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新たな能力の確認

 さて、世界神との神話通信を終えた俺は、早速新たに手に入れた能力『転移(小)』を試すべく、アルターヴァルト王国は王都アルトヒューゲルに構えた屋敷の、その中にある俺の執務室に足を運ぶ。


 室内に入ると、その奥に不自然に存在する木製の扉が一つ。その扉の向こう側には、以前魔導船スキズブラズニルを創造する際に空間操作で拡張した、さながら『精◯と◯の部屋』のような、広大なスペースが広がっている。転移の効果を試すには十分な広さだろう。


「さて、では早速試してみるか」


 俺は創造により簡素な机と椅子を二脚用意すると、アイテムボックスから小石ほどの精霊石と魔導カード『神の試練』のカードパックを一袋取り出す。そう、まずは小さなものから転移を試してみようと考えたのだ。


 椅子の一つを机から五十メートルほど離れたところに設置して、再び俺は机の前に戻る。これから試すのは、机の上に置かれた精霊石とカードパックを離れたところに置いた椅子の上へと転移させるというものだ。


「よしっと。ではまず、精霊石を試してみようか。『転移(小)』!」


 俺が転移の対象を精霊石に定めて転移を唱えると、精霊石が俄かに淡い光に包まれる……。だが、そのまま光は次第に消えていき、そしてそこには先ほど取り出したときと全く同じ位置に精霊石が残っていた。


「あれ? もしかして、失敗した?」


 状況から見て、転移していないのだから完全に失敗だった。魔法や能力の行使に失敗したことなどこれまで経験したことがなかったので、少し凹みつつも、改めて一体何が悪かったのか、原因を考える。


 先ほど俺が転移(小)を使った時には、確かに精霊石を光が包み込んでいた。ということは、転移(小)の発動自体に失敗したという可能性は低い。そして、発動はしたものの、転移しなかったということは、転移先の指定にミスがあったのではないだろうか、と推測する。


 俺は先ほど転移先として離れた場所に置いた椅子にしようと考えてはいたものの、実際に転移(小)を発動したときに具体的な指定をしていなかった。ならば、改めて発動時に転移先を指定してみてはどうだろうか。そのことに思い至った俺は、早速試すことにした。


「転移(小)『椅子の上』!」


 カツーン!

 

 魔法を使うときの要領で転移先を指定する。すると、精霊石がまたも俄に光りに包まれると同時にその姿を消した。そして、それとほぼ同時に、遠く離れたところから小物が何かにぶつかった音が鳴り響いた。


「ふむ、今度は確かに精霊石が消えてなくなったけれど……」


 本当に精霊石は転移したのだろうか? 能力を疑っているわけではないし先ほどの音で恐らくは成功したのだろうと思うのだが、それでも、この目で実際に確かめないことには信じられるものではない。


 ということで、早速先ほど離れた場所に置いた椅子に向かう。


「精霊石は……。おおっ! 確かに俺がアイテムボックスから取り出した精霊石だっ!」


 椅子の上に転がる精霊石を右手で摘み上げると、精霊石に何か変化がないかと四方八方から確認する。


「あぁ、そうだ。鑑定の魔眼も使っておいたほうがいいな!」


 鑑定の魔眼のレベルを上げる為には何度も鑑定したほうが良いそうだ。そんな世界神からの助言アドバイス通りに、鑑定の魔眼を使って確認を行う。


『名前:精霊石

 詳細:精霊がその身を休める為の依代として鉱石を使った際に、鉱石内に溜まった精霊の力の残滓が結晶化したもの。

 効果:精霊力回復、魔力回復、神力回復

 備考:錬金素材(精霊石×10:精霊核※錬金術Lv9以上)』


「ふむ、特に変化はないようだな……。今度は手に持った状態で試してみるか。転移(小)『机の上』!」


 すると、再び光りに包まれた精霊石の感触が右手から不意に消える。と同時に、机の方からことりと音が聞こえてきたのだ。急ぎ机に戻ると、出しっ放しにしたままのカートパックの隣、もっと言えば、机のちょうど中央に精霊石が乗っていたのだ。それを見て再び実験を始める。


「転移(小)『右に十センチ移動』!」


 すると、精霊石がその場から俺から見てちょうど俺の手の長さの半分ほど右側に転移した。


「何とも、面白いな」


 俺が先ほど指定した転移先は一見細かく転移先を指定しているように聞こえるが、その実随分と曖昧な指定だ。確かに十センチというのは恐らくだが正確に移動したように思う。俺の手のひらの付け根から中指の先まではおよそ二十センチほど。精霊石はその半分ほど移動したのだから恐らくは正確に十センチだけ転移したのだろう。


 だが、『右に』という曖昧な指定は俺を基点としていた。単に右といって何を基準として右とするのか。もしも、精霊石を基点とするならば、俺から見て左側に移動したはずだ。それが俺を基点としたということは、特に指定がない方向を指定した際には、俺を起点として転移するということになる。


 試しに、改めて精霊石を基点として右に十センチ移動を試したところ、想像通り精霊石は俺から見て左に転移した。しかも、それは左上や左下等というように角度的なズレがあるものではなく、元の位置にピタリと戻ったのだ。


 何とも都合の良い、転移を発動した者の意思というか、意図を汲み取って発動してくれるらしい。


 改めて、魔導カード『神の試練』のカードパックについても、先ほど精霊石に対して行ったことと同じことを一通り試してみるが、特に何の問題もなく転移させることができた。


 続いて、俺は創造により三つのサイズの立方体を創り出す。これから行うのは、世界神が話していた『転移(小)』の制限がどれほど厳密なものかを確認することだった。


 世界神の話によると、『転移(小)』で転移可能なサイズは五十立方センチメートル程度だと話していたので、五十立方センチメートルちょうどのサイズ、一センチ大きいサイズ、そして一センチ小さいサイズを用意してそれぞれ転移を試してみたところ、やはり世界神の話していたことは正しいらしく、五十立方センチメートルのものと一センチ小さいサイズの立方体は転移できたが、一センチ大きなサイズの立方体は、最初に精霊石に転移を試した時と同じように転移に失敗した。


 更に、一ミリ単位でサイズを変えてみたがやはり上手くはいかず、五十立方センチメートルサイズが限界のようだ。因みに、重さについても調べてみたが、どうやら重量については不問のようで、百グラムから百トンまで試してみたが、問題なく転移させることができた。


「なるほど、では球体についても同様に調べてみるか」


 念の為、こちらも三つのパターンを試すことにした。一つ目は体積が五十立方センチメートルの立方体と同じになる球体、二つ目は五十立方センチメートルに収まる球体、そして三つ目は体積が五十立方センチメートルを超える球体だ。その結果、一つ目と二つ目は問題なく転移させることができたが、三つ目は失敗した。つまり、体積が五十立方センチメートル以内であれば、その形状や重量についてはどのようなものであろうと、問題がないということと等しかったのだ。


 あれ? ということは……。


「もしかして、アロイスがずっと入っていた頭陀袋(つまり、俺が空間操作して拡張したアイテム)に物をたくさん入れてもカウントされないのではないだろうか?」


 そんな、ちょっとした気持ちで試した実験では、見事に俺の目論見通り頭陀袋の中に入っているアイテムについては全く認識されず、頭陀袋の体積のみが換算されることになったのだった。


 ということは、頭陀袋改めアイテムバッグさえあれば、幾らでもアイテムを転移させられるってことか!? これ、世界神の言う通り、サイズは制限されているものの、その能力は通常の転移能力と変わらないらしい。その話を聞くと、今の効果でも十分過ぎるほどに高い効果があると言えた。


 ふむ。そういうことならば、『空間操作』と『転移(小)』、この二つの能力は随分と便利なものになるかもしれない。


 そんなことを考えながら新たな魔導具と装備の試作をもくもくと続けていると、いつしか昼食の時間をとっくに過ぎてしまっていた。結果、アイテムボックスから飛び出てきたセラフィによって夕食時であることを知らされ、ようやく俺は執務室に戻ってきたのだった。

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