神の奇跡とトラブル
突然、世界神がスキズブラズニルに向けて手を翳した瞬間、スキズブラズニルに向けて光の柱が降り立ったのだが、その余波でうちの屋敷の敷地まで神々しい光の中にあった。
というか、眩し過ぎるのと、神々しさというか、神聖さというか、光に覆われたこの空間からは畏怖の念を抱かせるものだった。そして俺はその神々しい光に視界を奪われたせいで、一体何が起こっているのか分からないでいた。
世界神が何かやったのは分かるけど、一体何が起こってる?
「ふふっ、心配されなくても大丈夫ですよ。スキズブラズニルも素敵な姿に早変わりですから!」
「へっ!? 世界神様、一体何を!?」
まるで、俺の心の中を読み取ったように話す世界神に一瞬驚いたが、そういえば、俺はまだ世界神と手を繋いでいる状態だったことを思い出した。そういえば、俺の記憶や思考を読み取れるんだっけか。
「もうすぐです。もうすぐ、スキズブラズニルは素敵に変身致しますから!」
「はぁ……」
世界神がそう言うのなら、恐らくはそうなのだろう。俺にはまだ何も見えていなかったが、次第に神々しい光の柱は静まるように弱まり、やがて、元の、穏やかなうちの屋敷の中庭の景色が視界に現れた。
「さぁ、ハルト様! スキズブラズニルが素敵な姿に生まれ変わりましたよ!」
「ふむ……。どれどれ? って、えぇっ!?」
世界神に促されて、俺は世界神が指差す上空に目を向ける。
すると、眼前にはこれまでの近未来的な姿をしたスキズブラズニルの姿はなく、見たこともない船が空中に浮かんでいた。
いや、少し訂正しよう。どこかで見たことは、あった。ただし、それはこの世界でも、生前の世界でもない。それは、ゲームの世界でであった。そう、うちの屋敷の上空には、まさにフ◯イナルフ◯ン◯ジーに登場する飛空艇が浮かんでいたのだった。
ふむ、確かにこの船ならば、この剣と魔法の世界マギシュエルデにもなじむというか、それほど違和感は感じない、気がする。木造のように見えるその船体には所謂帆船のようなマストや帆といったものはなく、代わりに幾つかの羽のような形の帆(?)が張り出されていたのだった。
恐らく、浮力は以前と同様に魔力によって得ており、ニルによって制御を行うところはこれまで通りだろう。つまり、このスキズブラズニルの姿は、俺が当初創ろうと考えていた乗り物に、見事に生まれ変わったと言えるだろう。
「いかがでしょうか、ハルト様。これだけ見た目も変われば、この世界にも見事に馴染んでいると思いませんか?」
「そうですね、これなら……。って、世界神様、眼鏡はどうされました?」
「あぁ、先ほどハルト様から頂いたこちらの眼鏡ですね? ちょっと神力を行使するのに邪魔だったので外していたのですが、それが何か?」
「……眼鏡をされていなくても、今のスキズブラズニルの姿が見えているんですか?」
「もちろんです、私の神力を使ったわけですから! スキズブラズニルの認識阻害魔法に負けるわけがありません! それに、世界神たる私が神力を行使したということは、この世界に奇跡が起こったということと同じことなのです。どうですか、エッヘン!」
……頭痛が痛い。
『スキズブラズニルの認識阻害魔法に負ける訳がありません!』ということはだよ、それって……。
俺は恐る恐る、自分が掛けている、スキズブラズニルの認識阻害魔法を無効化する眼鏡を外して上空を見上げたのだが、やはり思った通りの状況になっていた。それはつまり……。
見える、見えるぞ……。俺にも上空に浮かぶスキズブラズニルが……!?
「って、世界神様、認識阻害魔法が消えてますよ!? これじゃ、まるで……」
「ふむ。これではまるで『光の中から突然空に浮かぶ船が現れた』と、周りの人間からは思われるだろうな」
「これは失敗でしたね、世界神。朝比奈さんには申し訳ないですが、周りの方から説明を求められるかもしれませんね」
そう、世界神がスキズブラズニルの姿を変える際に神力を使ったのだが、そのせいでスキズブラズニルに掛かっていた認識阻害魔法が解けてしまったのだ。
恐らく、うちの屋敷の上空に浮かぶ船が王都中から良く見えていることだろう。そして、それが意味することは、うちの屋敷への問い合わせと、それに対する応対が必要になる、ということだった。
暫くすると、ラルフが慌てて俺たちのもとにやってきた。もう、既にいやな予感しかしない……。
「だ、旦那様! あっ、これはスルーズ様も。旦那様、あの上空の船は一体何なのでしょうか!? 既に屋敷の門前に人だかりができ始めており、ハインツ殿とヨハン殿が対応に追われておりますし、屋敷のほうにも旦那様宛にリーンハルト殿下とパトリック殿下からこちらの手紙が届いております……!」
むぅ、屋敷の門前に人だかり、だと!?
今いる中庭から門のほうに顔を向けると、確かに多くの野次馬がうちの屋敷の門前から空を見上げて指さしたり、顔を見合わせたりと何やら騒がしい。
そして、門番をしていたハインツとヨハンが野次馬たちからあれは何なのかと問い掛けられて困っているようだった。まぁ、彼らが答えられるわけもなく、それは当然だろう。
そして、リーンハルトとパトリックからも手紙が届いている、ということだったので早速ナイフで封を切ると、やはり思っていた通りうちの屋敷に光の柱が降り立ったことと、その後突然現れた空に浮かぶ船は一体何なのか、という問い合わせだった。
それにしても、これほどまでに早く連絡が来るとは……。まさか、見張られている、ということはないだろうな? それはともかくとして、この事態を収拾しなければならない。俺はことの張本人である世界神のほうを見る。
「うぅ、世界神様ぁ……」
「ハ、ハルト様、申し訳ありませんっ! ご対応をよろしくお願い致します!」
「はぁ、仕方がないか……」
まさか、神の奇跡が起こった、なんてことを説明できるわけもなく。
仕方がないので、俺が錬金術で創り出した新たな乗り物『飛空艇』ということにした。
うちの屋敷の門前に集まった野次馬たちには騒がせた迷惑料として初級回復薬を一本ずつ配ることにした。野次馬の中には魔導具店の客もいたらしく、思いのほか喜ばれた。
また、リーンハルトとパトリックにも、上記の旨を伝える手紙をしたためるとラルフに手渡した。すぐに王城へと届けてくれることだろう。
こうなっては、もはやスキズブラズニルの認識阻害魔法を改めて掛ける意味もなかったので、そのままうちの上空に止めておくことにした。暫くは噂になるだろうが、そのうちハーゲンの屋敷にある船と同様に、ちょっとしたモニュメント程度の認識に落ち着いてくるはず、だ。
俺たちは再び執務室に戻ると、皆でお茶を飲みながら寛ぐことにした。世界神からの報告も受けたし、ちょっとしたトラブルもあったがスキズブラズニルとニルの紹介と説明も無事に終わり、スキズブラズニルに至っては世界神の希望もあって、その姿を大きく変えることになったのだが、その結果、この世界でも違和感のない姿になったのだ。
「うむ。トラブルの対応も見事だな」
「生前の経験も生かされているようですし、流石ですね」
「本当に頼もしい眷族を得られて、私も嬉しく思います、ハルト様!」
俺はドジっ娘上司を得て苦労していますが……。
「はぁ、ありがとうございます」
「さて、今後の試練神からの試練への対策についてだが……」
「はい! 私に良い案があります!」
輪廻神の言葉に、世界神が勢いよく挙手する。
ふむ、世界神の対策、か。良い案と聞いて何故か不安な気持ちになるのだが、本当になんでだろうか……。ただ、聞かないわけにもいかないし、怖いもの見たさ、というのもあった。
「それで、世界神様の仰る良い案とは、どのような内容なのです?」
「ハルト様、よくぞ聞いてくださいました! それは……」
「それは?」
「セラフィを勇者にするのです!」
「ほう、セラフィを勇者に……。セラフィを勇者にっ!? 勇者って、あの!?」
「はい! 勇者です!」
全く、一体世界神は何を考えているのだろうか。
セラフィを勇者にする?
それがどうして試練神からの試練に対する対策になるというのか。だが、セラフィが勇者というのは何だか面白い。俺はもう少し詳しい話を世界神から聞くことにした。
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