アポロニアの覚悟
「ふむ、しかし第二王子の手勢か……。既に第三王子の行動について掴んでいるとみても良いだろうな」
「それにしても、わざわざ我らに忠告してきたということは、我々の味方ということでしょうか?」
「うむ。だが、彼らは我々に『獣王国から立ち去るように』と言ってきたということは、彼らとしても不要なトラブルを避けたいという思いがあるのだろう。そういう意味では、我らがいつまでもこの国に留まっていることは良く思われないかもしれないな」
「なるほど……。それに、第二王子が第三王子の動きをご存じなのでしたら、国王陛下や第一王子にも既に情報が伝わっている可能性が高いですね。となると、ユリアンとランベルトが王城へ国王陛下との謁見を願いに向かいましたが、謁見は叶わないかもしれませんね……」
「うむ。ハルトがもう少し早く話してくれれば、良かったのだが……」
「うぅ、申し訳ございません……」
「これは、我らと獣王国の視察だけでなく、他にも付き合ってもらわねばならないな!」
「その通りです! せっかくヴェスティア獣王国、つまり南国へやってきたのですから、多少のバカンスにも付き合って頂かないと!」
「えぇっ!?」
「「期待してるぞ(います)!」」
「ふぅ、仕方がないですね……。今回の第三王子の件が解決して、日程に余裕ができた場合は、ユリアン様とランベルト様のお許しを得てからにはなりますが、観光に参りましょう」
「「やった!」」
もう、本当にこの王子たちは……。とはいえ、二人とも成人もしていないまだまだ子供なわけだし、仕方がないかもしれないが。
「はぁ……」
・
・
・
さて、俺が皆に報告しなければならないことは全て共有できたので、一旦俺の部屋に戻ることにした。
まだ眠っているだろうが、バールの様子も確認しておこうと思ったのだ。まぁ、もちろん様子を確認するだけで済ませるつもりはなくて、ちょっと話を聞こうとは思っているんだけれど。
俺は部屋へ戻るに当たって、念のためアメリア、カミラ、ヘルミーナに同行してもらうことにした。まぁ、俺だけでもバール一人暴れられたとしても取り押さえることぐらい問題はないのだが、一人でバールと向き合うよりもこちらの人数が多いほうが話を聞き出しやすいと思ったのだ。バールにとってみれば、所謂圧迫面接というものになるわけだが、俺としては一人で話すよりは心強いので正直助かるというものだ。
因みに、セラフィにはリーンハルトとパトリックの二人の護衛に当たってもらうことにした。
ユリアンとランベルトの二人が、ゴットハルトとティアナの二人の従者を連れて王城へ向かっているため、二人の王子の護衛が全くいない状況となっていたのだ。流石に命を狙われているという状況で彼らだけで部屋に残すわけにもいかず、俺たちの中で最も強い戦力であるセラフィを彼らの護衛に付けたのだ。
流石に勇者セラフィならば、護衛が一人であっても戦力としては十分だろう。リーンハルトとパトリックの二人も納得してくれた。
「あの、アサヒナ子爵様。私もご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか……?」
「アポロニア様……」
リーンハルトの部屋を退出する際に、不意にアポロニアから話し掛けられた。
どうやら、俺が部屋に戻ってバールの様子を確認する場に同席したいという。恐らく、彼女も俺がただバールの様子を確認するだけではないと感じ取ったのだろう。心配そうにニーナがアポロニアの側に寄り添っている。
俺は別にアポロニアが同席することについて問題はなかったが、むしろ、アポロニアのほうが大丈夫なのか気になった。
「アポロニア様、同席頂くのは問題ありません。ですが、アポロニア様はよろしいのですか? その、先ほどまでのバールから聞き出した内容は、随分とショッキングなことが多かったと思います。そして、これからもう一度そのバールに話を聞くことになるのですよ?」
「っ!」
俺の言葉を受けてアポロニアは身体を硬直させる。
先ほどまでのバールの尋問で随分と精神的に参っている状態なはずなのに、彼女は気丈にも自分から、もう一度バールと面会しようと言い出したのだ。だが、俺としては、そんな状況にある彼女を本当に同席させてもいいものか、判断ができなかった。
だから、俺はあえて、アポロニアに少し厳しい言葉で彼女自身の意志を確認したのだ。
「アサヒナ子爵様……。正直にお話ししますと、怖いです。恐ろしいです……。まさか、血を分けた兄上から命を狙われるようなことになるなんて、これまで考えたこともありませんでしたから」
「アポロニア様……」
「ですが、私にはどうしても、グスタフ兄上が……。あの明るくて聡明なグスタフ兄上が、そのようなことを考えているとは、どうしても思えないのです……」
「……」
「ですから、私は真実を知りたいと思います。もしも、グスタフ兄上が、本当にそのようなことを考えておられるのでしたら、私が、私たち兄弟がグスタフ兄上をお止めしなければならない。そう、このヴェスティア獣王国の王家に生まれた者が犯した罪は、王家に生まれた者が責任を持って償わねばなりません。それが我ら兄弟の使命なのです……!」
アポロニアの言葉を聞いて、彼女のヴェスティア獣王国の王女としての覚悟を、そして、アポロニアの表情を見て、その表情がヴェスティア獣王国の王女として使命感に満ちたものであることを感じ取ることができた。今のアポロニアなら、問題ないだろう。
「アポロニア様は気丈であられますね。分かりました、それでは一緒に参りましょう」
「ありがとうございます、アサヒナ子爵様」
こうして俺はアメリア、カミラ、ヘルミーナに加えて、アポロニアとニーナの五人を連れて自分の部屋へ戻る。部屋の前に着いてドアノブに手を掛けようとしたそのとき、部屋の中から何やらうめき声のようなものが耳に入ってきた。
どうやら、バールに掛けた闇魔法『昏睡』が解けているようで、恐らく暴れているのだろう。念のため拘束するのに加えて猿轡をしておいて良かった。
ドアを開けて、ぞろぞろと六人で中に入り、バールが寝ているベッドの前へとやってきた。予想通り、彼は既に覚醒しており、俺たちの姿を見て驚愕しているようだった。このままだと埒があかないので、バールにつけていた猿轡を外した。
「ぶはっ! き、貴様らは一体何者だっ!? 一体私をどうするつもりだっ!?」
「おはようございます、アロイス・バールさん」
「貴様、一体何者だっ!? どうして、私にこのような狼藉を働く!?」
うん? 俺のことを覚えていないのかな。まぁ、バールたちが潜伏していた拠点を制圧したのは、ほとんどセラフィだったし、仕方がないか。
「これは、御挨拶ですね。私たちの命を狙っていたのですから、私の名前くらいご存じかと思っていましたよ」
「……い、命を狙う、だと!? 一体何のことを言っている!? それよりも、早くこの拘束を外せっ!」
「ふむ。誤魔化そうとしても無駄ですよ、バールさん。貴方たちが、グスタフ王子の命により、アルターヴァルト王国第一王子並びに第二王子、そして我々アルターヴァルト王国貴族暗殺を企てていたことは、すでに貴方の口から自白頂いておりますからね?」
「ア、アルターヴァルト王国の、王子の暗殺だとっ!? そんな馬鹿なっ!? 嘘だっ! 友好国の王族や貴族に対して、そのようなことをするはずがないだろう! それに、グスタフ殿下が、そのような命令を出すはずがなかろう!」
「バールさん。先ほども言いましたが、誤魔化そうとしても「誤魔化してなどいない! どうして、私がっ、わざわざ、友好国の王族や貴族を暗殺する必要があるというのだっ!」」
「ふむ。バールさん、貴方はどうしても記憶にないと仰るようですが、我々は実際に貴方たちに命を狙われたのです。そして、今この瞬間も貴方が仕えているグスタフ王子の手勢に、命を狙われている状況なのです」
「……そんな馬鹿なっ……!?」
「よろしいでしょう。あくまで記憶にないと仰るのであれば、何故貴方がここで、このように拘束されているのか、そこからお話致しましょう……」
どうにも、バールと話が噛み合わない。
俺たちは皆バールが嘘をついて誤魔化しているのではないかと疑っていたのだが、バールの反応はそういった感じではなく本当に何も覚えていないという感じだった。なので、改めて俺たちがバールと出会った経緯や、バールを捉えて尋問を行ったことなどを説明したのだが……。
「……そんな、まさか……。ならば、もう一度、もう一度私に『催眠』と『暗示』を掛けてくれ! 私の身の潔白を証明したい!」
バールがそんなことを申し出てきたので、俺たちだけで判断するわけにもいかず、リーンハルトとパトリックに相談することになった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます!




