アメリアの救出と付与魔法の消失
「……アメリア、ごめんっ!」
「は、ハルトっ!?」
俺はアメリアの装備を避けて勝手にさらけ出した彼女のお腹に向かって長剣を突き刺すと、驚き戸惑ったヘルミーナの悲鳴のような声が謁見の間に響き渡った。
当然だ。理由を知らなければ、味方であり瀕死の状態にあるアメリアに対して、まるでとどめを刺すような行動をしたのだから。そして、それを裏付けるようにアメリアの身体からは大量の血液が溢れ出る。間違いなく周りからは命を刈り取る最後の一撃に見えただろう。
だが、そんな周りの反応を気にして躊躇している間などない。次の瞬間、俺は俺自身がアメリアのお腹に、剣を突き刺して作った傷穴に、アイテムボックスから取り出した特級回復薬の瓶の口を挿し込んだのだった。
どうかっ、これでっ!
アメリアを抱きかかえながら、祈るように傷口の様子を見守る。アメリアの傷口に挿し込まれていた瓶から中の液体が次第に減っていく。それと同時に、傷口から溢れて出ていた血液や体液が少しずつ澄んだ薄い青色の、特級回復薬の色に変わる。恐らくは、アメリアの体内で特級回復薬が弾けるように、傷口を塞ぐようにダメージを受けていた箇所を治していっているのだろう。
そう。今回、アメリアの生命を助けるために俺が考えた作戦。それは、『回復薬を経口投与できなないのなら、直接患部に投与すればいいじゃない作戦』だった。口から飲ませることもできず、振り掛けても効果が得られないのなら、身体を切開して直接回復薬を振り掛けることができれば、効率良くダメージを回復できるのではないかと思ったのだ。
そして、その効果がアメリアの身体中に現れていた。アメリアの傷口に注がれた二本の特級回復薬は負傷を負った内臓や血管、そして細胞をみるみるうちに回復すると、次第に俺が彼女に傷付けた傷穴までも何事も無かったかのように塞いでいったのだった。
よしっ! これで、アメリアを助けられるはず! 頼むっ!
祈るようにアメリアを鑑定すると……。
『名前:アメリア・アルニム
種族:人間族(女性) 年齢:20歳 職業:アサヒナ子爵家従臣(Bランク冒険者)
所属:アルターヴァルト王国
称号:朝比奈晴人の保護者
能力:A(筋力:A、敏捷:A、知力:C、胆力:A、幸運:S)
体力:2,880/2,880
魔力:140/140
特技:剣術:Lv8、槍術:Lv5、弓術:Lv5、生活魔法、礼儀作法
状態:健康(貧血)
備考:身長:167cm、体重:59kg(B:90、W:58、H:88)』
どうやら……何とか、一命を取り留めることができたらしい。
「あぁ……。よかったぁ……」
思わず、俺はその場にへたり込んでしまう。それは当然のことだった。まさか、仲間であるとはいえ、アメリアの生命を助ける為に、彼女自身を傷付けることになるなんて。
いや、それによって彼女の生命を助けられるだろうということは何となく確信めいたものがあったものの、確証を得ていたわけではない。そんな方法を用いて彼女の生命を救おうとしたのだ。しかも、俺が長剣をアメリアのお腹に突き刺して、それを抜いた際には、本当に信じられないほどの出血があったことも見ていた。
こんなことまでしたのに、もしも、アメリアを助けられなかったとしたら……。
俺は、きっと、この世界を救うなどという、世界神の眷族としての役目を、続けることなどできなかっただろう。そんな結論に行き着いていたのだ。
だが、幸運にもアメリアの生命を助けることができた。そのことを改めて自分の中で反芻すると、俺がとった行動は正しかったのではないかと肯定することができたのだった。
……ふう。何とか、アメリアを助けることができたみたいだ。それにしても、俺が『物理無効』を付与した装備を身に着けていたはずなのに、一体どうして……?
「って、あれっ!?」
そう、確かに俺は付与魔法により、アメリアやカミラの装備の耐性を強化していたはずだ。何より、セラフィを鑑定した際に、その効果がどのように現れているのか確認している。だが、アメリアやカミラ、二人だけでなくハインリヒやエアハルトを鑑定した際にも、装備に施したはずの付与魔法が打ち消されていたのだ。
一体どうして……!? 確かに俺は付与魔法で皆の装備の耐性を強化した。それは間違いないはずなのに……?
念のため、アポロニアとニーナ、そしてヘルミーナを鑑定してみたのだが、こちらの三人のステータスには、セラフィと同様に装備による付与効果について表示されていたのだ。
ハインリヒ、エアハルト、アメリア、カミラの四人と、アポロニア、ニーナ、ヘルミーナの三人、そしてセラフィとの間に一体どんな違いがあるというのか?
ふむ。ハインリヒとエアハルト、それにアメリアとカミラは直接グスタフとあいまみえており、アポロニアとニーナ、そしてヘルミーナにはそれがない。
まさか、グスタフは俺の付与魔法の効果を打ち消すことができるのか!?
だが、それが原因なのなら、セラフィの装備からもハインリヒたちと同様に装備から付与魔法の効果が消えているはずだ。しかし、先ほど鑑定した際にはそのようなことはなかった。となると、ハインリヒたちとセラフィに何か違いがあるとでもいうのだろうか?
そんなことを考えていたが、俺がカミラやアメリアを助けるために行動しているうちに、すでにセラフィがグスタフを抑えるための行動に移っている。
このまま、ここに留まっていれば、確実に二人の戦いの巻き添えを食らうことになるだろう。俺はすぐにアメリアを抱きかかえてカミラの元へ向かうと、ヘルミーナにも手伝ってもらいながら、何とか謁見の間の端にまで逃れることができたのだった。
「ハルトっ! アメリアとカミラは大丈夫なの!?」
「えぇ、何とか……。お二人とも助けることができました。ただ、アメリアさんは随分血を失われていますので、しばらくの間は安静にする必要がありそうです」
「そう、良かった……。それにしても、アンタの創った装備は耐性強化されていたんじゃなかったの?」
「はい、その通りなんですが……。何故か、ハインリヒ陛下やエアハルト様、それにアメリアさんやカミラさん、皆さんの装備から付与魔法の効果が綺麗さっぱりと消えていたのです……」
「えっ!? それって……」
「原因は分かりません。ですが、皆さんグスタフと戦っておられましたので、もしかすると、グスタフの何らかの攻撃によるものかもしれません」
「それが本当なら、とんでもない相手ね、グスタフは……。でも、それならセラフィが危ないじゃない!」
あれだけグスタフと戦っていたセラフィの装備には何の問題もなかった。だとしたら、俺の考えは間違っているかもしれない。もしくは、たまたまセラフィには付与魔法を打ち消す攻撃を仕掛けてきていないだけか。それとも、セラフィには通じなかった、とか……。どちらにしても、気を付けるように伝えるべきだ!
「セラフィーッ! っ!?」
俺はセラフィがどこにいるのか、謁見の間を探しながら大声を上げたその瞬間、グスタフに向かって長剣を振り下ろすセラフィの姿を視界の端に捉える。
見つけたっ! セラフィに注意するように伝えなければ!
そう感じて声を発しようとしたその時。魔剣ティルヴィングを握るグスタフの右腕が、鮮血とともに宙に舞ったのだった。
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