勇者パーティーとメンバー
「……というわけなのですが、いかがでしょうか。ハインリヒ陛下?」
「……なるほど、な。それで、『勇者セラフィ』からの協力の申し出を受けよ、と。リーンハルト殿とパトリック殿の御二人はそう言うのだな?」
「はい、その通りです。そうして頂ければ、我らもハインリヒ陛下にご協力致しましょう」
「その通りです、ハインリヒ陛下。我らアルターヴァルト王国の者が陛下からの御相談に応えるためには、この手しかございません」
ハインリヒからの確認に、リーンハルトとパトリックの二人が答える。二人の言う通り、ハインリヒたちに協力するには、リーンハルトが提示したようにセラフィによる協力の申し出を受けてもらう他に手はなかった。
「うむ。ご協力の申し出ありがたく受けることにしよう。勇者セラフィ殿、申し訳ないが、このヴェスティア獣王国を救って欲しい。この通りだ……」
ハインリヒは俺たちの後ろに控えていたセラフィに対して、頭を下げた。そのことに対してどのように対応してよいのか、オロオロと俺の顔を見てきたのだが、俺が頷いて受けるように促すと、落ち着いたようにセラフィがハインリヒに応えた。
「うむ。主様からも許可を得た。其方の願い、然と引き受けた! これよりブリッツェンホルンへと向かい、其方の願いの通り、謀反を起こした張本人であるグスタフを討ち取り、王城を取り戻そう!」
「ありがたい、勇者殿。……ところで、リーンハルト殿とパトリック殿。一つお聞きしたいのだが?」
「ふむ。ご質問であれば何なりと」
「うむ。リーンハルト殿の説明では、勇者セラフィ殿からの協力を受け入れれば、アルターヴァルト王国から公に協力を、支援を受けられるというお話であったが……。これでは、勇者セラフィ殿御一人からしか、協力を頂けないのではないか?」
「はっ?」
「えっ?」
「いや、先ほどの話では勇者セラフィからの協力を受け入れれば、という提案であったが、これではアルターヴァルト王国ではなく、勇者セラフィ個人に対して協力を依頼しているように思ったのだが……?」
「ハインリヒ陛下、そのことについては私のほうから説明させて頂きます」
ハインリヒからリーンハルトとパトリックに向けて投げ掛けられた質問については俺のほうから答えを返すことにした。というか、今回ハインリヒからそのような質問をされるであろう可能性があることは、実のところ俺も分かっていたのだ。
というのも、勇者セラフィによる協力=(イコール)アルターヴァルト王国による支援、という図式は成り立たない。何故なら、勇者セラフィは個人であり、特定の団体や集団(つまり国家といった類のもの)ではないからだ。そうなると、自然と勇者セラフィによる個人的な協力となってしまうのだ。そう、『通常の解釈では』。
では、『通常ではない解釈』とはどういったものが考えられるのかについてだが、それも考えてみれば非常に単純なものだ。つまり、『勇者セラフィ御一行』として、勇者が他の者と『パーティー』を組むという方法だ。
勇者の率いるパーティーのメンバーであれば、勇者に協力していても何ら不思議ではない。まぁ、もちろんそれでも、問題になったり、状況によっては参加(賛同)できないケースもあったりするのだが。
「ハインリヒ陛下からのご質問頂いた件についてですが、結論からお話致しますと、全く問題ありません。つまり、勇者のパーティーメンバーであれば、何の問題もなく勇者の協力者となれるのです」
「「おぉっ! 流石はハルト(殿)!」」
「ふむ。アサヒナ子爵の言う理屈も分からぬものではない。だが、実際のところ、セラフィ殿のパーティーにはどのようなメンバーが在席しているのだ?」
うぅっ、痛いところを突かれたなぁ……。
実際のところ、セラフィはパーティーを組んでいるわけではない。セラフィは俺の娘兼従者の一人だ。一緒に狩りに出掛けたのも、ゴットフリートを饗すための食材を探しに行った程度……。パーティーとして行動した経験も少なかった。さて、どう答えたものか。
「……そうですね。セラフィの他には私と、えっと……」
俺はハインリヒからの質問に対して答えが定まらず、答えに詰まってしまう。もちろん、アメリアやカミラ、それにヘルミーナの名前を出せば良かったのかもしれないが、彼女らをこの騒動に巻き込むことになるのを俺は無意識に避けていたらしい。だが……。
「ゆ、勇者セラフィのパーティーメンバーは、私アメリア・アルニムとカミラ・ゼークトとヘルミーナ・ブルマイスター、そしてリーダーであり、我らの主人でもあります、ハルト・フォン・アサヒナ子爵の四人です!」
俺が色々と考え過ぎて質問に答えられない中、アメリアが皆の顔を見ながらキッパリと答えた。アメリアのほうを見ると、僅かにではあるが膝が震えている。恐らく、随分と身分の違う相手に対して発言したせいではないだろうか。
俺だって、前世ではそれなりに上司や重役たちに連れ回されながら、様々な企業の上役や偶に著名人の方々ともお会いする機会があったりしたが、やはり立場が上の相手に対しては特に失礼がないようにと緊張しながら話をしたものだし、できることならば、そのような緊張する場面に立ち会いたくないと思ったものだ。とはいえ、一方で、そういった機会は自分の知らない知識や価値観を知る機会でもあったので、意外と楽しんでいたようにも思う。今となっては、昔の話だ。
随分話が逸れたが、そんなことを思い出しながら、一回り以上も年の離れたアメリアの言葉を聞いて、勇気づけられた俺も発奮しないわけがなかった。
「はい、もちろん! アメリアさんの、私の従者の話した通り、私もセラフィのパーティーメンバーとして協力致します! それに、私はアルターヴァルト王国の貴族でもありますし、ユリアン様やランベルト様、それにリーンハルト様とパトリック様にもご協力の相談ができますのでっ!」
俺がそう言うと、ユリアンとランベルト、それにリーンハルトとパトリックも皆頷いてくれた。
そして、アメリアとカミラ、それにヘルミーナとセラフィが俺のところに集まると、皆がサムズアップしてしてきたのだった。もちろん、俺も皆にサムズアップを返す。すると、抱えていたヴァイスも『キャウッ!』と反応した。自分もパーティーのメンバーだと言いたいらしい。
その様子を見つめていたハインリヒは、おもむろに立ち上がって俺たちのところまでやって来た。俺はハインリヒに向き合うと跪いて頭を下げる。それに続くようにアメリアたちも同じように跪いた。
「うむ。それでは改めて、グスタフを討ち、王城の奪還するため、神に認められし勇者セラフィ殿と、そのパーティーからの協力の申し出を受けることにしよう!」
「こちらからの申し出を受け入れて頂き、誠にありがとうございます。ハインリヒ陛下のご期待に応えられるよう、尽力致します」
一応、アメリアからパーティーのリーダーに指名されたので、俺が代表してハインリヒの言葉に応える。
「うむ、よろしく頼む。それから、アサヒナ子爵よ……」
「は!」
そう言うと、突然ハインリヒが俺の前でしゃがみ込んで俺の肩に手を置いた。周りには聞こえないような小さな声で囁いてきた。
「(そこの赤毛の従者をしっかりと褒めてやるのだぞ?)」
「は、はい!」
「うむ!」
そう応えるとハインリヒは満足そうな様子で、俺の肩をポンポンと叩いて立ち上がった。
「では、これより我らは王都ブリッツェンホルンへと向かう! 王都をグスタフより取り戻すのだ!」
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