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ブリッツェンホルン脱出作戦(前編)

「さて、どうやって抜け出しましょうか?」


 王都の北門には、グスタフの手勢によるものと思われる厳重な検問が敷かれていたため、このままでは王都を脱出することが難しいだろうことは、すでに皆も理解していた。


 俺たちは近くの建物の物陰に影を潜めながら、これからどうするか、月明かりだけを頼りに俺とリーンハルトとパトリック、それにユリアンとランベルトの五人で話し合っていた。従者である他の皆はその様子を固唾を飲んで見守っている。


「むぅ……。あそこに陣取っている奴らは、我らの命を狙うような連中だ。残念ながら、交渉してどうにかなるとは思えんな……」


「そうですね。それにこのような集団ではどちらにせよ、警戒されてしまうでしょうし……」


「ですが、かと言って、他の門も同じ状況でしょうし、何より魔導船に向かうことが難しくなると思われます……」


「ふむ……。ヴェスティア獣王国から離れるにしても、アポロニア王女を国王として擁立するにしても、ハルト殿の魔導船があったほうが何かと都合が良いだろう」


 リーンハルトとパトリックの言葉にユリアンとランベルトの二人が北門から外に出てスキズブラズニルを目指すことを進言した。


 確かに、二人の言う通り、スキズブラズニルにまで辿り着くことができたら、グスタフたちから距離を置けるし、何よりアルターヴァルト王国に戻ることもできるので、何かと都合が良い。そのことは皆も同じ認識だったようで、すぐに目の前にある北門から外に出る方法について検討が始まった。


 俺たちがこの北門から脱出するには、第一に北門を開けさせること、第二に開いた北門から俺を含めた十三名が無事に外に出る必要がある。さて、その方法が問題なのだが……。


 どうすれば検問を敷いているグスタフの手勢をやり過ごせるか、そのことを考えていたとき、セラフィが話し掛けてきた。


「ふむ、主様。そこの検問を敷いている近衛騎士程度、私が出向いて意識を刈り取り、門を破れば王都の外に出られると思いますが?」


 なるほど、強硬手段ではあるが確かにそれも一つの手だ。セラフィの力を行使すれば、グスタフの手勢を倒して門をぶち破り脱出することなど容易いことだろう。何せ、セラフィはこの世界でも最強のステータスなのだから。だが……。


「確かにその方法でも脱出はできるでしょう。ですが、それではすぐに私たちが王都から脱出したと、グスタフ王子の手勢に気づかれてしまいます。いえ、気づかれること自体はそれほど問題ではありません……。セラフィの案で問題となるのは、『何者かにより王都の検問を行っていた者が襲われ、王都の門が破壊された』という証拠が残るということです。そのことと俺たちの失踪をグスタフ王子が紐付けないわけがありません。つまり、アルターヴァルト王国の王族や貴族が、突如として勤勉に任務に努めていたヴェスティア獣王国の近衛騎士たちの意識を刈り取り、さらには王都の北門を破壊していったのだと、グスタフ王子がヴェスティア獣王国、特にブリッツェンホルンに暮らす住民たちに、そのように触れ回る可能性があります。もし、そのようなことになれば、王国と獣王国との友好関係を継続できなくなる事態に繋がりかねません……。そういったことを考えると、できる限り、私たちは人知れず行方を眩ませられたほうが、両国にとって都合が良いと、そう思うんですよ」


「申し訳ありません。思慮不足な提案をしてしまいました、主様」


「いえ、そんなことはありません。提案してくれてありがとう、セラフィ」


 セラフィの提案に対して、世辞のような礼を言いつつも、俺は一人冷静になってセラフィの提案を改めて見直していた。


 ぶっちゃけて言うと、セラフィの案が個人的には一番簡単な方法だと思うし、スカッとして気持ちのいい方法ではあるんだが、何分、今の俺にはアルターヴァルト王国の貴族という立場があり、セラフィにはそんな俺の従者という立場がある……。そして、今回はリーンハルトやパトリック、それにユリアンとランベルトといった、アルターヴァルト王国の王族や貴族と一緒に行動しているんだ。流石に、俺の感覚だけで好き勝手はできないんだよなぁ……。


 そんなことを思い浮かべながら俺は、今俺たちが取れる対策について考えを巡らせていたのだが、そのときアメリアが思いついたように話し掛けてきた。


「ハルト、以前図書館で私とカミラに見せてくれたような、完全に姿を認識できなくする、強力な『認識阻害』を皆に掛けることはできないのかな?」


「確かに、あの時ハルトがどこにいるのか、全く分からなかった! あの『認識阻害』なら、検問に気付かれることはないと思う!」


 そういえば、以前図書館に闇魔法を調べに行ったときに、初めて使った認識阻害は存在自体を認識できなくするほど強力なものだった。あまりに強力過ぎてそのままでは使うことができず、結局身体の一部(つまり、顔なんだが)だけに使用したり、今のように見た目を変化させるような使い方をしていたのだ。


 そして、アメリアからの質問。全員に元々の闇魔法『認識阻害』を掛けることができるのか、その答えはもちろん『イエス』だ。


「なるほど! 確かに、元々の闇魔法『認識阻害』なら皆の姿を完全に認識できなくすることができそうですね!」


「元々、だと?」


「どういうことですか、ハルト殿?」


「えっと、元々闇魔法『認識阻害』というのは、対象の存在を認識できなくするものだったのですが、使い勝手が良くなかったので、私の場合は顔だけに使用するよう調整していたのです。今回皆さんに掛けたのは、元々の姿を別の姿として認識させるものでして、これはどちらかというと認識阻害というより、認識変更という感じでしょうか」


 そんな風に、リーンハルトとパトリックからの質問に答えたのだが、何故か皆に驚かれてしまった。


「と、ということは……。これはハルトのオリジナル魔法!?」


「凄いです、ハルト殿! オリジナル魔法を創り出せるなんて、凄過ぎます!」


 あぁ、そういえば……。以前も屋敷を創ったときにアメリアたちから突っ込まれていたのを思い出した。


 確か、オリジナル魔法を創り出せる者は稀有な存在だったんだよな。しかも、オリジナル魔法は創り出した本人以外は、使い手がほとんどいないとか。


「いえ、それほどでも……。それよりも、アメリアさんのおかげで皆さんの存在を認識されないようにする方法は決まりました。あとは、門を開ける方法についてですが、一つ思いついたことがあります」


 アメリアの一言で、改めて闇魔法『認識阻害』の有用性を認識できたのだが、それと同時に俺の創り出したオリジナル魔法『認識変更』の使い方について、一つ思いついたことがあったので、試してみることにした。


「闇魔法『認識変更』!」


 俺は俺自身の存在が別人物になるように『認識変更』を掛けてみたのだ。認識阻害(認識変更だが)で皆を何処の誰でもない獣人族の姿に見えるようにできたのなら、特定の人物に認識されるようにもできるのではないかと考えたわけだ。


 そして、それは想定していた通り上手くいったらしい。


「「「バ、バール!?」」」


「ふむ。なるほどな。ハルトの考えていることが分かったぞ」


 パトリックとユリアン、それにランベルトは驚いたように俺の顔を凝視した。リーンハルトだけがクツクツと笑いながら、俺が何故認識変更を掛けてバールの姿に見えるようにしたのか、理解しているようだった。


「はい。この通り、バールの姿に認識変更することで、検問している者たちに門を開けるように命令できるのではと思いまして」


「うむ。確かに、それならば上手くいきそうだが、一つだけ問題があるぞ、ハルト」


 はて? この完璧ともいえる作戦に一体何の問題があるというのか。


「其方の声では高すぎる。幾ら声真似したとしてもバールとは似ても似つかんだろう」


「へっ!?」


「「「確かに……」」」


 リーンハルトから指摘されて気付いたが、そういえば今の俺は十歳児、まだ声変わりもしていない。この声では幾ら低い声をだしてもおっさんの声にはほど遠い。どころか、五十七歳のバールの見た目でこんな高い声を出していたら気持ち悪い、ではなく、怪しまれることこの上なかったのだ。


 完璧な作戦だと思ったのに、思わぬ穴があったか……。


 結局、リーンハルトの提案で、俺たちの中で最も年上のゴットハルトに『認識変更』を掛けて、バールに化けてもらい、ブリッツェンホルン脱出を試みることになったのだった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

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