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解毒薬と販売代理店(後編)

「それで、ザマー魔導具店って、一体どんなお店なのよ?」


 ヘルミーナからそのように質問を受ける。だが、それを説明する前にヘルミーナとベンノにはヴェスティア獣王国の魔導具事情を説明しなければならないだろう。


「はい。そのお話をする前に、改めてヴェスティア獣王国の魔導具事情をお話させて頂きます。ご存知かもしれませんが、獣人族の方のほとんどは魔力をお持ちではありません。そのため、我々が普段使用している魔導具を使用することができません」


「それは聞いたことがありますね。その代わりとして、魔力を発生させる魔石というものを使うとかなんとか……」


「その通りです、ベンノさん。ヴェスティア獣王国では、魔石を使用した魔導具が主流です。ですが、魔石は大変貴重なものなので、魔導具の価格もアルターヴァルト王国のそれと比べて非常に高価なようです。ですから、アルターヴァルト王国以上に、本当に一部の富豪や貴族、王族といった限られた人たちしか手に入れられないそうです」


 そう伝えると、ベンノは考え込むように腕を組む。


「ふむ、そうなりますとヴェスティア獣王国で魔導具を販売するのは難しそうですね。得意先を見つけるにしても、ヴェスティア獣王国の貴族たちと関係を築くのも時間が掛かりますし……」


「あ、そのことなんですが、実は、この度ヴェスティア獣王国のエアハルト陛下より伯爵位を賜りまして……。ヴェスティア獣王国の貴族になりました」


「……えっ!?」


「それだけじゃないわよ。ハルトはヴェスティア獣王国王家の専属錬金術師になったんだから。本当に、気が付けば肩書が増えてるわよね?」


「……はっ!?」


「リーンハルト様曰く、近くアルターヴァルト王国でも伯爵位に陞爵されるそうですが……。それはともかくとして、そういうことなので、ヴェスティア獣王国の貴族と関係を築くことは可能ですし、既に何人か知り合いもいます。それに、王家の専属錬金術師として、エアハルト陛下を始めとした、王家の方々とも繋がりができましたので、ベンノさんが懸念されている点については問題ないでしょう」


 俺とヘルミーナからヴェスティア獣王国の伯爵になったことと、王家の専属錬金術師となったことを伝えると、ベンノは目を丸くして驚いた。


 だが、それ故にベンノが懸念している点もクリアしているということを伝えると、今度は天を仰ぐようにして唸った。


「うぅん、なるほど……。それにしても、アルターヴァルト王国だけでなく、隣国ヴェスティア獣王国でも貴族になられたなど、聞いたこともありませんが……。流石は、アサヒナ子爵様、いやアサヒナ伯爵様ですね……。ですが、私が心配していた点も解決しているようですので、その点については安心致しました……。はぁ……」


「何か、すみません。こんなことになってしまって……。私自身でも驚いているくらいでして」


「いえ、アサヒナ伯爵様が謝られるようなことではありません! むしろ、私たちが勤める魔導具店の店主が隣国の伯爵位を陞爵されたのですから、これは大変めでたいことですから。従業員一同を代表してお祝い申し上げます! この度はヴェスティア獣王国伯爵位への陞爵、誠におめでとうございます!」


 ベンノがそう言いながら勢い良く頭を下げた。俺は内心ローテーブルに頭をぶつけるんじゃないかとヒヤヒヤしたが、その心配は杞憂に終わった。


「えっと、そろそろ話を戻しますね。ヴェスティア獣王国の魔導具店では魔導具は貴族や王族といった限られた人たちにしか売れないのが実情です。では、他に何を売っているのかという話ですが……。一応、回復薬の類も販売されています。ですが……」


「あぁ、なるほど。何となく分かったわ。頑丈な獣人族には回復薬を必要とする機会がない、つまり回復薬は売れないということね?」


「えぇ、ヘルミーナさんの仰る通り、獣人族の方たちは高い体力をお持ちの方が多く、またその治癒能力も高いことから、多少の怪我なら放っておいても治るそうです。ですから、獣人族の方たちには回復薬はほとんど売れないのが実情です」


 そう伝えると、再びベンノが唸る。


「うぅむ……。そうなりますと、ヴェスティア獣王国では貴族や王族にコネのない魔導具店は淘汰される運命、ということですか……」


「はい。先ほどお話ししたザマー魔導具店が、まさにその典型的な例でして、魔導具が売れず、回復薬も売れないという、経営が行き詰まった状況だったのです。そう、店主が腐ったものを食べて倒れるほどに……」


「うぇっ、想像したらこっちまで気持ち悪くなったじゃない……。それで、そんな潰れそうな魔導具店を魔導カード『神の試練』の販売代理店にしようという、ハルトの意図は一体何なの?」


 そう話すと、ヘルミーナが俺の目をじっと見つめてきた。同時にベンノも俺のほうに視線を向けてくる。


 こうなったら正直に話したほうが良いだろう。そう、俺がザマー魔導具店に投資したということを。そして、その投資した金額を……。


「えっと、その、落ち着いて聞いてください。ザマー魔導具店の店主であるヤン・ザマーさんに倒れておられた原因を伺ってみると、魔導具が売れないどころか、魔導具に必要な魔石を入手できないということでして……」


「そういえば、エアハルト陛下からもそのことでグリューエン鉱山の調査を依頼されていたわね……」


「そうなんですよ! つまり、魔石が入手できなければ魔導具を販売することができない、回復薬といった商品だけでは売り上げが立たないという状況でして、そんな事態に陥っている同業者を放って置けなくてですねぇ……。ちょうど、魔導カード『神の試練』をヴェスティア獣王国でも広めようと考えていたときに、ザマーさんと運命的な出会いをしたものですからね、魔導カード『神の試練』についてお話ししたんです。そうしたら、ザマーさんも私の理念に共感して下さったんですよ!」


「まぁ、ハルトの言うことは分かるけれど……。何か引っかかるわねぇ?」


「そうですね、ヘルミーナ店長の仰る通り、ヴェスティア獣王国の魔導具店の実情を聞かされていれば、何となく理解はできますが……」


 難しい表情を見せる二人に、俺は再び大げさに言葉を重ねる。


「いやまぁ、そういうわけで、私たちが新たに自分たちで魔導具店を開くよりも、私たちの商品を販売してくれる代理店を見つけたほうがトータルのコストが抑えられるかなと、そう思いまして。それで、ザマー魔導具店に魔導カード『神の試練』の販売を委託することにしたんですよ!」


「なるほどねぇ。そういうことなら、分からなくはないけれど……」


「確かにそうですね。自分たちで新たな店を構えるよりもリスクが少ないですし、私も良い案だと思います」


 二人から賛同を得られたことで俺は大いに安堵した。


「ありがとうございます! お二人にそう言って頂けると助かります! いやぁ、これで彼の魔導具店に出資することができます。既に支度金として金貨十枚、それに魔石と魔鉱石の購入代金として白金板一枚を渡していたので、お二人に駄目って言われたらどうしようかと思っていたところです。これで店主のザマーさんも喜ぶことでしょう。本当に良かった!」


「「……は、白金板一枚……?」」


「……あ、あれ? どうされました、御二人とも……?」


「ハルトっ! アンタはもうちょっと自重しなさいっ!」


「アサヒナ伯爵様、白金板などという大金は流石に……」


「あ、やっぱり駄目でしたか……?」


「「駄目に決まってるじゃない(決まっています)っ!」」


 二人から声を揃えて駄目出しされたこのあと、滅茶苦茶叱られたのだった。


 というか、注意されたというほうが正しいのだが。ベンノ曰く、一度会っただけのような信用のおけない人物に白金板一枚もの金額を預けるのは良くないとか、資金を預けるにも同じ価値のある担保を差し押さえるべきだとか、そういったことを懇々と話してくれた。


 一応、魔導具の契約書を使って、魔石と魔鉱石の購入がされなかった場合、ザマーの全財産である魔導具店と魔導具の在庫を差し押さえるようにしている旨を伝えたところ、ようやくベンノによるお説教は終わったのだった。


 因みに、ヘルミーナからは「全く、ちょっと目を離すとこれなんだから! 今度から私を一緒に連れて行きなさいよね!」という、ちょっとツンデレを含んだお言葉を頂くだけで済むことになった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

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