒させて頂きます!』
『アポロニア様が同行されるのでしたらぁ、もちろん私もぉ同行させて頂きます~』
『え、えぇ……。それは構いませんが……』
『では、明日の午後にでも屋敷に向かいましょう!』
『そうですね、分かりました』
そんな昨晩のやり取りを思い出す。そして、セラフィは先ほど『もうすぐお昼になる』と言ったのだ。
「しまった、寝過ごしたっ!? 急いで着替えないとっ!」
「主様、お着替えはこちらです」
こうして、セラフィが用意してくれた洋服に急ぎ着替えると、食堂へと向かう。すると、既にアポロニアとニーナの二人が席に着いており、ザシャが料理を並べ始めていたところだった。どうやら間に合ったようだ。
「アポロニアさん、ニーナさん。おはようございます」
「おはようございます、ハルト様」
「おはようございます、旦那さま~。昨晩は遅くまでお疲れさまでしたぁ。よく眠れましたか~?」
「えぇ、おかげさまで、ぐっすり眠ることができました。ところで、アメリアさんたちはもう起きられてますか?」
食堂に姿の見えないアメリアたちについてアポロニアとニーナに確認を取ると、二人とも左右に首を振る。
「いいえ、まだ降りてこられてはいないですね」
「昨晩は遅かったからですからねぇ。それにお酒も入っておりましたし~」
ふむ。ニーナの言う通り、リーザとリーゼが持ち込んだワインやエールを随分と飲んでいたようだし、アメリアたちは暫くは部屋から出てこないかもしれない。因みに、それらのお酒を持ち込み、皆と同じく飲んでいたリーザとリーゼは何ともないように俺たちの料理を運んできてくれた。どうやら姉妹はお酒に強いらしい。
「では、先に昼食を頂きましょうか。ヴェスティア獣王国へはアメリアさんたちが揃ってから向かうことにしましょう」
「そうですね、分かりました」
「分かりましたぁ」
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昼食を終えた俺は再び部屋へ戻ると、ヴェスティア獣王国へ向かうにあたり準備を進めることにした。
といっても、身支度なら既にできているし、移動手段である魔導船スキズブラズニルもいつでも出発可能だ。では、何を準備するのかというと、以前から懸念していた課題を今回新たに得た能力を使って解決しようと考えたのだ。
「さて、ちょうど五十センチ四方の台を二つ創造してっと」
創造により五十センチ四方の脚の付いた将棋盤か碁盤といった黒色の台を二つ創造する。一応、側面には金箔で動物や植物の装飾の施されたような造りとなっており、高級さを感じさせる。
「この二つの台に転移能力を付与する、と……」
俺は二つの台に両手を掛けると、織り込むように転移を付与する。そう、この二つの台に転移能力を付与することで、互いに物資を送り合うことができる転移装置のようなものを創れないかと考えたのだ。
右の台からの転移先を左の台へ、左の台からの転移先を右の台へと指定する。暫くすると、無事に付与が完了したらしく、台へと注がれていた魔力と神力が途切れたことを感じた。
「よし。早速試してみよう!」
アイテムボックスから昨日実験で使用した精霊石を右の台へ置く。すると淡い光に包まれた精霊石がふっと消えると、隣に置かれた左の台の上に現れた。
「うむ、大成功だ! これで、俺がスキズブラズニルでアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国の間を往復しなくても済むな!」
そう、アルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国の間を小一時間も掛からずに移動できる魔導船スキズブラズニルを持っているという理由から、最近は両王国や両王家から手紙や荷物の運搬など、様々な依頼を受けることが増えていたのだ。どちらの王国からも俺が移動する際に一緒に送ってくれれば良いとは言ってはくれるのだが、流石に何日も放置するわけにはいかず、結局は依頼があったその日のうちに送り届けるようになっていたのだ……。
「それに、この台、そう『転移台』があれば、屋敷間のやり取りも簡単になるし、ラルフとテオの間で連携が取り易くなるだろう」
そんなことを考えながら、たった今創造したばかりの『転移台』の改良を進めることにした。
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どれだけ時間が経っただろうか。『転移台』の改良も納得の仕上がりにできた頃、突然扉を叩く音が部屋の中に響き、ふと我に返る。
「旦那さまぁ、リビングで皆様がお待ちです~!」
「はい、分かりました!」
扉越しにニーナの声を聞いた俺は、改良を終えた転移台をアイテムボックスに仕舞うと、皆の待つリビングへと向かうことにした。
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