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監視する者達

 ティアナに用意してもらった獣王国での宿泊先は、広めの部屋と聞いていたけれど、うちの屋敷の自室よりも広く、十分に満足のいく部屋だった。


 王都アルトヒューゲルの金色の小麦亭でアメリアとカミラが借りていた部屋と同様に、風呂とトイレも部屋ごとに備え付けられているらしく、この世界の基準においては十分に高級宿であることが分かる。ただ、流石にうちの屋敷のような広い大浴場はないようだった。どちらかというとプライバシーを重視した造りなのかもしれない。


 リーンハルトとパトリックの部屋はこの部屋よりも広いらしいと聞いているが、先ほどのこともあったので、あとで様子を見に行ったほうがいいのかもしれないのだが、あの二人の性格を考えるとあまり甘やかさないほうがいいのではないかと最近は思い始めている。最近妙にスキンシップを求めてくるからだ。


 最初は親戚の子供がじゃれついてきた程度に考えていたのだが、よくよく考えれば、年の近い、それも十歳程度の男の子同士でそういうことなんて、前世の世界では考えられないような気がしていたのだ。


 そのことについて、旅立つ前にアメリアたちに一度相談したのだが……。


「まぁ、王子様たちも同年代で親しくできる友人がいないという話をユリアン様から聞いているし、仕方がないんじゃないかなぁ?」


「ハルトが王国の貴族として成り上がるのなら、次期国王となる第一王子と、その側近となる第二王子と親しくするのも良いと思う……」


「二人の言う通り問題ないと思うけれど、そもそもハルトは一体何を気にしているのよ?」


「主様は寒気を感じると仰られていましたが、その辺りを気にされておられるのでは?」


 うちの四人のお姉様のうち、アメリアとカミラ、ヘルミーナの三人はそんな風に、子供同士で仲良くなることに何の問題もないと感じているようだった。セラフィだけが俺の心情を汲み取ってくれていたのだが……。


 だが、そんな状況を打ち砕いてくれたのが、リーザとリーゼの二人だった。


「「これは、ご主人様の、貞操の危機ですわね……」」


「「「「え゛え゛え゛っ!?」」」」


「まさかっ!? 一体、どういうことなんだ!?」


「リーザ、リーゼ。どういうこと?」


「まさか、リーンハルト様とパトリック様のお二人が、ハルトのことを!? キャッ!!! いえ、ダメよ。面白いシチュエーションだけれど、ハルトの貞操は私たちが守ってあげないと! でも、それにしても……」


「ふむ、アメリア殿とカミラ殿、それにヘルミーナ殿もリーザ殿とリーゼ殿の話を理解されておられるようですが、一体どういうことなのでしょうか?」


「いやセラフィ、そんなことを知る必要ないから! リーザさんとリーゼさんも黙っていて!」


「「「ハルトは黙っていて!」」」


「主様、御免!」


「うぇ!? セラフィ!?」


 俺がセラフィに取り押さえられる中、リーザとリーゼの姉妹がアメリアとカミラ、ヘルミーナとセラフィに対して耳打ちするようにゴニョゴニョと囁くと、途端に四人の顔と耳がその先まで真っ赤に染まってしまった。


 つまり、それほど、俺が耳を塞ぎたくなるような過激なことを伝えているのだと、そう悟るのに一秒も掛からなかった。


「リーザさん、リーゼさん……。今すぐこの屋敷から出ていくか、その妄想を止めるか、好きなほうを選んでください……」


「「うふふ、ご主人様のご命令ということでしたら、もちろん、このお屋敷に残るために止めますわ」」


 二人はそう言うと、即座に四人への耳打ち(というか囁き)を止めて部屋を出て行った。


 そう、出て行ったのだが、結局その耳打ちした内容が消えるということはなく、俺がリーンハルトとパトリックの二人と近づく際には特に注意を払うと、皆が団結したようにそう話した。


 経緯はともかく、俺の感覚を理解してくれただけでもありがたいと思えば、リーザとリーゼの耳打ちも役に立ったと言えるかもしれない。


 でも、何故か二人に礼を言う気持ちにはならないな……。


 そういう経緯もあって、先ほど俺がリーンハルトとパトリックの誘いを断ることについては、俺とアメリアたちとの間では問題ないという認識になっていたのだが、アポロニアとニーナには何故王国の重鎮とも言える第一王子と第二王子にこのような態度を取っているのか、不思議そうに眺められた。


 恐らく、今頃四人からその辺りの事情というか情報が、新たに従者となったアポロニアとニーナにも共有(教育)されていることだろう。


 さて、皆は自分たちの荷物を置いたり、荷解きのため自室となった宿の部屋で忙しくしているだろうが、俺はと言えば、アイテムボックスに全て詰め込んできていたため、特にやらなければならないこともなかった。


 既に部屋の中の確認を終えただけでなく、空間探索により周囲の状況も把握していた。


 もちろん、このような獣王国の王都に魔物などが見つかることはなかったが、俺たちの宿を監視している者がいることに気付いた。また、それらの者たちからは敵意を向けられていた。


 俺たちに敵意を向けてくる者に心当たりはまったくない。


 可能性があるとすれば、盗賊の類だ。俺たちは門番たちに対して、国王陛下との会談と親書を届けるためにやってきたと伝えている。それを聞けば勘の良い者であれば、当然俺たちが手ぶらで国王陛下と会うはずがないと分かるはずだ。つまり、国王陛下に贈る高価な贈答品を持ってきたはずだと理解するだろう。


 もう一つは、アポロニアとニーナを襲ったという連中が、二人を見つけたという可能性だが、アポロニアとニーナは俺の認識阻害によって完璧にその姿を『ただの人間族』に変えていることから、可能性としては低いだろう。


 そうなると、前者の可能性が高くなるが、もう一つ可能性がある。


「俺たち、アルターヴァルトの王国貴族が狙いという可能性もあるか……」


 贈答品ではなく、俺たちアルターヴァルト王国の貴族を、いやリーンハルトとパトリックという二人の王子を狙っているのだとしたら、二人を危険な目に遭わせるわけにはいかない。


「よっし! ちょっと暇だし、こういったリスクは潰しておきますか。ニル、ちょっと危険な目に会うかもしれないから周りの状況については気を付けておいてくれ!」


「了解であります!」


 俺の胸元にぶら下がった精霊晶に宿っているニルにも軽く状況を伝えておく。もしも、ニルに何かあっては俺たちが獣王国から王国へ帰れなくなってしまうので、彼女との情報共有も当然ながら必要だった。


 それから……。


「ヴァイスも俺から離れるんじゃないぞ?」


「キャウッ!」


 そう、今回のヴェスティア獣王国への移動に当たって、最も気を揉んでいたのはヴァイスをどうするかという点だった。


 前世で犬を飼っていた時は、中々遠出に連れて行ってやることができず、寂しい思いをさせていたという思いがあり、できればヴァイスについては俺たちとできる限り同じ時間を過ごせるようにしてやりたかったのだ。


 そのことをアメリアたちに伝えると、彼女らも同意してくれた。その中でもセラフィは魔導戦艦だった頃のスキズブラズニルの処女飛行にヴァイスと一緒に行った為か、仲良くなったようで特に賛同してくれたのだった。


 俺はヴァイスを左手で胸元に抱き抱えると、リーンハルトとパトリックの二人に外出する旨を伝えに部屋へ向かったのだが、二人ともユリアンとランベルトとともに荷解きと荷物の確認が終わっていないようだった。


「……そういうわけで、少し王都を見学して参ります」


「ふむ、ハルトが行くなら私も……」


「ダメです! まだ荷解きも荷物の確認も終わっておりません!」


「だが、荷物など王国を出る前にさんざん確認したではないか! ユリアンよ、今日は獣王国に到着したばかりなのだぞ? 少しくらい獣王国の王都を見学しても良いと思うのだが……」


「なりません! 初日だからこそ、やらなければならないことを済ませておくべきなのです! アサヒナ殿、こちらのことはお構いなく、獣王国の王都散策に向かって下さい」


「そんなっ!? ハルトッ!」


「ユリアン様、ありがとうございます。それでは、リーンハルト様、失礼致します……」


「ハルトォッ!?」


 リーンハルトの悲鳴に近い声が響く中、俺は二人に一礼してリーンハルトの部屋の扉を閉じた。


 荷解きと荷物の確認が済むまでの当分の間は、ユリアンがリーンハルトを離すことはないだろう。その後、パトリックの部屋も顔を出したのだが……。


「パトリック様、それはなりません。先に荷解きと荷物の確認を。特に親書の確認を行わなくては!」


「それでは、パトリック様。私はこの辺りで失礼致します……」


「ハルト殿ぉぉ!?」


 パトリックもリーンハルト同様にランベルトが解放してくれるまで暫く掛かるだろう。俺は最後にアメリアたち女性陣の大部屋に向かった。一応、従者である彼女たちにも外出することは伝えておかないと、あとが怖い。

 扉を軽く叩くとすぐに開いた。


「ハルトじゃないか。どうしたんだ?」


「アメリアさん、失礼します。皆さんまだ荷解きなどでお忙しいと思いますが、ちょっと宿の周辺を散策してきますので、そのご報告をと思いまして……」


「それなら、セラフィを連れて行くと良いさ。王国の貴族様であるハルトが従者も連れないで散策なんて、王都ならともかく、他国の王都を一人で散策させるなんて非常識だからな! セラフィ、ハルトに付いてくれ!」


「承知した!」


「うん、ハルトのことを任せたよ。荷解きはこっちで済ませておくから」


「アメリア殿、皆もよろしく頼む!」


 アメリアはセラフィを俺の従者として付けることを提案し、セラフィ本人と、カミラとヘルミーナの二人も了承してくれた。その様子をアポロニアとニーナが少し不思議そうに見届けている。


 まぁ、従者が主人の心配をするのは当然としても、まるで保護者のように振る舞うのは珍しいかもしれない。まぁ、俺は別に構わないからいいんだけれど。


「それでは、皆さん。セラフィを少し借りますね」


「あぁ。こっちは任せて、二人ともゆっくり散策してくるといいさ!」


 アメリアたちに送り出された俺とニルにヴァイス、そしてセラフィの四人は宿の外へ向かうと、先ほど確認した、俺たちを監視していると思われる者たちに向かって歩き出したのだった。

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