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王城への報告と船旅の約束

 俺は今、王城の謁見の間で、ゴットフリートが座る玉座の前でセラフィやアメリア、カミラ、ヘルミーナたちとともに跪いていた。


「アサヒナ子爵よ、よく来てくれた。此度の件、説明はしてくれるのであろうな?」


 そう言ってゴットフリートはちらりとセラフィのほうに視線を向ける。


 それはそうだろう。二日前、セラフィが新たな勇者として世界神から認められた旨、世界中の神殿関係者や信仰心に厚い者を中心に神託が下った。


 光の帯について議論するために、王国中の神殿関係者の中でも高位にある者たちが王城に集まろうとしていたところに、である。


 当然ながら、その衝撃は王城内にも齎されたことから、既に光の帯の件で俺に対して連絡を取っていたリーンハルトや、うちの屋敷に浮かぶ船の件で問い合わせてきたパトリックたちだけでなく、なんと国王陛下であるゴットフリートからも王城で行われる会議への招待状(実態は召喚状ではあったが……)が届いたのだった。


 そんなわけで、俺たちが今この場で跪いているのだった。


「はっ。まずは先日上空に現れた光の帯についてでありますが、スルーズ神からの啓示でございました」


「何と、天啓であったと……!?」


「はい。『この世界に何れ試練が訪れ、混乱を齎すだろう』という警告と、『勇敢なる者の出現とその仲間によって、それらの試練は乗り越えることができるだろう』という勇者の出現についてであります」


「試練だと!? そんな馬鹿な!」


「試練と勇者の出現、そのような神託は神殿には下っておらぬっ!」


「何故それほど具体的なことが分かるというのか!?」


 俺の言葉を受けて周りが一気にざわめき出した。


 特に神殿関係者からは口々に俺の言葉を否定する。当然だろう、今言ったことは全て『嘘』なのだから。


 だが、一応世界神にも今日この場でどういう話をするか、どう説明を行うか相談して決めたことであり、世界神公認の嘘であった。真実とは虚偽とは表裏一体というか、なんともあやふやなものだ。


「皆の者、静まるが良い。アサヒナ子爵よ。リーンハルトとパトリックから聞いておるが、其方は『神子』というのは真か?」


「はっ。リーンハルト様とパトリック様から指摘を受けて私も知ったのですが、どうやら私は『神子』であるそうです」


 そうゴットフリートに伝えると、一度静まった謁見の間が瞬く間にざわざわと騒がしくなる。


「み、神子だと! そんな、そんな、まさかっ!?」


「まさか!? いや、アサヒナ子爵は妖精族のエルフ……。あり得ぬことではないぞ?」


「なるほど、な。道理で、王家がアサヒナ殿を重用するはずだ。聞けば。リーンハルト殿下とパトリック殿下だけでなく、フリーダ王女の御用錬金術師にまで指名されたそうだ」


 何やら色々といらぬ噂が立ちそうだが、リーンハルトから聞いた『神子』であるという設定が思わぬ形で役に立った。神子ならば神から直接言葉を掛けられていても不思議ではないのだから。


「ふむ、なるほどな。それで、神子であるアサヒナ子爵よ。他には何か神より御言葉を授からなかったのか?」


「はい。先ほどお話致しました、『勇敢なる者の出現とその仲間』についてです。勇敢なる者の仲間について『この世界に住まう四種族の仲間を集めよ』と。そのように神は仰られました」


「なんと、四種族とな。それはつまり、人間族、獣人族、妖精族、そして魔人族ということか」


「はい、その通りです。神は四種族が協力してことに当たることを望まれているご様子」


「うぅむ、なるほど……。其方が知っておる通り、我がアルターヴァルト王国は人間族の周辺国だけでなく、獣人族が多いヴェスティア獣王国とも国交を樹立しておる。だが、魔人族のいる北の大陸、つまりゴルドネスメーア魔帝国とは正式な国交を結んでおらん。また、妖精族についてはそもそも国というものが存在せぬと聞く。小規模な集落が各地に点在しているのみだ。探し出すことは難しいかもしれんな」


「はい、左様でございます」


 うむ、と頷くとゴットフリートは瞑目して思案しているようだった。


 恐らく、この後話すことになる『勇敢なる者』、つまり、うちのセラフィのことを含めて、思案を巡らせているのだろう。そんな、頭を悩ませているゴットフリートを見て、ウォーレンが会議の一時中断と休憩を指示した。


 謁見の間に集まっていた多くの者がその場を中座する。そんな中、俺に声を掛けて来た者がいた。ゴットフリートの隣に控えていたリーンハルトだ。彼もパトリックと一緒にこの会議に出席していたのだ。


「ハルトよ。あの空中に浮かぶ船はハルトが錬金術により創ったと聞いたが、それもスルーズ神からの天啓によるものか?」


 うーん。本当は全然違うんだが、この際話に乗っかった方が都合がいいか。


「はい、その通りです。各種族の仲間を探すにはちょうど良いかと思いまして、私が創り出しました」


 そう答えると、何故かリーンハルトの目が鋭く光った、ような気がする。なんだろう、何か変なことを言ったかな?


「なるほどな。だが、ハルトよ。私が得た情報では、其方の屋敷の上空に船が現れた後に、其方の従者であるセラフィが勇者であるという神託が下ったはずだ。つまり、神託が下る前から其方の従者が勇者となることが分かっていたのではないか?」


 あっ!?


 そういえば、リーンハルトとパトリックから船について問い合わせる手紙が来ていたが、世界神からセラフィを勇者にする提案を受けたのはそのあとだったか……。しまったな……。


「え、えぇっと……。その、実は神から神託を受ける前に、内示を頂いておりましたので、準備を進めていたのです」


「ふむ、なるほどな。それで、あの船だが、私たちも乗せてもらえるのかな?」


「はぁっ!?」


「各種族の仲間を探すために創った船なら、当然獣王国へも行けるのだろう? もうすぐ獣王国へ一緒に行くことになるのだ。それなら、あの船に乗って行ってみたいと、そう思ってな」


「兄上の仰る通りです! 是非、私もあの船に乗せてください!」


 いやいや、この王子たちは二人して何を仰られるのか。確かに、あの船というかスキズブラズニルなら獣王国まで小一時間も掛からずに到着するだろうが、本当に二人を乗せても良いのだろうか。そんなことを考えていたのだが、何故かゴットフリートとウォーレンの二人から許可が出た。


「あの、国王陛下も、ウォーレン様も。王族の方を乗せて何かあっては私も責任が持てませんし、王国としてもよろしくないのでは?」


「うむ。だが、ハルトなら安心して任せられる」


「私も、アサヒナ殿なら心配しておりません」


「えぇ……」


 何故か、二人の王子の保護者の立場であるはずの二人から、謎のお墨付きを得てしまった。一体何がそこまで俺を信頼させているのか不思議である。


「はぁ、分かりました。それでは、リーンハルト様とパトリック様は私たちと一緒にあの船、魔導船スキズブラズニルで獣王国に向かいましょう」


「「やった!」」


 仕方がなく、俺が折れるとリーンハルトとパトリックの二人は目を輝かせて喜んでいた。その様子は、はたから見ると子供らしくて可愛いものなのだろうが、よそ様の、それも王族の子供を預かるなど正直御免被りたいところだ。もし、何かトラブルや事件に巻き込まれでもしたら、どう責任を取ればよいのか……。


 そんなことを二人にも話したのだが……。


「だが、何か問題が起こっても、ハルトが守ってくれるだろう?」


「それに、ハルト殿の従者であるセラフィは勇者なのでしょう?」


「「だから、問題ない(と思います)!」」


 はぁ、獣王国への随伴は、どうやら二人の王子様の接待旅行になりそうだと、今からため息をつくことになったのだった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

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