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グスタフを救う理由(前編)

 セラフィによる連撃によって、魔剣ティルヴィングは打ち砕かれた。


 その直後、魔剣から俺に話し掛けられるという貴重な体験(?)をした俺は、今回の一連の事件(といっても、グスタフの謀反のことだが)が、やはり、魔剣ティルヴィングに起因するものであったことが分かったのだ。


 だが、この事件が、実は『この世界に齎された災厄』であり、しかもそれが『世界神の昇神試験』の一環であるなどとハインリヒやエアハルトたちに正直に話すわけにはいかない。まぁ、『この世界に齎される災厄』については『勇者の派遣』について相談した後ならば、説明もしやすいのだが。


 さて、皆に何と説明したものかと考えていたが、実はあまり悠長に構えていられるわけではなかった。


 セラフィに右腕を斬り飛ばされたグスタフの出血が激しく、早く助けなければ本当に死んでしまう可能性があったからだ。周りから見れば、彼は今回の事件を起こした犯人ではあるが、だからといってこのまま見殺しにするわけにはいかない。


 俺は床に転がっていたグスタフの右腕を拾い上げると、蹲って動かないグスタフの元へと向かった。


 彼の周りには、やはり多くの血が床の上に溜まっていたのだが、アメリアのそれと比べると少ない。近づいて確認すると、彼が押さえた右肩の切り口は止血がされている。どうやら、右腕を斬り飛ばされた瞬間に簡易な止血を魔法か何かで行ったのだろう。


 それにしても、これは見事な切り口だな。流石はセラフィといったところか。この分なら、まだ回復できるだろう。


 蹲ったままのグスタフをその場で仰向けに寝かせると、俺は持ってきた右腕の切り口と右肩の切り口を合わせるように並べ、おもむろにアイテムボックスから取り出した特級回復薬を振り掛けた。薄い青色の液体が傷口の周りで弾ける。これで問題ないだろう。念のため、グスタフを鑑定する。


『名前:グスタフ・ブリッツ・ヴェスティア

 種族:獣人族(男性) 年齢:20歳 職業:Aランク冒険者

 所属:ヴェスティア獣王国

 称号:ヴェスティア獣王国第三王子、謀反人

 能力:A(筋力:A、敏捷:S、知力:A、胆力:A、幸運:E)

 体力:10,620/10,620

 魔力:0/0

 特技:剣術:Lv10、短剣術:Lv9、弓術:Lv9、採取:Lv5、気配察知、殺気感知、礼儀作法

 状態:気絶(貧血)

 備考:身長:178cm、体重:66kg』


 ふむ。体力は無事回復しているようだ。


 それにしても、『謀反人』か……。その通りではあるんだけれど、その原因は、バールが紹介した武器商人によって献上された『魔剣ティルヴィング』によるものだったことは、魔剣本人(いや、本剣というべきか)による供述で判明している。


 だが、その魔剣による声(供述)を聞いていたのは俺だけなので、正直皆に認められるような証言にはならないだろう。さて、どうしたものか……。


「……うっ、うぅ……」


 しばらく悩んでいたところ、俺が答えを出すよりも先にグスタフの意識が戻ったようだ。


 とはいえ、先ほどまでセラフィによって右腕を斬り飛ばされるという重傷を負っていた身である。ステータスの状態にもあるように、随分と血を流していたことから暫くの間はまともに身体を動かすことは難しいだろう。


 つまり、もしも彼が魔剣ティルヴィングに関係なく、本人の考えで謀反を起こしたのであれば、今も危険な存在ということになるわけだが、今の状態であれば周りに対して危害を加えることなどできないだろう。


「グスタフ様、気が付かれましたか?」


「こ、ここは……? 君は一体誰だ? そ、それに何だか身体に力が入らない……」


「ここは王城、謁見の間ですよ。申し遅れました。私は、アルターヴァルト王国から参りました、ハルト・フォン・アサヒナ子爵と申します。グスタフ様は先ほどの戦闘で重傷を負われ、随分と血を流されました。ですので、今は暫く安静にされたほうがよろしいでしょう」


「せ、戦闘だって……!? 何故、そ、そのような、ことに……?」


 グスタフは身体を僅かに起こして背中を付けていた床に視線を向けると、すでに一部は乾きつつある、おびただしい量の血が流れた跡が視界に入り、思わず目を見開いた。


「な、何だ!? 一体、何が、起こったんだ!?」


 あまりに王城の、それも謁見の間という厳かな場に似つかわしくない多量の血痕。そんなものを突然見てしまえばグスタフのように驚かないほうがおかしい。


 だが、待ってほしい。彼は今回の一件の当事者であり、先ほどまで俺たちに剣を向けていたのだ。


「あの、覚えておられないのですか……?」


「な、何のことだ……?」


「いえ、ですから「グスタフゥッ! くぉんのぉ大馬鹿者がぁっ!」」


「グボァッ!?」


 突然横から現れた鋭い拳がグスタフの顔面にぶち込まれたかと思うと、グスタフは二度、三度と床をバウンドしながら、壁際にまで吹っ飛んでいった。


 そう、ハインリヒが突然俺たちの間に割り込んできたのだ。そして、叫ぶように声を掛けたと同時に拳が飛んできてこのありさまとなったのだ。


「(ひぇ、痛そう……。というか、助けたばっかりなのに、まさか死んでないよな?)……あの、ハインリヒ陛下……!?」


「アサヒナ子爵よ。……何故グスタフを助けたのだ?」


「えっ!?」


「何故グスタフを助けたのかと問うておる。あやつは、我らだけでなく其方らの命をも狙っておったのだぞ?」


 ふむ。確かにグスタフは俺たちの命を狙っていた。


 というか、バールの証言によれば、そもそもは俺たちを殺すことで国王であるハインリヒと第一王子のアレクサンダーに責任を取らせて失脚させるつもりだったと言っていた。


 そして、調略済みの第五王子のクラウスが第二王子のエアハルトを討ち取る、そんな計画だったはずだ。そのために、俺たちのことをわざわざバールたちが見張っていたというのだから、グスタフたちが俺たちの命を狙っていたというのは、ハインリヒの言う通りだろう。


 だが、その後、王都から離れた俺たちは偶然にもハインリヒとエアハルトの二人と出会うこととなり、その結果彼らに俺たちが協力を申し出た。


 アルターヴァルト王国としてメリットがあるとはいえ、何だかんだ理由を付けて他国のトラブルに首を突っ込んだのは俺たちである。当然、リスクがあることくらい承知の上、だったはずだ。


 だけど、今回実際にアメリアやカミラが傷付く姿を見て、俺のリスクに対する認識が甘かったことに気づかされることになった。これについては後で反省し、しっかりと対策を検討する必要がある。


 さて、話が少しずれたが、グスタフに命を狙われていたのは確かだが、それについては未然に防ぐことができたし、王城での戦闘についてはこちらからトラブルに首を突っ込んだ結果でもあるので、これは仕方がない部分もあると思う。そのことから、命を狙われたからという理由だけでグスタフを見殺しにしていいとは思えなかった。


 そして、もう一つ、俺には大きな理由があった。


 俺としては、今回の件について、敵にも仲間にも、できるだけ犠牲者を出したくないと考えていたのだ。その理由としては、俺が『世界神の眷族として、この世界の人々から良い評価を受けたい』というものだ。

 

 部下(眷族)として、上司(世界神)の評価を下げるようなことはしたくない。もしも、俺たちが関わったことで多くの犠牲者が出たとなれば、俺たちは少なくともヴェスティア獣王国の多くの人々から非難される可能性がある。当然ながら、俺としては、そのような結果は望んでいない。できる限り穏便にことを収めたいし、できる限り多くの人々から良く思われたいと思う。


 別に『全ての人々から』良く思われたい何て大それたことをいうつもりはない。俺が、例え世界神の眷族であっても、世界中の全ての人々から良く思われるということはないだろう。


 すでに今の俺は冒険者であり、貴族であり、魔導具店のオーナーという様々な立場があるのだ。当然ながら、少なからず敵対する立場の人もいるだろうし。


 だからこそ、『できる限り多くの人から』良く思われる存在ではありたいと思う。まぁ、神様の眷族としてそんな考えでいいのかと言われると、返す言葉もないのだが。世界神や他の神様たちからも特に何も言われていないので気にしないでおこう。


 さて、そのようなことを考えつつも、頭の中でハインリヒへの返答がまとまったので、改めてハインリヒに向き合うことにした。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

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