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カニ料理と尋問

 俺とヘルミーナは大通りを通って冒険者ギルドへと向かう。


 なぜか俺の左手はヘルミーナの右手と繋がれていた。まぁ、子供の俺を心配してのことなんだろう。


「そういえば、冒険者ギルドへの依頼って結構するの?」


「そうね。錬金術には素材がたくさん必要だから。つい先日も回復薬の素材に使うハイレン草の採取依頼を出したわ。びっくりするくらい早く依頼を達成して貰えたし、品質も最高で、二十枚も採取して貰えたのよ! 私たち錬金術師にとっては大切な商売仲間って感じね」


 あぁ、この前のハイレン草の依頼はヘルミーナの依頼だったのか。


 なるほど。確かに素材の供給元として冒険者ギルドというのは錬金術師にとっては掛け替えのないビジネスパートナーと言える。


 だが、以前カミラが言っていたように安定供給となるとやはり大変そうだ。まぁ、だから錬金術で創られたアイテムは価格が高いわけなんだが……。


 ヘルミーナから聞いた話によると、冒険者ギルドに依頼を出すには依頼受付の専用カウンターに依頼内容を書いた用紙と設定した報酬を提出するそうだ。『そんなの常識よ!』と言いながらも、丁寧に教えてくれる。このツンデレさんめ。


 因みに冒険者に依頼を成功してもらう為にヘルミーナは挿絵や質感、特徴を書いていると言っていた。


 確かに、採取するものがどんなものか分からなければ、依頼の成功は難しくなる。それは依頼を出す側も望んでいないことだ。俺も昔、先輩プログラマから指示書や仕様書について教わったからよく分かる。


 そんな話をしながら、冒険者ギルドについた俺たちは早速アメリアとカミラの姿を探す。


 そういえば、ラノベとかでよく見るようなチンピラ冒険者に絡まれるイベントに遭遇しない。というか、見かけない。


 王都のギルドだからなのかもしれないが、そもそも冒険者ギルドの中は依頼を出す側の人と受ける側の人(冒険者)の割合が三対七ほどで、想像していたよりも一般人が多いことも関係しているのかも知れない。


 まぁ、間違って依頼を出す側に喧嘩ふっかけても自分の首が絞まるだけだしな……。


 一階のフロアを見渡すと、依頼が貼り出された掲示板の前にアメリアとカミラの姿を見つけたので駆け寄った。


「こちらでしたか。アメリアさん、カミラさん。大変お待たせしました!」


「おっ、ハルトお疲れさま。図書館で何かいい考えが浮かんだか?」


「ハルト! 道に迷わなかった? ちゃんと図書館まで行けた? お腹空いてない?」


「あはは。お疲れ様です。えぇ、何となく方向性は掴めたかな、と。カミラさんもそこまで心配されなくても。お昼は屋台で済ませましたし」


 そう話してるそばからカミラに抱きつかれてしまった。カミラが心配してくれるのは嬉しいが、何だか母親に心配されている子供のような気分だ。


「なら良かったさ。それでそちらの手を繋いでるお嬢さんは誰なんだい?」


 アメリアの言葉でハッと我に返る。

 そうそう、ヘルミーナを紹介しないと。というか、まだ手が繋がれていた。


「こちらは冒険者ギルドの近くにあるブルマイスター錬金術店のヘルミーナさんです。実は、屋台のおじさんから魔動人形というものが貴族や裕福な層の間で流行っていると聞きまして。それで実際に魔動人形を創られているお店に伺って知り合ったんです」


「ヘルミーナ・ブルマイスターよ。魔導具の名工、アレクシス・ブルマイスターの孫にして、最後の弟子とは私のことよ! よろしくね。ハルトには魔動人形の件で手伝ってもらうことになったのよ」


「ブルマイスター錬金術店というと、あそこか。前に何度か回復薬を買いに行ったことがあるよ。ところで、魔動人形ってなんなんだ?」


「うん、冒険者ギルドから近いからたまに寄る。ところで、なぜハルトと一緒にいるの? あと、ハルトの手を離して」


「それでですね、お二人にご相談がありまして……」


 アメリアはともかく、なぜかカミラがヘルミーナに対して不穏なオーラを放っているが、それはさて置き。


 ひとまず精霊石を集める為に魔物の森に一緒に行ってくれないか相談した。


 それと精霊石が必要な理由も。俺が魔動人形を見てみたいのもあるが、今回はどちらかというと人助けに近い。ただ、それが今後の俺がやりたいことに繋がる可能性があることを伝えて、二人に協力して貰うことになった。


「まぁ、事情は分かったけど。流石に今からだと今日中に戻って来るのは難しいし、明日の朝から出発したほうがいいだろう」


「魔物の森に行くなら馬車の手配も必要。準備するから時間が欲しい」


「お二人とも、ありがとうございます! 本当に、助かります!」


「私からもお礼を。本当に助かるわ。明日はよろしくね」


「「ハルトのお願いだから(ね)!」」


 アメリアとカミラは口を揃えてそう言ってくれるが、本当にありがたい。


 念の為、アレクシス氏が冒険者ギルドに出した依頼を確認したところ、精霊石四個に対して金貨十枚、一個あたり金貨二枚と大銀貨五枚で依頼を出していた。


 だが、残念ながらまだ依頼を受けている冒険者はいないようだったので、俺たちで受けることにした。明日の出発が待ち遠しい。多分、ヘルミーナも同じような感情なんだろう。先ほどから何だかそわそわとしている気がする。


 カウンターでエルザに依頼を受けることを告げて、今日は解散となった。なんだかんだで既に日は傾き、もうすぐ夕飯時といったところか。


「では、明日は開門前に冒険者ギルドに集合でよろしいですか?」


「えぇ、問題ないわ。私のハルバード捌きを見てなさいっ!」


「無茶はしないこと」


「そうだぞ。今日は英気を養って明日に備えてくれ」


「では、また明日。ヘルミーナさんもゆっくり休んでくださいね」


 俺とアメリアとカミラの三人は、冒険者ギルドの前でヘルミーナと別れ、金色の小麦亭へと歩いて戻った。明日の依頼を受けるにあたり、すでに諸々の手配はアメリアとカミラの二人が冒険者ギルドでやってくれている。やっぱり二人に頼り切りになっている現状をなんとかしたい。


 もう少し、自立しないと。本当にヒモになってしまいそうだ……。


「ハルトはヘルミーナのことをどう思ってる? 私たちよりあの子が大事?」


 カミラが真面目な顔で唐突にそんなことを言ってきた。


 しかもアメリアも便乗する。


「そうだそうだ、ハルト。いつの間にか他の女の子と仲良くなって! お姉さんは悲しいぞっ!」


「もう、お二人共からかわないでくださいよ! 彼女は同じ錬金術師として困っているようだったので助けようと思っただけです。それに、魔動人形もどんな風に動くのか気になったんで完成させたいだけですから」


 アメリアは俺をからかうようにウリウリと身体をつついてくるし、カミラは頬を膨らませて疑うように俺を見つめてくる。


「まぁまぁ、もういい時間ですし。金色の小麦亭に着いたら夕食にしましょう、ね?」


「そうだなっ! お腹も空いたし宿に急ごう。お風呂でいろいろ事情聴取しないといけないしなっ!」


「アメリアがいいこと言った! ご飯食べたらお風呂でハルトに尋問! 早く帰ろうっ!」


 そんなことを話ながら三人駆け足で黄金の小麦亭に帰ってきた。


 何事かとマルティナさんが目を丸くして迎えてくれたけど、簡単に事情を伝えると、すぐに夕飯を用意してくれた。


 今夜のメニューは、オーク肉の分厚いステーキと、ビッグレッドグローブという蟹を酒蒸しにしたもの、淡い黄色のポタージュスープ、それにいつものバゲットをスライスしたものだった。


 熱々の鉄板の上で脂が飛び跳ねている肉塊にナイフを入れる。それほど抵抗はなく、すぅっと入るほど肉質は柔らかく、簡単に切り分けられた。これが素材由来なのか、ルッツの腕によるものか聞いてみたいところだ。


 早速切り分けた肉を口に運ぶ。噛むほどに肉の旨味と脂の旨味が溢れ出す。オークの肉など本当に食べられるのか、などと思っていたが、意外と、いや、かなりうまい。豚とも牛ともいえない味ではあるが、食べやすいものだった。

  

 また、ビッグレッドグローブという蟹の酒蒸しも、癖はないものの味が深く、ついつい殻から身をほじくり返して食べるのに夢中になる。


「「「…………」」」


 その為か、三人座るテーブルなのに会話がなく、ただただビッグレッドグローブを食べる音だけが聞こえてくる。いつの間にか殻を入れるかごには殻の山ができ上がった。


 そういえば、生前うちの家族も蟹鍋を食べると、皆食べるのに夢中になって静かになったの思い出すなぁ。


 ちょっと生前のことを思い出してしんみりしてしまったので、気分を改めてスープに手を付ける。


 黄色のスープは、コーンスープのようだった。ねっとりとした濃厚さと甘味がうまく溶け合い、口内に至福の時を齎す。今夜の料理もルッツさんの腕が存分に振るわれているようだった。


 夕飯を食べ終えて部屋に戻ったら、アメリアとカミラに身ぐるみを剥がされて有無を言わさずお風呂に連れ込まれることになった……。


 身体を流して三人で湯船に浸かりながら二人から、ヘルミーナとの関係を問われて答えていると、いつの間にかのぼせたようで、気づいたらソファーの上に寝かされていた。


「あれ? さっきまでお風呂に入っていたはずなのに……」


「のぼせたみたいだったから、アメリアと二人で運んだ」


 声のするほうに顔を傾けると、ソファーの隣に腰掛けたカミラが俺の額に手を当てながら声を掛けてきたようだった。


「カミラさん。今日は色々とご心配をおかけしたようで、申し訳ありません。本当に彼女とは特別なことはありませんので……」


「ハルトはたまに女の子を勘違いさせそうになることを言うから」


「え、そうですか?」


「はぁ……無自覚なのが怖い。今夜はゆっくり休んで明日に備える。おやすみ、ハルト」


「おやすみなさい。カミラさん」


 カミラはため息を吐きながら俺の髪をなでて、そっとアメリアの眠るベッドの中に戻っていった。俺も改めて目を瞑り明日のことを考えていた。


 はぁ。明日の依頼は四人で上手くできるのかしら……。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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