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アメリア:少年との出会い

 私の名はアメリア・アルニム。


 アルターヴァルト王国の王都『アルトヒューゲル』を拠点とするBランク冒険者パーティー『蒼紅の魔剣』のひとりだ。


 王都の東にある山の麓には『魔物の森』と言われる広大な森林地帯があり、そこには文字通り魔物が跋扈しているのだが、錬金術に使う素材となる植物の類いも多く群生している。


 今回、冒険者のフリーダと三人で錬金術の素材となる薬草の採取依頼を受けたのだ。


 どのパーティーにも属さない彼女だが、此まで何度も一緒に依頼を受けており、彼女の人となり、それに能力も申し分ない。素材の採取くらいなら二人でも問題ないが、たまたま暇をしているということだったので、一緒に依頼に行かないかと私たちから誘ったのだ。


 途中何度か遭遇した魔物を退治しながらも、何とか薬草の群生地まで辿り着くことができた。


 すぐに採取を始める。


 今回の依頼で指定された薬草は鮮度が高い方が薬効があるそうで、採取したその日の内に持ち帰らなければ依頼は失敗となってしまうのだ。


 粗方採取が終わり、後は帰るだけとなった昼下がり、魔物の一種である山猪と出会ってしまった。しかも、山猪は手負いだったようで、薬草を食い荒らすように、根こそぎ掘り起こしては食い漁っていた。


 そんな山猪を追い払おうと魔物避けの煙玉に火を着けた瞬間、こちらに突進してきたのだ。


「避けろ、フリーダ!」


「ダメです、間に合いませんわ!」


 フリーダは身を守ろうと瞬時に身体能力を上げる魔法を使ったが、間に合わずに山猪の突進を避けきれなかった。


「うぐぅっ……」


「フリーダァッ! この野郎ぉっ!」


 剣を振りあげて山猪に向かうが、森の木々の間を縫うように駆け回り、何度も空振り、決め手に欠ける戦いを強いられていた。


「カミラ! 奥の川岸に追い詰めるぞ!」


「了解!」


 得意の爆発魔法で山猪の進路を森の奥にある川まで誘い込む。流石はカミラ、長くパーティーを組んでいるからか、阿吽の呼吸というやつだ。


「ヤツが森を抜けるぞっ!」


「今っ!」


 カミラが爆発魔法を山猪にぶちこみ、川岸に出た山猪の動きを鈍らせた。絶好のポジションに追い込むことが出来たのだ。


 これでヤツに止めを刺せる。


「追い詰めましたわ……」


「今よカミラ、やってっ!」


「ハァッ!」


 カミラのサポートで、何とかヤツの脳天を幹竹割りして真っ二つにすることができた。だが、フリーダの怪我の具合が思った以上に悪い。急所はぎりぎり外したようだが、脇腹から腰に掛けて大きく裂けており出血が酷い。早いところ回復しなければ、フリーダの命に関わるだろう。


「アメリアッ! 回復薬はっ!?」


「いや、さっきの戦闘で最後の一つを使ってしまった」


「そんな、それじゃあフリーダは……」


「傷口を押さえて急いで街に戻ろう。まだ、可能性はある!」


 ここまでの戦闘で回復薬を使ってしまったことに酷く後悔していた。もう少し使う量を抑えられたはずなのに、採取依頼ということでどこかに気の緩みがあったのか……。


 後悔の念に押しつぶされそうなのを必死にこらえていると、俄かに耳元に少年の声が聞こえてきた。


「あのー。よければ、これ使います?」


「誰だっ!」


「あっ、すみません。こちらの回復薬を差し上げますので、そちらの方に使ってあげてください。随分と深手を負われているようですし」


 不意に声がするほうに振り向くとそれはそれは何とも見目麗しい、可愛い少年がこちらを心配そうに伺っていた。


 新緑を思わせる薄い緑色に近い金髪がさらさらとし、色白の透き通るような肌、左右の目はそれぞれ金色と青色のオッドアイ。


 そして、長い両耳が特徴的な少年だった。


 その眼を見つめた瞬間に心を掻き乱される思いに駆られて鼓動が高鳴る。だが、不安や焦燥感等によるものではなく、この少年に対する何かしらの衝動が心の内に沸き起こっているようだった。


 そんな私の心の内に気付くはずもなく、少年は回復薬だという代物をこちらに差し出してきた。


「本当に……回復薬なのか?」


「えぇ。もし足りなければまだありますので、ぜひ使ってください」


 得たいの知れない少年からの貰い物だが、フリーダの命には変えられない。


 もし、これが回復薬などではなく毒の類いであれば、即刻この少年を切り捨てるつもりで、フリーダの傷口に液体を注いだ。すると、傷口の上で液体が次々と弾け、みるみるうちに大きな傷が塞がっていった。


 正直、ここまで効能の高い回復薬を見たのは初めてで正直言葉が出ない。


「これは……」


「すごい……」


 カミラの一言に同意する。これは、私が知っている回復薬ではない。


 私たちが知っている回復薬というものは、傷口に振り掛けて、その後に口から摂取し暫くしてからようやく効果が現れるものだ。このように即効性のある回復薬など見たこともなかった。


 もしかすると、この少年が差し出してきたものは上級、いやそれ以上に貴重な回復薬なのかもしれない。


「ああ、よかった! 傷は無事に治ったようですね。でも、失った血液までは回復したか分かりませんから、しばらく安静にしておいたほうがいいかもしれません」


 しかし、少年はそれを何でもないことのように話しながらフリーダの傷口が完全に塞がったことを確認して安堵しているようだった。


「ああ! 本当に助かったよ、ありがとう。これでフリーダも助かるだろう……。そういえば名を名乗っていなかったな。私の名前はアメリア、アメリア・アルニムという王都を拠点に活動している冒険者だ。こっちはカミラ。同じパーティーの仲間だ」


「よろしく。おかげでフリーダが助かった。礼を言う」


 私とカミラは少年に名を伝えてフリーダの命を救ってくれた少年に礼を言った。


「ふぁっ!?」


「どうした?」


 少年は突如何かに驚いたように声を上げたが、その表情は気まずいものでも見たかのように、私の顔を見つめながら自分の名を告げた。


「いえ、お気になさらず……。えーっと、私は、その、なんというか。そう、私の名前はハルト・アサヒナと言います。ハルトと呼んでください。最近この辺りに来たのですが、道に迷ってしまいまして。街道を探していたところをたまたま皆さんに出会ったという次第です」


 なんと、この少年は魔物の森にひとりで迷い混んだらしい。


 こんなところにいてはすぐに魔物の餌食になってしまうだろう。話を聞くと、この少年は魔物の存在を知らないようだった。一体少年の親は何を考えているのだ! 魔物の恐ろしさを注意して聞かせるのが親の務めというものだし、それもせずにこんな子供をひとりで出歩かせるなどもっての他だ。


 それに周りの大人も注意しなかったのか、などと思うと怒りの感情が芽生える。


「それにしても、先ほどの回復薬の効果は何なんだ。私の知っている回復薬では、あれほどの傷口を瞬時に治すことは難しいはずなのだが」


「そうなんですか。もしかすると先ほどの回復薬は普通の回復薬よりも上質な回復薬ではありましたので、そういった違いがあるのかもしれないですね」


 そして先ほどから気になっていたことをハルトに聞くことにした。


「なるほど、な。それはそうと、ハルトは変わった姿をしているなぁ。耳の長さなんて私たちの倍以上だ。それに、その……見た目もすごく可愛らしい。口調はあまり子供らしくないが」


「古の言い伝えでは、森の聖域に住まう妖精族にエルフという種族がいて、その種族は見た目がよく耳が長い種族だとか。故に他の種族に狙われることも多いことから聖域から滅多に外の世界へは出てこないとか。ハルトは、もしかしてエルフ族?」


「はい、確かに私はエルフ族ですが、この姿で近くの街に行くのはやはり難しいでしょうか?」


 『エルフ族』だと!? 信じられない!


 カミラの言うようにエルフ族は伝説や伝承でしか聞いたことがないし、ましてや出会ったことなど一度もない。


 それにカミラが言ったように、何とも神々しく、美しく、そして愛らしい姿だ。一見すると美少女のようにも見えるが、それを否定する男の子らしいところも見受けられる。


 こんな美少年など王都の貴族にも居ないのではないか。


 そうすると、王都でも目立たないわけがない。下手したら王都に辿り着く前に盗賊や人拐いに捕まって奴隷にされるか、男娼として娼館に売られてしまうだろう。


 私にはそんなこと絶対に許容できない!


「ん。王都の図書館なら、エルフの情報も多く残っているはず。もしかすると、姿を変化させたり、隠したりするような魔法や魔導具の情報があるかもしれない」


 カミラが言うように王都までいくことができれば、確かにその目立つ姿をどうにかする方法が見つかるかもしれない。


 そうとなれば、やることはひとつだ!


「ハルトは私たちと一緒に王都に来るといい」


「それはいいなっ! 王都までは私たちが守るし、馬車の中にいれば無用な騒ぎも起こらないさ。それに、フリーダを助けてもらった恩もあるしな!」


 そう言いながら、私はカミラに抱き上げられた少年を見つめた。


 一体なんなのだろう、この気持ちは。


 初めて湧き上がった、燃え上がるように熱い癖に、穏やかで優しい気持ちに戸惑いながらも、一つだけ確信できる。


「(私は、この少年を、ハルトを守りたい)」


 私の中に新たな思いが芽生えた瞬間だった。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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