魔動人形
図書館に行った翌日。これからの活動について、朝食を取りながらアメリアとカミラに相談することにした。
これから他の種族の仲間を集めるにしても、元手となるお金がなければ活動の幅は大きく変わってくる。つまり、俺も手に職を持たなければならない。
そもそも、俺はアメリアとカミラのヒモになるつもりは毛頭ないのだ。
「そういうことで、何か商売をしようと考えています。一応、錬金術が使えるので、回復薬を作って売るなんていうのはどうでしょうか?」
「まぁ、商売するのはいいと思うが、それよりも錬金術が使えるだって? それじゃ、もしかして、あのときフリーダに使ったのは……?」
「はい。あの森で採取したハイレン草から作った特級回復薬です。効果が確かなのは確認済みですので、売り物にならないかなぁと」
そう、あの時瀕死の重傷を負っていたフリーダの命を助けることができたのだ。回復薬なら冒険者向けとして、それなりに需要があると思うのだが。
「と、特級回復薬だって!?」
「白金貨二枚よりも高い……」
「な、何か拙かったでしょうか……?」
「普通はな、冒険者が買える回復薬なんて中級回復薬までなんだよ……」
「上級回復薬も滅多なことがない限り買わない」
「そ、そうだったんですか。それじゃ、初級回復薬や中級回復薬だったら冒険者の方にも買ってもらえそうですね!」
「「はぁ……」」
「どうかしましたか?」
「いや、ハルトから渡された回復薬をフリーダに使ったときに効果が出るのがいつも以上に早いと思ったんだよなぁ。あぁ、なんでそこで気付けなかった、私!?」
「……確かに、あれだけの致命傷の傷を回復薬一本で回復できたことに疑問を持たなかったのは反省点。でも、それだけ事態が切迫していたとも言える」
「あの、何か問題がありましたか……?」
「ハルトは初級回復薬や中級回復薬も錬金術で作れるんだろう?」
「はい、もちろん!」
「だったら、何も気にすることはない。でも、安定して供給することはできる? ハイレン草の採取もそれなりに大変な依頼だから」
何やらアメリアとカミラに驚かれたというか、呆れられてしまったようだが、それはともかく、回復薬の販売というのは悪くないようだ。ただ、カミラが言う通り、安定して供給するにはどうしてもハイレン草の採取が必要になる。それができなければ商売としては難しい。
もちろん、自分で採取して来ればいいだけの話だが、俺一人でというのは危険も伴うだろうし、何より製造販売する時間が取れないのは勿体ない。かと言って、他の冒険者に任せるというのもハイレン草の品質にばらつきが出そうであまり乗り気になれないでいた。
「となると、他の方法も探すしかないですね……」
ここは生前の知識も含めて考えてみよう。
アメリアとカミラから聞いた話によると、基本的にこの世界に住む人はその日を生きるために働くという。
そのため、収入のほとんどが衣食住のために消費されていて、残り僅かを酒や煙草の嗜好品に賭け事、人によっては娼館など、主に娯楽に消費しているのだという。もちろん、将来の為に貯蓄するという人も多いらしい。
また、冒険者なら、装備の購入や手入れにもお金が必要だが、ある程度の冒険者ランク(Cランク以上だそうだ)になるとそれなりに余裕もできるのだという。そういえば、アメリアとカミラはBランクの冒険者だったな。確かに、一日で金貨三枚の依頼を達成できるのなら生活に余裕が出てきても不思議ではない。
つまり、細かな違いはあるものの、彼らの消費動向は生前とそれほど変わらないとも言えた。
ということは、娯楽へ支出するお金ならば、他の娯楽への転嫁はし易いはず。
前世でも所謂ソーシャルゲームに課金するために、食費を削ってでも支出を押さえる人が一定数いるという話を聞いたことがある。ただの娯楽としてではなく、何かしらの有用性が認められれば、それは囲碁や将棋、チェスのような一般的な競技にもなり得ると思う。
そして、これは俺の希望……。でもあるのだが。
可能なら、娯楽を楽しむ中で人間族、獣人族、魔人族、妖精族の四種族のことをお互いに知ることができるようなものができたら……。そして、互いに協力し合えるきっかけになるものが創れたら、等と思う。
カミラの話を聞く分には四種族は敵対しているわけではないようだが、この王都を見る限り、見掛ける人族は人間族と獣人族のみで、魔人族や妖精族を見掛けたことがない。いや、もちろん彼等は耐性が弱いことから他の人族との交流を控えているのは既に知っている。
だが、いざ協力体制を築こうとしたときに互いの素性をよく知らないままに、お互いの常識をぶつけあっていがみ合うような状況ができることだけは控えたいと思ったのだ。
そういう意味で、お互いの種族としての特性や、得意なもの、苦手なもの、協力し合える能力。そういうことを知り合える機会がもっとあれば、世界に齎される試練にも世界中の人族たちが協力し合えるきっかけになったりしないだろうか。そんなことを思い浮かべて、呟いた。
「そうだな、トレーディングカードゲームとか、そんなのを創れたら面白いかもな」
例えばだけど、四種族のキャラクターが協力して試練を乗り越える、そんなゲームとかどうだろうか。
生前の世界でも一定層だがそういう楽しさを知っている人たちを見てきたし、テレビゲームやテーブルトークゲームが好きな人がいたしな。とはいえ、その前にこの世界の娯楽にどういうものがあるのかをもっと調べないといけないけれど。
「今日は、もう一度図書館に行って色々と調べてみようと思います。まだ、王都のことも分からないことが多いので」
「あぁ、分かったよ。私たちは冒険者ギルドに行って良い依頼でもないか見繕ってくるよ。ハルトの用事が終わったら冒険者ギルドまで来てくれ」
「ハルト。王都と言っても子供一人で歩くのは危険が多い。知らない人には着いて行ってはだめ」
「了解です!」
一応、子供一人で王都を散策しても問題ないか二人に確認してみたが、街の中ならそこまで危険はないらしい。とはいえ、城壁の外周部(明らかにさびれたように見えたところはスラム街だったらしい)には一人で行かないようにと念を推されたけれど。
俺は二人と別れて昨日行った図書館にもう一度足を向けた。
この世界のことをもっと知らないと人間族、獣人族、魔人族、妖精族のことなんて分からないわけだし。
図書館に入ると昨日と同じく受付で金貨一枚を預けて早速本棚を片っ端から鑑定することにする。そうそう、この金貨はカミラから借りたお金なので失くさないように気をつけないといけない。
それにしても、鑑定するだけで本の内容が理解できるというのは、時間を掛けたくないときは本当に助かる。三時間ほど掛けて図書館の全ての本棚を鑑定することができた。つまり、百万冊近い書物の中身をほぼ全て知識として得たことになる。暫くここに来る必要はないかもしれない。
さて、知識を得たら、次は市場調査だ。
アメリアとカミラの二人と冒険者ギルドや神殿、図書館には行ったが、下町はまだ行ったことがない。
それに一人で行動することも初めてだ。
一応、昨日習得した『認識阻害』を最大で使用して行動することにしよう。念のため、フリーダから借りっぱなしのフードも被っている。
図書館から少し離れると所謂平民街が広がる。既に時間はお昼を回ったぐらいだ。食堂や屋台には王都に住む労働者たちが列を成していた。
お腹も減ったし何か屋台で買って食べるか。
何かの串焼きを焼いている屋台の列に並ぶ。流石に認識阻害の効果は顔だけに抑えている。
「おじさん、串焼きを二本下さい!」
「はいよ! 大銅貨六枚だ」
屋台のおっちゃんから紙に包まれた串焼きを受け取り、早速とばかりに噛りつく。パリッとした皮目から肉汁が溢れ、ソースの焦げ目の香ばしさと肉の食感が心地よい。つまり。
「美味しい!」
「ありがとよ! うちが仕入れているサーベルリザードは皮目の脂に旨味が凝縮されてっからよ。この串焼きが一番うめぇんだ」
サーベルリザード……。どんな蜥蜴なんだろう?
初めて食べる爬虫類(?)に舌鼓を打ちつつ、屋台のおっちゃんに話を聞いてみる。
「ところで、おじさん。最近王都で流行ってる遊びや娯楽ってどんなものがありますか? 実は一昨日王都に来たばかりで、王都のその辺りの事情を知りたいんです」
「そうさなぁ。坊主ぐらいなら男は冒険者ごっこしてたり、女はお人形遊びしてたりだろうな!」
「そうなんだ。因みに大人の方はどうなんですか?」
「はははっ! 坊主にゃ大人の世界はまだ早ぇよ。あぁ、そういえば人形で思い出した。お貴族様や金持ちたちの間では魔動人形ってのが流行ってるってのは聞いたなぁ」
「魔動人形?」
「あぁ、何でも錬金術で創られた、まるで生きているかのように動く人形らしい。俺らなんかにゃあ、大の大人がお人形遊びだなんて正気かって思っちまうが。まぁ、それが金持ちたちの道楽なんだろうな」
「なるほど。因みに、それってどこで売っているんですか?」
「何て言ったかな……。確かブルマイスター魔導具店だったか。そこで売ってるそうだ。冒険者ギルドの側に店を構えてるからすぐに分かるさ。でも、坊主みたいな子供が買えるような代物じゃねぇぞ」
「おじさん、ありがとう! 買えないまでも、見に行くだけ行ってみようと思います」
「あぁ、気をつけてな!」
屋台のおっちゃんから思った以上に有益な情報を得ることができた。
それにしても『魔動人形』か。
字面からしてどんなものかは何となく予想できるけど、魔法で動かす人形というのは純粋に興味深い。大通りを真っ直ぐ冒険者ギルドのほうへと歩くと、『ブルマイスター魔導具店』と書かれた看板が見えてきた。
「ここか」
貴族や富豪に人気の魔動人形を創っていると聞いて、もっと立派な店構えかと思ったが、意外とこじんまりとした店構えだった。
だが、そんな店とは対極的な立派な装飾が施された馬車が店の前に停まっている。
暫く外から様子を伺っていると、勢いよくドアが開き、身なりのいい男が中からできた。その後に出てきた従者らしき男が怒声とも憐憫とも取れない声で店の中に向かって叫ぶ。
「分かっていると思うが、次に来るときまでに用意できていなければ、お前もこの店も大変な目に合うのだぞ!」
「あなたもご存知かと思いますが、私はあなたのお祖父様と契約し、既に大金を支払っているのですよ。これ以上納品が遅くなるようであれば、然るべき所に訴えることになりますから、なるべく早く納品して下さい。よろしいですね?」
そう言うと男たちは馬車に乗り込み、大通りを貴族街のほうへと消えていった。
俄かに沸き起こった喧騒が鎮まり、この店の前だけが周囲から切り離されたかのような静寂が訪れる。
恐らく、通りにいた人たちも貴族や富豪との揉めごとには近寄りたくないのだろう。
なんかトラブル臭がするなぁ……。
そんなことを思いながら、『ブルマイスター魔導具店』のドアノブに手を掛けた。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。




