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もやもやの正体

 王城から屋敷に戻った俺たちは、世界神たちに王国の方針について説明を行った。


 正直、まだ俺の中には何かすっきりとしない、もやもやとした気持ちが残っていたが、そんなことよりも今日決まったことを報告したほうが良いと思ったからだ。


「なるほど、承知致しました。しかし、想定していたよりも、この王国の国王は柔軟に物事を考えられるようですね」


「ふむ。世界神の言う通り柔軟な対応ではあるが、実際のところは、そこまで深く考えていないのではないか?」


「ですが、朝比奈さんがそれを許容しているのなら、私たちは何も言えませんし、別に問題ないのではないでしょうか?」


 世界神の感想に輪廻神と機会神が応えたのだが、輪廻神と機会神の言葉が気になった。特に、機会神の言う『俺が許容している』という点だ。


 俺は特に何かを許容しているつもりはなかったのだが、一体何だというのだ……。


「あの、機会神様。私が一体何を許容していると? 輪廻神様、国王陛下が深く考えていないとは、一体どういうことでしょうか?」


 我慢ならず、機会神と輪廻神に聞いてみることにした。いや、正直輪廻神の言うゴットフリートのことなどどうでもいい。どちらかというと、機会神が言う『俺が許容している』といった点が気になったのだ。今日の王城に行ってからずっと感じている、もやもやの原因に関係するのではないかと、そんな気がしたのだ。


「えぇっと、朝比奈さんは気が付いていないのですか?」


「えっ?」


「この王国の国王は、試練神からの試練がこの世界に発生した際には勇者であるセラフィを派遣し、その際には朝比奈さんも同行されるということについて、理解されているのですよね?」


「はい、もちろんです」


 うむ。その点についてはゴットフリートも理解していた。まぁ、セラフィは俺の従者でもあるから、セラフィの主人である俺も同行するのは当然だろう。


「そして、それはこの王国だけでなく、他国や他種族の暮らす地域といった、この世界全域が対象ということですよね?」


「もちろんです」


 これも当然のことだ。試練神によってこの世界に齎された厄災、つまり試練は、その発生した地域に関わらず乗り越えられるように対応しなければ、その結果が世界神の昇神にストレートに関わってくる。となれば、俺たちはこの世界のどこであろうと、試練に駆け付けて対応する必要があるのではないだろうか?


「ふむ、そうですね。朝比奈さんが所属されているアルターヴァルト王国の領土内で発生した問題については、王国貴族でもある朝比奈さんが、その義務を果たす形で試練に対応される、というのは良く分かります。その結果も、この国の国王が評価すれば良いだけですからね」


「そうだ。この国の国王が朝比奈君やセラフィたちの働きを正しく評価するのであれば、この王国内で起こる試練については問題ない。だが……」


「朝比奈さんの所属するアルターヴァルト王国以外、つまり他国や、他種族の住む地域で発生した試練について、この国の国王は評価してくれるのでしょうか?」


「うむ……。朝比奈君の報告では、この国の国王は『各国からの要請を受けて勇者を派遣できる体制を築く』と言ったそうだが、その成果は一体誰が評価するのか? 王国か? それとも要請を行った国や種族か? つまり、朝比奈君やセラフィたちは他国や他種族からの要請があった場合に、試練を乗り越えられたとしても、その結果を正当に評価されるのか? または、その報酬を得られるのか? ということだ」


「ああああああっ!?」


 そうかっ、このことだったのかっ!?


 俺が王城からずっと気になっていたもやもやの正体!


 それは、俺たちが他国や他種族からの要請を受けて王国から派遣された際に、その派遣に掛かる費用とその成功報酬を一体誰が俺たちに払ってくれるというのか、ということだった! つまり、俺たちは『タダ働き』となる可能性があるということだ。そのように機会神と輪廻神が忠告してくれていたのだった。そして、それは、俺が王城からずっと気になっていた、もやもやの原因でもあったのだ……。


「……機会神様と輪廻神様の仰る通り、その点については取り決めが成されておりませんでした。それに、私からもその点については確認を完全に失念しておりました……」


「ふむ。だが、そう落ち込む必要はないだろう。今こうして気づけたのだからな」


「そうですよ、朝比奈さん。そもそも試練神による第一の試練も、第二の試練もそうですが、朝比奈さんはそれを試練と知って対応にあたったわけではなかったんですよね?」


「えぇ、まぁ。ただ、その結果皆も勲章をもらえたり、私も子爵に陞爵したりと、相応に評価頂くことにはなりましたが……」


「うむ。だからこそ、それらに対して王国にも報酬を求めてこなかったわけだろう? そういう意味では、朝比奈君の置かれた状況は今とそれほど変わらないのではないか?」


「そうかもしれないですが……。ずっと、心のなかで何か、引っ掛かりを感じていたのは事実ですので。報酬や利益はともかく、試練に対応するには何かと費用が掛かると思われます。交通費や、試練に対応するために掛かる我々の時間など、目に見えない費用が掛かっているのです。王国内であれば、何かと評価して頂ける可能性がありましたが、お二柱ふたりの仰る通り、王国外での試練に対応する際に掛かる費用については考慮しておくべきでした……」


 はぁ。本当に、何て馬鹿なんだ。でも、輪廻神と機会神からもやもやの正体を教えられて気持ちとしてはすっきりした気分だ。課題が何なのかわかれば、対策だって立てようがある。


 試練が幾つあってどんな種類があるのか分からないが、今後発生する試練の内容によっては対応するだけで赤字になることだって考えられる。せめて、対応に掛かる費用くらいはもらえないと、勇者も世界を救うことができなくなる可能性がある。ただ、その交渉をする前に、一つ世界神に確認しておきたいことがあった。


「因みに、世界神様。大変今更な確認となるのですが……。試練の対応にあたって、勇者やその仲間が報酬を得るというのは神界の就業規則的には問題ないのでしょうか?」


 そうなのだ。本当に今更なのだが、試練を対応したことについて報酬を得ても果たして問題がないのか。


 先日も俺自身が第二の試練に手を出してしまったせいで、上司である世界神からの口頭注意を受けたばかりなのだ。こういうことは事前に確認しておいたほうが良いだろう。


「はい、特に問題ありませんよ? 人事部のほうからも、その点については何も言ってきておりませんし」


「うむ。試練のクリアについては、世界神の眷族がどのような手段であっても直接手出しすることは禁じられているが、眷族がその世界でどのような評価を得るのか、そういう点については規則上の制限はない」


「ですが、当然ながら、その世界で良い評価を得ている眷族を持つ世界神と、悪い評価を得ている眷族を持つ世界神がいたとして、どちらの世界神が評価されるかというと……」


「当然、その世界で良い評価を得ている眷族を持つ世界神なのです! そういう意味では、ハルト様は今のところ、この世界で良い評価を得ておられますので、私も鼻が高いです!」


 なるほど。というか、そういう重要な情報は先に共有しておいて貰いたいところなのだが……。


 それにしても、眷族の評価も世界神の昇神に影響するのか。まぁ、当たり前といえば当たり前か。部下の評価が上司の評価に繋がるのはどこの世界でも同じらしい。


 そんな神界の人事評価の制度について初めて聞いたわけだが、それはつまり、あまり自分の好き勝手に行動することができないということだ。


 この世界の人々からの評価される行動を取らなければならないわけだが、王国だけならまだしも、勇者の御一行として世界中の国や地域の人たちと接することになるわけで、それら全ての人たちから評価されるなんて、正に聖人の域だろう……。それに加えて試練を乗り越える必要があるわけで。


 ちょっと報酬について聞いただけだったのに、とんでもないことを知ってしまった、というか王国ではたまたま今までのところ上手く立ち回れているみたいだけど、これからどうしよう……。


「はぁ……」


 またしても、頭の片隅に留めて置かなければならないタスク、というよりも注意点が増えたことに、思わずため息をついてしまったのだった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

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