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招待状の送り先とヒヤリ・ハット

 さて、ヴェスティア獣王国王都ブリッツェンホルンの屋敷では、ヴェスティア獣王国にて伯爵位を賜った、俺ことハルト・フォン・アサヒナ伯爵、またの名を『グリュック伯』もしくは『二国伯』と呼称される人物の陞爵を祝うパーティーについて話し合われていた……。


 まるで、他人事のように傍観していると、テオから不意に声が掛かる。


「……そういうことで、招待状はエアハルト陛下、ハインリヒ様、アレクサンダー様、クラウス様、それに、歓送パーティーでお会いされたと伺っておりますが、元老院からはヨハネス様と五貴族家のご当主、アルノー様と神殿の関係者の方々にお送りしようかと思いますが、よろしいでしょうか?」


 テオがそのように聞いてきたのだが、ヴェスティア獣王国の勝手が分からないので基本的にはすべてテオに一任することにした。


 一点だけ、エアハルトやハインリヒたち王族に対して一伯爵が招待状を送るというのは問題ないのかと王都アルトヒューゲルの屋敷でラルフに質問したことと同じことを聞いてみたのだが、これについてはラルフと同様にテオも全く問題ないでしょうと答えてくれた。


「それでは、すべてテオさんに任せたいと思います。というか、元老院の貴族の方々についてはお名前を存じ上げないのですが、大丈夫でしょうか?」


 そう、歓送パーティーで出会った、ヨハネスの取り巻きのようにいた貴族たちの顔は何となく覚えているものの、全員の名前を覚えているわけではなかったので、その点について気になったのだが……。


「問題ございません。ヨハネス様が現在懇意にされている貴族家は五家ございますので、そちらのご当主を招待すれば問題ないでしょう」


「そういえば、五貴族家でしたっけ?」


「はい。ヴォルフ公爵家、トラレス伯爵家、ハインツェル伯爵家、カロッサ子爵家、ベッセル男爵家の五家でございます。ヴォルフ公爵家は王家とも縁のございます由緒あるお家柄ですし、他の四家についてもご当主方々が元老院の有力者でございます」


 ふむ。そういえば、そんな名前を聞いたような気がしたが、気にしていなかったので覚えていなかった。ついでに言うと、アルノーの仲間たちについても同様だったが。


「なるほど、解説ありがとうございます。それで、パーティーの開催日についてなのですが、いつ頃にするべきでしょうか?」


「そうですね、旦那様のご都合がよろしければ、早ければ三日後には準備が整うかと思います」


「「「三日後っ!?」」」


 テオの話に俺だけでなくラルフとアルマも驚きの声を上げる。正直、どれだけ最短でも一週間は掛かるものと思っていたのだが、それにしても三日とは随分と早い。


「……テオさん、本当にそれほど早く開催できるんですか? 大体我々の準備ができたとしても、招待する相手の都合もあるでしょう?」


 そう、テオたち使用人が頑張って準備を急ぎ終えたとしても、招待状を送る相手の都合が付かなければ、何の意味もないのだ。


 だが、俺の質問に対して表情一つ変えずにテオが答える。


「問題ございません。旦那様がアルターヴァルト王国でも陞爵なされることは既定路線として皆様ご理解頂いておりますし、旦那様がこの一月の間にグリューエン鉱山の調査を行わなければならないということも、もちろん皆様ご存知でございます。そして、それら旦那様のご予定をを鑑みますと、なるべく早い時期に開催したほうが良いだろうということも、当然ご理解頂いております」


 つまり、テオは俺がアルターヴァルト王国で伯爵位を陞爵し、その陞爵を祝うパーティーが開かれることも予想した上で、俺のスケジュールを踏まえて既にエアハルトを含め、ヴェスティア獣王国での陞爵を祝うパーティーをなるべく早く開催できるように、事前に各所への根回しを終えているというのだ。


 それ故に、あとは俺がヴェスティア獣王国王都ブリッツェンホルンの屋敷へと足を運べば、たった三日でパーティーを開催できるまでになっているのだという。


 もしも、俺がブリッツェンホルンの屋敷に足を運ばなければ、全てが無駄になってしまう可能性があったというのに、だ。そのことについてテオに聞いてみると……。


「旦那様はヴェスティア獣王国で先に伯爵位を陞爵なされたのですから、すぐにこちら(ヴェスティア獣王国)で陞爵を祝うパーティーを開催するようご命令があるものと信じておりました」


「うっ……」


 すっかり失念していたので、テオの言葉が胸に突き刺さる……。


「……ただ、旦那様は若くして貴族になられたばかり。もし、ヴェスティア獣王国とアルターヴァルト王国、そのそれぞれで陞爵なされた際に、どちらの国から先にパーティーを開催すべきかは、旦那様のお側に付いている者が進言すると考えておりました」


「「うぐ……」」


「それに、旦那様のお側にはアポロニア様とニーナが付いておられますので、きっと助言がなされるものと信じておりましたので」


 そう話すと、テオが頭を下げた。


 テオの言葉はラルフとアルマにも胸に深く突き刺さるものがあったようで、苦い表情を浮かべている。


 まぁ、ラルフに至ってはアルターヴァルト王国でのパーティーのことを真っ先に考えてしまったのだから、仕方がないか。アルマも特に気にしているような様子はなかった。恐らく二人ともヴェスティア獣王国のことについてまで、関心が向かなかったのだろう。


 俺も前世で経験したが、他部署や他拠点のスタッフと連携して進めていたプロジェクトで、自身や自分の周りのスタッフの作業タスクばかりに目が行ってしまい、他拠点や他部署のスタッフに対して目を配ることができなかった結果、大きなトラブルに繋がったという苦い経験がある……。


 俺はヴェスティア獣王国とアルターヴァルト王国の両国で伯爵位となったのだから、当然両国の動向に目を配らなければならなくなったのだ。


 その点を理解して行動していたテオと、その点に目を向けられなかったラルフとアルマ……。今回はアポロニアとニーナがいたから気付けたものの、そうでなければ大きなトラブルに繋がった可能性がある。『ヒヤリ・ハット』の事例だろう。


「テオさんもそこまでにしてあげてください。ラルフさんとアルマさんも、今回は良い経験になったでしょう。私はヴェスティア獣王国とアルターヴァルト王国で伯爵位を陞爵しました。つまり、今後は両国で活動をしていくことになります。そうなると、両国での拠点である二つの屋敷、そこで働く執事や使用人たちにはお互いに連携を取り合いながら業務に取り組んで頂く必要があります。つまり、どちらの屋敷で働いていても、皆は同じ主人に仕える仲間として、これからも私のことを支えて頂けると助かります」


「「「はいっ!」」」


 そう話すと、テオ、それにラルフとアルマ、そして、その場にいた使用人たち全員が跪いて頭を下げた。これで、両国に構える二つの屋敷も連携を取れるようになるだろう。とはいえ、両国の間には相応の距離がある。迅速に連絡を取れるような手段が必要になるかもしれない。


 あ、スマホのようなものがあれば良いんだけど、それだとこの世界にそぐわないって、世界神様からNGが出そうだしな。何か連絡手段を考えよう……。


「はぁ。考えないといけないことは、まだまだたくさんあるな……」


 そんなことを零しながら、ヴェスティア獣王国での陞爵を祝うパーティーに向けて準備を進めることにした。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

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