表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

181/541

ハインリヒへの謁見と報告

「おおっ!? ここは一体……!?」


「むぅ、思った以上に広い……。これが本当に船の中だというのか!?」


 スキズブラズニルの船内に移動した俺たちはひとまず皆を艦橋ブリッジまで連れて行った。何にしても、ひとまずは腰を落ち着けて話をしたいと思ったからだ。それに、艦橋ならこの人数でも十分に座れるスペースがあるし、外の様子も確認できるので都合が良かった。


「さて。ハインリヒ陛下にエアハルト様。魔導船スキズブラズニルにようこそ。ここなら追手もやってはこれないでしょうし、落ち着いてお話もできると思います。ニル、念のためもう一度認識阻害を掛けておいてもらえるかな?」


「アイアイサー! 早速スキズブラズニルに認識阻害を掛けたでありますよ。これで、外部からはこの船体を見つけることはできないはず、であります!」


 ふむ。これで俺たちを狙うように追ってきていたという追手、恐らくはグスタフの手勢だろうが、奴らの目は誤魔化せられただろう。


 艦橋のメインスクリーンには俺たちを追ってきたと思わしき追手の姿が写っていたが、周りを見渡しながらも、俺たちの姿を見つけることはできていないようだった。この分なら暫くは時間を稼げるであろうということは間違いがない。


「さて。無事に我らはスキズブラズニルまで辿り着くことができました。ここから先は、改めてアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国の二国間で取り決めるべきかと思われます。ハインリヒ陛下、エアハルト様。そして、リーンハルト様、パトリック様。よろしいでしょうか?」


 ユリアンがリーンハルトとパトリック、それにハインリヒとエアハルトのそれぞれに問い掛けると、皆言葉を発さず頷いた。


「それでは、これよりヴェスティア獣王国の国王であられるハインリヒ陛下への謁見の儀を執り行いたいと思います。謁見を希望する者は、アルターヴァルト王国国王であるゴットフリート陛下の使者である第一王子リーンハルト殿下です」


 今度はエアハルトがそう告げると、ハインリヒとリーンハルトが互いに向き合う。それと同時にハインリヒの隣にはエアハルトが並び、更にその側にはアポロニアとニーナが並ぶ。リーンハルトの隣には当然ながらパトリックが並び、その後ろにはユリアンとランベルト、それに二人の従者であるゴットハルトとティアナの二人が並び立っていた。


「まずは、謝罪を受け取ってほしい。其方たちの来訪中にこのような事態となってしまったことについて、誠に申し訳ない」


 そう話すとハインリヒとエアハルトの二人が揃って重々しく頭を下げた。


「いえ、どうか頭をお上げください。確かに、獣王国に来た初日からこのような事態に直面するとは思いもしませんでしたが……。ただ、此度の一件は我らの来訪時期を狙って行われた可能性がありますので……」


 リーンハルトがそう伝えると二人が頭を上げる。


「ふむ。そういえば、其方らはあやつの、グスタフの専属近衛騎士であるアロイス・バールを捕らえておると言っておったな」


「はい。ここにいるハルト、ハルト・フォン・アサヒナ子爵の報告によると、我らが宿泊していた宿、『新緑のとまり木』を監視する者がいたとのことで、視察の中止を決めたのですが……。何と、すでに相手は第三王子の手勢であり、その監視する者たちの首謀者を捕らえてきたと、そのように報告を受けまして。全く、本当にハルトは……。思い出したら頭が痛くなってきたぞ?」


 リーンハルトが俺のほうに視線を向けてため息をついた。


 いやいやいや、俺は皆の安全を思って行動しただけで、別に面倒を起こそうと思って起こしているわけではないのだが。というか、ハインリヒも呆れたような目でこっちを見ないでほしい。


「なるほど、な。報告の内容と違わぬ優秀さ、ということか」


「へ?」


「ふむ。ハルトの情報は、すでに海を渡ってヴェスティア獣王国にまで届いておりましたか」


「うむ。アルターヴァルト王国に突如として現れた、成人もしていない子供にもかかわらず、錬金術の腕前はすでに名工と呼ばれたアレクシス・ブルマイスターを超えると聞いておる。更に、三人の王子と王女から御用錬金術師に取り立てられ、王国では久方ぶりに新たな貴族となるも、貴族としての義務を国王から免除されており、冒険者と魔導具店の経営に勤しんでいるという、我が国では考えられない待遇だ。そして、此度の『例の神託』があっただろう。そのような者について、我に報告が上がってこないはずがなかろうよ」


「なるほど、確かに」


 うーむ。感心されているのか、それとも呆れられているのか……。何とも言えない反応を見せるハインリヒに対して、同意するリーンハルト。いや、そこは少しでもフォローしてほしいところなのだが、ハインリヒの話した内容について、これまでの自分の行動を振り返ると、自分でもフォローしづらいことに気が付いた。


 もう少し自重した行動をとらないといけないな……。


「はぁ」


「さて、アサヒナ子爵よ」


「はっ!? はい! 何でしょうか?」


 突然ハインリヒから話しかけられたせいで、思わず変な声を上げてしまった。


「うむ。先ほどリーンハルト殿からもお話頂いたが、何やら其方のほうでアロイス・バールを捕えているとか」


 一応、リーンハルトがハインリヒに謁見している最中なので、俺がそのまま答えるとリーンハルトに対して礼儀を欠くことになる。念のため、直接ハインリヒと話しても問題ないか確認のためリーンハルトに視線を向けると、静かに頷いて許可を出してくれた。


「はい、その通りです。先ほどリーンハルト様からもお話を頂きましたが、我らが王都ブリッツェンホルンの宿に着いた際に、念のため、私の空間魔法『空間探索』により、我らに害をなす可能性のある者がいないか確認を行ったのです。その際に、我らに敵意を向けて監視する者たちがいることに気付きましたので、リーンハルト様やパトリック様に危険が及ぶことがないようにと、事前にその者たちを排除しようとしたのです。そして、宿から出て王都を散策中に『リュディガー殿』と『アデリナ殿』とお会いしたのですが、まぁそのことは置いておいて、すぐに彼らの潜伏する拠点に向かったところ、我らに向かって剣を向けてきましたので、これを制圧。集団のリーダーであったアロイス・バールを拘束することとなったのです」


「……何と……。其方が近衛騎士であるアロイス・バールを捕えたというのか。其方のような子供が……!?」


「いえ、流石にそれは……。私の従者が倒しました。セラフィ、こちらに」


「はい、主様」


 一番後ろで控えていたセラフィが俺の後ろまでやってくるとすぐに跪いて頭を下げた。


「ハインリヒ陛下、エアハルト様。こちらが、私の従者であり、娘のセラフィです」


「「む、娘!?」」


 二人が俺の言葉に驚き声を上げる。というか、またやってしまった……。ついつい、セラフィのことは『俺の娘』だと言ってしまうんだよなぁ。リーンハルトたちも苦笑いしている。


「……失礼致しました。私の『娘も同然の存在』と認識して頂ければと思います……」


「な、なるほど。それにしても、『セラフィ』か……」


「父上、『セラフィ』という名は……」


「う、うむ。確か、神殿の神職者に下った神託では、『ハルト・アサヒナの従者セラフィを新たな勇者と認める』という内容であったな。ということは、この娘がスルーズ神に認められた真なる『勇者』ということか」


「ま、まさか、このような娘が!?」


「ハインリヒ陛下、エアハルト様。そのご認識の通りです。このセラフィこそが神により認められた勇者なのです。セラフィ、『勇者紋』を出してもらえるかな?」


「はっ!」


 セラフィが勇者紋を発動すると、神々しい黄金のオーラが発生し、次第にそれは世界神の姿を模した形に変化した。


「おぉ。これは確かに勇者紋であるな。つまり、この娘は本当に、神に認められた勇者なのか……」


「な、何とも神々しい。これが勇者紋……。初めてこの目で見ましたが、確かに神によって認められた者の証であると、理解できますね……」


 俺がセラフィに言って世界神から聞いた『勇者紋』を出すようにお願いした。これを持つ者は世界神から正式に勇者として認められた者だけ。つまり、これを持つセラフィこそが勇者であるという証なのだ。


 ハインリヒとエアハルトの二人もセラフィの勇者紋を確認するとセラフィが神に認められた正式な勇者であることを理解したようだ。勇者紋の実物を見たことがある者はこの世界に少ないはずなのだが、神話や伝承などにより広く知られているものらしい。世界神の言っていた通りだな。


 それに、勇者紋からは神々しさというか、神聖さを感じるようにできている。どうやら、勇者紋からは神力が発生しているらしく、この勇者紋を見たものは神力の影響もあってか、その勇者紋を持つ者が神に認められた存在であることを確信するようだ。


 思わぬ形ではあったが、ハインリヒとエアハルトに『勇者』としてセラフィを紹介することとなった。だが、今ここで勇者派遣について相談することはできないだろう。それよりも先に、現在ヴェスティア獣王国が直面している問題、つまり、グスタフの謀反について解決する必要があるだろう。


 俺は勇者セラフィの紹介により逸れた話を元に戻し、アロイス・バールの件について、ハインリヒへの報告を再開することにした。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=535839502&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ