錬金と衝撃の事実
俺たちは崖の下にいるサーベルリザードを討伐するための作戦を考えていた。
奴らは凶暴だが、素材として錬金術師からの評価は高く、それは即ち冒険者ギルドでの買取額も高いことを意味しており、いかに傷つけずに討伐するかを検討していたのだ。
「私だと剣での近接攻撃になるから、当然傷を付けないと倒せない。それにサーベルリザードは五匹もいるしね。正直素材のことなんて気にしてられないかな」
「私も火魔法と風魔法は得意だけど。傷付けずに倒すことは難しい」
「わっ、私も。ハルバードは得意だけど、どうしても傷付けずには倒せないわね」
三人ともサーベルリザードを上手く討伐する方法がないようだった。
確かに魔物を倒すには致命傷となるダメージを与える必要がある。
しかし、それを傷つけずに、となると手段は限られる。毒を与える攻撃方法も考えたが、毒によって折角の肉が台無しになってしまうから却下だ。
となると、麻痺させるか、眠らせるか……。
「私に任せてもらえませんか? もしかしたら、素材をそれほど傷付けずに倒せるかも知れません」
「なにか方法があるなら試してみるといいさ。どうせ今できることは少ない」
「確かにそうね。ハルトに考えがあるなら、やってみなさいよ」
「私もハルトを信じてる。やりたいようにするといい」
みんな、俺のことを信じてくれているようだ。まぁ、失敗してもこの位置ならリスクも少ないし、アメリアとカミラでどうとでもできるからだろうけれど。
「では、早速。闇魔法『昏睡』」
闇魔法『昏睡』は対象を深い眠りに落とす魔法だ。魔法書の解説によれば、効果の効き具合如何では死に至るほどの衝撃を受けても気付かないくらい眠りにつくこともあるそうだ。
サーベルリザードは五体いたので、魔法の対象範囲を指定して五匹同時に眠らせる。すると、特にレジストされることもなく五体のサーベルリザードは眠りに落ちてその場で動かなくなった。
これなら、あとはアメリアの一撃で仕留められるはずだ。
「今魔法でサーベルリザードを眠らせました。これで多少の攻撃したくらいでは起きないでしょう。アメリアさん、あとはお願いできますか?」
「あぁ、任せてくれ。それにしても、ハルトは凄いな!」
「ハルトは魔法の才能がある。同じ魔法使いから見ても頼もしい仲間!」
「ハルトは錬金術だけでなく、魔法もできるのね。流石、私の師匠だわ!」
なんか皆に褒められると恥ずかしい気分になるな。しかし、いつから俺はヘルミーナの師匠になったんだ? まぁいいや。
崖の下側に降りてきた俺たちは早速サーベルリザードにとどめを刺す。アメリアが脳天に剣を突き刺すと、いとも簡単に絶命した。
「相手が寝ているとこんなにも簡単に倒せるんだな……」
アメリアが一人つぶやきながら次々に倒していく。
確かに、アメリアとカミラのパーティー『蒼紅の魔剣』の戦闘スタイルはアメリアが前衛で切り込み、カミラが爆発魔法で支援する、攻撃的な戦闘スタイルだ。
格下の敵ならそれほど問題ないだろうが、同格以上になると力押しだけでは厳しい局面が増えるのは想像に難くない。更に上のランクを目指すなら、多様な戦闘スタイルをこなせるようにならないといけないだろう。
そんなことを考えているうちに、アメリアはサーベルリザード五匹を倒し終えた。この後は血抜きしてアイテムバッグに入れて持ち帰るつもりだ。
「こっちは全部終わったぞ!」
「ありがとうございます! それでは、私も精霊石を採取します!」
アメリアの声を受けて俺は崖の下に駆け寄り、精霊石二つを無事回収することができた。これで手持ちが四つ。ヘルミーナの分と合わせて十個集まったことになる。
「やったわね! これで精霊核が創れれば、魔動人形も完成よ!」
「確かにそうなんですが。念の為、もう少し集めておきませんか? なにかあったときのリスクは低くいほうがいいですよ」
「確かにそうね。ハルトの言うことも分かるわ。それじゃ、もう少し探しましょ!」
俺は錬金術師としてヘルミーナと話し合い、俺たちは予備の精霊核が作れるほどには精霊石を集めることとなった。その結果、二十七個の精霊石を見つけることができた。とりあえず、これだけあれば魔動人形を動かす分には問題ないだろう。
「十分な数も手に入りましたし、この辺で終わりにしましょうか」
「そうね! これだけあれば精霊核も作れるはず。ちょっとハルト、精霊核がちゃんと作れるか試してみれば?」
確かにヘルミーナの言う通り、ここで精霊核を作れるか試してから王都に戻ったほうが、失敗したときに二度手間にならなくて済む。
仮に失敗したなら、もう一度十個の精霊石を探せばいいだけだ。
「分かりました。確かに確認しておいたほうが良いですね」
アイテムボックスから精霊石を十個取り出し、三人が見守る中で精霊核の錬金を試みる。
「錬金『精霊核』」
十個の精霊石から、宿っていた精霊の力の残滓が光り輝きながら次々に抜け出して宙を舞う。
その光景は昔田舎で見た蛍のように幻想的だ。宙を舞っていた十個の光の輝きは次第に一点に集まって大きな輝きに変わるとともに、次第に光が収まっていった。
そして、その光の跡には淡い黄緑色の結晶が残されていた。
『名前:精霊核
詳細:下位精霊の依代となる精霊力の結晶体。現在この精霊核には精霊は宿っていない。
効果:精霊力回復(小)、魔力回復(小)、神力回復(小)
備考:錬金素材(精霊核×10:精霊玉※錬金術Lv10)』
どうやら精霊核の錬金に成功したようだ。しかし、気になる点が二つある。
一つは、精霊核が下位精霊の依代であり、今は精霊が宿っていないという情報。精霊がまだ宿っていないのは作ったばかりだからだと思うが、宿っていない状態で魔動人形が動くのか。それとも宿らないほうがいいのか。検証が必要そうだ。
二つ目は備考欄の精霊玉。恐らくだが、より上位の精霊を宿らせることができる依代ではないかと思われる。
この世界には魔法と同じく六属性の精霊たちが存在するそうだ。
また、精霊にもランクがあり、最も多く存在する下位精霊、数えるほどしか確認されていない中位精霊、そして各属性の精霊たちの頂点とも言える存在の上位精霊がいるらしい。
基本的に下位精霊が扱う力は各属性の力の一部のみだそうで、中位精霊や上位精霊になるほど扱える力が大きくなるそうだ。
まぁ、上位精霊の依代なんて作ることないと思うけどね。
「成功したみたいですね」
「ハルト、やったわね!」
「「あれがハルトの錬金術……。」」
ヘルミーナは喜んでくれているが、アメリアとカミラの二人は少し呆然としていた。
そういえば、錬金するところを二人に見せるのは初めてだったか。ヘルミーナには錬金するところを見せていたが、初めて見ると驚くのも無理ないかもしれない。この世界の錬金術師はレシピを秘匿することが多いのでそもそも錬金する様子を見る機会は少ないのだ。
「そういえば、お二人にお見せするのは初めてでしたね。これが私の錬金術、です。一応、熟練の錬金術師と同じ程度の錬金ができるみたいです」
「そうよ。ハルトほどの錬金術師は今の王都には居ないわ。名工といわれたお祖父様にも匹敵するかもしれないのよ? こんな小さな子供がそれほどの錬金術師だとは誰も思わないわ。このことが知られたらちょっとした騒ぎになるわね」
「その通りだと思う。だけど、せっかくの才能を世に出さないのはハルトにとってもよくない。だから、騒ぎになったとしてもハルトは錬金術師として表に出たほうがいい。私たちはハルトの保護者も同然。だから、何かあっても私たちがハルトを守る」
「カミラの言う通りだね。私は錬金術のことはよく分からないけど、ハルトのことが凄いっていうのはわかってるつもりだよ。だから、私たちは何があってもハルトを守るだけさ」
「わかったわ。二人とも覚悟ができているなら、私から何か言うつもりはないわよ。でも、相手は貴族や富豪が相手になってくると思うから十分気を付けてよね」
「あの。なんか三人で盛り上がっておられますけど、どういうことでしょうか?」
三人の話の内容に一人ついていけなくなってしまった。
俺はただ錬金術を見せただけだというのに、何故そこまで騒ぎになるというのか。確かに、子供が熟練の錬金術師と同じ技量を持つというのは珍しいかもしれない。
だが、生前でも天才卓球少女や、天才少年棋士、天才子役など子供の頃から活躍するような人はいたし、話題になるのは常ではあったが。
「はぁ、アンタねぇ……」
「まぁまぁ、ヘルミーナもそこまでにしておきなよ。ハルトはまだ王都に来たばかりで、私たちの文化に疎いんだ」
「ハルト。王都アルトヒューゲルでは十五歳になると成人として認められるために神殿に行って洗礼を受ける。神殿で洗礼を受けるとスルーズ神様から自分の中に秘められた才能を開花させるスキルを授かる」
「つまりねぇ、成人にもなっていないハルトが錬金術スキルが使えるということは普通じゃないってことなのよ! アンタ、本当に何者なわけ?」
な、なんだってーっ!?
転生の時に種族だけでなく年齢を自由に決められるからって、世界神に聞いたから十歳に決めたのに、なんと転生先の世界では十歳だとスキルが使えない設定だった。
しかも、種族による適正で得られるスキルも同じく洗礼を受けた後に得るのだそうで、エルフだろうがドワーフであろうがそれは変わらないらしい。
そんなこと、一言も世界神から聞いてないんだけど……。
また世界神に確認しなければならないことが一つ増えた瞬間だった。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
 




