リーンハルトたちへの報告
俺たちはザマーの魔導具店から宿に戻ると、ひとまず第三王子の手勢の件についてリーンハルトに報告するため、リーンハルトの部屋を訪問することにした。早速、扉を叩いて部屋の中に声を掛ける。
「リーンハルト様、失礼致します。アサヒナ子爵、ただいま戻りました」
「おぉ、ハルト。よく来たな」
「お疲れさまです、アサヒナ殿。それで、ヴェスティアの王都はいかがでしたか?」
リーンハルトの中にはソファーで寛ぐリーンハルトと、何かの書類に目を通しているユリアンがいた。どうやら、俺が外出している間に、無事荷解きは終わっているようだった。
「そうですね。アルターヴァルト王国以外の、他国の王都を見て回るのは初めてでしたが、流石は王都というだけのことはありますね。人も街も大変活気がありましたし、なかなか楽しめました」
「ふむ、私とパトリックもこの度の外遊では、父上より見聞を広げてくるようにと言われておる。獣王国の滞在中に市井の様子を視察するつもりだ。私とパトリックを置いて先に視察してきたハルトには、是非とも案内を頼みたいところだな!」
リーンハルトがそんなことを口にすると、タイミングが良いのか悪いのか、パトリックがリーンハルトの部屋に入ってきた。
「それは素晴らしいアイデアです、兄上! ハルト殿とのヴェスティア獣王国の王都視察……。これはこの度の獣王国への表敬訪問に、新たな楽しみが増えたというものです!」
ふむ、そういえば今回のヴェスティア獣王国への外遊は、今後の両国の友好関係の確認と、勇者派遣について両国での条件を取りまとめることが主な議題ではあったが、表向きにはアルターヴァルト王国からヴェスティア獣王国への表敬訪問であった。
基本的にはお互いに有効的な関係であると示す献上品を交換し合い、訪問先で市井の様子を視察するという、本当にそれだけならば大変楽な、まさに外遊と言えるものだったのだが……。
いつの間にか、やらなければならないことや、決めなければならないことが山積した結果、今回の外遊はそれなりに重要な意味を持つものとなっていたのだ。
そんなことを思い出していると、パトリックに続いてランベルトも入室する。パトリックの教育係であり、今回の外遊ではパトリックの世話役も務めているので、一緒に入ってきたのだろう。だが、それは俺にとっても都合が良かった。
「兄上が視察される際には、私も同行致します!」
「そういうことだ、ハルトよ。頼んだぞ?」
「はぁ。私も皆様を案内できるほど隅々まで視察したわけではありませんが、仕方がありませんね。承知致しました」
「「おおおっ!」」
リーンハルトとパトリックから歓喜の声が上がる。まぁ、宿を出る前に彼らからの「一緒の部屋に泊まる」という提案を断ったばかりだし、それくらいは譲歩してもいいだろう。
さて、そんな下らないことはさて置き、俺がわざわざリーンハルトの部屋までやって来た理由が別にあったことを思い出す。
「リーンハルト様、パトリック様。私から幾つかご報告したいことがございます。できましたら、私の従者たちを同席させて頂きたく。特にアポロとニーナの二人には確認せねばならないことがございますので……」
「ふむ……。ハルトがそのようなことを言うということは、ヴェスティア獣王国に関係すること、ということだな? 良い許可しよう」
「ありがとうございます!」
リーンハルトの部屋は女性の従者たちが宿泊する大部屋よりも広かったのだが、流石にリーンハルトとパトリック、それにユリアンとランベルトに、ゴットハルトとティアナ、そしてアメリア、カミラ、ヘルミーナ、セラフィに、アポロとニーナというメンバーが揃うとやや手狭に感じるのは仕方がないことだろう。そこに、俺と俺の腕に抱かれたヴァイスが加わるのだから仕方がない。
因みに、リーンハルトとパトリックの手元にいるゲルヒルデとブリュンヒルデは身体が小さいので特に影響はなかった。
「うむ、全員集まったようだな。これより、本日ハルトがヴェスティア獣王国の王都を視察して気付いたことについて報告をしてもらう。そのため、皆にも集まってもらった。では、ハルト、報告を頼む」
俺はリーンハルトの言葉を受けて報告を始める前に、念の為外部に音声が漏れないようにする為、闇魔法『音声遮断』を室内に掛けると、報告を始めた。
「それでは始めさせて頂きます。本日、この宿『新緑のとまり木』に到着した私は周囲の警戒も兼ねて、空間探索の魔法を使用致しました。すると、私たちに向けて強い敵意を放ちながら、こちらを監視する存在を確認したのです」
「何!? 我らに敵意だと!?」
「そんな!? 一体誰がそのような……」
リーンハルトとパトリックの二人が驚いて声を上げる。だが、ユリアンとランベルトの考えはまた違うものだった。
「なるほど……。そういった者に狙われる可能性は考えておりましたが、王都に入って初日から警戒されていたとは……」
「うむ、リーンハルト様とパトリック様の王都視察は控えたほうが良さそうですな……」
「「えぇっ、どうして!?」」
リーンハルトとパトリックが、ユリアンとランベルトの言葉に驚いた。というよりも、ランベルトが「視察を控える」といった言葉に反応したようだった。
「両国の状況を踏まえた上での判断です。相手の素性は分かりませんが、もしも視察中にリーンハルト様とパトリック様の身に何かがあった場合、確実に二国間の関係は悪化してしまいます。友好のために獣王国にやってきたというのに、もし、そのようなことになれば……」
「うむ。下手をすれば戦争に繋がりかねん。特に、王国側から獣王国側に対して、犯罪者の引き渡しや賠償金の請求など多くの要求を出すことになるだろう。そして、もしも、それが獣王国側に受け入れられなかった場合、王国国民の獣王国に対する感情は最悪なものになるだろうな……」
「それだけではありません。獣王国の国内も相当荒れるでしょうね。国民全体が王国に対して敵意を向けているのならまだしも、現在は友好国なのです。一部の者の暴走により王国との関係が悪化すれば、王国に友好的な者とそうでない者の間で衝突が起こり、内乱に陥ることも考えられます」
「うむ。リーンハルト様、パトリック様。もし、アサヒナ殿の情報が正しい場合、うかつに視察などされますと王国、そして獣王国の双方について、重大な事態となりましょう。ですから」
ランベルトの言葉にリーンハルトとパトリックが渋々といった様子で頷く。
「あぁ、分かっておる。視察は一旦中止としよう」
「それにしても、一体どこのどなたが我々を敵視されているのでしょうか。せっかくのハルト殿との視察が台無しです!」
「全くだ!」
「それですが、どうやら第三王子の手勢のようです」
「「「「何!?」」」」
「ついでに、私たちを監視していた彼らの潜伏先についてはセラフィと制圧した上で、その場にいた指揮官らしき男を捕らえて参りました」
「「「「えっ!?」」」」
まだまだ報告は始まったばかりなのだが、俺の話を聞いた皆は既に疲れた表情を見せていた。
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