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グスタフを救う理由(後編)

 俺は改めてハインリヒに向き直り、グスタフの命を救った理由について伝えることにした。といっても、俺にとって都合の良いように一方的に話すだけなのだけれども。


「……そうですね。確かにグスタフ様は私たちの命を狙っておられました。ですが、それは私たちの手で未然に防ぐことができました。それに、今回の戦闘については私たちから協力を申し出たこと。また、互いが命を賭けていない戦闘など戦闘とは言えません。ですから、今回の戦闘でグスタフ様から命を狙われたというのは仕方のないことかと思います」


「ふむ。其方の理屈はよく分かった。だが、ならばこそ、その命を賭けて戦い、そして負けたグスタフは、その命をもって償わせるべきではないか? 何故其方はグスタフを助けたのだ?」


「もちろん、グスタフ様には今回の罪を償って頂かなければならないと思います。ヴェスティア獣王国での謀反の件はともかく、我々の立場から言わせて頂くと、アルターヴァルト王国の貴族だけでなく、第一王子と第二王子の命を狙われたわけですから、ことの経緯をしっかりと説明して頂き、罪状を明らかにしたうえで、相応の処分を下して頂かないと、アルターヴァルト王国としても納得できないですからね」


「……経緯と罪状、そして相応の処分か」


「はい。グスタフ様が、どのような意図があって今回の一件を引き起こされたのか、その経緯と罪状を明らかにして頂き、そして犯した罪に対する処分をヴェスティア獣王国の法と照らし合わせて頂き、相応しい処分を下して頂きたいと思います」


「……其方の言うことは、良く分かる……。だが、グスタフは謀反という大罪を犯したことのみならず、……そればかりか、友好を結ぶ隣国の二人の王子の殺害を計画しのだぞっ!? ヴェスティア獣王国の威信をも失墜させるような、そのような真似をしでかしたのだっ! その死をもってしても償えるものではないっ!」


 ハインリヒは顔を真っ赤にして、額の血管を浮き上がらせながら、まるで叫ぶかのように勢い良く捲し立てた。


 むぅ。確かに、ハインリヒの言う通り、グスタフが犯した罪は非常に重いものだ。そういう意味では問答無用でグスタフを討ち取っても問題はないかもしれない。


 アルターヴァルト王国に対しても、罪人は討ち取ったと報告すれば問題ないはずだ。この場にアルターヴァルト王国の貴族である俺やその従者であるアメリアたちが居合わせているのだから、その証言もできる。場合によっては、グスタフの首を差し出す必要があるかもしれないが、それだけといえばそれだけなのだ。


 だが、今回グスタフが起こした問題をヴェスティア獣王国としてどう対処したのか。俺はそこが問題だと考えていた。何故なら、ただ罪人を処分した、という話だけでは片付けられない問題があるからだ。つまり、今回罪を犯した者がヴェスティア獣王国の王族であり、それも、第三王子という立場にある者だったということだ。


 今回の一件、アルターヴァルト王国側からすれば、友好国の、それも王族である第三王子から二人の王子の命が狙われたのだ。当然ながら、ヴェスティア獣王国の他の王族からも同様に王子たちの命を狙われる可能性についても考慮しなければならなくなる。そのような状況で今後も両国が互いに友好国として関係を継続できるのかというと、疑念が生じるのは無理のない話である。


 そして、そのように発生した疑念を払拭するためには、ヴェスティア獣王国が『何故、このようなことが起こったのか』という原因の究明と経緯、そして罪状を明らかにしたうえで、『どのように解決する(落とし前をつける)つもりなのか』という、相応の処分を下さなければならないだろう。


 そして、その内容を踏まえて、ようやくアルターヴァルト王国として、これからもヴェスティア獣王国と友好関係を続けるのかという検討を行い、恐らくは、何らかの『条件』をヴェスティア獣王国に突き付けることになるはずだ。


 まぁ、あくまで友好国として関係を維持するのなら、『条件』など付けないほうが良いのだが、今回ばかりは『条件』が付いても仕方がないだろう。もちろん、今回の件についてリーンハルトやパトリックが一切を不問とするのならば、このような面倒な問題は起こらないのだが。


 さて、もう一方のヴェスティア獣王国としても問題がある。


 それは国王であるハインリヒが第三王子グスタフを討ち取るということは、ヴェスティア獣王国の国民にとっては酷くショッキングなことであるということだ。


 もちろん、謀反を起こすということが大変な罪であることは、当然ながら多くの国民も理解しているだろう。そして、グスタフによるそれは結果として失敗したのだ。討ち取られるというのは当然のことと受け止められるとは思う。


 だが、アポロニアの言う通り、グスタフが明るく聡明な人物だったとしたら、多くの国民からも愛されていたはずだ。そして、そのような人物が突然謀反を起こして失敗し、処刑されたらのであれば、当然ながら多くの国民は『何故そのようなことになったのか?』と疑問に思うのは間違いない。


 更に、その原因や経緯をグスタフ本人の口から話してもらわないと納得できないだろう。その結果、待ち受けているのは、ハインリヒたち王族への不信感へと繋がってくるのだ。そうなると、第二のグスタフがいつ現れるか分かったものではない。


 まぁ、そうなったとしても、俺はアルターヴァルト王国に所属している身なので直接的な影響は少ないのだが、アポロニアやニーナ、それにハインリヒやエアハルトがそのような事態に巻き込まれるのを黙って見過ごすことはできない。それに、一応これでも世界神の眷族でもあるわけだし、この世界のトラブルの芽を放っておくつもりはなかった。


「ハインリヒ陛下。陛下が御怒りになられていることは良く分かります! ですが、このようなことを一時の感情に任せて行うのは良くありません! この場のような我々しかいない場所でグスタフ様を処刑されては、納得できない者も大勢出てくるでしょう。それに……。私は、ヴェスティア獣王国の国王陛下は、感情のままに処罰を下すような方ではなく、罪人を法に則って裁く聡明な方であると信じております。先日陛下が仰られた王位継承の件がありますし、これからヴェスティア獣王国の王族の方々には大変重要な局面が訪れることになるはず……。だからこそ、今は一度冷静になられて、事に当たられてはいかがでしょうか。……っと、これは、申し訳ございません! 他国の私がこのようなことを……。出過ぎた真似をしてしまい、失礼致しました……」


「……いや、構わぬよ。ふぅ……。はぁぁぁ……」


 ハインリヒはポツリとそう話すと、小さなため息を吐き出し、その直後に深く大きなため息をもう一つ吐き出した。


「……それにしても、アサヒナ子爵のような子供に我が諭されるとは、全く、夢にも思わなかったぞ……。だが、よくぞ申してくれた。だが、其方の言う通りだ。なるほど、確かにこれから重要な局面を迎えることになるな。だが、法に則ってグスタフへの処分を下したとしても、死罪は免れんぞ?」


「はっ。いえ、それならそれで、仕方のないことでしょう。ただ……」


「ただ、何だ?」


「今回の一件についてなのですが……。どうやら、魔剣ティルヴィングによる影響が大きかったようなのです……。そのことを踏まえて、改めて考えてみますと、グスタフ様も被害者の一人だったのではないかと、そのように思えてきまして……。その、ここまでグスタフ様の処分についてお話ししてきた手前、法に則った処分をすべきではないかという私の意見に変わりはないのですが、とはいえ、このままグスタフ様への処分を決めることが本当に最善の策なのだろうかと、そう思ったわけでして……」


「ほぅ、魔剣の影響と申したか? 確かに、昨日のバールへの尋問の際にそのような話が出ておったな。そして、魔剣ティルヴィングは所有者の願いを叶えるとも……。それにしても、アサヒナ子爵よ。其方のその口ぶり、一体何を知っておるのだ?」


「えっ!? いえ、はい。そのことについて詳しくお話ししたいのですが……。ですが、ちょっとその前に、グスタフ様を起こしませんか? 流石にあのままというのはちょっと拙いかと……」


 そう話しながら、俺は謁見の間の壁際で臥せっているグスタフのほうに視線を向ける。すると、ハインリヒも俺と同様にグスタフを一瞥すると、再び深くため息をついたのだった。


「はぁぁぁ……。うむ。それでは、アサヒナ子爵には申し訳ないがグスタフと、それからあそこで寝ているバールを頼む。皆もこちらに集まるのだ!」


「はっ! 分かりました」



 こうして、ひとまず、グスタフとバールを起こすとハインリヒの下へと向かった。


 一応念のため、二人にはアイテムボックスの中にあった縄で手首を結ばせてもらうことにした。二人とも何故こんなことになったのか状況が分かっていないようだ。どうやら、魔剣の影響下で起こったことについては一切記憶がないらしい。これも例の黒い霧が原因だろうか。


 だが、ハインリヒから説明を受けるとバールは膝をついて涙しながら項垂れた。まぁ、バールはここへ向かう前にハインリヒに『次はない』と言われながらも同行を許可してもらったのだ。それにも関わらず、国王に剣を向けてしまったのだから仕方がないだろう。


 そして、グスタフもまた武器商人から魔剣ティルヴィングを受け取った後の記憶がなく、何故自分がハインリヒに殴られたのか、何故自分が縄で手首を縛られたのか、そして、何故謁見の間の床や壁が破壊されているのか。一体何が起こったのか、ハインリヒから話を聞いても理解が追い付いていないという様子だった。


 そうこうしている間に、皆がハインリヒの下へと集まったので、俺たちは一度魔導船スキズブラズニルへと戻ることにしたのだった。

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