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協力するための理屈

 ハインリヒから俺たちに対して、グスタフを討ち王城を取り戻すために協力して欲しいとの相談があった。だが、それには様々な問題があるため、そう簡単に『イエス』とは言えなかった。ハインリヒに協力するには、自国の国民や他国から納得してもらえるような理由を用意する必要があったのだ。


 リーンハルトとパトリック、それにユリアンとランベルト、そして俺というアルターヴァルト王国側の王族と貴族の面々が船内の一室で顔を突き合わせながら頭を捻っていた。


「それで、我らがハインリヒ陛下にご協力できるラインについてだが、皆の意見を聞きたい」


 リーンハルトがそう言って打ち合わせが始まった。リーンハルトの言葉を聞いてパトリックやユリアン、ランベルトから次々と意見は出るのだが……。


「何か、大義名分がなければ表立って協力することは難しいですね……」


「ですが、そのような大義名分など用意できるのでしょうか?」


「難しいだろうな。我らがヴェスティア獣王国国内の問題に口出しすることは、他国から内政干渉とも捉えられん。しかも、今回は口だけではなく手まで出すことになるのだからな」


「ランベルトの言う通りです。例え、それがヴェスティア獣王国のハインリヒ陛下からの相談であっても、今度はヴェスティア獣王国側の問題に繋がりかねません」


「うむ。ヴェスティア獣王国がアルターヴァルト王国に恭順したと他国は認識するかもしれぬ。そうなると我が王国に対しても警戒を強めるであろうし、何よりヴェスティア獣王国の信用が失墜する。他国からだけでなく、自国の国民からもな」


「そうなると、アルターヴァルト王国としてハインリヒ陛下へご協力できることなどないのでは……?」


「うむ……。だからこそ、皆の知恵を借りたいのだが……。ハルトよ、何か良い案はないか?」


 結局、四人の意見として一致していたのは、表立ってアルターヴァルト王国の者として協力することは難しいということだった。


 では、秘密裏に協力を行えば良いのでないかと思うのだが、面倒臭いことに、アルターヴァルト王国としてはハインリヒ個人に対して恩を売るのではなく、ヴェスティア獣王国に対して恩を売りたいという思惑があったのだ。


 国に対して恩を売るとなると、当事者であるハインリヒたちだけでなく、ヴェスティア獣王国の国民からもそれなりに評価される必要があった。そうなると、表立って活動できる必要があるわけで、最初から秘密裏に行動するという選択肢は彼らの頭の中にはなかったのだ。


 そうして、彼らの出した結論が先ほどの内容であったわけだが、そこから俺に話を振るというのは些か無茶振りというものではないだろうか?


 そんなことを思いながらも、実際問題、アルターヴァルト王国の国益を踏まえて、ヴェスティア獣王国に協力するにはどうするかについて改めて考えてみた。


 つまるところ、問題点は俺たち冒険者がどこの国に所属しているのか、ということだった。


 俺なんて冒険者なだけでなく貴族でもあるのだから、余計にそう言う点において問題となりやすい。となると、アルターヴァルト王国とか、ヴェスティア獣王国とか、そういった『国家』という枠組みを超えた関係性でなければ、ハインリヒやヴェスティア獣王国に対して協力ができないということなのだ。


 リーンハルトの言葉がどれだけ無茶振りであるかがよく分かるというものだ。だけど、もしかすると何か手があるかもしれない。


 ふむ、国家の枠組みを超えた関係性、ね。国家に関係なくもっと大きな枠組みの問題として今回の一件を捉える、とか……。あれ? それって……?


「あぁっ!?」


「ど、どうした、ハルト!?」


「分かりましたよ、リーンハルト様! この理屈が通るならば、アルターヴァルト王国やヴェスティア獣王国といった、国家間に関係なく我々が堂々とハインリヒ陛下からのご相談に対して協力できます!」


「ハルトよ、それは本当か!」


「どんな理屈なのですか、ハルト殿!?」


「ぜひ、聞かせてください!」


「うむ。教えてくれ、どんな理屈なのだ?」


 リーンハルトだけでなく、パトリックやユリアン、それにランベルトも俺のほうに身体を向けてきた。皆真剣な表情で俺の言葉を待っている。


 うむ。では、皆に俺が考えついた理屈を教えよう。それは……。


「はい。それは、『勇者』の存在です。アルターヴァルト王国には、スルーズ神様が御認めになられた勇者セラフィがおります。スルーズ神様の神託にあります通り、『世界の救い手』としてヴェスティア獣王国を救うために勇者がやってきて協力を申し出た、そして、それをハインリヒ陛下が受け入れたと、そのような理屈であれば、ヴェスティア獣王国側の面子も保たれますし、我らも他国への言い訳が立ちます。そして、何より我らが表立って行動できるのです!」


「「「「おぉっ!」」」」


「なるほどな。『勇者セラフィ』による協力か。勇者セラフィは確かにアルターヴァルト王国のアサヒナ子爵の従者ではあるが、スルーズ神から認められた世界唯一の存在。つまり、アルターヴァルト王国だけで独占するべき存在ではないからな」


「その通りですね。以前、ハルト殿からご相談があったように、この世界で起こる災いを解決するためには、勇者セラフィを各国へと派遣することも話に出ておりましたし、今回のヴェスティア獣王国での一件が、その初の適用例となるのであれば、今後他国と協力関係を築くのにも有利に働くでしょう」


「うむ。もちろん、無事に解決できるのであれば、という条件は付くがな」


「では?」


「うむ。ハルトの案でハインリヒ陛下にお話ししすることにしよう。すぐにハインリヒ陛下のもとへと向かうぞ!」


「「「はい!」」」


 俺たちは客室から出るとリーンハルトを先頭にハインリヒのいる艦橋へと向かった。何だか、ハインリヒたちがやってきてから艦橋が王城内の謁見の間のようになっている気がする。


 艦橋の扉を軽くノックしてから開いて中に入ると、そこにはハインリヒとエアハルト、それにアポロニアの三人が、うちのヴァイスと戯れて(モフって)いた。


「おお、よ〜しよし! 流石は白狼、同じ髪色のアポロニアに似て可愛いものよ」


「キャウッ!」


「もう、父上ったら……」


「キャウ、キャウ!」


「ふむ。白狼は人の言葉を理解すると聞きますが、確かに顔付きも賢そうですね」


「キャウン♪」


 腹を見せて寝転がるヴァイスをわしわしと撫でながらハインリヒの言葉に反応するアポロニアと、一人呟きながら鼻筋をさらさらと撫でるエアハルト。三人はペットを相手に家族団欒を楽しんでいた。


「あ、あの……。ハインリヒ陛下……?」


 俺がハインリヒに声を掛けると、俺の声に気付いたのか、それまで寝転がっていたヴァイスがむくりと起き上がって俺の足元まで駆けてきた。それを抱き上げると、ハインリヒたちは少し残念そうな表情を見せた。


 お楽しみのところ申し訳ないのだが、これから大事な話をするのだから少し我慢して欲しい。


「お、おお、これはこれはアサヒナ子爵。それにリーンハルト殿とパトリック殿も。失礼した。その様子だと、答えが出たようだな」


「はい。ヴェスティア獣王国への協力できる可能性について皆で話し合いました結果、一つだけ方法がございます」


「ふむ。では、詳しく聞かせてもらおう」


 こうして、俺たちアルターヴァルト王国の者が、ヴェスティア獣王国での第三王子による謀反に対して、どのような形であれば協力できるのか、つまり、『勇者セラフィによる協力』について、リーンハルトから説明をしてもらうことになった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

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