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アポロニアの目覚め

 エアハルトとハインリヒの口からバールの名前が出たことで、周りの皆からも促された結果、俺はバールを拘束して頭陀袋の中に入れて拉致してきていることを二人に告白した。


「……この袋の中に、アロイス・バールが?」


「ふむ。通常アイテムバッグには生きた人間を入れることはできないが……。まさか!?」


「も、もちろんです! この袋は私が創った特別なものでして、生きたままでも拡張された袋の中の空間に入ることができるのです!」


「何だとっ!?」


「まさか、この袋はアーティファクトか……。いや、確か先ほどこれをアサヒナ子爵が創られたと話しておられましたね。……ふむ」


 俺が二人に差し出した頭陀袋を拾い上げて、しげしげと袋を確かめていたエアハルトとハインリヒの二人が、驚いたように袋を見つめている。


 元々はバールたちの潜んでいた拠点に転がっていたただの袋だが、俺が空間操作で内部を拡張したものなのだ。正直、見た目はただの小汚い袋を真剣に見つめる国王陛下と第二王子の二人の姿は何だかおかしく感じる。まぁ、今の俺はそれを笑って見ていられる立場ではないのだが。


 それにしても、また一つ俺はやってしまったかもしれない……。生きたままの人間を入れることができるようなアイテムバッグ、それはつまりアーティファクトともいえるものなのだ。


 そのようなものを持っているだけでもある意味問題なのだが、それを俺が創ったものであると説明してしまったのだ。これが、リーンハルトやパトリックたちに向かってであれば、まだよい。


 俺は彼らの御用錬金術師だし、アルターヴァルト王国に所属する者同士の会話ということで、多少二人から驚かれるだろうが大きな問題はないだろう。


 だが、相手はヴェスティア獣王国に所属する者ということだ。


 友好国とはいえ他国の者、それも国王陛下と第二王子というヴェスティア獣王国の最重要人物だ。そのような者たちに、『アーティファクト級のアイテムを創ることができる者がいる』という情報を伝えてしまったのは完全に失敗だったといえる。


 俺は恐る恐る上司で、御用錬金術師としての雇い主であるリーンハルトとパトリックの二人の顔色を窺ったのだが、何も感じていないといった様子でその表情を全く変えていなかった。二人とは対照的に、ユリアンやランベルトは動揺しているのか、事の成り行きを見守っている。


 うぅ。やっぱこれ、やってしまったよな……。あまりにも迂闊に答え過ぎだ。リーンハルトとパトリックは余裕そうにしているが、恐らく内心ではユリアンやランベルトと同じぐらい動揺しているはず……。こんな重大な機密情報ともいえることを簡単に他国の、それも国王と第二王子の前で……。


「リーンハルト様、パトリック様!」


「うむ! 流石はハルト、我らの御用錬金術師なだけのことはある!」


「流石です、ハルト殿! 御用錬金術師に指名した我らも誇らしいです!」


 うん、何故か二人から褒められた。


「いや、あの、リーンハルト様、パトリック様。自分で自分のことを言うのも何というかアレなんですが、あまり私の能力は他国の方に伝えないほうが良いのですよね……?」


「もちろん、その通りだ。だが……」


「我らの御用錬金術師であるハルト殿の素晴らしさを……」


「「隠しておくなんてもったいない!」」


「これほどの才のある錬金術師が我がアルターヴァルト王国にいるのだと、むしろ広めていくべきではないだろうか? いや、広めるべきだ!」


「その通りです、兄上! ハルト殿の名声が世界中に広まれば、それだけハルト殿を御用錬金術師とした我らの名声も轟くというものです!」


 うーむ。リーンハルトとパトリックの言うことも分かるけれど、機密の漏洩とか、セキュリティ的な面で問題ないのだろうか……。


 二人の話を聞きながら、思わず『王国、大丈夫か?』などと思ってしまうのだが、まぁ、俺の上司である二人の王子が俺の名を広めることに許可を出しているのだから、他国で錬金術とか創造とか空間操作とかそういった能力を使っても、国家間での問題にならないのならば、まぁいいか。


「まぁ、そういうわけでして。ハインリヒ陛下、エアハルト様。バールさんをこの場に出してもよろしいですか?」


「う、うむ……。いや、待て。その前にアポロニアの正気を取り戻すべきだろう」


「ふむ、そうですね。えっと、そこの君、アポロニアをこちらまで連れてきてくれるかな?」


「は、はいっ!」


 ハインリヒとエアハルトの言葉にティアナが反応して、アポロニアを背負ったままエアハルトの前に出た。アポロニアの従者であるニーナも心配そうにティアナの隣に立つ。


 すると、エアハルトが懐から折り畳まれた包み紙を取り出すと、それを解いて何やら干し肉のようなものをアポロニアの鼻先に差し出した。


「アポロニア、アポロニア。ほら、アポロニアの大好きなサーベルリザードのジャーキーだよ」


 おおっ!? サーベルリザード! 久々にその名前を聞いたが、あの肉は串焼きが絶品だったが、ジャーキーだと!? お、俺も食べてみたい!


 当のアポロニアはというと、エアハルトの差し出したサーベルリザードのジャーキーから漂う微かな匂いに反応すると、鼻をスンスンと鳴らしながら、匂いの元を追うように鼻の位置を動かす。


「んんっ……。はむっ(スカッ)……。スンスン……」


 エアハルトが意地悪くジャーキーに辿り着いたアポロニアの口元からジャーキーをヒョイっと取り上げると、案の定アポロニアはジャーキーを口にできず、またも匂いを頼りに鼻を動かし始めた。


「ふふっ、可愛いでしょう?」


「……そうですね(なかなかに鬼畜な兄貴だな……。まぁ、確かに可愛いけれど)」


 そうこうしている内に、ジャーキーに見事辿り着くことができたアポロニアはジャーキーを加えるともにゅもにゅと食べ始めた。


「んんっ……! むにゅむにゅ……。もにゅもにゅもにゅ……。ごくっ…………。んっ、あ、あれ、え……? エアハルト兄上……?」


「そうだよ。おはよう、アポロニア」


「ふむ、ようやく目覚めたか。我が娘ながら、食い意地が張っているというか、何というか。だが、無事で何よりであった」


「ち、父上っ!? はっ!? こ、ここは?」


 ふむ。無事にアポロニアも気が付いたようだ。


 だが、流石に王都にいたはずなのに気が付けば木々が鬱蒼としており、辺りはすでに闇に包まれている状況とあれば驚くのも無理はない。


 しかも、目が覚めたら、王城でのグスタフによる謀反の話を聞いた時点で行方不明であると聞かされていた、生死不明の父親であるハインリヒと、兄のエアハルトが目の前にいたのだから、その驚きも一層大きなものだっただろう。


「うむ、我らはアレクサンダーが身を挺してつくり出した隙を突くことで、何とか王城から脱出し、エアハルトに助けられながら、この王都の外れの森まで難を逃れることができたのだ。そして、奇跡的にも、リーンハルト殿とパトリック殿に出会うことができたのだ」


 うん、これは嘘だな。


 エアハルトとハインリヒは、俺たちが無事に王都から脱出するのを見届けてから、追い掛けるように俺たちの後をつけてきていたのだ。


 これは、特に指示をしていたわけではなかったが、常に周囲の状況に気を配っていたニルによる気配察知というか、索敵追尾にずっと引っ掛かっていたらしい。というか、そういうことは早めに報告してほしいものだが……。まぁ、今となっては仕方がない。


 さて、それはともかく、ようやくアポロニアも気がついたのだ。そろそろ、バールを頭陀袋から出してもよいのではと思っていたのだが……。


「マスター、五時の方向に敵影を確認、であります!」


「えっ!? それってつまり」


「はい、追手でありますよ!」


 はぁ、ようやく落ち着いて話ができると思ったのに……。でも、確かに、いつまでもこんな森の中にいるわけには行かないか。


「皆さん、お聞きの通り、追手が近付きつつあります。これより急ぎ移動し、スキズブラズニルを目指します。ご支度を!」


「「「「「「「「はい!」」」」」」」」


「「「「こっちはいつでも大丈夫!」」」」


 リーンハルトたちとアメリアたちは既にニルの存在を認識しているからか、躊躇なく応えてくれたのだが、エアハルトとハインリヒの二人は俺の胸元で明滅する精霊晶を不思議そうに覗き込みながら、少しずつ動き始めた。


「父上。……急ぎ、支度しましょう」


「う、うむ」


 こうして、俺たちはリーンハルトたちとアポロニアとニーナ、それに頭陀袋の中にいるバールを含む十四人に加えて、ヴェスティア獣王国の国王陛下であるハインリヒと第二王子のエアハルトを仲間にした十六人の大所帯で、魔導船スキズブラズニルの錨泊地点へと向かうことになった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

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