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謝罪と責任の取り方(中編)

『ヴェスティア獣王国として片づけなければならぬ重大な問題がある。つまり、謀反を起こした第三王子グスタフ・ブリッツ・ヴェスティアとその近衛騎士アロイス・バール、第五王子クラウス・ブリッツ・ヴェスティア……。そして、グスタフによる謀反を許した結果、隣国アルターヴァルト王国の第一王子と第二王子、そして貴族の方々を危険に晒した、我ハインリヒ・ブリッツ・ヴェスティアへの処分についてであるっ!』


 ハインリヒの言葉によって謁見の間が三度みたび騒然となった。


 貴族たちも、謀反を起こした第三王子グスタフと、そのことについて協力したとされる第五王子クラウスという、ヴェスティア獣王国の王子である二人に対する処分については仕方がないことと思われていた。


 とはいえ、二人ともハインリヒの実子であることから、多少の温情が与えられるのではないかという考えを多くの貴族たちは持っていた。だが、グスタフとクラウスという二人の王子だけでなく、ハインリヒ自身にも自ら処分を下すという言葉を聞いて、ハインリヒの並々ならぬ決意を感じ取ったのだ。


 国王が自身に対して処分を下すなど、ヴェスティア獣王国にとっても初めてのことだった。過去に国王が何らかの処分を受けたことがないわけではない。だが、それは国王自身が処分を下すというものではなく、元老院によって諫言した際に、軽微な処分が与えられたという程度のものだった。


 確かに、グスタフによる謀反を止められなかったことは、ヴェスティア獣王国の国王として評価するのならば、国王であるハインリヒの失態であると言える。それだけでなく、隣国からの親善大使である第一王子と第二王子を、自国の、それも王都内で危険に晒してしまったことは、国としても大きな失態を犯してしまったと言えるだろう。


 だが、それならば、その処分はこれまでの慣習に倣うのであれば、元老院によって処分が下されるはずなのだ。それを国王であるハインリヒ自身が処分を下すと言ったのは、まさに異例中の異例であった。


「……さて、先に皆には説明しておくが、これより話すことは全て、事前に元老院の承諾を得ており、決定している事項である。心して聞くがよい!」


 ハインリヒの言葉に、再び大きなどよめきが起こる。それと同時に、謁見の間の脇に控える一部の老貴族たちに多くの視線が集まる。つまり、元老院議員に対してである。


 だが、老獪な彼らの表情はハインリヒの言葉を耳にしても、多くの貴族たちからの視線を受けても変わることはなく、また、その様子を見た一部の貴族たちはハインリヒの言葉が正しいことを理解したようで、静かに次の言葉を待っていた。


「まず、この度謀反を起こし、国王並びに第一王子、第二王子、第三王女の暗殺未遂、第一王子の監禁、王城の占拠、王都の封鎖等々、ヴェスティア獣王国に大きな混乱を招いた第三王子グスタフ・ブリッツ・ヴェスティアだが、本来は確実に死罪であり、斬首刑に処すところであるっ!」


 ハインリヒにより発せられた言葉が謁見の間に響き渡る。『死罪』そして『斬首刑』という重い言葉が耳の奥で繰り返される。だが、その前に『本来は』という枕詞が付いていたのだ。つまり、その後ろに続いた『死罪』や『斬首刑』という言葉を否定していたのだ。皆、ハインリヒの次の言葉を待っている。


「……だが、今回の謀反に至った経緯を知れば、そう簡単に処分できるものではなく、そのようなことは他ならぬ『神』が許さぬだろう……。皆もすでに知っているであろうが、先日我らヴェスティアの地に、神の奇跡が、神からの祝福が贈られた。そう、一歩足を踏み入れると呪いに掛かり死に至ると言われていた、あの『禁断の地』が神の祝福によって見事に浄化されたのだ。では、何故我らヴェスティアの地に神から祝福が与えられることになったのか? 何故グスタフへの処分を神が許さないと考えているのか? これより、その理由を皆に説明する……」



 ハインリヒによって神の奇跡が起こった理由が謁見の間にいる貴族たちに説明された。


 それは、俺が先日ハインリヒたちに説明した内容である。つまり、今回の謀反の元凶は、この世界に誕生した魔王であり、その魔王によって齎された魔剣ティルヴィングによって引き起こされたものだということ。


 そして、魔王の真の目的は、ヴェスティア獣王国とアルターヴァルト王国との間で戦争を引き起こし、世界を巻き込んだ大いなる災厄へと至らせることであったと説明した。


 ハインリヒの説明を聞いた多くの貴族たちが複雑な心境をその表情に表している。だが、それも当然のことかもしれない。


 第三王子グスタフによって起こされた謀反が、実はヴェスティア獣王国とは全く関係がないであろう者によって引き起こされていたというのだ。しかも、それが魔王なる不吉な名前の存在によって齎されたと言われても、普通は信じられるものではない。更に、今回の謀反は二国間の戦争を引き起こすために起こったことで、この世界への災厄へと繋がるものだったなど、一介の貴族にとって理解の範疇を超えた話だったのだ。


 更にハインリヒの説明は続く。先に述べた事態を収めるために、神の認める勇者セラフィからの協力の申し出をハインリヒたちが受け入れた結果、見事に大いなる災厄を未然に防ぐことに成功したのだ。そして、その時のハインリヒたちヴェスティア獣王国の王族の働きを神から認められたことで、神から祝福を与えられることに至ったのだと、そうハインリヒは説明したのだった。


 ふむ。それにしても、随分とハインリヒたちに都合が良い説明だと思う。いや、確かにハインリヒの説明は概ね間違ってはいない。だが、グスタフによる謀反や、それを許したハインリヒの失態等々、全ては魔王が原因であり、むしろグスタフを含め、ハインリヒたちは被害者であり、世界の災厄を未然に防ぐため、勇者に協力した功労者、いや英雄であるとでも言うかのような口ぶりで説明したのだ。


 まぁ、確かに世界神に起こしてもらった奇跡の説明として、『獣人族の王族たちの勇敢なる行動への褒美』と伝えていたし、そこは間違ってはいないのだが、その実、今回の奇跡は、俺が世界神から神託を受けられることをハインリヒに信じさせるためのものだったので、何とも釈然としない気持ちになる……。


 そんな俺とは対照的に、周りにいたほとんどの貴族たちはそれまでの難しい表情から一転して、歓喜の表情を浮かべていた。自分たちの国の王が英雄的な活躍をしたと聞かされたとしても、普通ならば素直に信じられる心境にはならないはずだ。何故なら、今この瞬間は謀反を起こした第三王子の処分が伝えられる場なのだから……。


 だが、ハインリヒの話した内容は貴族たちに好意的に受け取られることとなった。その理由はたった一つで、ヴェスティアの地に神による祝福が与えられ、永らく死の呪いが掛けられていた禁断の地が浄化されたからだ。この話は、貴族たちに限らず、王都に住む者なら誰もが知っている話題であり、ハインリヒの説明が嘘や偽りでないことを裏付ける要因になったのだった。


 貴族たちの中には、未だ訝げにハインリヒを見つめている者も少なからずいる。恐らく、ハインリヒの説明の中で触れられていない事実に疑問を持った者たちだろう。そう、ハインリヒから、そもそも『どうしてそのようなことを知ったのか』という大前提が説明されていなかったのだ。


 ざわめく貴族たちを手で制して、再びハインリヒが口を開いた。


「さて、このような経緯を我が何故知ることとなったのか、そして我が今話した内容が果たして真実なのか、皆の中には疑問に思った者も多いことだろう。これらの情報は一人の少年によって齎された……。その少年は、神による神託を詳細な内容として授かることができる、我が知る中でも唯一の存在である!」


「そ、そのような者が本当にいるのですか!? 一体、どこの誰なのですか!?」


 ハインリヒの言葉に興奮気味に反応したのは背中から翼が生えた青年だった。天使かと一瞬思ったが、どうやら鳥の獣人のようだ。白いローブを身に纏った容姿から察するに、恐らくは神殿の関係者なのだろう。


 その青年をひと睨みして制すると、ハインリヒが高らかに声を上げた。


「その者は、こちらに居られるアルターヴァルト王国の貴族、ハルト・フォン・アサヒナ子爵であるっ!」


 謁見の間に俺の名前が響き渡る中、貴族たちの視線を一斉に浴びることとなった。

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