神様との出会い
俄に、失ったはずの身体の感覚が急速に戻ってくる感覚に襲われる。最も強く感じる感覚は痛覚、痛みだ。それに堪え切れず、思わず目が醒めた。
「痛っ、いってぇ……! って、あれ?」
先ほどまで強い痛みを感じたはずの頭も首も、今では何事もなかったかのように痛みを感じない。恐る恐る頭や首筋を擦ってみるも、特に違和感もない。
……夢か?
いや、確かに強い衝撃と痛みを受けたはずだし、まるで意識を失う瞬間のような、妙に生々しい光景が未だに脳裏にこびりついている。
だとしたら、一体何が起きたんだ!?
「なんか落ちてきた? それで、頭に当たったのかな? マジで痛かった、と思うんだけど、何ともないな……?」
釈然としないながらも、特に不調を感じない自身の身体を一通り確認し終えたところで、ふと自分が待ち合わせに急いでいたことを思い出す。
「そうだ、早いところ向かわないと。そういえば、村上と電話で話してたんだったよな。って、俺のスマホはどこだ?」
左手に握っていたはずのスマホが手元にないことに気付いて、近くに落としてしまったのではないかと辺りを見回す。
あれ? 地面がアスファルト、じゃない。
そこでようやく異常な事態に気が付いた。
顔を上げて周りを見渡すと、周囲の景色が先ほどまで急ぎ歩いていた駅前のそれではなかった。
空は雲ひとつない晴天。大地は真っ白で真っ平ら。そのせいか、空からの光を大地が反射しているようで、輝くような世界が地平の彼方まで広がっている。先ほどまでいた駅前の喧騒も全くない、完全なる静寂に満ちていた。
なんだか、神聖さすら感じさせられる。それはともかくとして……。
「えっと、ここはどこ……?」
つい先ほどまで、課長と後輩との待ち合わせのことやスマホの所在を気にしていたというのに、目の前に広がっている光景がその全てを吹っ飛ばした。
というよりも今の俺は、いつの間にか見知らぬ場所にたった一人取り残されたかのような感覚に陥っており、この状況を理解しようと必死になっていた。
「な、何が起こった?」
「あなたはお亡くなりになったんですよ、朝比奈晴人さん」
「うおわぁっ!?」
先ほどまで周囲に人の気配など全く感じなかった、真っ白な世界。
俺以外には誰もいなかったはずの世界に、背後から突然声を掛けられたのだ。驚かないはずがない。
完全に油断していたからか、思わず身をすくめてしまったが、恐る恐る振り返ると、そこには薄いグレーのポロシャツに、少しダメージの入ったデニムのパンツ、女神の翼を模したロゴで有名なメーカーのスニーカー、そして明るい茶髪という出で立ちの青年が立っていた。
しかも、大変にイケメンである。
彼の首に何やら身分証のようなIDカードがぶら下がっているのを見つけ、少しホッとした。職場やその近くでよく見かけるスタイルだったからだ。
「えっと、あの、失礼ですがどちら様で? というか、すみません。ここってどこなんでしょうか? あれ? ちょっと待って、今なんて言った?」
途中まで取り繕うことができていたが、最後には地が出てしまった。いや、俺をそうさせてしまうほどの、聞き捨てならない言葉が耳に入ったせいだ。
「まぁまぁ、落ち着いてください。ひとつずつお答えします。私は『機会神』と申しまして、神界で働く神の一柱です。ここは所謂死後の世界。あなた、朝比奈晴人さんは先ほど不慮の事故に遭われて命を落とされました。つまり、お亡くなりになられたのです」
何言ってんだこいつ……。
自分のことを神だと言った。何がとは言わないが、大丈夫か?
そして、俺が事故に遭って死んだと言ったのだ。
……はぁ?
突然そんなことを言われても、全く意味が分からない。
大体、俺は今ここに生きているじゃないか。
正直、この青年の言うことは全く信じられないが、残念ながら他にこの状況を説明してくれそうな存在が見当たらない。
仕方なく、青年に問い掛けた。
「……それって、どういうことですか?」
「そうですね、改めて詳しく説明しなければなりませんね」
そう言って、青年が居住まいを正して膝をつき、未だに腰を地面に落としたままの俺に向き合った。
「朝比奈さんは、待ち合わせに急いでおられたようですし、スマホの着信に気を取られていたようなので気が付かれなかったのかもしれませんが……。実は、駅前の商業施設となっているビルではちょっとした事件が起きていたのです」
「ちょっとした事件?」
「はい。商業施設となっているビルの屋上から飛び降り自殺をされた方がおられまして。朝比奈さんは運悪く、その方の自殺に巻き込まれる形で命を落とされてしまったのです」
「……はぁ?」
まさか、そんな珍しいシチュエーションに巻き込まれるなんて、一体どんな確率だよ!
そう、ツッコミを入れようかと思った瞬間に、そういえばと駅前を行き交う人々の様子が脳裏に蘇ってきた。確かに、よく見てはいなかったが、そういえば駅前でビルを見上げる人だかりがあったような気がする。
それに、脳裏にこびりついたように鮮明に記憶された、意識を失う瞬間の感覚と、同時に響きわたる周囲の悲鳴と怒号。そして微かに耳に残る村上の声。だが、それらが聞こえた瞬間に痛みを感じると、次の瞬間には俺は意識を失っていた。
それってつまり……。
本当に起こったことなのか……?
個人的な感覚としては、青年の説明を証明するものがないので、受け入れられない気持ちが九割九分と、現状を理解できない状況も相まって、青年の説明を受け入れられる気持ちが残りの一分といったところか。というか、自分の死を受け入れられるかなんて、そんなの死んでみないと分かるものではない。
そんなわけで、改めて自分の手を、足を、そして身体全体を確認してみることにした。そうして、俺は自分が本当に死んだのかどうかを真面目に考えることにした。
手のひらを天に翳してみてみる。
「あ、あれ、透けてる……?」
手のひらの向こうから光が僅かに透き通ってくるように感じる。
これはおかしいと思い、青年に手のひらを向ける。
すると、信じ難いことだが、手のひらの向こうに青年の姿が見えたのだ。そのことに驚愕したことが伝わったのか、青年が微笑んだ。
「……あの、これマジで? マジで俺は死んだの……?」
「はい、マジで亡くなられてます」
なんだか爽やかに返されてしまった。
マジかよ……。
死んだと言われて思い浮かんだ言葉がそれだった。
そうか、俺は死んだのか。……そうか。
確かに人はいつかは死ぬ。その要因は寿命や病気に怪我、それに事故と様々だということは理解している。だが、自分はまだ三十も半ば、寿命というにはまだ早い。病気や怪我にも最近は縁がなかった。
そんな俺が、突然事故に遭って死んだと他人から言われても素直に現状を受け入れられない。
思わず頭を掻きむしった。
自分の死を受け入れようとするが、気持ちが追い付かない。
それは、俺の死に方にも問題があったからだ。
「それにしても他人の自殺に巻き込まれて死ぬなんて、そんなことあるか? 運が悪過ぎるだろ!? むしろ、その確率知りたいわ!」
思わず声に出してしまった。それにしても迷惑なヤツがいたもんだ!
はぁ、と深くため息を吐く。
別に何かを理由に死にたくなると思う気持ちは分からないでもないし、自ら死ぬことを選ぶということも、それしか選択肢がなかったのならば、俺がとやかくいうのも筋違いのように思う。もちろん、死ぬことよりも生きることを選択して欲しいという気持ちは当然あるのだが。
とはいえ、他人に迷惑を掛けることになるのは避けて欲しいとは思う。それによって朝から電車が止まったりするのは憂鬱になるからだ。そして、飛び降り自殺に俺を巻き込むというのも、当然避けて欲しかった。
再び、はぁ。と、深いため息を吐き出した。と同時に、頭を抱えてしまう。
『俺はマジで死んでしまったらしい』
そう考えると、先ほどまで堪えていた悲しみが溢れるように両の目尻からこぼれ落ちた。
決して思い通りの人生を送ってきたわけでもなかったが、仕事に関しては、ここ最近は比較的充実した人生を送れていたと思う。はぁ、俺が死んだとしたら、ようやく受注に至ったあのプロジェクトはどうなるんだろうか……。
そんなことを考えたあと、そういえば俺が死んだことで悲しむのは血の繋がった家族、つまり年老いた両親と親戚ぐらいで、恋人や嫁に子供といった存在もいないことを思い出した。つまり、俺の血を繋ぐ者がいないというわけだ。
あぁ、もしかすると、こういう状況が起きても後悔しないために、人というものは恋人や嫁(もしくは婿)、そして子供を創ろうとするのかもしれないな。なんて、まるで第三者のように考えてみたが、そんな存在がいないことを急に寂しく感じてしまい、再び涙で視界が歪んでしまう。
独身貴族は素晴らしいものだと思っていたはずなのに、もしかすると心の何処かでは寂しく感じていたのかもしれない。
これが後悔というものなのだろうか。
とはいえ、死んでしまった今となっては今更だ。
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
自称『神』を名乗るイケメン青年以外に誰もいない世界だからか、人目も憚らず大きな声を出しながら、その場に蹲って拳を地面に何度も叩きつけた。
もし、人生をやり直すことができるのなら、今度はストレスのない生活を過ごしたい。
もし、人生をやり直すことができるのなら、今度は俺の死を悲しんでくれる仲間や家族がそばにいて欲しい。
もし、人生をやり直すことができるのなら…………。
『どうせなら、一から、子供の頃からやり直したい』
さめざめと泣きながらも、くだらない思考がずっと頭の中を過っていた。そのことを分かっているかのように、イケメン青年が再び声を掛けてきた。
「まあ、お辛いでしょうが、これからのことを前向きに考えましょうよ」
イケメン青年が俺の肩をポンと叩いた。
「死んだのに、全てを失ったのに、『これからのこと』なんて、あるわけないだろうがよ!」
イケメン青年を睨みつけるが、それを気にするような素振りもなく、まるで、「全て分かってますよ、お任せください」とでもいうかのように、イケメン青年が笑顔のまま肩をポンポン叩く。
どういうことなんだ……?
ま、まさか……。
「も、もしかして……。生き返れる、とか?」
「いえ、流石にそれは無理ですよ。朝比奈さんの身体はもとに戻せないぐらいに損傷が酷い状態でしたし、既に貴方の身体は火葬されているようですからね。貴方が生きていた前世では生き返らせられないですよ」
生き返れないのかよ!
違うのかよ!
じゃあ、さっきからなんで笑顔なんだよ!
と、心の中で呪詛を吐き出しつつも、その一方では、そこまで損傷が酷い状態になって死んだのかと少しショックを受ける。そして、それ以上に、俺の身体が既に火葬されているということにそれまで以上のショックを受けた。
「すみません、朝比奈さんが目覚めるまでに下界では既に一月ほど過ぎておりまして……」
そうなのか……。
未だにショックから立ち上がれない俺は地面にへたり込んで頭を抱えた。
そして、改めて先ほどまで目の前にいる青年とのやり取りを思い出していた。
「……前世ではってことは、他なら何か手があるのか?」
「ええ、その通りです。私はあなたが再び生き返ることができる可能性、つまり機会をお伝えしに来たのです。朝比奈さんには二つの選択肢があります」
そう言って、イケメン青年は右手の人差し指と中指を立ててVの字を作った。
「ひとつは、このまま朝比奈さんが生きていた世界で次の輪廻へと向かわれるというものです。つまり、新たな命に生まれ変わるということです。この場合、次も人間として生まれるかは分かりません。数多の命あるものの一つとして生まれ変わります」
むぅ、生前の世界で生まれ変われるのはありがたいが、人間ではない可能性があるのか。というか、イケメン青年の言う通り、数多の命あるものから人間になれる確率を考えると躊躇してしまう。だって、次はミジンコに生まれ変わるかもしれないし、道端の雑草に生まれ変わる可能性だってあるんだぞ。
うーん、と悩んでいるとイケメン青年はもう一つの選択肢について説明してくれた。
「もうひとつは、朝比奈さんが生きておられた世界とは異なる世界で生まれ変わるというものです。もちろん、この場合はちゃんと人として生まれ変われることをお約束致しますよ。ただし、一つだけ条件を飲んで頂くことになりますが……」
異なる世界に生まれ変わる、か。漫画とかアニメでよく聞く設定だな。イケメン青年の言う世界がどんなところかも分からないが、それでも再び人間として生を受けられるというのならば、これ以外に選択肢はないだろう。
というか。これ、選択肢がないのと一緒じゃないか?
誰だってミジンコとか雑草に生まれ変わりたくはないと思うんだが。ということで、聞いてみた。
「それさ。さっき言ってた次の輪廻へってやつ、そんなのを選択する人なんているの?」
「選択肢を与えられた人の中にも、たまにおられますよ。現世にも、過去にも、そして未来にも未練のない方とか。とはいえ、やはり異世界への転生を望まれる方のほうが圧倒的に多いですね」
まぁ、そうだよな。転生先がどんな世界であれ、再び生まれ変われるのなら誰だって人間に生まれ変わりたいと思う、はずだ。
それにしても、現世にも過去にも未来にも未練がないとか一体どんなことがあったのか、是非とも話を聞いてみたいところだと思ったのだが、それ以上に気になることをイケメン青年が言った。
「ですが、通常亡くなられた方には選択肢などなく、基本的には皆さん等しく輪廻へと向かって頂くことになります。つまり、このような選択肢を与えられること自体が大変珍しいことなのです」
ということは、本来なら、俺みたいな普通の人間には選択肢などなく、普通に輪廻の流れへと向かうはずだったのか?
「それじゃ、なんで俺は選択肢が与えられたんだ?」
「はい。それは、あなたを自殺に巻き込んでしまった方からのお詫びのようなものでしてね。ご本人からの言葉をお伝えますと、『今回の一件について、赤の他人を巻き込んでしまったことは本当に申し訳なく思うし、このままでは正直死んでも死にきれないというか、寝覚めも悪いから、何とかしてあげてください』と、そう仰られましてね。そんなわけで、この度朝比奈さんには異なる世界へと生まれ変わる権利が与えられることになったのです」
そのように俺を死に至らしめた相手の言葉をイケメン青年が伝えてくれたのだが……。
お前、死んでも死にきれないって、それ生きてるやつのセリフじゃねぇか! お前、死んでるじゃんよ! 寝覚めも何も、お前永眠してんじゃんよ!
一通り心の中でツッコミを入れると俺は再び深いため息を吐いた。
正直俺を死に至らしめた相手の言葉なんて聞きたくもないと思ったが、イケメン青年の口から出てきた相手の言葉に何だか毒気が抜かれてしまった。
しかも、その相手のおかげで、ただ輪廻の流れへと向かうはずだった俺が、異世界で再び人間として生まれ変われる機会を得たのだ。そう考えると、少しばかりではあるが相手のしたことを許してもいいかな、などと思わないこともない。
とはいえ、俺が他人の自殺に巻き込まれて死んだという事実は変わりないので、その点についてはやはり『死ぬのなら、一人で勝手に死んでくれよ』という気持ちのほうが強い。
「はぁ……。なるほどですね……」
「それで、どうされます?」
「……俺はさ、今回の事故に巻き込まれなければ、もう少し長くは生きていたと思うんだよ。そりゃあ、残業や徹夜も多いし、ストレスだって多いけどさ。この年だし、もう結婚とか子供とかは半ば諦めていたし、縁のないものだと分かってるさ」
再び、「はぁ」と、ため息を一つ吐く。
「でもさ、こんな形で人生の幕が下りるなんて、どうしても納得できないんだよ。これが未練ってやつなんだろうな。やっぱり、もう少し生きたかったんだと思う。だから、俺は……」
正直言って、こんな事故であっさりと死ぬとは考えてもいなかったので、実家の両親より先に逝くことになった申し訳なさと、もう二度と会えないのだという悲しみ、そして、もっと親孝行をしておけば良かったという後悔の思いがごちゃまぜになって溢れ出てくる。
だが、その一方でワクワクする気持ちがあるのも確かだ。
生前からゲームやアニメが好きだった俺としては、異世界への転生に興味が沸かないはずがない。むしろ、そっちのほうが気になって仕方がないのは、未だにこうして意識があるせいか、死んだという実感が無いせいだろうか。
もちろん、生前の人生の続きから始められるわけではない。
でも、もう一度人生をやり直せる機会を与えてもらえるのであれば、新たな人生を全うしてみたい、それが俺の知らない異世界であったとしても。そう思ったのだ。
「俺は、生前の世界とは異なる世界であっても、生まれ変わることを選ぶよ!」
「そうですか、ありがとうございます! こちらとしても大変助かりますよ!」
「へ? た、助かるって、どういうこと……!?」
「まぁまぁ、そんな細かいことは気にしないでください! それよりも、早速ですが朝比奈さんに会わせたい神がいるのです!」
「お、おう!?」
イケメン青年の言葉が理解できない俺をスルーするように、どんどん話を進めるイケメン青年に戸惑っていると。
「このまま立ち話を続けるのもなんですし、朝比奈さんが転生される世界の説明や諸々の条件面についても詰めないといけませんしね。さぁ、こちらの部屋へどうぞ!」
そういって、イケメン青年が何もない空間に手をかざすと突然硬質な感じの白い扉が現れた。何の変哲もないけれど、見覚えのある佇まいをしている。あぁ、そういえば俺の職場にあった会議室の扉がこんな感じだったような気がする。
それはともかく、イケメン青年が手を翳しただけで突然空間に扉が現れたことに素直に驚いた。
「そういえば、神様なんだっけ……」
「ははは、最初にそうお話ししたじゃないですか。『イケメン青年』ではなく、機会神と呼んでもらえると嬉しいですね」
あれ? 俺、口に出して言ってはいなかったはずだけど……。そう思ったが、神様なら俺の考えを読み取ることができても何ら不思議ではないか、と納得する。
うん、これからはイケメン青年のことは心の中であっても機会神と呼ぶように気をつけようと思う。
そんなことを考えていると、機会神が白い扉のドアノブをガチャリと回して扉を開けて部屋の中へと誘導した。部屋の中は三人ずつが向き合う形で座れる程度の小さな会議室といった感じだった。しかも、観葉植物っぽいものまで置いてある。
「朝比奈さんはこちらの席に座ってお待ち下さい」
機会神の言う通りに、上座の真ん中の席へと通された。
何だか初めて会う取引先との会議とか、就職活動での面接を思い出すような緊張感があるな。
そういえば、先ほど機会神は『会わせたい神がいるのです!』と言っていた。ということは、これから、この会議室のような部屋に入ってくるのは機会神と同じく神様で間違いないだろう。そう考えると、やはり緊張するな。
そんな俺の緊張を解すように機会神は微笑みながら、紙のコップにお茶らしきものを淹れて目の前に差し出してくれた。ありがたく一口飲んでみたが。うん、お茶だな。しかも、美味しい。
そうこうしている間に、扉をノックする音が聞こえた。
どうやら、機会神が合わせたいと言っていた神様がやってきたようだ。
「し、失礼します!」
「失礼する……」
そう言って入ってきたのは、小柄な少女と自分と同い年くらいの中年男性の二人だった。一見、親子のような年の差を感じる外見の二人だが、上司と部下だろうか。
俺は入室してきた二人を見てそんなことを考えながら起立した。
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